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四章

ショーン、シンパシー

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 自分の探し求めていた人が目の前にいた。その事でヨシュア君はある意味目的を完遂した訳で、舞い上がってしまったらしい。
 いきなり立ち上がった彼は、シェラ公女の下で跪き、片手を差し出してプロポーズを始めた。

「貴方こそが長らく探し求めていた方です! 黒曜の君よ、どうか私の伴侶となっていただけませんか!」
「え? ええ?」

 シェラ公女は全力で戸惑っている。まさか自分の姿を明らかにした途端求婚されるとは思いもしないだろうし、ごもっともだよね。

「ヨシュア君……気持ちは分かるけど落ち着いて。それは二人きりの時間を作ってやってもらえないかな?」
「あ、ああ、これは済まない。シェラ公女も、失礼いたしました」
「あ、ええ。はい」

 ちょっと脱線しかかったけど、どうにか話を戻す。ヨシュア君個人の大事な話はあとでゆっくりと、という事で。
 スタンピードの後、母親を亡くしたシェラ公女はそのまま侯爵に引き取られ、公女として育てられた。しかしその肌の色は隠し通し、病弱な公女として一般には知られているらしい。
 侯爵もその後は妻を娶る事はせず、跡継ぎはシェラ公女一人。しかし当の本人は褐色の肌の為、庶民にそれをオープンにした場合は『呪いの公女』と言われるのは必然だろう。どうにも将来のビジョンがバラ色という感じじゃないよね。
 そこに振って湧いたようなヨシュア君の求婚は、ドラケンにとって決して悪いものではないように思える。

△▼△

「先程も話した通り、ザフト公爵はドラケン領を攪乱して動きを押さえ、自分の主力は王都の女王陛下に対して使う目的だったようです」
「そうなのですね……」
「我々の目的は、ドラケン侯爵の力をこちら側に引き入れる事なんです」

 本題に入った僕達は、ここを訪れた目的を話した。そしてヨシュア君から、グリペン侯爵からドラケン侯爵へ宛てられた書状を手渡した。
 グリフォンの封蝋を確認した彼女は、中の書状を読み始めた。

「なるほど、光と闇の大精霊が復活し、女王陛下は光の加護を与えられた。それで他の四大精霊王の加護を持つ公爵家が女王陛下に敵対したと……」
「ええ、四大精霊王は何者かに洗脳されており、その洗脳下にあった精霊王達が光と闇の精霊達を封印しました。そのうち風の精霊王は洗脳を解いたのですが……」
「では残る火、水、土の精霊王は未だ敵という事なのですね?」
「そういう事です」

 今回の大きな流れの説明をすると、シェラ公女はこの王国に起こる大きな争乱の予感に心を痛めているようだった。

「闇と光の大精霊を封印した四大精霊王の洗脳を解き、さらにその背後にいる黒幕を倒す事。これが僕の目的です。そのためには多くの敵を倒す事になるでしょう」
「……」
「僕個人の目的としては、そのための力を得る為にドラケン領のダンジョンを攻略しに来ました」

 シェラ公女は暫く無言で考えている。ヨシュア君はただそれを見守っていた。彼女がどんな結論を出そうと、ヨシュア君は彼女の力になるだろう。その結論如何によっては、彼もまた僕の敵になる可能性はある。

「我がドラケンが具体的に出来る事は現状多くありません。当主が病で倒れ、顔を隠した公女わたしでは求心力も高くないのです」
「そうですか……」

 あまり前向きとは言えない返答に、ヨシュア君の表情がやや曇った。でも公女はあくまでも領主代行であり、ザフト公爵と事を構えるなんて重大な事柄を彼女の一存で決められる訳もない。
 シェラ公女は責められないよね。

「ですのでショーン殿、私もダンジョンへ連れて行ってもらえませんか?」
「へ?」
「え?」

 思いもしないシェラ公女の一言に、思わず間の抜けた声を出してしまう僕とヨシュア君。

「いくら何でもそれは危険ではないでしょうか?」

 うん、確かにそうだね、ヨシュア君。
 でもこれはアリかも知れない。
 褐色の肌を持っていたという彼女の母親は闇属性の魔力に親和性を持っていた。そしてその力を発揮していたというならば、ダンジョン付近には闇属性の魔力が漂っていた事になる。その出どころを探るのはダンジョンに潜ってからでも出来るとして、シェラ公女も闇属性に対して相性がいいと可能性は十分にある。

「分かりました。行きましょうか」
「はい? はい!」
「え? ちょっ、ショーン君!?」

 余りにも軽い返事だったので、シェラ公女は一瞬頭の中の整理が付かず、ヨシュア君は『正気か君は!』とでも言いたそうな顔だ。

「ヨシュア君が付きっ切りでシェラ公女を守れば大丈夫でしょ?」
「うぐ……」

 ヨシュア君だって影の世界での特訓で、もう人外の域に片足を踏み入れた。それに『逆風の盾』もある。盾剣士ソード・ディフェンダーというジョブは彼女を守る為のものだよ。
 それに彼女の前でいい所を見せるチャンスじゃないか。

「ですがシェラ公女、一つだけ条件が」
「何でしょうか……?」

 ちょっと真面目な顔をした僕に、シェラ公女がゴクリと唾を飲み込んだ。

「ダンジョン内では僕の指示に従う事。そして家臣は誰一人同行させない事。これが条件です」
「……分かりました。何とかします」

 シェラ公女がぐっと拳に力を込めた。
 彼女とて幼い頃から迫害されて生きてきた身だ。光と闇を亡き者にされてきた今の世界に、思う所があるんだろう。深読みすれば、黒幕を倒してあるべき世界の姿に戻したい。そんな願いが彼女の中に生まれたのかも知れない。
 残滓と呼ばれた僕の境遇に少し似ている彼女だから。
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