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4巻
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しおりを挟む1 大地の王との遭遇
俺、伊東一刀はある日、謎の光に包まれた少女を助けようとして、その少女――ライム諸共異世界へと召喚された。俺達を召喚したのはオーシュー王国の王女セリカ。
民を思い国を変える為に召喚を実行したという彼女の話を聞いた俺とライムは、その意志に共感し、共に戦うことを決意する。そして革命に協力し、セリカを女王の座に据えることに成功した。
様々なトラブルと戦いを経験し、信頼出来る仲間も増えていく中、セリカに反抗する勢力がついに牙を剥く。
その矛先は、俺達が世話になった宿屋の親子がいるユーゲン村や、カッシの街近くのリューセンダンジョンで修業をしていたセリカ達にも向けられた。
しかし、新たに仲間になった冒険者パーティ『フルスロットル』の活躍や、王都の騎士団長に就任したアコードらの協力もあり、ユーゲン村に迫った危機を排除する。
次いで、大軍に包囲されたセリカ達パーティメンバーの救出に成功した俺達は、そのままカッシを包囲していた敵軍を壊滅させることに成功。そうして軍備を整えたりリューセンダンジョンで修業したりするうちに、セリカの母である摂政のコロナさんより、隣国エツリアとの同盟交渉に赴けと依頼を受ける。
リューセンダンジョンを制覇した俺達は、ダンジョンマスターにして水の精霊王ウンディーネであるアクアを仲間に迎え入れ大幅な戦力アップに成功すると、エツリアに向けて出発したのだった。
俺達はゆっくりと、しかし確実にエツリアへと近付いていた。
エツリア行きに同行しているのは、ライムとセリカ、元冒険者ギルドの受付嬢サニー、騎士団に所属していたグロリア、エルフの商人兼職人にして凄腕の戦士でもあるローレルのパーティメンバー。それにドワーフの職人ガイアと、セリカ直属の諜報組織『クノイチ』を統括しているソアラ。
そして風の精霊王サンタナに、水の精霊王アクア、ケットシーのビート、バイコーンのラングラー、ユニコーンのチェロキーといった眷属達の大所帯だ。
ちなみに、ラングラーはラン、チェロキーはチェロと呼んでいる。俺がランに、ライムがチェロに乗り、残りは馬車だ。
俺は仲間達と雑談しつつ進みながら、エツリア行きの原因となったある男のことを考えていた。
カムリ公爵。セリカの腹違いの兄にして、オーシュー王国南部の広大な領地を治めている男だ。民を第一にした政治というセリカの理想の最大の障害で、先日のユーゲンとカッシ襲撃の黒幕でもある。
彼の目を欺く為に、俺達はオーシュー街道に出た後ミズサーまで南下、そこから西へ向かっている最中だ。
ここから西へ向かって、まずはウリア領へ入る。その後は南下してウフロン領を通り、エツリアに入国する予定だ。このまま海沿いを馬鹿正直に南下して動きを捕捉される危険を避け、人目に付きにくい山脈伝いに移動するという狙いもある。
通常なら、現代日本と違いトンネルなどないこの世界での山脈越えは過酷なものとなるのだが、俺達一行は荷物というものがほとんどない。各々が収納付きガントレットや、ライムの空間収納に突っ込んでいるからだ。
それに加え、カッシの代官となったシルビアが準備してくれた馬車馬は馬力もある。
そんな訳で、俺達一行の進行速度は通常を遥かに上回るもので、敵の間諜の類が追いついてくることはなかった。
それでも、二千メートル級の山々が連なる山脈を越えるとなれば、途中で休む必要も出てくる。こういう休んでいる時こそ、警戒をする必要があるのだ。
そう考えていると、索敵能力に何かが引っかかった。この能力は俺のあり余る魔力を周囲に広げ、そのエリアに侵入してくるものがあれば認識出来るという優れものだ。
俺は咄嗟に、全員に声をかける。
「何かデカい魔物が近付いてくるぞ。皆気を付けろ」
魔力反応の大きさを見る限り、かなりの大物だ。
《GURUUUUUAAAAAAAAA!!》
皆に注意を促した直後、それは起こった。
まるで魂を震わせるような咆哮。
思わず棹立ちになるランをなんとか抑える。ライムもチェロをなんとか落ち着かせたようだ。
くっ! まだ距離があると思って油断した。この咆哮は対象を怯ませる効果があるのか? 上位の幻獣であるこの二頭がここまで恐慌をきたすとはな。
――ヒヒーーーン!
