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四章
三分で見つけたもの
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三分と時間を切ったのには理由がある。時間を掛け過ぎると、村の有志が助太刀に来るって事、有り得そうじゃない?
そういう決心をさせる前に、カタを付けようって事なんだよね。だから、三分。
百人をたった四人で三分って、無謀に思えるかも知れないけど、相手はただの人間だ。多少訓練を積んでるとは言え、ゴールドランク相当の魔物の群れって訳じゃないんだから、本気を出すまでもなく鎧袖一触。
相手は百人を分割して僕達に向かわせているけど、少しばかりの意思疎通でそれが出来ているって事は、そこそこ練度が高い部隊なんだろう。それでも、僕とノワール、アーテルは既に殲滅を終えている。恐らく二分と掛かっていないんじゃないかな。
ヨシュア君だけは、アーテルとの修行を経ての初めての対人戦だ。彼もグリフォバーグ城で軍人をやっていたので、人間の集団戦の厄介さを分かっているんだろうね。三分という時間には自信が無さげだった。でも彼は正しく理解していない。アーテルとあそこまで渡り合えるようになった事と、この実戦では僕のパッシブスキルであるバフが効いている事。
冒険者のランクで言うなら、もうゴールドランカーでも上位に数えられる実力になっているはず。それを今、実感出来ているんじゃないかな?
△▼△
はじめは、三分なんてとてもじゃないけど無理だと思っていた。敵は少なく見積もっても二十人はこっちに向かって来ている。
だけど、最初の一人を斬り倒した時にショーン君の言っている事を理解した。
敵が遅い。動きがやけに緩慢に見える。だから連中がどんな攻撃を繰り出し、どういう動きをするのかにもすぐに対応できる。
敵が弱い。相手の振り下ろす剣に自分のフレイムブレイドを合わせる。殆ど衝撃を感じる事なく、剣ごと相手を切り裂いた。
私が速い。敵が剣を振り下ろす間に、間合いを詰めて二人、三人と斬り倒していける。相手から見た私のスピードは如何ほどのものだろう?
「これなら三分以内というのも!」
最後の二人が左右から同時に襲い掛かって来た。勿論ここまで、形勢不利と見て逃亡を企てた者もいた。だけどそれを許さなかったのは僕の足だ。違う領地の民とは言え、戦争状態でもないのに正規の軍が村を襲うなんて許せる訳もない。
この最後の二人も、逃げる事は無理と腹を括ったか、半ばやけっぱちになっての事だろうが、恨むなら自らの外道な行いと、それを命じた主君を恨むがいい。
「くっそぉー!」
「なんでてめえらみてえなバケモンが!」
遅い。僕はフレイムブレイドを水平に構え、腰の高さで振るいながらくるりと回る。それだけで最後の二人は胴体と足が生き別れになった。
△▼△
「百の兵が全滅……だと? たったの三分でか……」
たった一人残った指揮官らしき男が、剣を片手に呆然としながら呟いた。
ヨシュア君もどうにか三分以内に片付けたみたいで、心配していた村人の乱入もなかった。後はこの男を証人にカイザード子爵を潰さなきゃならない。
腹に一撃、パンチを喰らわせて意識を刈り取った。後で楽しい尋問タイムだ。こういうのはノワールが得意なんだよね。
そしてその前に、村人の方にも一手打っておかなきゃね。
「お主ら、一体……」
広場に向かうと、集まっていた村人達が怯えと安堵を混ぜ合わせたような複雑な表情で出迎えてくれた。その中でも、長老の顔は驚愕と言っていいものだった。
でもまあ、詳細な事は言う必要はないよね、まだ。
「ちょっとランクの高い冒険者パーティですよ。たまたま居合わせただけの」
「いやしかし……相手はただの野盗ではあるまい。やけに統制が取れておったように見えるが」
あら、そこまで分かっちゃうのか。う~ん。
「ご老体。軍人や傭兵崩れが野盗に身を落とす事もあると聞く。今のはそういう輩なのだろうな」
そこですかさずアーテルがフォローを入れてくれた。ナイス!
「なるほどのう……いや、村人を代表して礼を言う。だが、我等には謝礼を払う余裕は……」
「あ、いいんですそれは。これは依頼とかミッションではないので。それよりお願いしたい事があります」
「うむ?」
「今夜の事は間違いなく領主様のドラケン候へお伝えください。領境付近の村落を狙う集団がいたと」
「うむ。それは間違いなく報告させていただこう」
よし、これでドラケン侯爵には恩を売れた。
「では、連中の片付けをお願いしてよろしいでしょうか? リーダーの男は縛り上げてその辺に転がしていただければ、明日僕達が然るべき場所へ突き出してきますので」
「ああ、それは構わんが……」
「僕達はこの男から少しばかり話を聞きますんで」
そう言って野盗の死体の片付けは村人に任せ、僕達はリーダーの男の尋問に移行した。
「名前は?」
「コンス……」
頭から水を掛けて、強制的に目を覚まさせたあと、基本的な事から聞いていく。
「あなたはどこの所属ですか?」
自分で聞きながら茶番だと思う。
「カイザード近郊の山奥に本拠地を置いていた。だから突き出すならカイザードの領主のところへ連れていけ」
なるほど。そう来たか。直接子爵に突き出せば、命は助かると踏んだか。オーケー、乗ってやろうか。ついでにカイザード子爵にも引導を渡してやろう。
証拠? いらないよそんなもの。ノワールが聴いた事が全てでいいじゃないか。
そういう決心をさせる前に、カタを付けようって事なんだよね。だから、三分。
百人をたった四人で三分って、無謀に思えるかも知れないけど、相手はただの人間だ。多少訓練を積んでるとは言え、ゴールドランク相当の魔物の群れって訳じゃないんだから、本気を出すまでもなく鎧袖一触。
相手は百人を分割して僕達に向かわせているけど、少しばかりの意思疎通でそれが出来ているって事は、そこそこ練度が高い部隊なんだろう。それでも、僕とノワール、アーテルは既に殲滅を終えている。恐らく二分と掛かっていないんじゃないかな。
ヨシュア君だけは、アーテルとの修行を経ての初めての対人戦だ。彼もグリフォバーグ城で軍人をやっていたので、人間の集団戦の厄介さを分かっているんだろうね。三分という時間には自信が無さげだった。でも彼は正しく理解していない。アーテルとあそこまで渡り合えるようになった事と、この実戦では僕のパッシブスキルであるバフが効いている事。
冒険者のランクで言うなら、もうゴールドランカーでも上位に数えられる実力になっているはず。それを今、実感出来ているんじゃないかな?
