いや、自由に生きろって言われても。

SHO

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4巻

4-2

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 さて、話も粗方あらかたまとまったし、そろそろ行くか。
 倒れた馬車を起こして簡単な点検をしたのちに、ランとチェロに馬具を装着しようとしている俺達に、アースドラゴンが話しかけてきた。念話で。

【待たれよ】

 俺は手を止めて、ドラゴン達の方を見た。他の皆も何事かと、俺とドラゴン達の間で視線を彷徨さまよわせる。

【どうやら我が咆哮で馬が死んでしまったようだな】
「ああ、全くいい迷惑だよ。これからは気を付けてくれよ?」
【すまないことをした。我が子を同行させよう。馬車を引かせるのがいいだろう】

 なるほど、馬車ならぬ竜車か。うーん、すっげえ目立つけどどうなのかな?
 ちょっと悩んでいる俺の表情から何かを察したか、セリカが話しかけてきた。

「カズト、悪目立ちするのは今更でしょう? 威圧感もあっていいではないですか」

 まあ、セリカがそう言うならいいか。つかこいつ、俺の考え読めるの?
 俺は気を取り直して、アースドラゴンに向き直る。

「それならよろしく頼む」
【何かあれば貴殿の力となろう。我が子を頼む】
「よし、じゃあ出発しよう! ……行くぞ、スタリオン!」

 三頭の中でも一番小柄なアースドラゴンに向かって声をかけ、鼻のあたりをでてやる。小柄と言っても軽く三メートルは超えているが。


「ぐるるる?」

 まだ念話が出来ないのか、不思議そうに小首を傾げてぐるぐるうなるスタリオン。

「お前の名前だよ」
「ぐるるる!」

 なんか喜んでるみたいだな。うん。

「なんか、このメンバーだけで国取り出来そうだね、カズにぃ」

 そう言ってライムがニヤリとする。
 メンバーを増強する度に言われている気がするが、そんなつもりはないからな?


 ランに騎乗きじょうした俺と、チェロに騎乗したライムが先を行き、後ろからスタリオンが引く馬車が続く。そういう配置で山林をかき分けるように進むこと数日。
 幼い為か当初念話を上手く使いこなせなかったスタリオンだったが、知能も魔力も高い竜種だけあって、わずか数日で念話でコミュニケーションを取れるようになった。
 尻尾まで含めると体長は四メートル、見た目もゴツいから威圧感たっぷりなのだが――

【ごしゅじんさまー、みんなといっしょってたのしいねー】

 中身は幼児である。ヤバい、なんだか可愛く見えてきた。

「お前らみたいな種族だと友達を作るのは難しいのか?」
【うん、みんなにげちゃうのー】
「そうだろうな。まあ、ここにはお前の友達いっぱいいるから」

 ビートは黒猫姿でスタリオンの頭に乗っている。乗られているスタリオンもちょっとうれしそうだ。
 バイコーン、ユニコーン、アースドラゴン。このような幻獣を連れている一行を襲おうとするものは人間にも魔物にもいるはずもなく、俺達は無事に山脈を西側に越え、そのままウリア領に入ったのだった。
 アースドラゴンに馬車を引かせているのを見た領民達がパニックを起こしかけたが、俺達がSランクであることや、スタリオンはテイムされていることを告げるとなんとか落ち着きを取り戻した。
 テイムしたなんてのは大嘘おおうそだが、Sランク冒険者の言葉だと真実味があるらしい。

「行く先々でこの設定を説明しなくちゃいけないんかな……」

 俺はこの先も起こり得るであろう面倒事の予感にため息をつく。そして何より深刻な問題があった。
 それは街に入った時のこと。

「すみません、そんなデカい魔物を停めておける所なんて、ウチの宿どころかこの街のどこにもありゃしませんよ」

 そう、スタリオンが入れるだけの大きさの厩舎きゅうしゃを持った宿がなかったのだ。
 セリカの身分を明かせば領主館等に滞在することは可能だが、あくまでも『お忍び』なのでそれはしない。
 ……こんなに目立っておいて何が『お忍び』か、という感じだが、セリカ達にそれを伝えても『野宿も旅の醍醐味だいごみ』とか言って取り合ってもらえない。

