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3巻
3-3
しおりを挟む「本当に許せないよね、この外道!」
「かっ、はっ……」
怒り心頭といった様子で、ライムが変態の股間を思い切り蹴り上げた。うぉ、見てるだけできゅっ! ってなるぜ。変態は白目を剥いて、ピクリとも動かなくなる。
ライム自身も暴行されかけた経験があるので、このテの男に対する憎悪も人一倍だ。
「ライム、まだ続きがある。昨日の野盗の頭目が言っていた『大きな勢力』、その組織の首領がこいつの父親で、しかも王都の革命で取り潰された貴族の一人だ」
さっきどこの貴族か言わなかったのは、既に取り潰されて土地がないということだったようだ。
「じゃあコイツがここに来たってことは……」
ライムの推測通り、連中のターゲットはこの村だ。コイツはかつて逗留していたからと斥候役を申し出て、ついでにルーチェさんを手篭めにするつもりだったみたいだが。
「じゃあ近くにその組織との繋ぎのヤツがうろついてるんじゃ?」
「いや、この変態は邪魔されずに楽しみたかったんだろうな。繋ぎを取るのは二日後、襲撃は五日後の予定だそうだ」
ライムに説明する為とはいえ、改めて口に出していたらフツフツと怒りが込み上がってきた。
――そんな時だ。
「いやあああぁっ! 殺してやるぅっ!!」
どこかで話を聞いていたのか、逆上した様子のルーチェさんがナイフを持って突っ込んできた。多分、こいつが旦那さんを直接殺したことまでは知らなかったんだろうな。
うん、気持ちは分かる。でも……
俺はルーチェさんの正面に立ち、抱きしめた。彼女の持つナイフは、魔力を身体の周囲に張り巡らせる魔力障壁を常時展開している俺には刺さらず、根元からポッキリと折れる。
しかしルーチェさんは抱きしめられて我に返ると、俺のことを刺してしまったと思ったんだろう、再び錯乱してしまう。
「はっ!? いや! なんで!? カズトさん!? いやああ!」
「大丈夫、落ち着いて。俺はどこも怪我しちゃいないよ。ナイフを見てごらん?」
そう言われて真っ二つに折れた手元のナイフを見た彼女は、腰が抜けたのかその場にへたりこんでしまった。
「こんな外道の血で、ルーチェさんが手を汚すことはないよ。俺がやるから。それからライムー、お前、マジでルーチェさん頼むぞ?」
まったく。これでルーチェさんは真実を知ってしまった。ちゃんと見張っておけよな。
「あー、はい。ごめんなさい。お説教は後で受け付けます」
さて、そろそろ夕方だな。
「ラングラー!!」
一声呼ぶと、ほどなくしてランが駆けてきた。
【お呼びでしょうか、主】
「ちょっとコイツを殺さないように運んでほしいんだけどさ」
【お安い御用です、主よ】
ランは変態の頭を、噛み砕かない程度の力でがぶりと咥える。
「俺はこの変態捨ててくるから。ルーチェさん、美味しい晩ご飯よろしく!」
そう言い残して、俺とランはこの場を離れた。
それからしばらくして、宿に戻って食堂に足を運ぶと、豪勢な食事とライム達が待っていた。キャロルちゃんは、もう寝たのかな?
「カズにぃ、どこに捨ててきたの?」
「私も知りたいです。心にけじめをつけたいので」
ライムとルーチェさんが、結末を教えてくれとせがむ。
「そう。えーとね、ダンジョンの中」
「「え?」」
俺の答えが予想外だったのか、二人ともポカーンとしていた。
「詳しく言うと、最下層のボス部屋の前まで転移して、丸腰にしてからボス部屋に蹴りこんで帰ってきた」
「カズにぃにしては比較的穏便というか……」
そうだよな。丸腰とは言え、ヤツもBランク冒険者らしいからな。生き残るチャンスがない訳じゃない。だけど、俺がそんな生易しいはずないだろ?
