いや、自由に生きろって言われても。

SHO

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2巻

2-1

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 1 次の目的地は


 俺、伊東一刀いとうかずとはある日、道端で突然光に包まれた少女を助けようとして、異世界召喚に巻き込まれた。
 召喚を実行したのは、オーシュー王国第二王女であるセリカ。貴族主義が蔓延はびこり、平民がしいたげられている王国の現状を変えるため、勇者召喚を実行したと言う。
 勇者として召喚されてしまった少女ライムと、彼女を守る騎士シュヴァリエとなった俺は、セリカの掲げる貴族主義からの脱却という目的に共感し、彼女の力となることに決めた。
 その後、タカミの街で領主と冒険者ギルドの癒着ゆちゃくと腐敗を目の当たりにしてこれを叩き潰したことで、国王から目をつけられてしまう。
 自身の娘であるセリカ諸共もろとも俺達を暗殺しようとくわだてた国王や貴族に対して、俺達は仲間の力と共に戦いを挑み、革命を成功させたのだった。
 晴れてセリカが女王に即位することになったものの、女王としては未熟であり、また王国内には彼女の即位を認めていない者も多い。
 そこでセリカの母親であるコロナさんが摂政せっしょうの座にき、セリカは見聞けんぶんを広め、賛同者を増やす旅に出された。俺とライムを始めとした仲間たちは、セリカ女王の護衛をコロナさんから頼まれ、セリカの旅に同行することになったのだ。
 旅に同行するのは、俺達三人に加えて、元ギルドの受付嬢うけつけじょうサニー、騎士団所属のグロリア、武器や魔道具を扱う店を営んでいたエルフのローレルの、計六人。加えて、隠密おんみつ集団『クノイチ』からソアラ、クレスタ、チェイサーの三人に、目的地への先行と現地の調査をしてもらう手筈てはずになっている。
 もちろん俺としては、日本に帰る方法も探すつもりだ。


 そして革命成功の祝勝会から一夜明け、王都を出発する当日。
 俺達は、まず当面の目標として、ダンジョンに潜って仲間全員のレベルアップを設定した。
 ダンジョンに潜るにはパーティ単位でないといけないので、俺、ライム、セリカ、サニー、グロリア、ローレルの六人は、互いの信頼をその名にかんしたパーティ、『トラスト』を昨日結成している。
 そしてギルドでパーティを正式に登録する必要があるのだが、その前に――

「ところでグロリア。そんな目立って重い騎士鎧きしよろいじゃ、旅をするのも大変だろ? もっと軽装にした方がいいんじゃないか?」

 俺はグロリアに、装備の変更を提案していた。
 彼女の現在の装備は、いかにも騎士といった全身鎧だ。
 騎士鎧が問題になるのは、目立つことと重さだけではない。動く度、ガシャガシャという金属音が鳴るのだ。この先は騎士が手柄を挙げる為の華々しい戦いではない、隠密性おんみつせいが求められる場合が増えるだろうから、騎士鎧というのは不利だろう。

「やっぱり、そうですよねぇ……」

 俺に指摘されたグロリアはしょんぼりと眉尻まゆじりを下げる。
 武人っていうのは、自分の武具に思い入れがあるモンなのかもしれないけどな。

「でも、たしかにその通りですよね! ライムさん! 収納の中に適当なものはないだろうか?」
「え~っと……これとかどうかな?」

 しかし迷った様子も一瞬のこと、自分のエゴよりも俺の提案を受け入れることを選んだグロリアは、ライムの空間収納くうかんしゅうのうに保管されているものから選ぶことにしたようだ。何しろライムの収納内には、ローレルねえの店の売り物なんかも詰め込んであるからな。
 ほどなくして、グロリアはいくつかの上質な革の防具類を一式見繕みつくろって装備した。
 地球にいたときに見たことのある軍服っぽい深い青色の上下に、シンプルな革鎧。うん、無骨な騎士鎧よりは、女性らしいやわらかさが際立った感じだ。いいんじゃないかな?