「カズ君! 馬車馬が!」
御者をやっていたサニーが叫ぶ。
しまった! 馬車の方はダメか!
馬車を引いていた馬が棹立ちになってそのまま倒れる。馬車も横倒しになってしまった。
「くっそ! 皆無事かぁ!?」
【マイ・マスター! 皆怪我はあるが擦り傷程度じゃ! 今治癒魔法を施しておる故、心配はいらぬよ!】
霊体の状態からすかさず実体化したアクアが皆を治療しているらしい。ナイスだ。
「ありがとう、アクア! セリカが回復したら二人で治癒を!」
まずは治癒魔法を使えるセリカを優先で回復させ、その後アクアと二人で治療にあたればそれほど時間はかからないだろう。
それにしても、いきなりやってくれるじゃねえか。何者だか知らねえがぶっ飛ばしてやる。
「ライム! ビート! ラン! チェロ! 俺達だけ前に出て敵を馬車から引き離すぞ! サンタナ、またさっきの咆哮をやられると面倒だ。馬車に結界を!」
治療中のメンバーがいる馬車にこれ以上敵を近付けさせない為に俺達は動き、さらにサンタナには防音結界を張らせて咆哮に備える。
そして前方に走ること数百メートル。それは姿を現した。
【むぅ、アースドラゴンとは……】
【これは……我らは命を懸けねばならないようです、主殿】
ランとチェロが苦々しく言う。
現れたのは四足歩行の巨大なヤツだ。
額には二本の角。全身は鱗で覆われ、太く長い尻尾を地面に叩き付けてこちらを威圧している。翼はないが、爪に牙、どれも凶悪そうだな。なるほど、これが『ドラゴン』か。
蛇のように長い体を持つ東洋の龍とも、二足歩行で翼を持つ西洋のドラゴンとも、その姿は違う。四足歩行なこともあって、巨大なトカゲというか、図鑑で見た恐竜に近いか。
それが三体いた。一体は他と比べてやや小柄なので、親子なのかもしれない。
それにしても、ラン達が命を捨てる覚悟をするほどの敵か。
「カズト様。此奴は『大地の王』とも呼ばれ、地上では最強の魔物と言っていい存在ですわ。正直震えが止まりませんの」
人型になっているビートも気圧されている。
「ライムはどうだ? やれるか?」
「あったりまえじゃん!」
ライムは平気なようだな。流石は勇者だ。それならば。
「ライム、下馬してサンタナと三人でやろう。ビート、ラン、チェロ。馬車に戻ってアクアとともに仲間を守れ。命令だ」
【ぐ……主よ。馬車にてお待ちしております】
【馬車の守りはお任せを、主殿】
「カズト様、すみません……」
役に立てないことに無念さを滲ませる二頭と一人だが、こんなにビビッてる状態じゃ戦闘は無理だろう。俺はそれぞれが後方に下がるのを確認して、前方を見据える。
「ライム、サンタナ、やるぞ」
俺は静かに一歩を踏み出した。
「真ん中のデカいヤツは俺がやる。両脇の二頭は任せていいか?」
「りょーかい! 任された!」
【トカゲモドキが……細切れにしてやりましょうか……】
ライムの周囲に魔力が漲り、サンタナの気迫に大気が震える。
俺はといえば、仲間を傷つけられた怒りを隠さずに、口を開きながら歩を進めた。
「お前ら……今まで自分より強えヤツと出会ったことねえんだろ? 我が物顔で歩き回りやがって。俺の前に出て来なけりゃ痛い目見ないで済んだのになぁ?」
《GRUUUUU……》
アースドラゴン達は一歩、二歩、と後退るが、その瞳は怒りに燃えている。
「自分より小さいヤツにビビらされたのがそんなに悔しいか?」
俺は両手に拳大の魔力弾を作り出すと、無造作に左右に放つ。そしてそのまま間合いを詰め、アースドラゴンの目前で跳躍する。
本能的に、自分の頭上に飛び上がった俺を視線で追うアースドラゴン。
ヤツの注意が俺に向いたところで、先程放った魔力弾を遠隔操作して、ヤツの横っ面に左右同時にぶち当てた。