「そうでもないよ。サンタナにさ、今の最下層のボスって何? って聞いたんだよ。そしたらさ」
【お聞きになりたいですか? ライムにルーチェ】
「そ、そこまで言われると気になるかな?」
「私も気になってしまいましたよ。サンタナ様」
突如顕現したサンタナが、ドヤ顔で話し始めた。
【体長五メートルほどの大きさの、黒光りしていてカサカサ蠢く虫で、確か名前はゴキ――】
「すとーーーーっぷ!」
【――ブリと言いましたか】
ライムの大声での静止をものともせずに言い切りやがったよ、サンタナ。
「ま、そういう訳でさ。あんな外道、自分の手を汚して殺すよりは、巨大なGにでも食わせた方がいいだろ?」
「た、確かにそうだね……ルーチェさん、ごめんなさい。せっかくの美味しそうな晩ご飯だったのに食欲なくなっちゃったわ……」
「そうですね……」
俺の言葉にライムがげっそりとしながらルーチェさんに謝り、ルーチェさんも力なく首を横に振る。
【では、ライムが食べないのなら私がいただきましょう】
「ルーチェさんと仰ったかしら? 私にもくださいます?」
全く気にした様子のないサンタナがテーブルに着くと、ビートもいつの間にか人型になっており、やはりテーブルに着いた。二人とも、Gの話のあとなのに全然気にしてねえな、俺もだけどさ。
突然現れた美女に目を白黒させるルーチェさんに、こいつはビートが人化した姿だと伝えると、少し驚いた様子を見せながらもすぐに食事の準備をしてくれた。
もくもくと食べているサンタナとビートを横目に、ルーチェさんが囁くように小さな声で言う。
「これで、ようやく……本当に笑って明日が迎えられそうです……カズトさん。ありがとう」
にっこりと笑みを浮かべたその表情には、いつぞやの陰りはもう見られなかった。
4 作戦会議
夕食を食べ終わってから空室を貸してもらい、この後の集会で参加者に話すべき情報を纏めつつ、ライムと一緒に状況を整理していく。例の変態から聞いた話で、さっきはタイミングを逃して伝えられなかった情報を改めて出してみると、なんとなく黒幕の正体が見えてきた気がした。
ちょうどその時、集合を促しておいた人達が徐々に集まってきたとルーチェさんが呼びに来た。
「カズト殿、村の代表の方は大方集まったようですじゃ」
「よう、黒天使、ギルドと冒険者の方も大丈夫だぞ」
村長は村の要職にある人達を、ギルド出張所のおっちゃんは冒険者達を、しっかり集めてくれたようだ。
「ありがとうございます……さて、みなさん。改めて、今夜は集まってくれてありがとう。俺は冒険者のカズト、こっちがライム。どっちもSランクだ。よろしく頼む」
「よろしくね!」
俺とライムは簡単に自己紹介をし、本題に入る。
「さて、早速本題だ。今日集まってもらった理由なんだが……」
俺とライムは、潰された貴族や除名された冒険者、それに盗賊の類が集まって反乱を企てていること、拠点としてこの村が狙われていることを伝える。そして、さっきのルーチェさんを脅していた男は村の偵察が目的だったことも説明した。
「それを踏まえて、だ。襲撃の予定は五日後だから、まだ時間はある。この村に縁もゆかりもない冒険者もいるだろう? この村を守るつもりがないヤツは、早々に避難することを勧める。村を守る為に戦ってくれるってヤツは歓迎するが、あくまで自主参加だ。報酬はないと思ってくれ」
「ああ、まだ時間があることだし、報酬の件はギルド本部に掛け合ってみてもいいんじゃねーか?」
そう言ったのはダンジョンの受付のおっさん。いい考えだな、俺が行くのが一番話が早そうだ。
「それなら明日俺がギルマスに直接掛け合ってこよう。夕方には戻るだろうから、それまで判断は保留にしててくれ」
ランの脚なら往復半日もかからないだろうしな。
「なあ、敵の戦力はどれくらいなんだ?」
ある冒険者が尋ねてきた。
「聞き出した話じゃ、直接乗り込む為に集めてるのは五百人くらいらしい。だが、さっきも言った通り背後に黒幕がいる以上、増援を送ってくる可能性は高いだろうな」
増援としてどれだけの軍勢が用意されているのか分からないのが痛いな。
そう考えていると、再びその冒険者が質問してきた。
「王都の軍はそっちへの警戒に割かれる可能性が高いって訳だな?」
お? そこに気付くか。
「なかなか鋭いな、その通りだ。連中の狙いがこの村だってことは王都の軍部にも伝えるが、増援の規模が分からない以上は迂闊にこっちに軍を送れない。大規模な援軍は望み薄だ」
その俺の言葉を聞いて、集まった面々が騒ぎ出す。
「それじゃ勝ち目はねえだろ!」
「じゃあこのまま村を見捨てるのかよ!?」
――ぱん!
