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2巻
2-2
しおりを挟む3 カズトの考察
「あっ! おにーちゃんとおねーちゃん達だ! おかえりなさい!」
宿に到着すると、キャロルちゃんが元気に出迎えてくれた。両手を上げてぶんぶんと振っている。
「ただいま。キャロルちゃん、晩ご飯大丈夫かな?」
「今聞いてくるね! おかーさーん!」
随分と明るい子だな。夕食時ということもあり、それなりに客がいる食堂だが、みんなが厨房の方へ駆けていくキャロルちゃんを見てほっこりしていた。
そしてすぐにパタパタと小走りで厨房から出てきたキャロルちゃんは、こっちこっち、と空いているテーブルへ手招きする。
「大丈夫だって! みんな座って待っててね!」
キャロルちゃんが準備してくれたお茶を飲みながら少し待っていると、俺と同年代の女性が料理を運んできた。食欲をそそる匂いが鼻腔をくすぐる。
「当宿をご利用いただきありがとうございます。女将のルーチェです。よろしくお願いしますね」
料理をテーブルに並べ、お盆を抱えながらペコリとお辞儀をした女性はルーチェと名乗った。
キャロルちゃんと同じグリーンの髪はポニーテールで纏められ、三角巾を頭につけている。大きなクリリとした瞳がそっくりで、キャロルちゃんの母親だということを強烈に主張しているように思える。有体に言えばかなりの美人だ。
「こちらこそ、お世話になります」
俺も挨拶を返した。
「それでは、ごゆっくり」
ペコリと頭を下げて、ルーチェさんは厨房へ戻っていった。
……なんだろうな? あんなに美人なのに華やかさがないというか、むしろ笑顔に陰がある。俗に言う幸薄そうってヤツだ。疲れてんのかな?
ま、詮索するのもなんか違う気がするし、今は夕食に集中しようじゃないか。
「それじゃ、いただきます!」
みんなで合掌しながらいただきますの唱和。普段から俺とライムがやってるのを見て、パーティメンバーも真似をし始めた。それが習慣になりつつある。
今日は川魚をソテーしたものがメインのようだ。近くを流れる清流で獲れたものだろう。
「……ん?」
みんなが魚料理に舌鼓を打っている中で、キャロルちゃんが余った椅子をえっちらおっちら運んできて座り、床に届かない脚をブラブラさせながらキラッキラした目でこっちを見ていた。
「どしたの、キャロルちゃん?」
凝視されたままではどうにも飯が食いづらい。何かあるのかと、聞いてみた。
「あのね! おにーちゃんたちに、ご飯食べたら冒険のお話を聞きたいの!」
なるほど、冒険譚を聞きたいのか。
でも、俺達の冒険はちょっと血なまぐさい。子供に聞かせる話じゃないよなぁ。
「キャロルちゃんは冒険者になりたいの?」
ライム、ナイス助け舟! キャロルちゃんに見えないようにサムズアップすると、ウインクで返してきた。
だが、彼女の答えは意外なものだった。
「ううん、私はおかーさんのお手伝いをするから冒険者にはならないよ!」
そのタイミングでルーチェさんがお茶のお代わりを持ってきてくれた。
「すみません、キャロルがご迷惑をおかけして……」
そう言って申し訳なさそうに頭を下げるルーチェさん。
当のキャロルちゃんは、ライムに手招きされて、お菓子を貰ってはぐはぐと食べている。
「この子の父親も冒険者だったんですが、二年前にダンジョンに行ったきりで……」
キャロルちゃんの様子を見ていたルーチェさんが静かに語りだした。視線は我が子に向いてはいるが、焦点はどこか遠くにあるようにも見えた。
なるほど、冒険者の俺に、父親の影を重ねている訳か。そういえば、ダンジョンに行くって言った直後からやけに懐いてきたっけ。
「すみません、あの子も父親が恋しいのだと思います。少しだけ、甘えさせてくださいますか?」
ルーチェさんの言葉に俺は苦笑した。自分ではまだ父親になるような歳じゃないと思ってたからな。だがまあ、そういうことなら――
「キャロルちゃん、こっちおいで」
俺は手招きしながらキャロルちゃんを呼んだ。
彼女はとてとて~っと走ってくる。なんていうか、どんな仕草も可愛らしい子っているんだな。
「おにーちゃん、なに?」
小首を傾げて尋ねるキャロルちゃんをひょいっと抱え上げた俺は、膝の上に座らせて頭を撫でてあげた。
「ほえ? んふふ~」
嬉しそうにこちらを見上げたキャロルちゃんは、俺と目が合うとにへらっと笑う。足はブラブラさせていてご機嫌なようだ。
「おかーさん、おにーちゃんと何話してたの?」
「キャロルと仲良くしてって、お願いしてたのよ」
「おかーさん、今日はおにーちゃんとお風呂入っておにーちゃんと寝るー!」
キャロルちゃんの言葉に女性陣が緊迫したが、俺は変態紳士じゃねーからな?
