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四章
外の世界の魔物
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その後、ノワールが言う強い魔物がいるという方向へと進むと、次第に空気が重苦しくなってきたような気がする。なるほど、これは強者が放つプレッシャーに似たアレだね。
そして、見た事もない魔物が群れをなしてこちらを睨んでいる。いや、見た事がないかと言えば、凄く微妙ではある。
「あれは何だい?」
「……あれは……」
ヨシュア君も見た事がないようで戸惑っているんだけど、僕に言わせればあれは牛だ。牛が三頭いる。ただ、縮れた体毛は長くまるでドレッドヘアーのようで、湾曲した二本の角の鋭い先が突き刺してやるぞと言わんばかりにこちらを向いている。そして、普通の牛より一回りは大きく、重量感というか、見た目の威圧感が凄い。ただ、何か言いかけたシェラさんが気になる。
それはともかく。ここまでなら牛の中のそういう品種もいるだろう……で済むんだろうけど。
「立ち上がってファイティングポーズを取るとはなぁ」
そう、今アーテルが面白そうに言った通りだ。後ろ脚で立ち、前脚でパンチを繰り出すポーズを取ってこっちを挑発するんだよね。
『シュッ! シュッシュ! ヴモォォォッ!』
クソ、こいつめ。何度かパンチを繰り出すポーズを取った後、蹄をチョイチョイと自分の方へ動かし、『オラオラ、来やがれ』とでもいう感じだ。
他の個体よりさらに一回り大きいヤツがリーダーなんだろう。ソイツの挑発に倣って、他の連中もチョイチョイと蹄を動かす。なんだか凄くイラっとする。
「くっ! 舐めるなぁ!」
あっ! ヨシュア君が挑発に乗って突っ込んで行ってしまった。
『ヴモ』
あ、牛が嗤った。
そして立ち上がっていた牛達が、通常形態……というか、四足歩行に戻り、角をギラリと光らせてヨシュア君に向かって突進する。
「おおおっ!?」
殴り合いになるつもりで突っ込んで行ったヨシュア君が、牛の突進を正面から受けてしまう。辛うじて逆風の盾で受け止めたようだけど、ヨシュア君は数十メートルも吹き飛ばされてしまった。
宙でくるりと回ってどうにか着地に成功したヨシュア君だけど、どうも様子がおかしい。というか、動きがぎこちない。
「くっ、あの角に気を付けるんだ。あれの一撃を食らうと、身体が痺れてしまうらしい」
なるほど、あの角は光ったのはそういう事か。なんだろう? 未知の属性か何かだろうか? 盾で受けたのに痺れるなんて、毒による麻痺とかそういうのじゃないだろう。これは注意しなくちゃいけないね。
「ああ、思い出したぞ。随分昔の事ゆえ失念していた」
今のヨシュア君の話で、アーテルが何か思い出したらしい。
「あれはエレキテルバッファローだ。だが、この国、というか、女神ルーベラ様を信仰する文化圏には存在しなかったのだがな」
気になる言葉だ。ルーベラ様を信仰しない文化圏? この世界の更に外側にまた別の世界があるとでも言いたげだ。
「遥か昔は国の範囲も曖昧で、境界も朧気なものだった。なので少数だが、外の文化圏の魔物や人もこちらに紛れ込んだ者もいたのだが……ルーブリムが建国されて以来、外の世界とはある程度遮断されているのだがな」
話を聞いてもよく分からないな。でもとにかく、このエレキテルバッファローとかいう魔物が、このルーブリムでは生息しているはずのない魔物だという事は分かった。
「でも、殆ど幻のような扱いではありますが、このダンジョンでそういう魔物がいるという噂はあるのです。ただし、討伐された記録もありませんし、詳細は不明なのですが」
なるほど、シェラさんの話を聞く限り、ドラケン領内では伝説のような感じで認識はされていたのか。
「それでも、相手が何者であれ、ダンジョン攻略の邪魔をするなら倒さねばなりません!」
お!?