俺は魔力を込めた手を打ち合わせる。周囲に魔力が放射される。
「俺は『黒天使』だぞ? ここにいる冒険者が全員で足止めしてくれれば、五百人なんて一瞬で皆殺しにしてやる。まあ、さっきも言ったが逃げたきゃ逃げてもいいがな」
「黒天使か……お前は確か、王都の軍五千人を、たった五人で降伏させたんだったよな?」
これは、さっきの鋭い冒険者の男だ。
「ああ、俺とライムの二人で千人近く殺した」
「私は二百五十くらい、カズにぃが七百ちょっとかな?」
そんなライムの言葉に、勝てそうな気がしてきたな、とかいうざわめきが聞こえてきた。
「まあ、冒険者の皆は、明日俺が戻るまでに去るか残るか決めておいてくれ。あ、ギルドのおっさんは当然残るんだよな?」
「あっ、あたりめえよ!!」
なんか焦ってない? まあいいや、ここからが本題だ。
「さて、村の皆に聞きたい」
「なんじゃろう?」
俺の問いかけに、村長が代表して答えた。
「全員の命を助ける代わりに村の損害はある程度覚悟するか。もしくは、村全てを守る為に、ある程度の犠牲者が出ることを覚悟して俺達とともに戦うか。そのどちらを選ぶか、だ」
それくらいの覚悟はしてもらわないと、残って戦う冒険者達も納得いかないだろう。命を懸けるのが無償なのに、他人の命も村も、全て守れっていうのはムシがよすぎる。
「それも、明日俺が戻るまでに決めてくれ」
「うむ……」
村長は深く唸りながら頷く。
「俺からは以上だが、皆から何かあるか?」
「黒幕がいるかもって話だが、さっきの口ぶりからすると目星がついてるんじゃないのか?」
これも、さっきの鋭い冒険者だ。
「頭がキレるヤツがいると、やりやすいのかやりにくいのかよく分からないな」
俺はそう苦笑してから言葉を続ける。
「それを聞いたら後には退けなくなるぞ? 他の皆も、ここから先は残って戦う覚悟ができている奴だけ残ってくれ」
その俺の言葉に、ゾロゾロと人が出ていき、残ったのは村長と他の代表数名、そしてダンジョン受付のおっさんと、冒険者が三人だけだった。
(サンタナ。残ったメンバーの把握と記憶を頼めるか?)
【承知しました】
俺は念話でサンタナに指示を出した。この中に、今後寝返るヤツがいないとも限らないからな。
「それじゃあ説明するぞ? 黒幕の狙いは、さっきも説明した通りにセリカの失脚なんだろうが、当の黒幕の権力が大したことがないんじゃ、反乱の意味がない」
そこまで言ったところで、さっきの冒険者が納得したように頷く。
「なるほどな。セリカ様の政権が気に食わない大貴族か」
「……だったらまだよかったんだがな。これは確実な情報じゃないが、黒幕は南にいる元第二王子――いや、今はカムリ・ジワラー公爵か。彼だと睨んでいる」
元第二王子はセリカの即位とともに王族から籍を抜かれ、現在は公爵位にあるらしい。
「なんだと……? だがカムリ様は、王座にはまるで興味がないお方だったはずだが」
「ああ、俺達もそう聞いている。だから正確に言えば、側近に唆されて動いている可能性が高いと考えているんだ」
俺の補足に、一同が腕を組んで考え込み始める。俺達の仮説が正しければ、オーシュー王国を二分する内乱に発展する可能性があるからな。村を守るとか、そういうレベルの話じゃなくなる。
「それでね、さらにその側近を唆しているのがバンドー皇国なんじゃないかって考えてるの」
「……なぜそう考えたか聞いてもいいか?」
ライムの言葉に、根拠を問う声が上がる。
このライムと俺が導き出した見解は、証拠はないがそれなりに説得力があるものだと思っている。
「自分達ならどうするか考えただけ。バンドーからすれば、国境に陣取るカムリ公爵は邪魔で仕方がない……だったら、手を回して公爵を北に押し込んで、それからオーシュー南部を切り取ればいい」