「お前ら、全力で楽しんでるだろ?」

 そんな俺の問いにもだんまりを決め込む皆。
 ……誰も否定しないところがもはや清々しかった。
 ちなみに、精霊やら妖精やら魔物やらはどこで寝ようがあんまり関係ないらしい。
 ライムに至っては「ほら、宿だと男女別になっちゃうでしょ、お部屋。でも野宿だとカズにぃにくるまれて眠れるから嬉しいんだ!」などと言う始末だった。
 ……俺のリビドーを抑える苦悩も少しは考慮してほしい。もっとも、ライムとの仲をハッキリさせてからはそんなにむことはなくなっている。何がとは言わない。
 そんなわけで、俺達は街について早々に街を出ることになった。とはいえ、俺達の一行は女子が大半を占める為、彼女達にはあまり不自由をさせたくない。

「俺達は街の外の川で水浴びしたりラン達を磨いてやったりするからさ、女子は皆で買出しとか風呂ふろとか済ませてきたらどうだ?」

 そんな俺の提案に、皆は大喜びで街へ戻っていった。
 彼女達を見送った俺は、ガイアのおっちゃんや眷属達を連れて川へと向かう。

「それじゃあ、おっちゃん、行こうぜ」
【みずあびー、みずあびー】

 スタリオンはご機嫌きげんだ。こいつは今まで遊び相手みたいなのがいなかったせいか、随分と人懐っこい。特にランとチェロに懐いていた。
 身体の汚れを落としていると、ガイアのおっちゃんが近付いてきて心配そうな声を上げた。

「しっかしよぉ、精霊王様達はともかく、こんなドラゴン連れてエツリアに入国出来るのかよ?」
「おっちゃん。それは俺も滅茶苦茶心配してるんだよ」
「そうか。ちゃんと言うこと聞くし、慣れれば無邪気で可愛いモンだからなぁ。なんとかしてやりてえけどな」

 ランとチェロ、それにスタリオンは本当に無邪気にじゃばじゃば遊んでいる。たまに魚食ってるっぽいな。
 それから水浴びを終えて野営が出来そうな場所に陣取り、ライム達に同行しなかったサンタナを呼び出し温風を出してもらう。暖かな空気に少し眠気が襲ってくる。

「あー、いたいた! いっぱい買い込んできたよ!」

 そこへライム達が戻ってきた。口ではああ言っているが、買った物はライムの空間収納に突っ込んでいるのだろう、全員手ぶらだ。

「スタリオンの食事用に、肉のかたまりをかなり買い込んできましたよ」

 セリカ、スタリオンを餌付えづけしようとしているな?


 それから次の日以降も、順調に旅は進んだ。
 基本的なパターンは、街で買出し、夜は野宿。まあ、スタリオンを受け入れてくれる宿がないので仕方ない。スタリオンを野放しにして俺達だけ宿に泊まる訳にもいかないしな。
 そんな旅はなかなか楽しく、ウリア領から南のウフロン領へ抜けさらに進み、スタリオンの存在を納得させる為の方便にも慣れた頃、エツリアとの国境の関所が見えてきた。
 一応、途中でウフロン領主のインテグラーレ公爵の所に顔を見せ、関所を抜ける際にトラブルにならないように書状をもらっている。スタリオンを連れていることに関しての通達は届いていたようだが、流石に馬車馬代わりに使っているのには呆れられた。
 飼い慣らせば戦術兵器とも戦略兵器とも呼べる存在だもんな。

「それを言ったらカズにぃは核ミサイル」
「完全に危険物扱いかよ?」
「ライム、『かくみさいる』とは?」

 聞きなれない言葉に、セリカが問う。

「私達の世界にある兵器。大量に使えば多分世界が滅亡するだろうってヤバい兵器なんだけど、それが分かってるから、使うに使えない、ある意味戦争の抑止力にもなってる厄介やっかいな兵器なんだ」

 そして厄介者扱いが追加された!?

