上 下
114 / 151
????

111話 新生ふぁむちゃんとその日常

しおりを挟む
 アダムとエヴァの行動範囲から考えて、エデンはそう遠くない場所にあるはず。
 そう信じて、三戸達はローラー作戦を展開していた。一日に十キロ程度の速度で基地を移動させ、周辺地域を高機動車やLAVでくまなく捜索する。運転出来るのが三戸とアンジー以外にも、藤井、中谷、岡本が増えたのは大きかった。
 三戸、アンジーのチーム。藤井、ジャンヌのチーム。中谷、関羽のチーム。岡本、サラディンのチーム。この四つのチームに別れ、基地を中心に四方へ散っていく。
 リチャードとナイチンゲールは基地で留守番だ。リチャードは地形操作で基地を移動させる為に離れられないし、ナイチンゲールもアダムとエヴァの護衛の為に置いてある。これは、四体のデーモン達を指揮できるのはナイチンゲールしかいないからだ。
 そして忘れてはならない存在がもう一つ。浮遊する火器管制システムこと『ふぁむちゃん』である。当初は丸みを帯びた、ファントムをデフォルメした姿だったのだが、今は戦闘モードのアンジーを二頭身半のマスコットキャラにデフォルメした姿になっている。

△▼△

「アンジーさん! このふぁむちゃん、これでも十分可愛いんすけど、アンジーさんの姿をちっこくしたようなのに出来ないっすか!?」

 そう血涙を流しながら頼みこんでいたのは岡本だ。当初は彼の特殊な嗜好に驚きを隠せなかった一同だったが、次の岡本の発言に沈黙した。

「何言ってるんすか! 可愛いのは正義なんですよ! そしてメカメカしい超絶美少女が世界を救う為に戦う姿は尊いんすよ! そしてその美少女と共に戦う俺達には、癒しが必要なんすよ! ではその癒しとは何か! そう、マスコット化したアンジーさんなんですよおおおっ!」
「えっと、マスター?」

 涙を流しながら熱弁を振るう岡本に少々引き気味のアンジーが、三戸に伺いを立てる。

「うん、まあ、出来るならやってくれるか? このままじゃ岡本も死んでも死に切れんだろ」
「はぁ、マスターがそう仰るなら……」

 いつもは三戸の指示には歯切れのよい返事をして即実行に移るアンジーだが、珍しく今回は乗り気ではないみたいだ。
 三戸としてもアンジーの気持ちは分からなくはない。嫌だというよりは戸惑っているのだろう。自分の姿を模したものがマスコットとして扱われるのは確かに微妙な気持ちになるだろう。

 そして十分ほど悩んだアンジーが、ふよふよと浮かんでいるふぁむちゃんに手を翳すと、ふぁむちゃんが眩い光に包まれる。

 ――おおおおおおっ!?

 そしてその光が収まった時、どよめきが起こった。
 ファントムの武装を纏った凛々しい銀の戦乙女が、二頭身半にデフォルメされた愛くるしい姿。身長三十センチ余りのサイズのそれが、『ぶ~~~~~ん』と音を立てながら飛び回る。
 そしてその新生ふぁむちゃんが三戸の肩にストンと座ると、周囲からため息が漏れた。

「ちょっと恥ずかしいですけど、これは可愛いですねっ、マスター!」
 
 その出来栄えに、アンジーも満更でもない様子。さらに、中谷や藤井、さらにはリチャードやナイチンゲールまでもが、岡本に向かってサムズアップしていた。その口の動きはもちろん、『グッジョブ!』である。

「ふぁむちゃん! 俺の肩にも! ほらここ!」

 岡本が期待に満ちた目で自分の肩を叩きながら、ふぁむちゃんに向けて訴える。
 しかしふぁむちゃんは、三戸の肩の上でぷいっ! とソッポを向いた。

「そ、そんなぁ~」

 こうして新生ふぁむちゃんの誕生秘話は、岡本の涙で始まり岡本の涙で終わった。

△▼△

 あの日以来、みんなに愛でられているふぁむちゃんだが、日々ぶ~~~~んと飛んでいるだけではない。
 ある時は三戸の肩でくつろいだり、アンジーの頭の上でぐでーっとしていたり、どうにか餌付けをしようと試みる岡本の横っ面にキックをお見舞いしたりと忙しい日々を送っている。
 そのふぁむちゃんが本領を発揮するのは、三戸やアンジー達が車輛での偵察に出かけた後だ。

「では、今日も頼みますね、ふぁむちゃん」

 射撃訓練場に集まった留守番組の面々がホバリングしているふぁむちゃんの前に一列に並んでいる。その中から代表してナイチンゲールが声を掛けた。
 すると、ふぁむちゃんが上空に浮かび上がり、数十個もの不規則に飛び回る物体を出現させた。アンジーがアダムとエヴァの射撃訓練の際に的として使っていたドローンである。
 そしてふぁむちゃんは短い腕をドローンに向けて振りかざした。射撃訓練開始の合図である。
 順番はいつも決まっている。アダム、エヴァ、ナイチンゲール、特に希望したアスキー、そして最後にリチャードだ。各々がドローンを全て撃ち落とすまでのタイムをふぁむちゃんが評価する。
 使用する武器は89式小銃。単射を使うか連射を使うかは各自の判断に任せているが、普段サブマシンガンを使うナイチンゲールやリチャードは連射で訓練しているし、狙撃をメインに訓練してきたエヴァは単射のみだ。アダムなどはもっとフレキシブルに動こうとしているのか、併用で訓練している。