不思議そうにしている面々を見回して、ライムは言葉を続ける。
「それじゃあどうやって北に押し込むか。セリカの政権を転覆させれば、カムリが王座に就くことになって、ライズミーに移動する。ちょうど都合のいいことに、セリカ政権になったばかりで政局は混乱中、しかも貴族主義撤廃を掲げているから、反体制の貴族は沢山いるでしょうね。付け込むスキはいくらでもあるのよ」
「ま、そういう訳だ。今回の戦いは、恐らくこの国の内乱の口火を切ることになる……今の話を聞いた以上は、こちら側に加担してもらうからな。公爵側につきたい奴がいるなら、この場で殺すことになるぜ?」
ライムの説明を受け、俺は口角を上げて皆に言った。しかしさっきの冒険者が、こちらも薄く笑いながら声を上げた。
「ふん、見くびってもらっちゃ困るぜ。俺達は腐れ貴族共が死に絶えるなら喜んで戦うぜ? だいたい、セリカ様を女王にしたあんたらには感謝してるんだ。それにな、俺はこの宿が好きなんだよ。妖精も見ちまったし、何より飯が美味いしな」
頼もしいことを言ってくれるじゃないか。歳は俺より少し上くらいだろうか、無精ひげを生やして髪はボサボサだが、顔立ちは整っている。
「ほぉ? あんた、カペラが……妖精が見えたのか。名前、聞いていいか?」
「ああ。俺はアクセルって言う。Bランクだ。よろしく頼む」
うん、感じのいいヤツだ。俺達は固く握手を交わした。
なかなか頭もキレるし、Bランクなら腕も立つだろう。それに何より、この男にはカペラが見えると言う。実はカペラは、この宿の親娘に対して好ましい人物、つまりは味方と呼べる人間にしか見えないようにしているとサンタナが言っていたからな。信頼できるだろう。
それから軽く話を聞いたところ、アクセルは、ここに来た時はソロだったらしい。なんでも、『宿で妖精を見た者はダンジョンでお宝を拾う』という噂を聞いてやってきたのだそうだ。
そして実際に、その噂を体験したという。この宿でカペラを見た当日に一階層でゴブリンを倒したら、宝箱がドロップしたんだとか。そしてその後、同じくカペラを見た後で宝箱がドロップした、クランクとワイパー――今もアクセルの後ろに座っている二人だ――と意気投合して、『インジェクション』という名前のパーティを組んでいるという。
アクセルの身の上話を聞き終えたところで、その日は解散となった。
村長はじめ村の代表達は、これから戦時の対応を決めるのだろう、真剣な表情で部屋を出ていく。
そして、アクセル達と一緒に出ていこうとしたダンジョンの受付のおっさんには、俺から具体的な指示を出しておいた。
「おっさんは、残って戦ってくれそうな冒険者のリストを作成してくれ。正式なものは、明日俺が戻ってきてからでかまわないから。それと、ミズサーとタカミに冒険者の増援を頼みたい。この村が陥落すれば次は王都かミズサーが標的だからな」
援軍の来る可能性がある以上、王都同様、街の軍をこちらに回すわけにはいかない。よって、今回は冒険者ギルドという組織に動いてもらい、冒険者の戦力を頼りたいって訳だ。
「ああ、任された」
受付のおっさんも、俺の指示に頷いて出ていった。
さて、一段落ついたし、今日は風呂に入って寝るか。ライムと別れてトイレに行ってから受付に顔を出すと、ルーチェさんがそこで待ち受けていた。
「あ、カズトさん! カズトさんのお部屋は一階の一番奥です。部屋にお風呂も付いていますから、ごゆっくりどうぞ」
そんなルーチェさんの言葉に従い、指定された部屋へと向かう。そしてガチャリ、とドアを開けたんだが……
「おかえりなさい、あなた」
「まちがえました」
――バタン!
部屋間違えたかな? もう一度……
「おかえりなさ――」
――バタン!