「確かにカズ君が敵にも味方にもいたら、何万人死ぬか分かりませんから、おいそれと戦争なんか出来ないですね」

 ちょっとサニー!?
 わざとではない言葉の暴力に撃沈された俺は、関所での手続きをライムに任せていじけていた。

「通行許可出たよー。ほら、いじけてないで早く行こうよー!」

 へいへい、この先は『外国』だ。気を引き締めて行きましょうかね。



 3 エツリアの実態


 関所を越えた向こう側はもうエツリア……という訳ではなく、百メートルほど先にエツリア側の関所が見える。どうも、国境には空白地帯が存在するらしい。
 出国と入国、それぞれの国の関所で手続きをしなきゃならんとは面倒なことだが、まあ仕方ない。
 ウフロンの関所を出て、エツリア王国側の関所を目指して進むのだが……

「まあ、こうなるわな……」

 騎士や兵隊さん、勢揃せいぞろいでお出迎えしてくれた。

「と、とと、とまれぇー!」

 おそらくエツリアの国境守備隊なのだろう。指揮官らしき人物が声を張り上げる。

「スタリオン、止まれ。ライム、俺が行ってくるから」

 何しろ馬車を引いているのは馬ではなくアースドラゴンだ。向こう側からしてみれば、オーシュー王国が戦争でも仕掛けてきたかとナーバスになるのも無理はない。

「うん、任せたよ、カズにぃ。でも、喧嘩じゃないんだからね?」

 ライムが大真面目な表情でくぎを刺してくる。失礼なヤツだな。

「分かってるって」
「でもカズにぃ核ミサイルだから……」
「……お前、今晩オシオキだからな?」
「いやん」
「……そういうのじゃねえ!」

 夫婦漫才が済んだところで、俺は単騎で五十メートル前に進み、大声で叫んだ。

「エツリアの皆さんご苦労さまです! 俺はSランク冒険者のカズト! 後ろにいるのはパーティメンバーとテイムしたアースドラゴン! 入国目的は観光! 受け入れてもらえるか!?」

 一応、ステータスは『偽装ぎそう』を使っている。Sランクとして恥ずかしくない数値で。平均で七百くらいかな。
 偽装ってのはステータスの情報そのものを書き換えて見せるスキル。類似スキルで『隠蔽いんぺい』ってのがあるが、そっちは文字通りステータスを隠して見せない能力だ。
 すると、エツリアの守備隊から五騎ほどが近付いてきた。

「我らはエツリアの国境守備隊だ。悪いが災害級の魔物を連れた連中をすんなり通す訳にもいかないんだ。冒険者カードかパーティカードを確認させてもらえるか?」
「そうですよね、分かります。あのアースドラゴンをテイムしたのは良かったんですけど、あちらこちらで騒ぎになっちゃって」

 俺は半笑いでそう言いながら、指揮官らしき男に冒険者カードを渡した。
 同時に、なにか見つめられるような違和感があった。おそらく、五人の内の誰かが『鑑定』をかけたんだろうな。
 だが残念、偽装は鑑定じゃ破れない。書き換えたステータスが見えるだけだ。

「なるほど、確認した。Sランクともなればドラゴンもテイム出来るものなんだな」

 俺の冒険者カードをあらためた、指揮官らしき男が感心したように言った。

「ええ、まあ」
「入国は認めよう。だが二日ほど、関所の施設に留まってもらいたい。何しろアースドラゴンが国内をうろつくことになるんだ。いろいろと周知しておかないとな。君達も、行く先々で騒ぎを起こしたくはないだろう?」

 なるほど。エツリアでの旅先でトラブルにならないよう手を打ってくれるみたいだな。その手続きの為の二日間ってことか。

「分かりました。では仲間達に伝えてきますので。あ、そうだ、これを」

 俺はインテグラーレ公爵が発行してくれた証明書を指揮官に手渡した。俺達の冒険者としての身分と、スタリオンが確かにテイムされたものであることをしたためている。

「……これは、ウフロン太守インテグラーレ公爵の……では関所で待っている」

 太守ってのはそこらの街を治める領主とは違って、一国を丸々治めているのに近い存在だから、権力者だということは間違いない。その証明書を見た指揮官が、敬意を抱いたように見えたのは気のせいじゃないだろう。
 そして俺は仲間の所へ戻り、経緯を説明した。