《GYARUUUUU!》
かなりのダメージだったのか、アースドラゴンが悲鳴を上げる。
「オラァッ!」
さらに追撃。魔力弾を受けた衝撃で俺を見失っているアースドラゴンの頭に、振り上げた足を勢いよく叩き付ける。踵落としをブチ込まれたアースドラゴンは、顔を地面にめり込ませた。
このドラゴンというヤツは、以前聞いたところによると、爪や牙は凶悪な破壊力を持ち、竜鱗の防御は堅い。尻尾の一撃なんぞ喰らった日には、普通の人間なら即死だろう。おまけにブレスも吐くし人語を解する知能の高さもあるという。しかも魔法耐性も強いときているからタチが悪い。
言ってみれば、通り過ぎるのを待つしかない天災みたいなヤツなんだが……ま、それは普通の人間から見た場合の話だ。ヤツから見れば俺の方が天災だろうぜ。
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四足歩行だったドラゴンが後ろ足で立ち上がる。動物がよくやる、自分を大きく見せて威圧する為のアレだ。
だがな、俺に腹を見せるのは悪手なんだよ!
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立ち上がり、爪を振りかざしてくるアースドラゴン。俺はそれを躱しながらも前に加速して、そのままアースドラゴンの腹に飛び蹴りを喰らわす。
竜鱗に覆われていない、比較的柔らかな腹にめり込む俺の右足。
アースドラゴンの身体はくの字に折れ曲がると、そのまま木々をなぎ倒し、吹き飛んでいく。そして俺はそれを追いかけ加速する。
アースドラゴンは岩肌に激突し、撥ね返った反動で地面に突っ伏している。俺は全身が光り輝くほどの魔力障壁を纏ってアースドラゴンの正面に立った。
顔を上げたアースドラゴンは、ここが最後のチャンスとばかりにブレスを吐いてきた。
流石はドラゴンブレスと言うべきか。強烈な魔力の奔流が俺に向かってくる。
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切り札ともいえるブレスをあっさりと防がれたことで、ヤツは口を開いたまま硬直していた。まあ、今までブレスを止めるような存在と出会った経験はないんだろうな。
「どうだ、圧倒的強者とやり合う気持ちは? おっかねえだろ。お前はこれから死ぬんだよ」
俺の言葉を聞いたドラゴンは、再び先程と同じように立ち上がると――いきなり腹を見せて寝転がった。
――は?
何これ。服従のポーズ? 索敵で調べたら青い光点になっていた。俺の索敵に反応する光点は、敵は赤、味方は青、中立もしくは不明は白というように設定している。つまりは、こいつは俺達に対する敵対行動をやめたということだ。
俺は困惑しながらライム達の方へと視線を向けた。彼女達の方も片付いたようで、二頭のアースドラゴンが大地に寝っ転がっている……仰向けで。
「ライム、サンタナ、もしかしてそっちのドラゴンも服従のポーズ取っちゃってる?」
「あっ! カズにぃ! そうなんだよ。お腹見せて屈服しちゃってさ」
【ご主人様、こちらもです。どうしましょうか?】
俺に気付いた二人が、ちょっと困惑している。天災クラスの魔物が屈服するとは、まさか思わなかったんだろう。
「そっちの二頭は動けるのか?」
「うん、ボロボロだけど」
【こちらもズタズタですがなんとか】
ふうん。屈服してるなら危険はなさそうだし、とりあえず全員集合させるか。
2 新たな仲間
「皆、怪我はどうだ?」
俺達は馬車が転がっている場所まで戻ってきて、声をかける。