すると、今度は内側からドアが開いた。
「ちょっ、カズにぃ! なんでさ!?」
「いや、だってここ、俺の部屋だって聞いてたのにライムがいたからさ。ルーチェさんが間違えたのかなって……んな訳ないよな……」
てっきり、一人部屋でのんびりできるのかと思ってたよ。
「そうそう。ルーチェさんのご厚意でこの部屋貸してもらえたんだよ。VIPルームなんだって。しかもなんとダブルベッドなのだ!」
確かに、以前宿泊した部屋よりもゴージャスで、ベッドも何やらフカフカだ。
そして、それはもう嬉しそうな表情を浮かべるライム。
「ささ、はやくはやく! お風呂で背中流してあげるから!」
「いや、それは勘弁してほしい。切実に」
「どうして? イヤ?」
そんな眉をハの字にして言われてもだな。
「イヤって言うか、自制できる自信がない。二人きりの旅だしさ」
俺がそう言っても、ライムは駄々をこね続ける。そして結局――
「もう、なんであの状況でえっちな展開にならないかな? カズにぃって、実は女の子に興味ないヒト? ああ、別にもしそうでも、私の愛は変わらないけどねっ!」
風呂から上がった俺は、そんなことを言っているライムに、ベッドの上でくっつかれていた。
駄々をこねるライムに負けて風呂に入ることになった俺は、ひたすらライムに背を向け、背を向けられない状況の時は目を瞑り、くっつかれたら般若心経を唱えて、なんとかやり過ごした。しかし風呂から上がったら上がったで、第二の危機、寝間着一枚で同じベッドという状況に放り込まれたのだ。
「別に興味がない訳じゃない。覚悟が決まらないだけだ」
「……ヘタレ」
「ホントにな」
不満げなライムの言葉に、苦笑で返す。そうする以外にどうしろと?
そんな感じで、グチグチとライムにいじめられながら寝たふりを決め込んだら本気寝してしまい、目覚めた時にはお互いがお互いを抱き枕にしていた。つまりは熱い抱擁を交わした状態だ。
ほぼ同時に目覚めた為、ライムの可愛らしい寝ぼけ顔が目の前にあり、至近距離で目が合った。
「おはよう」
「おはよう、カズにぃ」
「俺、昨夜……」
「うん、残念ながらカズにぃはなんにもしてこなかったよ。乙女の自尊心粉々だよ?」
「う、なんていうか、ごめん?」
「じゃ、お詫びのちゅうして」
朝ごはんの準備ができたよーっていう、キャロルちゃんの呼び声に答えて、ライムと二人で食堂に行き、朝食を待つ。ご飯が出てきてからも、ライムはずっと超ご機嫌だった。
食事を終えた俺は、早速王都に向かう準備を整えて、厩舎から連れてきたランに跨る。
「それじゃあライム、こっちのことは頼んだ……あ、ビートは王都で武器防具を揃えたいから、俺に付いてきてくれ」
「ん、了解。気を付けてね?」
とか言ってるライムだが、心配なんか全然してないよーって顔してるから笑ってしまう。
「なにさ?」
俺が笑ったことで、ライムが怪訝な顔をしている。
「いや、なんでもない。俺が戻ってくるまで暇だったら、インジェクションの三人に稽古でもつけてやってくれよ」
俺がそう言うと、一緒に見送りに来てくれたインジェクションの三人の表情が輝いた。
「「「是非!」」」
「ルーチェさん、キャロルちゃん、今夜も美味しい晩ご飯期待してるよ。それじゃ、行ってくる」
「はい、行ってらっしゃいませ、カズトさん」
「おにーちゃん、行ってらっしゃーい!」
これまた一緒に見送りに来てくれたルーチェさんとキャロルちゃんの親子も笑顔で手を振っている。それを見て、俺はランを走らせた。
5 再会、そして要請
ユーゲン村と王都ライズミーは、のんびり歩いて半日程度の距離だ。
途中に悪路がある関係で、普通の馬でも二、三時間はかかるのだが、そこは流石バイコーンと褒めるべきか、ラングラーに跨って一時間強で到着してしまった。
早速ギルドに向かって市街地を歩きつつ、途中で武器屋に立ち寄る。俺が騎乗時に使う用の槍二本に、ビートが人化した時用のレイピアと革の防具を一式購入する為だ。
特段迷うこともなく、適当なものを購入した俺はそのままギルドへと到着した。
「ラン、しばらく入り口の近くで待っててくれ」
【承知しました、主】
「ビートは俺の肩にでも乗ってるか?」
【ええ、そうさせて頂きますわ】
黒猫姿のビートが、ぴょんと一跳ねで俺の肩に飛び乗ってきた。
それほど時間が経っている訳ではないのに、妙な懐かしさを感じながらギルドに入ると、昨日別れたばかりのフェアレディの三人がいた。
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