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AD1855

49話 正しくお使い下さい

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 防壁から飛び降りた三戸は、一体のデーモンクラスに標的を定めた。防壁上から一斉射の際、雑魚魔物を盾替わりに使っていた個体である。

「あんな真似するって事は、アイツらの中じゃ撃たれ弱いって事だろうからな」

 その個体にMINIMIを撃ちまくり牽制する。

「多少はダメージが通るみたいだが……決定的にはならねえか。俺って接近戦は本職じゃねえんだけどなぁ」

 撃ちながら地上に残されていたLAVに駆け込み、エンジンを始動しながら三戸はため息をつく。

「つっても、やるしかねえよなぁ!」

 ギアを入れ、アクセルを踏み込み急発進させる。デーモンクラスは時折瘴気弾を放ってくるが、三戸は右に左にとステアリングを切り、躱しながら突っ込んでいく。
 そして魔物まで数十メートルという所で、ドアを開け飛び降りる三戸。身体を丸めて転がりながら衝撃を殺す。持っていたMINIMIはつっかえ棒代わりにしてアクセルを固定しており、LAVは減速しないまま魔物へ突っ込んだ。
 大柄なLAVの車体も、巨大なデーモンクラスを前にするといかにもちっぽけに見える。それでも4トンを超える車重の鉄の塊が推進力を味方につけて衝突すれば、いかに巨大な魔物と言えども動きを止めるくらいの事は出来る。
 さらに三戸は、LAVの開いたドアの中目掛けて手榴弾を放り投げた。

「さて……ガソリン程の爆発は期待できないが……」

 LAVがガソリンエンジンであれば大爆発を巻き起こす事も出来ただろうが、生憎とLAVはディーゼルエンジンだ。引火、爆発の危険性がガソリンに比べて低いため、軍用車両などにはディーゼルエンジンが使われている事が多い。
 しかし、内部で手榴弾が炸裂したLAVは火災を起こし、やがてそれはタンク内の軽油にも引火した。
 アクセルを固定され尚も進もうとするLAVとの力比べになっていた魔物は、そのまま巻き込まれ火だるまになった。火を消そうと地面を転げまわるが、燃料に引火した火がそう簡単に消える訳もなく。

「こいつは使い物にならんだろ。まず一体だな。よし、次!」

 三戸は次の標的を探すのだった。

*****

 薄っすらと発光しているナイチンゲール。合掌していた両手が離れ、徐々にその空間が広がっていくにつれ、注射器が増えていく。その数は先日の大聖堂の時と同じ、十本。やはり彼女が最大で出せるのは十本のようだ。
 そしてまた、その注射器達を頭上に浮かべ両手を前方に振り下ろすと、注射器は自ら意志を持っているかの如く、魔物へ向けて飛んでいく。

「まずは三体、動きを止めます」

 三体に各三本の注射器。魔物は注射器を攻撃と認識したか、手にした武器で叩き落そうとしたり、躱そうとしたりする。それを不規則な動きで避けまくり、追い詰めていく注射器達。

「さすがにあの大きさでは照射しただけでは効きが悪そうですからね。直接投与・・しないと」

 ナイチンゲールはそう言いながらも集中を切らさない。もちろん、十本もの注射器を操っているのは彼女だ。その技量と集中力は並大抵の事ではない。以前ジャンヌがナイチンゲールに指導を仰ぐと言ったのは、この複数の相棒・・を遠隔操作する技術の事だ。これを会得できれば、ジャンヌも複数のブリューナクを飛ばして操作できると考えている。

「へえ、ナイチンゲールのヤツ、戦えるって言ってたのはこういう事か?」

 一方、三戸は巨大なシールドを持った魔物と対峙していた。その間他の魔物に介入されなかったのは、ナイチンゲールのドクターによる陽動のおかげであった事は間違いない。
 そして三戸は、絶えず自分の動きをトレースしている一本の注射器に気付いていた。

「いざって時のサポートか。心強いな」

 そう言って銃剣付きの89式小銃を魔物に向けて構えた。

「ふふふ。ミトは注射器の動きで敵を攪乱するのが私の戦い方と思っているかもしれませんね」

 防壁上では、魔物にスキを作らせるべく、相変わらずナイチンゲールによる複雑な注射器の操作が行われていた。

「まずは一体!」

 ナイチンゲールがそう叫ぶと、ついに魔物の一体の首筋に一本の注射器がプスリと突き刺さる。一本刺さってしまえば後は楽なものだ。その注射器に気を取られている隙に、残りの二本を死角に動かし、ブスブスと差し込んでいく。やがて中身がすべて注入されると、魔物はガクリと脱力し前のめりに倒れた。
 それに気付いた他の魔物が気を取られるが、そのスキを見逃すナイチンゲールではなかった。すかさず注射器を撃ち込み、二体とも昏倒させる。

「ナイチンゲール様! 今のは!?」

 一部始終を防壁上から見ていた志願兵達がナイチンゲールに詰め寄った。

「……少しばかり行き過ぎた治療行為、でしょうか」
「治療……ですか?」
「ええ。薬は正しく使わないと、毒にもなるという事ですよ」

 ナイチンゲールは三戸の戦いから視線を外さずに、ポーカーフェイスでそう答えた。


 
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