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四章

ダンジョンへ行こう!

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 つまり長い年月の間に刃の部分は破損してしまい、そのまま普通の盾として宝物庫に保管されていたものが、魔力による自己修復が働いて本来の姿に戻ったと。

「この刃も巨人族の骨を鋭利に研いだものだな。これは普通に強いぞ」
「ただ、巨人族は魔法耐性が低いので、そこは気を付けねばなりません」

 アーテルとノワールがその特性について補足してくれた。つまり巨人族っていうのは物理に強いけど魔法にはそれほどでもなかったって事か。

「それでもそこらの鉄の盾なんかとは比べ物にならない守備力だし、ヨシュア君の逆風の盾が守ってくれるだろうよ」

 アーテルがヨシュア君の方を見ながらニヤニヤしてそう言う。
 そうだね。シェラ公女に求めるのは最低限自分の身を守る事だ。ノワールやアーテルがいれば滅多な事にはならないけど、必要以上に過保護にするつもりもない。彼等にも強くなってもらわなくちゃならないからね。

「あの、ショーン様やヨシュア様の装備はよろしいのですか?」

 シェラ公女が気遣いながらこちらを見て声を掛けてきた。僕達が自分用の装備を遠慮して選ぼうとしないのかと思ったらしい。
 もちろん魅力的な品はあるんだろうけど、僕達のパーティの防具は腕利き職人ケビンさん入魂の作品だし、僕の短双戟は何だかんだで魔改造品だ。それに王都の宝物庫から頂いたガントレットブーメランもある。装備品に全く不足は感じない。
 ノワール、アーテルの二人も、実際は装備なんて不要な存在だし、ヨシュア君も魔剣ヒートブレイド、それに暴風の盾と、攻防ともに強力だ。
 だから、遠慮している訳ではなく、取り敢えず必要な物がないというのが正しいかな。

「ええ、僕達は大丈夫ですよ」

 この言葉に皆が頷いて、宝物庫を後にした。
 食料や水などは影収納にたっぷりと備蓄してあるし、何ならこのままダンジョンに向かっても差し支えない。ただそれには少し気掛かりがあって。

「シェラ公女は、お顔を隠さないで行かれるのですか?」

 そう、いつもヴェールで隠していたその素顔を晒したままダンジョンに行くのかという事だ。
 当然、ダンジョンには他の冒険者パーティもいるだろう。かと言って、ヴェールを着けたままダンジョンを探索するのはおススメできない。人の五感を遮っている訳だからね。

「このまま行きます! 幸い、私が公女だという事は誰も知りませんし、人の悪意というものからいつまでも逃げてばかりではいられません。わたしはいずれ、この素顔をさらして呪いなどない事を領民に知らしめるのですから」

 そう言ったシェラ公女の視線は決意に満ちていた。父の失策である褐色の肌に対する偏見を取り除く為に、並々ならぬ覚悟を滲ませている。
 そういう事なら、ダンジョンに入る前の露払いくらいはさせてもらおうかな。

「それじゃあ、早速行っちゃいましょうか。ノワール、ダンジョンの位置は把握してる?」
「抜かりありません。すぐに浮上出来ます」

 流石ノワール。すでに座標は定めているらしい。恐らく人目に付かない場所なんだろう。

「という事なので、シェラ公女、すぐに支度を。ああ、装備を身に付けるだけで構いませんよ」
「え? 今すぐですか? え? え?」
「ノワール、アーテル、公女の装着を手伝って差し上げなさい」
「はい! お任せください!」
「うむ、ではいくぞ、シェラ公女」

 まさか今すぐの出発とは思っていなかったのか、シェラ公女はノワールとアーテルに両脇を抱えられ、拉致されていった。

△▼△

 質の良いレザーアーマーに巨人族の骨で作ったバックラー、それに灰色のローブを纏った公女が戻って来たところで、僕等はすぐに影泳ぎで移動を始めた。
 流石にはじめは驚いていたシェラ公女も少し移動しただけですぐに慣れてしまったらしい。ぶっちゃけ、デライラやヨシュア君より飲み込みが早い。やはり闇属性への親和性の問題なんだろうね。
 こういった影泳ぎや影収納も、鍛錬次第では習得できるかも知れないね。

「そろそろ浮上します。ダンジョンから少し離れた雑木林の中です」
「え? もう着いたのですか?」

 これにはシェラ公女も驚いている。影の中を移動するという以上の衝撃らしい。

「馬でも半日は掛かる距離なのですが……わずか数分で……?」

 へえ、シェラ公女の体感では数分なのか。僕は一分かそこらだったし、ノワールやアーテルは一瞬で移動したような感覚だろう。

「私の体感では一時間掛かるかどうかといった感じだったよ。やはり公女は素質があるのですね」

 今ヨシュア君が言った通りだ。シェラ公女には闇魔法使いとしての高い素養があると思われる。これは期待以上の人材と巡り合えたかも知れないね。

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