「キャロルちゃん、今日はおねーさん達と一緒に入ろ?」
ここで再びライムの助け舟……いや、今回はむしろ阻止か?
「うーん……分かったー! 今日はおねーちゃん達といっしょー!」
キャロルちゃんはわずかに考える素振りをみせたけど、おねーさん達と一緒にワイワイお風呂に入るのも楽しみなようだ。
「すみません、皆さん。キャロルをお願いします」
「はーい、任せて!」
ルーチェさんは申し訳なさそうに言うが、むしろみんなの方が嬉しそうだ。
キャロルちゃんは早くもみんなのマスコット状態だった。
みんな連れ立って風呂に行ってしまった。さて、俺も入ってこよう。
男風呂と女風呂は壁一枚隔てただけなので、キャッキャウフフな声が筒抜けだった。何やら体型的なことで生々しい会話が聞こえるが、聞くまい聞くまい。
風呂から上がり少し待っていると、セリカも風呂から上がってきた。湯上がりって艶かしくて目のやり場に困るよな……
ところで、俺が部屋に行かずみんなを待っていたのは、部屋割りが分からなかったからだ。
「なあ、俺はどの部屋で休めばいいんだ?」
「カズにぃは四人部屋だよ。私とセリカが二人部屋」
俺の質問に答えてくれたのは、キャロルちゃんを連れて上がってきたライムだった。
俺の予想とは少し違った。俺が二人部屋で、残り一枠をかけた熾烈な争奪戦が繰り広げられるものだと思っていたのだ。まあ、大部屋ならそっちの方が変に意識しなくていいから楽と言えば楽か。
「そっか、じゃあ俺は先に部屋で休んでるよ」
俺は別部屋になるライムとセリカに声をかけた。
「うん、おやすみ、カズにぃ」
「カズト、おやすみなさい。キャロルちゃんは私達と寝ましょうか」
彼女達も挨拶を返し、既に眠そうなキャロルちゃんを連れて自室に入っていった。
なるほど。俺に対する気遣いもあるだろうが、キャロルちゃんを愛でるのが一番の目的だな?
俺たちの部屋は、長方形の部屋の中に、四つのベッドが並んでいるだけの簡素なものだった。ベッドの下には荷物を収納する為の木箱があり、ベッドを椅子代わりするとちょうどいい高さの小さな机もある。その机の上には、照明としてランタンが置かれていた。
俺は部屋に入るなりゴロリとベッドに転がり、明日からのダンジョン攻略について考える。
パーティの戦力上昇を狙ってダンジョンに来たはいいが、果たして上手くいくのかどうか。
おそらく、スキルレベルは上がるだろう。レベルというのは熟練度のようなものだと考えれば、使えば使う程上達するのが道理だからだ。
しかし、基本ステータスの方はどうか。俺がこの世界に来てすぐ、襲ってきた兵士を倒したらステータスがちょっと上がっていた。敵に攻撃を当てたり倒したりしたことで、上昇したんじゃないか? そう考えるとなんだかゲームで言う『経験値』みたいだけど、強い敵を倒すとステータスが上がりやすくなったりするんだろうか。
それこそゲームなんかであれば、強い奴が敵を倒して弱い仲間を効率よく育成するパワーレベリング、通称パワレベという方法がある。弱い奴だけでは倒せないような強敵を、強い仲間と一緒に倒すことで大量に経験値を得られるという方法だが……これも検証してみないと分からないな。
「あ、カズさん、まだ起きてました?」
すると、やや頬を上気させた女性陣が入ってきた。先頭はグロリアだ。
「ああ、ちょっと考え事をしてた」
「カズ君ってすごい先を読んで行動してますよね、結果を見ると」
「アタシもそう思ってた。だから今カズ坊が何考えてたか興味あるな」
俺の返事に、サニーが唐突におかしなことを口走り、ローレルもそれに便乗してきた。
全部が全部先読みしてた訳じゃないし、偶然うまくいったってことも多々あるんだけどな。
まあ、そう言ったところで多分謙遜してると受け取られるだけだろう。だから俺はそれには触れずに、さっきまで考えていた内容を話すことにした。
「そうだな……みんなはさ、どうやって強くなったんだ?」
俺の質問に、サニー、ローレル、グロリアの順で答えてくれる。
「そうですねぇ……基礎訓練を積んで、技術を身につけて魔物を倒す、ですかね」
「だな、不得意な武器で魔物を運良く倒せても、強くなった実感は湧かなかったよな」
「私は、自分も無傷では済まないような強敵を倒した後は強くなった気がしました」
お、これは確定かな?