「そんな訳で、入国は出来るようだが、二日間される」
「上出来ですよ、カズト。ちゃんと平和的に対処出来るではありませんか」

 感心したようにセリカが言うんだが……えっと、俺って普通の会話も出来ないヤツって思われてんのかな。いつもいつも喧嘩腰みたく言うなよ失礼な。
 関所に留まることを了解した俺達は、今度は全員でエツリア側の関所へと向かう。すると、先程の指揮官が出迎えてくれた。

「ようこそ、エツリア王国へ」
「関所に留まる件、皆で了解した。しばらく観光させてもらうよ」
「ああ、歓迎しよう。逗留とうりゅうの件、悪いな……」

 出迎えてくれた指揮官が申し訳なさそうに言う。

「それから、すまないが先程あんたのことを鑑定させてもらった。この国はな、オーシュー王国ほど貴族が平民を見下しはしない。だが『魔法使い至上主義』とでも言うか……とかく魔法の実力が高い者が重用される傾向が強くてな。その……魔法の資質が低い者は蔑視べっしされることが多いのだ」

 なるほど、そういう差別もあるんだな。

「忠告感謝する。魔法スキルを持っていない俺に対する気遣いだろ?」

 ニヤっと笑って返してやると、指揮官は少し照れくさそうに鼻をこする。

「Sランク冒険者がアースドラゴンを従え、しかもエルフもドワーフもいるパーティがただの観光とも思えなかったんでな。もし国の上層部に会うことがあるなら気を付けた方がいい」

 ふむ。なかなか勘のいい男だな。その上で忠告してくれるとは、個人的にはこの国の第一印象は良好だ。

「重ね重ね痛み入る。けどまあ、俺達はただの観光客だよ」
「ふふっ、そうか。では少々不自由させるがゆっくりしていってくれ……あのアースドラゴンは裏庭で我慢がまんしてもらうことになるが。ああ、馬達は厩舎の方へ頼む」
「ああ、ありがとう」

 ランとチェロ、スタリオンに、それぞれ指定された場所へ行くように伝えると、彼らは自分達でそこに向かう……が、それを見ていた守備兵の面々が驚いていた。
 しまった、ちゃんと引いて連れて行くべきだったか。
 それにしても、魔法使い至上主義とかいうヤツが問題だな。俺なんかめっちゃあなどられるだろうなぁ……

「カズにぃ、偽装で魔法スキルは付けなかったの?」
「ああ、ついうっかり……」

 やっちまったなぁ……ライムの指摘通り、俺はステータスの偽装をする時、魔法スキルを付けるのを失念してしまっていた。
 勿論今から偽装し直せるんだが、さっき鑑定された内容は既に報告が上がっているだろう。つまり、俺は魔法を使えないってことで周知されてしまっている可能性が高い。

「カズト、度を超えた侮蔑ぶべつを受けた時は構いません。受けて立ちなさい。カズトを見下すということは私を見下すのと同義です」
【ご主人様。魔法使いが敵対しても、少なくとも風と水属性の魔法は発動すらさせませんから。もしご主人様が望むのなら、この国の風と水精霊を全て移動させますが?】
【そうじゃ、マイ・マスター。たとえ火属性の魔法を放とうとも我が水の力の前では無意味になるしの】

 セリカとサンタナ、アクアが俺をけてくる。もう、俺が暴れるのは確定なんだね……

「皆、そんな俺を狂犬みたいに。ちゃんと平和的解決方法を模索もさくするくらいは出来るぞ?」

 なんて会話をしながら宿へ向かうのだった。
 それから二日間、俺達はゆったりと過ごした。流石にスタリオンを連れての外出は無理だったが、街を散策するくらいの許可は下りたので、女性陣は買い物など、俺はラン、チェロ、ビート、スタリオンとスキンシップをしていた。あ、ビートは黒猫モードだからな?
 おっちゃんは皆の武器の手入れなんかをしている。流石職人、定期的に武器をいじらないと落ち着かないらしい。もはや性癖せいへきだな。
 そして三日目の朝。各方面の許可が下りたようで、出立となった。
 別れ際、指揮官が遠くを見ながら俺の横でつぶやく。