シェラさんが燃えている。
「よくもヨシュア様を吹き飛ばしてくれましたね!」
なるほど、怒りの理由はそっちか。良かったね、ヨシュア君。君の事で、彼女があんなに目を吊り上げて怒ってくれているよ。そして。彼女の中の魔力がどんどん高まっていく。
「――!?」
「ほう?」
その魔力の高まりに、ノワールもアーテルも目を見張る。確かに今までのシェラさんとは全く違う、洗練された魔力の練り上げだ。
そして今までは、ドロドロとしたタールを思わせる動きで敵を包み込んでいた行動阻害の魔法が、スーッと影が動くように滑らかにエレキテルバッファローへと進んでいく。
『ヴモォ!?』
再び二足歩行で挑発してくる三頭のエレキテルバッファローが、瞬く間にシェラさんの影に包まれた。まるで身体中に墨を被ったかのように黒く染まったエレキテルバッファローは、動きたくても動けないようで、ファイティングポーズそのままにもがいているように見える。
そこへシェラさんがツカツカと歩みよっていく。
「このシェラ・ドラケンが、初のエレキテルバッファローの討伐者として名前を刻ませていただきます」
そう言ってシェラさんは、巨人族の盾を一閃、二閃、三閃。見事にエレキテルバッファローのそっ首を斬り落とした。
「お見事!」
アーテルが称賛の声を上げる。その声を聞いて我に返ったのか、シェラさんはヘナヘナとその場にへたり込んだ。そしてこちらに振り返り、いい笑顔で右手を突き上げるのだった。
そして、見た事もない魔物が群れをなしてこちらを睨んでいる。いや、見た事がないかと言えば、凄く微妙ではある。
「あれは何だい?」
「……あれは……」
ヨシュア君も見た事がないようで戸惑っているんだけど、僕に言わせればあれは牛だ。牛が三頭いる。ただ、縮れた体毛は長くまるでドレッドヘアーのようで、湾曲した二本の角の鋭い先が突き刺してやるぞと言わんばかりにこちらを向いている。そして、普通の牛より一回りは大きく、重量感というか、見た目の威圧感が凄い。ただ、何か言いかけたシェラさんが気になる。
それはともかく。ここまでなら牛の中のそういう品種もいるだろう……で済むんだろうけど。
「立ち上がってファイティングポーズを取るとはなぁ」
そう、今アーテルが面白そうに言った通りだ。後ろ脚で立ち、前脚でパンチを繰り出すポーズを取ってこっちを挑発するんだよね。
『シュッ! シュッシュ! ヴモォォォッ!』
クソ、こいつめ。何度かパンチを繰り出すポーズを取った後、蹄をチョイチョイと自分の方へ動かし、『オラオラ、来やがれ』とでもいう感じだ。
他の個体よりさらに一回り大きいヤツがリーダーなんだろう。ソイツの挑発に倣って、他の連中もチョイチョイと蹄を動かす。なんだか凄くイラっとする。
「くっ! 舐めるなぁ!」
あっ! ヨシュア君が挑発に乗って突っ込んで行ってしまった。
『ヴモ』
あ、牛が嗤った。
そして立ち上がっていた牛達が、通常形態……というか、四足歩行に戻り、角をギラリと光らせてヨシュア君に向かって突進する。
「おおおっ!?」
殴り合いになるつもりで突っ込んで行ったヨシュア君が、牛の突進を正面から受けてしまう。辛うじて逆風の盾で受け止めたようだけど、ヨシュア君は数十メートルも吹き飛ばされてしまった。
宙でくるりと回ってどうにか着地に成功したヨシュア君だけど、どうも様子がおかしい。というか、動きがぎこちない。
「くっ、あの角に気を付けるんだ。あれの一撃を食らうと、身体が痺れてしまうらしい」
なるほど、あの角は光ったのはそういう事か。なんだろう? 未知の属性か何かだろうか? 盾で受けたのに痺れるなんて、毒による麻痺とかそういうのじゃないだろう。これは注意しなくちゃいけないね。
「ああ、思い出したぞ。随分昔の事ゆえ失念していた」
今のヨシュア君の話で、アーテルが何か思い出したらしい。
「あれはエレキテルバッファローだ。だが、この国、というか、女神ルーベラ様を信仰する文化圏には存在しなかったのだがな」
気になる言葉だ。ルーベラ様を信仰しない文化圏? この世界の更に外側にまた別の世界があるとでも言いたげだ。
「遥か昔は国の範囲も曖昧で、境界も朧気なものだった。なので少数だが、外の文化圏の魔物や人もこちらに紛れ込んだ者もいたのだが……ルーブリムが建国されて以来、外の世界とはある程度遮断されているのだがな」
話を聞いてもよく分からないな。でもとにかく、このエレキテルバッファローとかいう魔物が、このルーブリムでは生息しているはずのない魔物だという事は分かった。
「でも、殆ど幻のような扱いではありますが、このダンジョンでそういう魔物がいるという噂はあるのです。ただし、討伐された記録もありませんし、詳細は不明なのですが」
なるほど、シェラさんの話を聞く限り、ドラケン領内では伝説のような感じで認識はされていたのか。
「それでも、相手が何者であれ、ダンジョン攻略の邪魔をするなら倒さねばなりません!」
お!?
シェラさんが燃えている。
「よくもヨシュア様を吹き飛ばしてくれましたね!」
なるほど、怒りの理由はそっちか。良かったね、ヨシュア君。君の事で、彼女があんなに目を吊り上げて怒ってくれているよ。そして。彼女の中の魔力がどんどん高まっていく。
「――!?」
「ほう?」
その魔力の高まりに、ノワールもアーテルも目を見張る。確かに今までのシェラさんとは全く違う、洗練された魔力の練り上げだ。
そして今までは、ドロドロとしたタールを思わせる動きで敵を包み込んでいた行動阻害の魔法が、スーッと影が動くように滑らかにエレキテルバッファローへと進んでいく。
『ヴモォ!?』
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そう言ってシェラさんは、巨人族の盾を一閃、二閃、三閃。見事にエレキテルバッファローのそっ首を斬り落とした。
「お見事!」
アーテルが称賛の声を上げる。その声を聞いて我に返ったのか、シェラさんはヘナヘナとその場にへたり込んだ。そしてこちらに振り返り、いい笑顔で右手を突き上げるのだった。
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