「なるほど。明日は一気にダンジョン攻略を進められるかもしれない」
「徐々に経験積むんじゃなかったのかい?」
俺の言葉に、あれ? という表情で返すローレル。
「うん、もしかしたらだけど、短時間で強くなれる方法があるかもしれないんだ。あくまでも、俺の予想だから確実じゃないんだけど」
そう前置きして、ステータスを上げるには『経験』が必要な事、敵を攻撃したり倒したりすれば『経験』を得られる事、より強い敵程取得出来る『経験』が多くなる事。これらの仮説を説明した。
「言われてみれば心当たりがありますね」
サニーの経験からいって間違いないと思う。
「もうひとつ、ポイントがあるんだ」
これもおそらくだが、自分の持っているスキルで戦う事が重要だ。
たとえば、『剣術』スキルを持っていない者が剣で戦っても、得られる経験は大幅に下方修正されるのではないか。ただし、それを繰り返せば新たなスキルを取得出来る可能性はある。基礎訓練というのはスキルを取得するための下準備なんじゃないかな。
「なるほど、基礎訓練を積んでからっていうのは、そういう理由があったからなんですね」
「不得手な戦闘方法で戦っても強くなれない理由もそれなら説明がつくな」
俺の説明に、サニーとローレルは納得したように言葉を漏らす。
スキルレベルと、ステータス成長の仮説の検証。明日からのダンジョン攻略に、思わぬ目的が加わった。
それから問題になるのが、パーティ内で『経験値』が共有できるのかどうかだ。そしてもし共有されるとして、全員に均等配分されるのか、それともトドメを刺した者に優先されるのか。
「確認事項が結構あるから、明日は階層ボスを倒したら、各自ステータスの確認をしといてくれ」
そんなことを話しながら、みんなでベッドに入るのだった。
4 五階層ボス、ミノタウロス
さて、今日からいよいよダンジョン攻略本番だ。みんなで朝食を食べ、ルーチェさんとキャロルちゃんに見送られて宿を後にする。
美味い飯で英気を養った俺達は、のんびりと、しかし各々がやるべきことを頭の中で反芻しながらダンジョンへと向かった。
昨夜は別室だったライムとセリカにも、スキルのことやステータスのこと、そしてダンジョンでの方針を説明する必要があったので、のんびりと歩いていたのはそういった理由もあった。
「なるほど。私は昨日打撃の威力が上がっている気がしたのでひたすら殴っていたのですが、寝る前にステータスを見たら棍術というスキルが増えていたのです」
どうも、セリカは昨日のダンジョン攻略でメイスで敵を殴りまくっているうちに新たにスキルが発生し、与えるダメージが格段に上がったらしい。
それに気をよくしたセリカはひたすらメイスで殴り続け、さらに攻撃力が上がったという。
多分、棍術スキルのレベルが上がったんだろうな。まさに俺の仮説を裏付けるものだ。
そしてライムはライムで、俺のやろうとしていることがピンときたらしい。
「それで、カズにぃはパワレベが出来ないか考えてるってこと?」
さすがライム、俺のことがよく分かってるな。
「ああ、だがまずは他の仮説の検証が先だな。階層ボスに辿り着くまでの雑魚は、出来るだけいろんなスキルを使って倒すこと。これはスキルレベルを上げるためだ。で、ボスは自分が伸ばしたいスキルを使って戦ってみようか」
俺は今日の基本方針を告げた。仮にパワレベが出来るとしてもデメリットがあって、強制的にステータスは上げられても、技術の方は成長しないのだ。
そこら辺の匙加減を上手く調整していかなくちゃだな。
「了解!」
全員からいい返事があったところで、ギルド出張所が見えてきた。さあ、気合を入れていこうか。
ギルド出張所に到着し、受付のために順番待ちをしている。昨日は中途半端な時間だったためか、俺達以外は誰もいなかったが、今日はかなりのパーティがいる。メンバーを募集してる奴や自分を売り込んでる奴もいるな。
「さ、入るぞ」
