上 下
180 / 206
四章

ショーン、シンパシー

しおりを挟む
 自分の探し求めていた人が目の前にいた。その事でヨシュア君はある意味目的を完遂した訳で、舞い上がってしまったらしい。
 いきなり立ち上がった彼は、シェラ公女の下で跪き、片手を差し出してプロポーズを始めた。

「貴方こそが長らく探し求めていた方です! 黒曜の君よ、どうか私の伴侶となっていただけませんか!」
「え? ええ?」

 シェラ公女は全力で戸惑っている。まさか自分の姿を明らかにした途端求婚されるとは思いもしないだろうし、ごもっともだよね。

「ヨシュア君……気持ちは分かるけど落ち着いて。それは二人きりの時間を作ってやってもらえないかな?」
「あ、ああ、これは済まない。シェラ公女も、失礼いたしました」
「あ、ええ。はい」

 ちょっと脱線しかかったけど、どうにか話を戻す。ヨシュア君個人の大事な話はあとでゆっくりと、という事で。
 スタンピードの後、母親を亡くしたシェラ公女はそのまま侯爵に引き取られ、公女として育てられた。しかしその肌の色は隠し通し、病弱な公女として一般には知られているらしい。
 侯爵もその後は妻を娶る事はせず、跡継ぎはシェラ公女一人。しかし当の本人は褐色の肌の為、庶民にそれをオープンにした場合は『呪いの公女』と言われるのは必然だろう。どうにも将来のビジョンがバラ色という感じじゃないよね。
 そこに振って湧いたようなヨシュア君の求婚は、ドラケンにとって決して悪いものではないように思える。

△▼△

「先程も話した通り、ザフト公爵はドラケン領を攪乱して動きを押さえ、自分の主力は王都の女王陛下に対して使う目的だったようです」
「そうなのですね……」
「我々の目的は、ドラケン侯爵の力をこちら側に引き入れる事なんです」

 本題に入った僕達は、ここを訪れた目的を話した。そしてヨシュア君から、グリペン侯爵からドラケン侯爵へ宛てられた書状を手渡した。
 グリフォンの封蝋を確認した彼女は、中の書状を読み始めた。

「なるほど、光と闇の大精霊が復活し、女王陛下は光の加護を与えられた。それで他の四大精霊王の加護を持つ公爵家が女王陛下に敵対したと……」
「ええ、四大精霊王は何者かに洗脳されており、その洗脳下にあった精霊王達が光と闇の精霊達を封印しました。そのうち風の精霊王は洗脳を解いたのですが……」
「では残る火、水、土の精霊王は未だ敵という事なのですね?」
「そういう事です」

 今回の大きな流れの説明をすると、シェラ公女はこの王国に起こる大きな争乱の予感に心を痛めているようだった。

「闇と光の大精霊を封印した四大精霊王の洗脳を解き、さらにその背後にいる黒幕を倒す事。これが僕の目的です。そのためには多くの敵を倒す事になるでしょう」
「……」
「僕個人の目的としては、そのための力を得る為にドラケン領のダンジョンを攻略しに来ました」

 シェラ公女は暫く無言で考えている。ヨシュア君はただそれを見守っていた。彼女がどんな結論を出そうと、ヨシュア君は彼女の力になるだろう。その結論如何によっては、彼もまた僕の敵になる可能性はある。

「我がドラケンが具体的に出来る事は現状多くありません。当主が病で倒れ、顔を隠した公女わたしでは求心力も高くないのです」
「そうですか……」

 あまり前向きとは言えない返答に、ヨシュア君の表情がやや曇った。でも公女はあくまでも領主代行であり、ザフト公爵と事を構えるなんて重大な事柄を彼女の一存で決められる訳もない。
 シェラ公女は責められないよね。

「ですのでショーン殿、私もダンジョンへ連れて行ってもらえませんか?」
「へ?」
「え?」

 思いもしないシェラ公女の一言に、思わず間の抜けた声を出してしまう僕とヨシュア君。

「いくら何でもそれは危険ではないでしょうか?」

 うん、確かにそうだね、ヨシュア君。
 でもこれはアリかも知れない。
 褐色の肌を持っていたという彼女の母親は闇属性の魔力に親和性を持っていた。そしてその力を発揮していたというならば、ダンジョン付近には闇属性の魔力が漂っていた事になる。その出どころを探るのはダンジョンに潜ってからでも出来るとして、シェラ公女も闇属性に対して相性がいいと可能性は十分にある。

「分かりました。行きましょうか」
「はい? はい!」
「え? ちょっ、ショーン君!?」

 余りにも軽い返事だったので、シェラ公女は一瞬頭の中の整理が付かず、ヨシュア君は『正気か君は!』とでも言いたそうな顔だ。

「ヨシュア君が付きっ切りでシェラ公女を守れば大丈夫でしょ?」
「うぐ……」

 ヨシュア君だって影の世界での特訓で、もう人外の域に片足を踏み入れた。それに『逆風の盾』もある。盾剣士ソード・ディフェンダーというジョブは彼女を守る為のものだよ。
 それに彼女の前でいい所を見せるチャンスじゃないか。