「似合ってるぞ、グロリア。それじゃみんな、ギルドに行こうか」

 俺はそう声をかけてから、みんなを連れて冒険者ギルド本部へと向かった。


 グロリアには動きやすい服装になってもらった訳だが、俺達はあえて目立つように、革命時の戦闘と同じ格好をしていた。俺は全身真っ黒な装備、ライムの装備は全身白銀はくぎんだ。
 女王になったセリカは言うまでもないが、『黒天使こくてんし』や『白銀はくぎんいくさ乙女おとめ』といった二つ名持ちとなった俺やライムも、かなり目立っている。二つ名と一緒に強さも噂になっているようで、そのおかげで、これといったトラブルもなくギルドへ到着した。
 ギルドの扉を開いて中へ入ると、俺達の姿を目にした冒険者達がざわめき始めた。セリカ女王だ、とか黒天使だ、とか、コソコソと話しているようだが、俺達は気にも留めずに受付に向かう。
 受付カウンターの向こう側では、受付嬢さんがカチコチになって汗ダラダラだった。そりゃ、女王陛下へいかが目の前にいたら緊張もするか。

「パーティ登録を頼みたい。それから、ギルドマスターと話がしたいんだが」

 俺は受付嬢の様子にも構わず、手短に用件を伝えた。
 本来なら、いきなりギルマスに会わせろと言っても無理だろうけど、その無理が通るのが女王陛下の威光いこうってヤツだ。俺達がギルマスに面会を求めたのは『重要な事案』があるからだ。

「は、はひっ! しょ、しょしょしょ少々お待ちください!」

 受付嬢は慌てて席を立って奥へと引っ込んだ。おそらく、ギルマスを呼びに行ったのだろう。
 少し待つと、さっきの受付嬢が戻ってきた。

「ギルドマスターはただいま参りますので少々お待ちください。その間、パーティ登録をしてしまいますか? 登録される方のギルドカードがあれば数分で終わりますが」

 それならやってしまおうと、俺はみんなからギルドカードを回収して受付嬢に手渡す。
 ちなみに騎士団所属のグロリアにギルドカードを持っているかと聞いたところ、騎士団員は修業の一環として冒険者登録をして、依頼を受けることもあるんだそうだ。
 するとそのタイミングで、奥から細身の中年男性が現れた。どうやら彼がギルマスらしいな。

「カズにぃ、セリカ、ここは私達がやっておくよ! 二人はお話してきたら?」

 そんなライムの提案に乗って、俺とセリカはギルマスに案内され、彼の執務室しつむしつへと向かった。

「このようなむさ苦しい所で申し訳ございません、陛下。本日はどのような……」

 席に着いた途端、平静を装いつつも明らかに緊張した様子で切り出したギルマス。
 それに対して、俺が直球で要件を伝えた。

「あなたにして欲しいのはただ一つ、冒険者の綱紀粛正こうきしゅくせいだ。全支部に至急通達を出してもらいたい。冒険者は無法者ではない。他人に迷惑をかけるような行為をした者には厳罰げんばつを科すように」

 重要な事案とは、このことだった。
 俺達がタカミで暴れた時と同じことをまた起こさないため、冒険者には余計なトラブルを起こさないように徹底してもらう必要がある。
 そもそも、俺は議論をしに来た訳じゃない。ハッキリ言って、問答無用もんどうむようでやってもらうつもりでここに来た。

「俺達には女王を守るという責務がある以上、タカミの時のように冒険者が絡んでくるようなことがあれば、容赦ようしゃせずに反撃するからそのつもりで。冒険者を死なせたくないならば、本気で取り組んでもらいたい。以上だ。あ、言い忘れたが、一応女王はお忍びの旅になる。見た目が王女らしからぬと言って絡んできても、言い訳にはならないからな」