昨日と同じおっちゃんのところで受付を済ませた俺達は、気負うことなくダンジョンに足を踏み入れた。今日は俺が最後尾だ。
一階層は昨日見て回ったので、さくっと二階層、三階層と進んでいく。
だが、出てくる魔物はゴブリンとコボルトばかりだった。流石に階層が深くなるにつれて強くはなっているが、所詮ゴブリンやコボルト、苦戦することはなく、魔石だけがどんどん増えていく。
四階層まで降りてきたが傾向は変わらない。まあ、実戦訓練としてはちょうどいいんだけど。
「お? あれが五階層への階段かな?」
しばらく進むと、下の階層へと下っていく階段を見付けた。
どうもダンジョン内というのは特殊な環境らしく、俺の索敵の効果があるのは同じフロアだけで、階段を隔てるとその先の様子は分からなくなっていた。
なので、俺達は細心の注意を払って階段を下りていく。
階段を下りきると、しばらく一本道が続いて行き止まりになったが、そこには鉄製の扉があった。
このダンジョンは岩と土で構成された洞窟のはず。それが、壁や地面、天井が発光していて照明が必要なかったり、目の前にある扉は明らかに人工物だったり、本当に不思議な場所だな。
「ここがボス部屋だね」
「そうですね。ここまで敵が出なかったのは、いわゆるセーフティゾーンなんだと思います。ボスに備えて準備する為の」
扉を見ながら呟くライムに、サニーが注釈を加えた。なるほど、たしかに階段からここまでの一本道は敵と遭遇していない。扉を開かなければ十分に休息出来る。
ただ、ここまで来るのに大した苦戦もしていない俺達には休息は必要ないだろう。必要なのは心の準備だけだな。
俺は扉の前で、サニーに最後の確認をした。
「ボスとの戦闘中に他のパーティが介入してくることは?」
「それはありませんね。ボスとの戦闘中は扉が開かないようになっているとの報告があります。逆に言えば、ボス部屋に入ったら最後、ボスを倒すまで出られないということです」
「それじゃあ戦闘終了までは邪魔されることはない訳だな?」
「そうですね。もしくは、パーティが全滅すれば扉が開くようになるらしいですが」
サニーの『全滅』という言葉に、全員に少しだけ緊張が走る。なぜかゲームのようなシステムが存在する世界だが、決してこれはゲームではなく、死は現実のものだ。普通は緊張するよな。
「出現するボスって分かってるのか?」
俺はもう少し、サニーに質問したいことがあった。これが分かっているのとそうでないのとでは雲泥の差だからな。
だが、サニーの答えは激しく期待外れなものだった。
「それが、完全にランダムらしく……今まで報告に上がってきているものに関しては、種類も強さもまちまちですね」
「あ、そう。運任せな訳ね……」
俺はちょっとだけガッカリしながらそう呟いて、無造作に扉に触れた。
――ヴゥゥゥゥン。
ん? 空気が振動するような音がするな。
そして唐突に、扉に触れていた俺の掌から、扉の感触が消えた。
「あー、ごめん。なんかね、扉が消えちゃった」
苦笑いしながら言う俺に、全員が『シカタナイワネ』ってな雰囲気を垂れ流しつつ、ボス部屋へと入っていった。
中は広いドーム型の空間で、天井の高さは十メートルを下らない。やはりうっすらと発光している壁も天井も固い土壁になっており、全員が入りきったタイミングで入り口が消失して、周囲の土壁と同化してしまっていた。
そして入り口が消えると同時に、部屋の中心あたりの地面に八角形の幾何学模様の魔法陣が現れ、そこから怪しげな青緑の煙が立ち上り始めた。
「へぇ、全員が中に入って、入り口が閉じてからボスがポップするのか」
そう言いながら、俺は煙に向かってマジックミサイルを一発撃ってみる。
しかし、俺の攻撃は煙をすり抜ける。どうやら不意打ちはダメらしい。敵が完全に現れるのを待つしかなさそうだ。
青緑の煙は徐々に魔物の姿を形作っていく。デカいな。
「ミノタウロスですね。五階層のボスとしてはほとんど出てこない強敵です」