△▼△
はじめは、三分なんてとてもじゃないけど無理だと思っていた。敵は少なく見積もっても二十人はこっちに向かって来ている。
だけど、最初の一人を斬り倒した時にショーン君の言っている事を理解した。
敵が遅い。動きがやけに緩慢に見える。だから連中がどんな攻撃を繰り出し、どういう動きをするのかにもすぐに対応できる。
敵が弱い。相手の振り下ろす剣に自分のフレイムブレイドを合わせる。殆ど衝撃を感じる事なく、剣ごと相手を切り裂いた。
私が速い。敵が剣を振り下ろす間に、間合いを詰めて二人、三人と斬り倒していける。相手から見た私のスピードは如何ほどのものだろう?
「これなら三分以内というのも!」
最後の二人が左右から同時に襲い掛かって来た。勿論ここまで、形勢不利と見て逃亡を企てた者もいた。だけどそれを許さなかったのは僕の足だ。違う領地の民とは言え、戦争状態でもないのに正規の軍が村を襲うなんて許せる訳もない。
この最後の二人も、逃げる事は無理と腹を括ったか、半ばやけっぱちになっての事だろうが、恨むなら自らの外道な行いと、それを命じた主君を恨むがいい。
「くっそぉー!」
「なんでてめえらみてえなバケモンが!」
遅い。僕はフレイムブレイドを水平に構え、腰の高さで振るいながらくるりと回る。それだけで最後の二人は胴体と足が生き別れになった。
△▼△
「百の兵が全滅……だと? たったの三分でか……」
たった一人残った指揮官らしき男が、剣を片手に呆然としながら呟いた。
ヨシュア君もどうにか三分以内に片付けたみたいで、心配していた村人の乱入もなかった。後はこの男を証人にカイザード子爵を潰さなきゃならない。
腹に一撃、パンチを喰らわせて意識を刈り取った。後で楽しい尋問タイムだ。こういうのはノワールが得意なんだよね。
そしてその前に、村人の方にも一手打っておかなきゃね。
「お主ら、一体……」
広場に向かうと、集まっていた村人達が怯えと安堵を混ぜ合わせたような複雑な表情で出迎えてくれた。その中でも、長老の顔は驚愕と言っていいものだった。
でもまあ、詳細な事は言う必要はないよね、まだ。
「ちょっとランクの高い冒険者パーティですよ。たまたま居合わせただけの」
「いやしかし……相手はただの野盗ではあるまい。やけに統制が取れておったように見えるが」
あら、そこまで分かっちゃうのか。う~ん。
「ご老体。軍人や傭兵崩れが野盗に身を落とす事もあると聞く。今のはそういう輩なのだろうな」
そこですかさずアーテルがフォローを入れてくれた。ナイス!
「なるほどのう……いや、村人を代表して礼を言う。だが、我等には謝礼を払う余裕は……」
「あ、いいんですそれは。これは依頼とかミッションではないので。それよりお願いしたい事があります」
「うむ?」
「今夜の事は間違いなく領主様のドラケン候へお伝えください。領境付近の村落を狙う集団がいたと」
「うむ。それは間違いなく報告させていただこう」
よし、これでドラケン侯爵には恩を売れた。
「では、連中の片付けをお願いしてよろしいでしょうか? リーダーの男は縛り上げてその辺に転がしていただければ、明日僕達が然るべき場所へ突き出してきますので」
「ああ、それは構わんが……」
「僕達はこの男から少しばかり話を聞きますんで」
そう言って野盗の死体の片付けは村人に任せ、僕達はリーダーの男の尋問に移行した。
「名前は?」
「コンス……」
頭から水を掛けて、強制的に目を覚まさせたあと、基本的な事から聞いていく。
「あなたはどこの所属ですか?」
自分で聞きながら茶番だと思う。
「カイザード近郊の山奥に本拠地を置いていた。だから突き出すならカイザードの領主のところへ連れていけ」
なるほど。そう来たか。直接子爵に突き出せば、命は助かると踏んだか。オーケー、乗ってやろうか。ついでにカイザード子爵にも引導を渡してやろう。
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