 俺が畳み掛けるようにそう言うと、セリカもビシッと続けた。

「成果を期待します」

 それだけ言って、俺達はギルマスの返事を待たずに席を立った。


「あ、カズにぃ、セリカ。早かったね!」

 ギルドのホールに戻った俺達は、待ってくれていたライム達と合流する。

「まあな。こっちの用件を伝えただけだから。それより、登録は済んだんだろ?」
「うん。パーティ共用の口座も開設してもらったんだ。コロナさんからの依頼の報奨金ほうしょうきんはここに振り込んでもらうようにしたからね」

 ふむ。抜かりはないみたいだな。ま、サニーもいるし、おかしなことにはならないか。
 俺は全員の顔を見渡して、力強く頷く。

「よし、それじゃあ出発するか!」

 ――おーーっ!
 こうして俺達、トラスト一行は王都を出発するのだった。



 2 初ダンジョンへ


 王都を出た俺達は、半日ほどのんびり歩き、ダンジョン近くにある村に到着した。
 ユーゲン村。人口は二百人程度らしいが、ダンジョンに挑む冒険者が多くつどっているためか、活気のある村だ。

「まずは宿探しからだな」

 ダンジョンでみんなを鍛えるにしても、拠点は必要だ。願わくば、飯が美味くて風呂ふろが快適な宿がいいんだが。

「そういうのはアタシに任せてくれよ。昔は結構旅をしてたんだ」

 そこで名乗りを上げたのはローレル姐だった。流石は長命種のエルフ、経験豊富なんだな。少なくとも、俺達のパーティではローレル姐以外に旅慣れたメンバーはいないし、ここは彼女に任せるの一択だ。
 宿を見繕いながら村を歩き回り、ついでと言ってはなんだが、いろいろと情報を聞いて回った。
 このあたりのCランク以上、いわゆる中級以上の冒険者の活動のメインは、ダンジョン探索なんだとか。ダンジョンが近くにない地域では別の仕事がメインになるそうだが、遠方からダンジョン目当てで出稼でかせぎにくる者も多いらしい。そんな事情もあって、宿や武器防具、魔法具などの店や食い物の屋台なども揃っている。
 そんな時、ローレル姐が一軒の宿屋の前で足を止めて口を開いた。

「ここがいいんじゃないかな?」

 選んだ根拠こんきょなど分からない。でも、昔は結構旅をしてたというローレル姐が選ぶのだから、俺達には分からない理由があるんだろう。

「そうか、じゃあ予約を入れよう」

 俺はそう言って宿屋の玄関を開き声をかけた。

「こんちわー」
「はーい。いらっしゃいませ! お泊りですか?」

 看板娘かんばんむすめだろうか。日本人の感覚でいえば、十歳前後に見える少女が出てきた。肩に掛かるくらいの緑色の髪を両サイドで結んでいる。
 こういうの、サイドテールっていうのか? 両サイドで結んでいるからやっぱりツインテールなんだろうか。クリクリとしたひとみがなかなかにキュートな女の子だ。

「とりあえず三泊で。男が一人と女が五人なんだけど大丈夫かな?」

 その少女は、えーと、全部で六人? だよね? そーするとー……などと呟きながらペラペラと台帳のようなものをめくって頑張っている。なんだこれ。微笑ほほえましいな。

「えーと、四人部屋と二人部屋なら空いてます!」

 うん、全部で六人分だね! えらい! でも、それじゃあダメだよね?

「カズト、それで決めましょう。みんなもいいですね?」
「「「「はーい!」」」」

 明らかによくないと思うんだが、セリカのつる一声ひとこえで女子全員が納得してしまった。
 しかし、経験則から言ってこれは絶対に逆らっちゃいけないパターンだ。しかも下手に口出しすると、仁義じんぎなきバトルが勃発ぼっぱつする可能性すらある。
 さらに言えば、最終的には俺に判断をゆだねられるだろう。決められるかそんなもん。どんな部屋割りにしようが角が立つに決まってる。
 なので、ここはセリカの言葉に従うことにした。

「ありがとうございます! じゃあこれに名前を書いてくださいね! 私はキャロルです!」

 キャロルと名乗った少女は、台帳をこちらに差し出し、にっこりと笑って会釈えしゃくした。あまりの愛くるしさに、全員から溜息ためいきが漏れる。そして全員がキャロルちゃんの頭をでに殺到さっとうした。