「ふははは! 今日も絶好調であるぉぉぉぉぉっ!?」

 全てのドローンを撃ち落としたリチャードが、ドヤ顔で引き返してきたところに、その後頭部へふぁむちゃんのローリングソバットが炸裂した。
 後頭部を押さえて振り返るリチャードの視線の先には、空を指差しているふぁむちゃんの姿があった。そしてそのふぁむちゃんが指差す先には、先程と同じ数のドローンが浮いていた。
 どうやらリチャードはタイムオーバーによる追試が決定したらしい。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】あなたの思い違いではありませんの?

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
複数の物語の登場人物が、一つの世界に混在しているなんて?! 「カレンデュラ・デルフィニューム! 貴様との婚約を破棄する」 お決まりの婚約破棄を叫ぶ王太子ローランドは、その晩、ただの王子に降格された。聖女ビオラの腰を抱き寄せるが、彼女は隙を見て逃げ出す。 婚約者ではないカレンデュラに一刀両断され、ローランド王子はうろたえた。近くにいたご令嬢に「お前か」と叫ぶも人違い、目立つ赤いドレスのご令嬢に絡むも、またもや否定される。呆れ返る周囲の貴族の冷たい視線の中で、当事者四人はお互いを認識した。  転生組と転移組、四人はそれぞれに前世の知識を持っている。全員が違う物語の世界だと思い込んだリクニス国の命運はいかに?!  ハッピーエンド確定、すれ違いと勘違い、複数の物語が交錯する。 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/11/19……完結 2024/08/13……エブリスタ ファンタジー 1位 2024/08/13……アルファポリス 女性向けHOT 36位 2024/08/12……連載開始

魔力無しだと追放されたので、今後一切かかわりたくありません。魔力回復薬が欲しい?知りませんけど

富士とまと
ファンタジー
一緒に異世界に召喚された従妹は魔力が高く、私は魔力がゼロだそうだ。 「私は聖女になるかも、姉さんバイバイ」とイケメンを侍らせた従妹に手を振られ、私は王都を追放された。 魔力はないけれど、霊感は日本にいたころから強かったんだよね。そのおかげで「英霊」だとか「精霊」だとかに盲愛されています。 ――いや、あの、精霊の指輪とかいらないんですけど、は、外れない?! ――ってか、イケメン幽霊が号泣って、私が悪いの? 私を追放した王都の人たちが困っている?従妹が大変な目にあってる?魔力ゼロを低級民と馬鹿にしてきた人たちが助けを求めているようですが……。 今更、魔力ゼロの人間にしか作れない特級魔力回復薬が欲しいとか言われてもね、こちらはあなたたちから何も欲しいわけじゃないのですけど。 重複投稿ですが、改稿してます

俺たちの結婚を認めてくれ!~魔法使いに嵌められて幼馴染に婚約破棄を言い渡された勇者が婚約したのはラスボスでした~

鏡読み
ファンタジー
魔法使いの策略でパーティから外れ一人ラストダンジョンに挑む勇者、勇者太郎。 仲間を失った彼はラスボスを一人倒すことでリア充になると野心を抱いていた。 しかしラストダンジョンの最深部で待ち受けていたラスボスは美少女!? これはもう結婚するしかない! これは勇者と見た目美少女ラスボスのラブコメ婚姻譚。 「俺たちの結婚を認めてくれ!」 ※ 他の小説サイト様にも投稿している作品になります 表紙の絵の漫画はなかしなこさんに描いていただきました。 ありがとうございます!

fの幻話

ちゃあき
ファンタジー
令嬢フィオナは悪魔と噂される富豪シノムと結婚する事になった。彼は予想に反して若く優しい男だったが、暮らしはじめた城でアンネースという美しい女性と出会う。 彼女の存在を誰も知らない。彼女は幽霊かも知れない。 それをきっかけにシノムと城に関する過去と秘密が明らかになっていく。 具体的な性描写はありませんが大人のファンタジックな御伽噺のようなお話です。 Δ 異.世.界や心.霊(魔.物・怪.物)ものではなく、SFファンタジー寄りのミステリーになります。おとな向けです。 Δ昔のヨーロッパ風の架空の国が舞台になっています。言語・文化・人物など特定のモデルはありません。歴史上の事実(出来事)へのオマージュや主張、批判などはありません。 タイトルを変更しました(元百年~というお話です) 念のためR15ですが今後も直接的な性描写はありません。