「アクア様の処置が素早かった為に、私達は大事には至らなかったのですが……」
皆の治療を終えたセリカが言いながら視線を向けた先を、俺も見る。
馬か……
「……シルビアには悪いが埋葬して行こう」
倒れた時の打ちどころが悪かったのか、二頭の馬車馬は既に息絶えてしまっていた。
丁寧に埋葬してやっていると、セリカが聞いてくる。
「それで、カズト。またあなた方は何をやらかしたのです?」
やや離れたところで、借りてきた猫のように大人しくしているアースドラゴンを見て、セリカが心底呆れ果てたような顔をする。
「カズ君……ソレ……」
うん、サニー。言いたいことは分かるんだ。
「ど、どどど?」
グロリアもな? ちょっと落ち着け。
「なあ、カズ……そいつら。素材にするのか? なあ?」
ローレルは目をキラキラさせないの。ほら、すっかり怯えてるぞ、あいつら。
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「皆、相談。あいつらの処分と馬車馬の件で。馬車自体は転がっただけで車軸とかは無事そうだから、まだ乗れるはずなんだよな」
サンタナとアクアの精霊王コンビは、ドラゴンどもの前に行って何やら話し込んでいる。
【主よ。馬車馬の件なら、我とチェロキーが引くので心配は無用です】
【そうですね、主殿。やむを得ない状況になりましたので、馬車は我らが】
サンタナ達を眺めていた俺に、ランとチェロが提案してきた。こいつらの能力なら問題ないし、俺達も馬車に乗ればいい話だからな。まあ、それしかないか。
そんなことを考えていると、ライムとビートがニヤニヤしながら近付き、俺に話しかけてくる。
「ねえ、カズにぃ。今ビートと話し合ってたんだけどさ」
「名案が浮かびましたのよ、カズト様?」
満面の笑みを浮かべる二人だが、なんか、そんな笑顔で言われてもイヤな予感しかしないよ?
「カズにぃ。あの三頭、眷属にしちゃえば?」
「そうですわ。余程恐ろしかったのか、完全に服従してるみたいですものね」
ライムとビートがそんなことを言う。確かにあいつら屈服してるけどさ。
「それを言ったら、ライムにもサンタナにも腹晒してただろ?」
「それを今、カズにぃに従うように、サンタナ様とアクア様が脅迫してるんだよ~」
ライム。俺には今、『せっとく』という言葉が違う意味に聞こえたんだが。
それにしてもなんでだ? 別にそれぞれが眷属持っててもおかしくはないだろうに。
【ご主人様。小規模な組織は命令系統を分けない方がいいと思いますよ?】
【そうじゃな、マイ・マスター。その辺りをあのアースドラゴン親子に知らしめてきたのじゃ】
俺の思考が聞こえたのか、サンタナとアクアが戻ってきてそう言う。そしてその後ろには、どうやら『せっとく』されたらしい三頭のアースドラゴンが従っていた。
「で、お前らはどうしたいんだよ?」
三頭に視線を向け話しかけると、ビクリ! としてから地面に平伏した。元々四足歩行の動物が平伏してもそれはただの『伏せ』である。
「別に俺は、お前らがこの辺のヌシとして君臨するのは悪いことだとは思わない。強者が弱者を支配するのも、弱者の命が強者の気分次第なのも、ある意味自然の摂理だからな」
しかし、俺は俺の仲間に害を及ぼすヤツは許さない。それだけだ。
「まあ、俺達がこのルートを通ってお前らのテリトリーに入ったのは不幸な偶然ってヤツだ。ただ、お前らが人里に下りて悪戯に人間に害を及ぼすようなら、敵認定するけどな」
俺が三頭に向けてそう語ると、『伏せ』の状態から首を起こして視線を俺に合わせてくる。
【我らは許されたのだろうか】
三頭の中でも一番大柄なヤツが念話を送ってきた。お父さんかな?