「ああ、よろしくな、キャロルちゃん。俺達、この後少しダンジョンに行ってくるから。晩飯くらいには戻るよ……ほらみんな、撫でるのはそこまでにして行くぞ」

 そんな俺の言葉にライム達は渋々しぶしぶと離れるが、キャロルちゃんは目を輝かせていた。

「うわあ、おにーちゃん達も冒険者なんだぁ。気を付けてねー!」

 ぶんぶん手を振って見送ってくれるキャロルちゃんに、みんなから笑みが零れた。


 少し進むと、岩壁のすぐ傍に建つ、そこそこ大きいが粗末な木造の建物が見えてきた。
 表に出ている木の板には、『冒険者ギルド ユーゲン出張所』と書きなぐられている。ギルドの出張所か。

「ここで出入りの管理をしてるんです。そうしないと、ダンジョン内で誰かが行方不明になっても分からないですからね」

 俺が興味深そうにながめていると、サニーがそんな風に言った。『行方不明』なんてマイルドな表現だけど、ダンジョンに潜って戻らないってのは、つまりなんだろう。
 俺達は建物に入ると、受付で手続きをする。対応してきたのは受付嬢ではなくおっちゃんだ。パーティカードを見せると、ダンジョンへの入り口へと案内してくれた。
 入ったのとは別の扉の先に進むと、岩壁の少し手前に頑丈がんじょうそうな門が設置されていて、門番が立っている。おそらくあの門の先が、ダンジョンの入り口なのだろう。
 門番は俺達の姿を見て、門を開ける。
 さぁて、行ってみるか。


 ダンジョン内は、なにやら冷たい空気が肌にまとわりつく。
 壁や地面、天井の構造自体は普通の洞窟どうくつと変わらない岩肌や土だ。しかしダンジョン内の魔力の影響か、あわく緑色に発光していて、照明は必要ないくらいだった。


「今日は一階層だけ様子を見て戻ろうか」

 俺はそう言ってみんなを見渡す。全員が無言で頷いた。
 まだダンジョンに入ったばかりだが、空気中の魔力が濃いとでもいうか、独特のプレッシャーのようなものを感じる。
 俺が魔力を薄く広げた索敵さくてきエリアには、赤い光点――こちらへ敵意を持っている異物の反応はあるものの、まだ距離があった。俺が警戒けいかいを促すのは簡単とはいえ、咄嗟とっさの反応もきたえる為に言わないでおこう。

「一応フォーメーション決めておこうか。前衛にセリカ、グロリア、遊撃ゆうげきに俺とライム、後衛にローレル、サニーで。あと、戦闘スタイルの関係でグロリアとサニーは固定になるけどいいかな?」
「はい!」
「了解!」

 サニーとグロリアが、気合の入った顔でキレのあるいい返事をしてきた。他のメンバーも俺を見て力強く頷いている。ん。油断はないようだな。

「よし、じゃあ行こう」

 このダンジョンの名前は、村と同じく『ユーゲン』。進むにつれて下に降りていき、現在確認されている一番深いところは十五階層だそうだ。
 五階層ごとにボスがいて、十五階層のボスはまだ討伐とうばつされたことがない。つまり、十五階層がこのダンジョンのゴールである可能性もある訳だ。

「なにか近付いてくる!」

 一番初めに気付いたのはライムだった。

「うわぁ、あんなファンタジーな生き物、ホントにいたんだ……」

 現れたのは、緑色の皮膚ひふをした人型の魔物。背は低く、百四十~百五十センチメートル程だ。額に短い角が生えており、鷲鼻わしばな。発達した犬歯がしになっていて、ハッキリ言って、みにくい。それが五体。
 ライムが『ファンタジーな生き物』と形容したのは、ファンタジー世界を題材としたゲームなどでは必ずと言っていいほど登場する魔物だからだ。