「ですがシェラ公女、一つだけ条件が」
「何でしょうか……?」

 ちょっと真面目な顔をした僕に、シェラ公女がゴクリと唾を飲み込んだ。

「ダンジョン内では僕の指示に従う事。そして家臣は誰一人同行させない事。これが条件です」
「……分かりました。何とかします」

 シェラ公女がぐっと拳に力を込めた。
 彼女とて幼い頃から迫害されて生きてきた身だ。光と闇を亡き者にされてきた今の世界に、思う所があるんだろう。深読みすれば、黒幕を倒してあるべき世界の姿に戻したい。そんな願いが彼女の中に生まれたのかも知れない。
 残滓と呼ばれた僕の境遇に少し似ている彼女だから。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

旦那様、本当によろしいのですか?【完結】

翔千
恋愛
ロロビア王国、アークライド公爵家の娘ロザリア・ミラ・アークライドは夫のファーガスと結婚し、順風満帆の結婚生活・・・・・とは言い難い生活を送って来た。 なかなか子供を授かれず、夫はいつしかロザリアにに無関心なり、義母には子供が授からないことを責められていた。 そんな毎日をロザリアは笑顔で受け流していた。そんな、ある日、 「今日から愛しのサンドラがこの屋敷に住むから、お前は出て行け」 突然夫にそう告げられた。 夫の隣には豊満ボディの美人さんと嘲るように笑う義母。 理由も理不尽。だが、ロザリアは、 「旦那様、本当によろしいのですか?」 そういつもの微笑みを浮かべていた。

捨てられた転生幼女は無自重無双する

紅 蓮也
ファンタジー
スクラルド王国の筆頭公爵家の次女として生を受けた三歳になるアイリス・フォン・アリステラは、次期当主である年の離れた兄以外の家族と兄がつけたアイリスの専属メイドとアイリスに拾われ恩義のある専属騎士以外の使用人から疎まれていた。 アイリスを疎ましく思っている者たちや一部の者以外は知らないがアイリスは転生者でもあった。 ある日、寝ているとアイリスの部屋に誰かが入ってきて、アイリスは連れ去られた。 アイリスは、肌寒さを感じ目を覚ますと近くにその場から去ろうとしている人の声が聞こえた。 去ろうとしている人物は父と母だった。 ここで声を出し、起きていることがバレると最悪、殺されてしまう可能性があるので、寝たふりをして二人が去るのを待っていたが、そのまま本当に寝てしまい二人が去った後に近づいて来た者に気づくことが出来ず、また何処かに連れていかれた。 朝になり起こしに来た専属メイドが、アイリスがいない事を当主に報告し、疎ましく思っていたくせに当主と夫人は騒ぎたて、当主はアイリスを探そうともせずに、その場でアイリスが誘拐された責任として、専属メイドと専属騎士にクビを言い渡した。 クビを言い渡された専属メイドと専属騎士は、何も言わず食堂を出て行き身支度をして、公爵家から出ていった。 しばらく歩いていると、次期当主であるカイルが後を追ってきて、カイルの腕にはいなくなったはずのアイリスが抱かれていた。 アイリスの無事に安心した二人は、カイルの話を聞き、三人は王城に向かった。 王城で、カイルから話を聞いた国王から広大なアイリス公爵家の領地の端にあり、昔の公爵家本邸があった場所の管理と魔の森の開拓をカイルは、国王から命られる。 アイリスは、公爵家の目がなくなったので、無自重でチートし続け管理と開拓を命じられた兄カイルに協力し、辺境の村々の発展や魔の森の開拓をしていった。 ※諸事情によりしばらく連載休止致します。 ※小説家になろう様、カクヨム様でも掲載しております。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

強さがすべての魔法学園の最下位クズ貴族に転生した俺、死にたくないからゲーム知識でランキング1位を目指したら、なぜか最強ハーレムの主となった!

こはるんるん
ファンタジー
気づいたら大好きなゲームで俺の大嫌いだったキャラ、ヴァイスに転生してしまっていた。 ヴァイスは伯爵家の跡取り息子だったが、太りやすくなる外れスキル【超重量】を授かったせいで腐り果て、全ヒロインから嫌われるセクハラ野郎と化した。 最終的には魔族に闇堕ちして、勇者に成敗されるのだ。 だが、俺は知っていた。 魔族と化したヴァイスが、作中最強クラスのキャラだったことを。 外れスキル【超重量】の真の力を。 俺は思う。 【超重量】を使って勇者の王女救出イベントを奪えば、殺されなくて済むんじゃないか? 俺は悪行をやめてゲーム知識を駆使して、強さがすべての魔法学園で1位を目指す。

処理中です...