「なあ、あんた達。あくまでもうわさで聞いたんだが、オーシュー王国では王女が革命を起こして貴族主義の政権をひっくり返したんだってな。この国も……魔法使い至上主義の貴族達をぶっ潰してくれる英雄を心待ちにしているんだ、民衆は」

 この国も病んでいるってことか。どうして世の中の為政者いせいしゃってヤツは庶民の心が分かんないのかねえ。

「そうか。好転するといいな、この国も」

 俺は一言そう返し、エツリア王都へ向けて旅立った。


 エツリア王都までの道中は、スタリオンを見て多少の騒ぎが起こることはあったが、事前に通達が出ていたせいか、予想よりはすんなりと旅を続けることが出来た。
 建前上「観光目的」なので、風光明媚ふうこうめいびな観光地なども巡っている。もっとも、建前上というのはそれこそ建前で、全員本気で楽しんでいたのは秘密だ。
 そんな道中、ソアラが報告があると駆け寄ってきた。

「マスター。市井しせいでの情報収集の際に聞こえてきた話なのですが……」

 流石ソアラ。旅行中でも仕事に手は抜かないな。偉いからなでなでしてやろう。

「うっ、不意打ちはズルいです、マスター。えっと、それでですね。私達が滞在していた国境の街の領主の話なのですが」

 頬を染めながらも必死に報告をしようとするソアラ。面白いけど真面目に聞こう。

「街を治めていた辺境伯へんきょうはくの家族と郎党が全員変死したらしいのです」

 うん? きな臭い話か。俺の怪訝けげんそうな顔を見て、ソアラは話を続ける。

「この国では十歳になると、魔法の素養の有無を確かめる儀式があるそうなのですが、その日を境に辺境伯の嫡男ちゃくなんが学校に現れなくなったと。ちなみに学校では優秀な生徒だったそうです」

 魔法の才能にあふれていて、そっちの才を伸ばす方向の教育機関にでも出したか、もしくは……

「ですが、魔法の才は全くなかったようで」

 イヤな方の予想が当たりか。

幽閉ゆうへいされたか消されたってこと?」

 隣で話を聞いていたライムがソアラに訊ねる。まあ、普通はそう思うよな。

「あくまで噂ですので推測の域を出ませんが……一、二年前、辺境伯の嫡男によく似た冒険者風の男が、ウフロン領へ出て行くのを見たという証言が出ているようです。そして、辺境伯一家の変死事件の時期と合致します」
「なんだそりゃ。その息子がホシで決まりじゃないか?」

 ふん。おそらく辺境伯は魔法が使えない息子を一族の恥と思って暗殺でもしようとして、返り討ちにあったか。
 そしてその嫡男は、そんな怪しい事件を『変死事件』で片付けるなんて隠蔽工作が出来る程度には、頭がキレるヤツってことだ。
 などと感心していると、ソアラが再び口を開いた。

「それでですね」

 お? 追加情報?

「ウフロンに立ち寄った際、街で集めていた冒険者の情報の中に、その彼と外見的特徴が一致する者がいるのです。しかも、この数ヶ月は黒髪黒目の少女とパーティを組んでいると」
「――っ!! カズにぃ、それって……」

 ライムが目を見開いて俺を見る。黒髪黒目……俺達と同じく召喚者だろうか?

「面白い話だな。いつかその街に立ち寄って話してみたいもんだけど」
「やはり興味がおありですか?」

 ソアラがそう言うほどに、今のこの世界では黒髪黒目はレアな存在になっている。実際、俺もこれまでこっちで黒髪黒目の人間は見たことがない。

「まあな。同郷のヤツかもしれないし……でも今は同盟締結を優先だ。情報ありがとな、ソアラ」

 帰りには接触を試みてみようか。黒髪黒目、やっぱり気になるよな。


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