間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜

舞桜
ファンタジー
 初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎  って、何故こんなにハイテンションかと言うとただ今絶賛大パニック中だからです!  何故こうなった…  突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、 手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、 だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎  転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?  そして死亡する原因には不可解な点が…  様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、 目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“  そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪ *神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのかのんびりできるといいね!(希望的観測っw) *投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい *この作品は“小説家になろう“にも掲載しています

稀代の大賢者は0歳児から暗躍する〜公爵家のご令息は運命に抵抗する〜

撫羽
ファンタジー
ある邸で秘密の会議が開かれていた。 そこに出席している3歳児、王弟殿下の一人息子。実は前世を覚えていた。しかもやり直しの生だった!? どうしてちびっ子が秘密の会議に出席するような事になっているのか? 何があったのか? それは生後半年の頃に遡る。 『ばぶぁッ!』と元気な声で目覚めた赤ん坊。 おかしいぞ。確かに俺は刺されて死んだ筈だ。 なのに、目が覚めたら見覚えのある部屋だった。両親が心配そうに見ている。 しかも若い。え? どうなってんだ? 体を起こすと、嫌でも目に入る自分のポヨンとした赤ちゃん体型。マジかよ!? 神がいるなら、0歳児スタートはやめてほしかった。 何故だか分からないけど、人生をやり直す事になった。実は将来、大賢者に選ばれ魔族討伐に出る筈だ。だが、それは避けないといけない。 何故ならそこで、俺は殺されたからだ。 ならば、大賢者に選ばれなければいいじゃん!と、小さな使い魔と一緒に奮闘する。 でも、それなら魔族の問題はどうするんだ? それも解決してやろうではないか! 小さな胸を張って、根拠もないのに自信満々だ。 今回は初めての0歳児スタートです。 小さな賢者が自分の家族と、大好きな婚約者を守る為に奮闘します。 今度こそ、殺されずに生き残れるのか!? とは言うものの、全然ハードな内容ではありません。 今回も癒しをお届けできればと思います。

家に住み着いている妖精に愚痴ったら、国が滅びました

猿喰 森繁 (さるばみ もりしげ)
ファンタジー
【書籍化決定しました!】 11月中旬刊行予定です。 これも多くの方が、お気に入り登録してくださったおかげです ありがとうございます。 【あらすじ】 精霊の加護なくして魔法は使えない。 私は、生まれながらにして、加護を受けることが出来なかった。 加護なしは、周りに不幸をもたらすと言われ、家族だけでなく、使用人たちからも虐げられていた。 王子からも婚約を破棄されてしまい、これからどうしたらいいのか、友人の屋敷妖精に愚痴ったら、隣の国に知り合いがいるということで、私は夜逃げをすることにした。 まさか、屋敷妖精の一声で、精霊の信頼がなくなり、国が滅ぶことになるとは、思いもしなかった。

無名の三流テイマーは王都のはずれでのんびり暮らす~でも、国家の要職に就く弟子たちがなぜか頼ってきます~

鈴木竜一
ファンタジー
※本作の書籍化が決定いたしました!  詳細は近況ボードに載せていきます! 「もうおまえたちに教えることは何もない――いや、マジで!」 特にこれといった功績を挙げず、ダラダラと冒険者生活を続けてきた無名冒険者兼テイマーのバーツ。今日も危険とは無縁の安全な採集クエストをこなして飯代を稼げたことを喜ぶ彼の前に、自分を「師匠」と呼ぶ若い女性・ノエリ―が現れる。弟子をとった記憶のないバーツだったが、十年ほど前に当時惚れていた女性にいいところを見せようと、彼女が運営する施設の子どもたちにテイマーとしての心得を説いたことを思い出す。ノエリ―はその時にいた子どものひとりだったのだ。彼女曰く、師匠であるバーツの教えを守って修行を続けた結果、あの時の弟子たちはみんな国にとって欠かせない重要な役職に就いて繁栄に貢献しているという。すべては師匠であるバーツのおかげだと信じるノエリ―は、彼に王都へと移り住んでもらい、その教えを広めてほしいとお願いに来たのだ。 しかし、自身をただのしがない無名の三流冒険者だと思っているバーツは、そんな指導力はないと語る――が、そう思っているのは本人のみで、実はバーツはテイマーとしてだけでなく、【育成者】としてもとんでもない資質を持っていた。 バーツはノエリ―に押し切られる形で王都へと出向くことになるのだが、そこで立派に成長した弟子たちと再会。さらに、かつてテイムしていたが、諸事情で契約を解除した魔獣たちも、いつかバーツに再会することを夢見て自主的に鍛錬を続けており、気がつけばSランクを越える神獣へと進化していて―― こうして、無名のテイマー・バーツは慕ってくれる可愛い弟子や懐いている神獣たちとともにさまざまな国家絡みのトラブルを解決していき、気づけば国家の重要ポストの候補にまで名を連ねるが、当人は「勘弁してくれ」と困惑気味。そんなバーツは今日も王都のはずれにある運河のほとりに建てられた小屋を拠点に畑をしたり釣りをしたり、今日ものんびり暮らしつつ、弟子たちからの依頼をこなすのだった。

処理中です...