「あ? まあ、そういうことだな」
すると、三頭がキラッキラの崇拝するような目で見つめてくる。
【ならば我らは、貴殿と敵対したことを謝罪したい。精霊王を二人も眷属にしているような人間とは、今後も争いたくはないのだ】
うーむ……ここにこいつらがいるのが明るみになれば、討伐軍が編成される可能性もあるだろう。
いっそのことコロナさん経由で王国全土に通達してもらうか。
この辺りはアースドラゴンの縄張りにつき進入禁止。なお、アースドラゴンは俺の眷属なので、攻撃した者、無断で縄張りに侵入した者は俺の敵とみなす。
こんな感じで。
その方が不慮の事故も防げそうだな。
「とりあえずは、お前ら三頭、俺の眷属ってことでいいんだな?」
【うむ、構わない】
アースドラゴンのお父さんがコクリと頷きながら念話を送ってきた。そっか。じゃあ無用のトラブルは未然に防ぐとしますかね。
「い、今のやりとりでどんな会話があったのかな……」
ライムが変なことを言う。
「いや、普通に会話してたじゃん?」
「カズにぃはともかく、ドラゴン達はつぶらな瞳でカズにぃを見つめてただけだよ?」
ああ、そうか。念話だから俺にしか内容は分からないか。
それじゃあ、一応皆に説明がてら、今後の方針について意見を求めますかね。
俺はサクッとアースドラゴン達が眷属になったことを伝え、さっき考えていた案を出す。
「そういう訳で、国策としてこのエリア一帯は『アースドラゴンの縄張りの為立ち入り禁止』にしてもらおうと思う。無許可で侵入したヤツはこいつらに殺されても文句は言わせん。むしろ俺の眷属に喧嘩を売ったとみなす。ってことでどうだろう?」
そんな俺の提案に、心配そうな顔で訊ねてきたのはセリカだ。
「しかしカズト。それではこの辺りで仕事をしたい者は……」
「好きにすればいいんじゃないか? 運が良ければ生きて帰れる。そこは自己責任で」
セリカはまだ若干思案顔だが、サニーが挙手して口を開く。
「カズ君、カズ君のことだから一方的にドラゴン達に有利なアイデアという訳ではないのですよね?」
サニーにはなんとなく見透かされているようだが、俺は一つ頷いて説明をする。
「勿論だ。そうだな……グロリア、例えばだけど、ここに天災レベルのドラゴンが生息しているのが明るみになったとしたら?」
「……国家レベルで討伐軍が編成され、多大な犠牲を払うことになる。そうか! トラブルを未然に防ぐ為に立ち入り禁止にするんですね!」
「そういうことだ。こいつらには人里に下りて害を及ぼすなと言っておいてある。要は自分のテリトリーを守る権利を与えただけだ。こいつらは縄張りを守れるし、人間側はわざわざ近付かないから被害が出ない。お互いに損のない、対等に近い条件だと思うんだけどなあ」
そんな俺の言葉に、ローレルが感心したような視線を向けてくる。
「いや、カズ。損のないどころじゃないよ。あえてドラゴンの存在を明るみにして近寄らせないようにするだけでなく、ゆくゆくはドラゴンと共存出来る可能性を示すことにもなるんだ。すごいことだぞ?」
なるほど、共存か。そこまでは考えてなかった。
長い時を生きてきたエルフであるローレルは、今まで人間とドラゴンとの戦いを見てきて、共存の道がないか探っていたのかもしれないな。
そして俺は再びセリカに視線を移した。
「そういうことなんだけどセリカ。納得いったか?」
「ええ、分かりました。母様にそのように取り計らってもらいましょう」
よかった。納得してくれたようだ。なんだかんだ言っても、国家元首はセリカだからな。彼女の同意なしでは話を進められない。
「サンタナ」
【承知しました。王城地下室の分身体より摂政に言っておきましょう】
俺の意を汲んだサンタナが、早速行動に移してくれるようだ。召喚魔法陣の解析をさせる為に城の地下室に置いている分身体を通じてコロナさんに伝言を頼む。
【お主ら、よかったのぉ。マイ・マスターが慈悲深いお方で。普通ならさぞかし立派な武具になっていたことじゃろうな?】
【やめてくれ……】
アクアの悪戯めいた言葉に、大きいアースドラゴンがビクッてなったぞ。あんまり虐めてやるな、アクア。
……確かに、対物理、対魔法、どちらにも優秀な防御力を持つアースドラゴンの素材は魅力的だけどな。ローレルもおっちゃんもそんな残念そうな目で見るんじゃない。
おっと、そういう観点から見ると、希少な素材を求めてバカが狩りに来ないとも限らないな。その辺もコロナさんに伝えておいてもらおう。
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