「あれはゴブリンですね。ダンジョン内でのみ発見報告がある魔物で、ダンジョン最弱の部類ですが、知能は低くないので集団戦になると注意が必要です」

 サニーが解説してくれた。なるほど、ダンジョンの外では目撃例がないのか。ならば冒険者以外は見たことがないのだろう。サニーは元受付嬢だった為、この種の知識は豊富だ。助かるよ。
 とは言っても、序盤じょばん遭遇そうぐうする敵、つまりは雑魚ざこってことだ。いろいろと試すにはちょうどいい。

「では、私が一当てしてきます」
「私も行きます!」

 グロリアが駆けて行きセリカが続く。さらに別のゴブリンへとライムが走り、サニーが弓を構え、ローレルがビュンビュンと鎖分銅くさりぶんどうを振り回す。
 ――瞬殺しゅんさつだった。五体いたゴブリンだが、一人一殺。倒れたゴブリンは光の粒子りゅうしとなって消え、後には魔石だけが残っていた。本当に消えるんだな。
 いや、それよりも驚いたのは、偶然ぐうぜんか打ち合わせていたのか、はたまた本能か、攻撃対象が全く被っていなかったことだ。これはすごいな。
 しかも敵の配置とこちらの戦力をかんがみて、それぞれが俺の考えていた最適の敵へ攻撃していた。
 そのことをみんなに話すと、

「へ? カズにぃの指示じゃなかったの?」
「カズトの考えが流れてきたような気がしたのですが?」

 とまぁ、こんな感じで全員に不思議な顔をされた。

「ちょっと待ってくれ。スキルを確認してみる」

 俺はそう言いながら、自分のスキルを確認した。


 名 前:カズト・イトー
 称 号:シュヴァリエ
 耐久力:7000  魔 力:128270
 攻撃力:6557  防御力:5272
 敏捷性びんしょうせい:7182
 スキル:【近接戦闘術きんせつせんとうじゅつLv‌10】【気功術きこうじゅつLv‌10】【看破かんぱ】【偽装ぎそう】【魔力吸収まりょくきゅうしゅう】【戦闘指揮せんとうしきLv5】


 なるほど。この【戦闘指揮Lv5】ってやつの効果か。
 たしか、以前スキルを確認した時の説明によれば、『戦闘時に自分の意思を仲間に反映出来る』という効果だったはず。ただ、これまでに何度か仲間と戦闘をこなした時は、これといった効果は実感出来なかったんだよな……
 と、そこで俺は一つの仮説を立ててみた。
 スキル発動のキーとなったのは、ギルドでのパーティ登録ではないだろうか。俺をリーダーにして、他のメンバーが文字通り指揮下に入ることになる訳だ。
 戦闘指揮の効果は、一旦いったんパーティ登録をしてしまえば常時発動するタイプなのだろう。
 そしてこちらは確証はないが、スキルレベルイコール効果が及ぶ人数ってことだろうか?

「サニー、パーティメンバーってさ、登録人数に制限はあるのか?」
「自分を含め最大六人ですね。あまり大人数だと連携れんけいが取りにくいですし、報酬を分配する際に個人の受け取りが少なすぎるという弊害へいがいがありまして……」

 俺の質問に、サニーが即答してくれる。
 なるほど。自分の指揮下に五人。ちょうど現状と合致はしている。
 ということは……

「六人以上の規模で、まとまって行動したい時なんかはどうすりゃいいんだ?」

 俺はそんな質問をサニーに投げかけてみた。

「そのような場合は、複数のパーティが集まって組織する『クラン』というのを立ち上げることもできますね」

 俺の場合、ほとんどのスキルがLv10だったのに、戦闘指揮だけがLv5だったのは、『クラン』を立ち上げていないからか、もしくは指揮下に入る人数が少なかったからか。いずれ検証の必要があるだろうが、これに関してはその機会が訪れないことにはどうしようもないな。

「俺のスキルに戦闘指揮っていうのがあったんだけどな、ギルドでパーティ登録したおかげで発動条件を満たしたっぽい。効果は今みんなが体験した通り、俺の考えがみんなに伝わるってもんだ」

