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116話 絶望、襲来

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 エデンの結界が解けたあと、三戸は少しの間砲撃を中止した。業火の中から逃げ惑う魔物が接近してこないか見定める為である。同時に、リチャードにも指示を出した。

「内部が視認出来る以上、こんなに接近している必要はないな。基地を後退させてくれ」

 このままの距離だと、迎撃するにも近すぎる。遠距離から徐々に数を減らした方が後々楽だろうという計算だ。どうせ魔物はこちらを目指してくるのだから。

 青龍の能力でエデンの周囲の草木を移動させ、これ以上延焼するのを防いだ上で、エデンから十キロ地点まで基地を後退させる。

「アンジー、どうだ? 誘導兵器の方は使えそうか?」
「はい! あの結界が消えたおかげで、エデン内部の敵も捕捉できます! 行けますっ!」

 三戸はアンジーの返事に満足気に頷くと、ふよふよと飛んでいたふぁむちゃんに声を掛けた。

「フレンドリーファイアにだけは気を付けて、自由に迎撃して構わない。ミサイルや機動兵器もふぁむちゃんの判断で使用を許可する」

 三戸に任されたのが嬉しかったのか、ふぁむちゃんが三戸の肩に乗って頬擦りしてきた。それを岡本が血の涙を流して羨ましがっていたが、そこは取り敢えずスルーして、次に声を掛けたのはナイチンゲールだ。

「基地の司令塔に残るのはナイチンゲールとアスキー、それにアダムとエヴァだ。ふぁむちゃんがいる限り敵と近接戦になる可能性は低いだろうが、デーモン達四体を上手く使って二人を守ってやってくれ」
「ええ、最善を尽くします」
「任せておきたまえ! 私がいる限り死んでも生き返らせるさキラーン!」

 死んでも生き返らせるというアスキーの言葉に妙なリアルを感じながら、三戸はアダムとエヴァに視線を送った。

「あなた方を信じている。それに私達も戦う術を学んだ。生き延びてみせるさ」

 まだ子を成していない今、自分達が死ねば人類が滅ぶ。そんな重圧にも負けずに強い視線で三戸にそう語るアダムと、彼にぴったりと寄り添うエヴァ。
 その二人を見て頷いた三戸は、待機していた藤井達に号令を下す。

「俺達も出るぞ。空から敵を殲滅だ」
「「「了解!」」」

 こうして四人のパイロットとアンジーは部屋を飛び出し、滑走路へと駆けて行った。

△▼△

 司令塔で三戸が指示をだしている間に、基地外周の防壁上に陣取っていたジャンヌ達。砲台からは相変わらず速射砲が砲弾を放ち続けている。

「どの程度残っているでしょうね」
「さて……雑魚がいくら残っていようがこの基地に辿り着く前に殲滅してくれようぞ」

 ジャンヌと関羽が、それぞれブリューナクと青龍偃月刀の石附を突き立てエデンを望む。
 まだ距離はあるが、エデンより出ずる魔物達の気配は瘴気という名のプレッシャーとなり、確かに肌に纏わりついてくる。
 
「やはり相当の大物がおるようじゃな」

 その瘴気のプレッシャーの中に、クリミアで戦った黒翼の天使やイフリートと同質のものを感じたサラディンが、傍らにしがみ付いているジハードの頭を撫でながらそう言う。

「今回は貴様と諍いを起こしている暇はなさそうだ。不本意だが面倒事は後にしてやる」

 リチャードも強敵の予感をひしひしと感じているのか、サラディン相手の軽口もいつもより控えめだ。

「ふん。ミト達も出たか。そろそろ来るという事じゃな」

 彼等の後方にある滑走路から、ジェットエンジンの咆哮が聞こえる。今回はデフォルトカラーである黒い塗装のライトニングⅡが三機飛び立ち、先に離陸していた赤いファントムⅡを追う。
 そして編隊を組んでエデンの方向に飛び去っていく三戸達の機体を見送りながら、防壁上の救世者メサイア達は気を引き締めた。
 なぜなら、三戸達が飛び去るのと同じタイミングで、まるで暴風のような圧力で瘴気が打ち付けてきたからである。

 エデンから高速で飛来してくる巨大な瘴気を纏った者。その数は五体。よく見れば十体の内五体は基地に向かってきており、残りの五体は三戸達の機体に向かったようだ。

「えっ……!?」

 その姿が目視で確認できる距離まで近付いてきたところで、思わずジャンヌが声を失う。

「なんと……」
「これは骨が折れそうじゃわい」
「どうする? 一人一体が限界じゃぞ?」

 関羽も、サラディンも、リチャードも、珍しく焦りの色を隠そうともしない。

 また、基地の司令塔内でも緊張した表情のナイチンゲールがいた。一方で、ふぁむちゃんが慌ただしく飛び回り、やがて外へと飛び出していった。
 ナイチンゲールがその様子を窓から見ると、10ヒトマル式戦車を一輌、ガンタンクを二輌出現させており、また全ての対空火器がエデンから飛来する者に向けられた。


『五機、こっちに来ました!』

 また三戸達は基地のメンバーより早く敵と遭遇していた。藤井から通信が入る。

「確認した……って、おいおい! マジかよ!」

 その敵を視認した三戸が驚愕の声を上げた。

「マスター……」

 アンジーも驚きを隠せない。

『なんすか、あれ。天使みたいっすね』

 岡本の声に、三戸が厳しい調子で答えた。

「みんな油断するなよ! 俺を撃墜したのはヤツと同じタイプだ!」

 そう、襲来したのは黒翼の天使。一体を相手にするのも総力戦だったものが、集団で現れた。
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