少しずつ明らかになっていく魔物の姿を見て、サニーが緊張の面持ちで呟いた。
そして完全に姿を現したミノタウロスは、人間の身体に牛の頭という魔物だった。
足は人間よりは牛に近く、蹄がある。身長は三メートルを軽く超え、巨大なバトルアックスを持っていた。
あれが直撃したら流石にヤバいから、まずはヤツの攻撃手段を封じるか。
「ローレル姐! 奴の足元、凍らせられるか?」
戦闘指揮のスキルで声に出さなくても伝わるんだが、目の届く範囲にいる相手にはつい叫んでしまうな。
「任せときな!」
続けて他のメンバーにも指示を飛ばす。
「サニーは奴の顔面狙って射撃! ライムは雷属性魔法を喰らわせてやれ!」
「「はい!」」
「セリカ! グロリア! 俺が奴の右腕を斬り飛ばしたら、一当てして離脱!」
「「了解!」」
まずはローレル姐の魔法でミノタウロスのフットワークを奪う。
ローレルが右手を振りかざすと、ミノタウロスの足元から氷が出現し、膝下まで固定してしまった。その場で立ち往生せざるを得ない状況のミノタウロスの顔目がけて、サニーが連続して三本の矢を射掛ける。
それを嫌がった敵は両腕でガードするが、ライムから雷属性魔法を食らい体を硬直させる。
そして俺は刃を持たない魔刃刀・カラクリから生み出した魔力の刃を飛ばして、電撃による麻痺で動けないミノタウロスの、巨大な斧を持った右肩から先を切断する。こうなればミノタウロスといえども攻撃出来まい。
もはや反撃も防御もままならないミノタウロスに対し、左からグロリアが斬りかかり、右からセリカがメイスによる打撃を加えて離脱する。
ただ、ぶっちゃけて言えば、ライムの電撃以外は大したダメージを与えられていなかった。ミノめ、なんて固い皮膚なんだ? これ、普通の冒険者じゃ無理じゃねえのか?
しかしまあ、パワレベの検証だからな。みんなで攻撃に参加させることに意味がある。攻撃に参加しただけでステータスが上がっていれば、パワレベの効果が立証される。
さらに俺は魔力刃を再び放ち、左腕も斬り飛ばす。これでミノタウロスは文字通り手も足も出なくなった。
(セリカとライムでミノに防御力低下の補助魔法! その後全員で近接攻撃!)
俺が戦闘指揮スキルで念じた指示を受け、パーティメンバーがミノタウロスへ殺到する。
サニーの短剣が足を切り刻み、ローレルの鎖分銅が骨を砕く。
セリカの水魔法で生み出された水弾が顎を砕き、グロリアの長剣が脇腹を切り裂く。
「グモオオオオオォォォォォォォ……」
満身創痍のミノタウロスが雄叫びをあげるが、もはやなす術はない。そろそろトドメだな。
(ライム! 行け!)
「やあああっ!」
俺の指示でライムがミノタウロスの首目がけて跳躍し、気合の横薙ぎ一閃でミノタウロスの首を刎ね飛ばした。ライムはスタッ、と片膝をついた体勢で着地し、そこから立ち上がると、ヒュオン! と真っ白い刀、白猫を一振りして刀身の血を払い、チャキン! と音を立てて納刀する。
「ふぅ……」
納刀のあと、深く息を吐くライム。
なんだかすげえカッコイイな。黒髪の美少女が白銀の装備を纏い、巨大な敵を斬り捨てる。しかも一連の動作に澱みがない。他のメンバーもみんな、ライムの姿に見惚れていた。
「流石、勇者ですね……」
思わずそう口にしたのはセリカだった。
「みんな、よくやったな。ご苦労さん」
そう言いながら、全員でハイタッチをする。
そうしているうちにミノタウロスの死体が消え、宝箱が出現した。
「あ、すごいですね! 普通は倒れた敵が持ってた武器や道具とかが、そのまま消えずに残ってドロップアイテムってことになるんですけど、宝箱はレアドロップ確定らしいです!」
宝箱を見たサニー先生が興奮している。しかし、なんだかどんどんゲームじみてくるな。
レアドロップという言葉に思わず苦笑しながら、俺は宝箱に手をかけた。
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