 自分で立てた仮説のうち、納得出来る部分だけ、みんなに説明した。
 俺の言葉に、ライムが驚きの反応を示す。

「ふわぁ、これまたすごいスキルだね。カズにぃ、個人としても最強だけど指揮官としてもとんでもないことになったよ」

 ライムの言う通り、たしかにこれは便利なスキルかもしれない。
 なにせ戦場で大声を張り上げなくても、そして離れたところでも以心伝心いしんでんしんだ。こちらの意図を敵に悟られないというメリットもある。
 だが、いいことばかりでもない。俺からの一方通行でしかないし、もう一つ懸念けねんしていることがある。

「でもな、みんなが従ってくれなきゃ意味ないし、俺の考えが間違っているかもしれない。正直、俺は怖いよ、このスキルが。戦闘時には常時発動して、オンオフの切り替えが出来ない。俺の判断ミスがみんなを危険に晒すんじゃないかと思うとな……」

 そう、俺が神算鬼謀しんさんきぼうの天才軍師だっていうなら話は別だが、残念ながらそこまで頭が切れる訳じゃない。

「大丈夫さ、カズ坊。状況判断は経験で身に付くもんだ。その経験を積むために、ここに来たんだろ? それに、成長するのはアンタだけじゃない。アタシらだって成長する。アンタのことは信頼しているが、アンタの判断が間違ってるかどうか、それを判断出来るくらいにはアタシらだって成長してやるさ」

 ……こういう時、スッと心を落ち着かせてくれるのはローレル姐だ。俺達はほぼ全員が十代か、二十代も前半だ。まだまだ導いてくれる人が必要な年代だと思う。それを考えると、ローレル姐ほど経験豊富な人はいないからな。本当に頼りになる。

「……ありがとなローレル姐。やっぱ頼りになるよ」
「おう! ご褒美ほうびは『ナデナデ』で頼むよ!」

 やっすいご褒美だと思うんだけどなぁ。まあ、ローレル姐が嬉しそうだからいいや。


 それからも俺達は、ゴブリンや、人間と同程度の体格で頭が犬の魔物であるコボルトなど、ファンタジーものでお馴染なじみのザコ魔物を結構倒していったのだが、ちょっと気になることがあった。

「なあ、こいつらほとんど武装してるけど、武器はどこから入手してんだ?」

 ほとんどの魔物達は、劣化しているとはいえ、ちゃんとした剣や槍などで武装していて、中には防具を身に着けているやつもいた。大した価値はなさそうなので回収せずに放置してきたが。
 たしかにゲームなどで登場する人型の魔物は武装していることが多いが、このダンジョンの中の魔物はどこでそれを入手しているのか。一旦気にしてしまうと気になって仕方がない。

「倒れた冒険者の武器防具を拾って使っているんですよ。まれに、長い年月ダンジョンの魔力にさらされた武器が、何らかの魔法効果が付与された魔剣まけん魔槍まそうなんかのマジックウェポンになったりすることもあるみたいですね」

 俺の様子を察して説明してくれるのは、おなじみのサニー先生だ。

「倒れた冒険者はどうなるの?」

 ライムもいろいろと知りたいことがあるらしい。

「時間が経つと、遺体はダンジョンに吸収されます。装備品やギルドカードは残ります」

 なるほど、そういう物を魔物が拾って装備するのか。こんな浅い階層で倒れるような冒険者が立派な装備ってこともないだろうし、階層と魔物と装備のバランスが自然と取れるって寸法なんだな。
 逆に言えば、その分下層に行くほどに厳しい戦いになる、と。

「なるほど。よーし、今日はこの辺で戻ろうか」

 物理的な収穫はゴブリンやコボルトの魔石で、大した価値はない。だが、それ以上に戦闘指揮のスキルの効果が判明したことと、パーティとしての連携を重視した戦闘経験を得られたのは大きい。
 そして俺達はダンジョンを出て、入手した魔石をギルド出張所で換金して村に戻った。


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