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AD1855

48話 ナイチンゲール、初陣

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 まもなくMINIMIの有効射程に入るという距離まで魔物が接近してきた。有効射程は八百メートルとか五百メートルとか言われているが、転生チートで強化されている身体能力は視覚や聴覚にまで及んでおり、これだけ離れていても三戸やナイチンゲールの目にもよく見えている。
 三戸が隣の車両を見れば、ナイチンゲールが額に汗を浮かべながらトリガーに指をかけていた。

「無理に狙う必要はないぞ? 大体の所に銃弾をまき散らす感じでいい。運よく当たれば雑魚魔物は死ぬし、弾幕を張ってるだけで大体当たる」
「そういうものなのですか?」
「そういうものさ」
「それなら出来そうな気がしてきました」

 魔物から視線を外さずに会話する二人。魔物との距離、約三百メートル。

「よし、撃てーっ!」
「はい!」

 先にトリガーを引いたのはナイチンゲールだ。銃口が火を噴き、射撃音が連続する。そして三戸がやや遅れて斉射する。ナイチンゲールの弾幕と被らないよう、出来るだけ多くの魔物に当たるよう銃口を動かしながらの斉射だ。
 それだけで多くの魔物が倒れるが、流石に魔物も真正面から向かってくる愚を悟ったか、散開し始めた。

「ちっ! やっぱ知恵付けてやがる!」

 今までの魔物であれば、本能に従って猪突猛進してくるだけだった。真っ直ぐ向かってくる敵を撃てばいいのだから、そう難しい事ではない。しかし、散開されてしまうと攻撃対象に優先順位を付ける必要が出てくるし、視野も広く持たなければならない。

「ミト! どこを狙えば!?」

 そう、経験のないナイチンゲールなどはこのようになってしまう。射撃音の中、ようやく聞き取った彼女の声に三戸は一瞬で判断する。自分のLAVから飛び降り、ナイチンゲールのLAVの運転席に飛び乗った。
 
「そのまま敵を近付けないように撃ち続けてくれ!」

 三戸は運転席からそう叫ぶと、前方に手榴弾を数発投げつけた。爆発で敵を倒すというよりは、爆発が巻き起こす土煙による目くらましに使ったというのが正しい。

「このままヘキサゴンに撤退する!」

 三戸はギアをバックに入れ、アクセルを踏み込んだ。そのまま防壁スレスレで停車すると、LAVの屋根に乗ってナイチンゲールを抱き上げ、防壁の上へと跳躍する。防壁の高さは七~八メートルといったところか。これを人一人抱えて跳躍してしまう三戸に、防壁の上で待機していた志願兵達が唖然とする。
 
「ミト殿!?」
「お前ら、ソイツの撃ち方は教わったな? それを魔物共にブチ込め! ヘキサゴンに近付けるな!」

 生憎とアンジーは不在のため、設置しているciwsは使えない。ガンタンクもあるが基本的に対空迎撃用の為、砲身を下に向けられる角度は僅かだ。防壁の上から地上の敵を狙うのは無理がある。
 となると、今あるのはアンジーが置いて行った人数分のMINIMIのみ。

「総員構え! 撃てぇ!」

 しかしそれでも、二十人によるMINIMIの攻撃は雑魚魔物を粉砕するには十分すぎる火力だった。防壁上でMINIMIを構えた志願兵二十人は、隊長の号令で一斉射する。次々とハチの巣にされていく魔物達。

「やった! やりましたよミト殿!」

 隊長が叫ぶと、他の志願兵達も歓声をあげた。魔物に一矢報いた。その喜びを爆発させている。

「すごい……この力……この力があれば!」
「まだだ! デカいのが残っているぞ!」

 まるで完全勝利したかのような雰囲気になりかけているところに、三戸が警鐘を鳴らした。

「……え?」

 あれだけの銃撃を受けて生き残っているはずがない。隊長はそんな顔だ。しかし、五体の巨大なデーモンクラスは健在だった。雑魚魔物を盾替わりにして銃撃を凌いだり、バカでかいシールドを持っている者もいる。
 また、直撃を受けた者も、MINIMIの5.56㎜の銃弾を浴びてもかすり傷程度。

「そ、んな……」
 
 愕然とする志願兵達。そんな時、五体のデーモンクラスがパカッと大口を開いた。

「呆けるな! 伏せろ! 瘴気弾が来る!」

 このあたりは全員が軍人だけあり、咄嗟の動きもよく訓練されていた。

「さて、厄介ですね。どうしますか?」

 ナイチンゲールはドクターの聴診器をデーモンクラスに向けながら三戸に問いかける。この期に及んで魔物の体調を診ている訳でもないだろうが、無意味な事をするような彼女ではない。何か考えがあるのだろう。

「まあ、やりようが無い訳じゃない。俺は一体ずつしか相手に出来ないから援護を頼めるかな?」

 ナイチンゲールは以前、こんな自分でも戦いようはあると言っていた。それに期待を込めて三戸は援護を頼む。

「ええ。ですが少々時間稼ぎをお願いします」
「分かった。お前ら! クリミアの天使を死なせるなよ!」

 三戸はナイチンゲールに返事を返し、志願兵達に発破をかけた。

「はっ!」

 敬礼してくる志願兵達に満足気に笑みを浮かべると、三戸は89式小銃を背負い、MINIMIを手にして防壁を飛び降りた。それを見届けたナイチンゲールが、掌を胸の前で合わせながら言う。

「皆さん、少しの間時間を稼いで下さい。あの方を死なせてはなりませんよ」

 薄っすらと身体を輝かせ始めたナイチンゲールの言葉に応えるように、志願兵達の銃撃が再び始まった。
 
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