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四章

ノワールとアーテルのトレント退治

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**前半はノワール、後半はアーテル視点です**




 このトレントという生き物……
 確かに人間にとっては厄介な相手なのでしょう。
 見た目は普通の樹木にも関わらず、自らの縄張りに入った者は木の葉で切り刻み枝で打ち据える。更にはそこそこのスピードで動きまわる。
 私もウサギだった時にトレントに出会っていれば、養分となっていた事でしょう。
 ですが今の私は全ての力を取り戻した大精霊。それに加えてご主人様の愛と優しさ! もはや私は大精霊などという枠組みを超え、四大精霊王にも引けを取らぬ力を得ました。
 この力は私を救って下さったご主人様の為に。
 ご主人様の命とあらば何事も完遂し、ご主人様に敵対する者ならば情け容赦なく葬り去る。
 そしてこのサテライトトレント、マザートレントはご主人様の行く道の前に立ち塞がる敵。

「たかが木の分際で」

 そう、このトレントはたかが木の分際で小癪にも攻撃してきたのです。
 木の葉を舞い散らせ、それが私に襲い掛かって来ます。どうやら一枚一枚が鋭い刃になっているようですが……

『……!?』

 なにやら戸惑いのような感情が伝わってきますね。それはそうでしょう。その木の葉は私の身体を素通りするだけ。

『!?!?』

 そしてさらに激しい困惑が伝わってきます。枝を鞭のように振るっての打撃と斬撃。これもまた私の身体を素通りするだけ。何度打たれようが刻まれようが、私の歩みが止まる事はありません。
 まあ、仕方がありませんね。私は存在そのものが霊体なのですから。ああ、ご主人様が求めて下されば至上の快楽をもっておもてなしする事もできますよ? 肉体的に。
ですがご主人様はウサギの私を愛でるのがお好きなご様子。それでもわたしは幸せなのですがね。

 さて、結局の所このトレント種というのは物理攻撃しかないので、私にはかすり傷ひとつ付ける事は敵いません。
 あ、打つ手なしと見たか、サテライトトレントが逃げていきますね。ですが、一度でも刃を向けた者を逃がすとでも思っているのでしょうか?
 私はふわりと霧のように姿を消し、もやとなって逃げるトレントを包み込みます。もうこうなると何処へ逃げようが魔力と化した私がどこまでも付いて回ります。
 ですがご主人様と離れすぎても厄介なので、手早くトドメを刺してしまいましょうか。

 包み込んだ魔力の靄の中で、トレントが足掻いています。
 うふふ……苦しいでしょう?
 斬られたり焼かれたりするのも苦しいでしょうが、少しの間苦しめば解放されます。ですが私は闇の精霊の頂点に立つ者。私は時間流れさえも司る。
 お前の時間は今、急速に進んでいます。つまり、自分の感覚よりも劣化の速度が著しく速い状態なのです。トレント種というのはそれなりに長い寿命を持っているようですが、まさかこんなに早く朽ち果てるとは思っていなかったでしょうね。
 ――あら? トレントが化石化してしまいました。これはこれでいい素材になりそうです。ご主人様に寄進したら喜んでいただけますね!

△▼△

「はっはっはー! 温い! 温いぞ!」

 我は久しぶりに神狼の姿となって踊りくるっていた。木の葉の刃? そんなものが我の毛皮を切り刻めるものか。枝を鞭のように振るってきたとて、何の痛痒もない。トレントの上位種如き、生き物としての格が違うのだ。
 我を巻き込むように飛んで来る木の葉になぞ歯牙にもかけず、枝の鞭は逆に咥えて引き千切る。いかんせん火力不足よなあ!
 もっとも、我を傷付けようとするならば、精霊王クラスが放つ極大魔法でも用意してもらわねばならんが。
 我はサテライトトレントに近付き、勢いそのままに太い幹を螺旋状に駆け上る。そして頂点に達したところで。

『ワオオオーーーーーーーン!』

 天に向かって咆哮を上げた。すると、あれだけ舞っていた木の葉は落ち、振るわれていた枝も静かになる。当然だ。『神狼の咆哮』に抗える者なぞそうそうおらぬわ。
 あとは適当に料理するだけだが……主人達はどうやら焼き尽くしてしまったようだな。ノワールは化石にしてしまったか。やれやれ、それなら我がこやつを良質な木材にしてくれよう。
 動かぬただの木と成り下がったこやつを、我の爪で枝の剪定をしていく。と言っても我は前脚を振るうだけ。衝撃波と化した我が魔力が枝を斬り落として行く。そして、あらかた枝を斬り落としたところで、地面に降り立った。

「さて、良い木材になってくれよ?」

 そこで我は妖艶な人型に戻り、サテライトトレントに正拳をぶち込んだ。こんな木一本、へし折るのに拳一つあれば十分よ。


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