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四章
ヨシュア君、三分ね!
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後ろ手を振って去って行った若い男を見送り、僕達は広場の片隅に寝床を準備する。と言っても、木に厚手のシートを結び付け、夜露を凌ぐ程度のものだ。そして寝袋にくるまって眠る。大体野宿と言えばこんなものだろう。
広場を使わせてもらう事を了承してもらった為、あまり突拍子もない魔法を使って住み心地よよくする訳にもいかないし、今夜はこれで我慢だね。どうせ眠れない夜になるだろうし。
カイザードの街の屋台で買い込んで来た串焼き肉やパンに炒め物を挟んだものなどで軽く腹ごしらえを済ませ、リラックスしながらその時を待つ。
今は夜。この世界は僕のテリトリーだ。広範囲にわたって意識を広げたノワールと、感覚をリンクさせる。村に近付く如何なる気配も見逃さない。
野ウサギ、ネズミ、畑を狙うイノシシ……そんな気配に混じって、二人の人間の気配が近付いて来る。
「来たね」
「はい、斥候といったところでしょう」
同じモノを見ている僕とノワールが静かにそう言葉を交わすと、ヨシュア君がそこに割って入って訊ねてきた。
「どうする? 先にやってしまうかい?」
「いや、連中が野盗の真似事をしてからの方がいいだろう。言い逃れも出来ない状況で全員ぶっ飛ばす」
ヨシュア君に答えたのはアーテルだ。確かに奴らが村に侵入してからじゃないとね。
「村に侵入して来たら迎え撃つ。くれぐれも村に被害が出ないようにね」
僕のその言葉に、三人が頷いた。
△▼△
村の入り口には野盗に扮したカイザードの兵が突入の構えを見せていた。村の方でも男が二人、交替で寝ずの番をしているらしく、かがり火を焚いて村の外を警戒していた。
「ん? なんかいっぱいいるぞ?」
「おい、長老に伝えろ!」
「おう!」
二人のうち一人が、村の中へと駆け込んで行く。残った一人が外にいる集団に向けて大声で誰何した。
「おいあんたら! こんな夜更けにハンセン村に何の用だ? この村には宿屋なんかねえぞ!」
それに外にいる集団のリーダーと思しき男が答えた。
「これから死ぬ貴様等には関係ない事だ。野郎ども! やっちまえ!」
「くっ、野盗かこいつら! それにこの数! みんな逃げろぉぉぉ!」
寝ずの番をしていた残る男も、野盗の襲来を叫びながら村へと駆けて行く。
「そろそろ出番かな?」
「ああ、連中もやっちまえとか言ってたしね」
一部始終を見ていた僕とヨシュア君が頷き合って、駆け込んで来た若い男の前に立つ。
「あ、あんたらか! 逃げろ、野盗だ! 数が多い! 速く逃げろ!」
僕達を広場に案内したあの若い男だ。
「落ち着いて。村のみんなを広場に集めてじっとしていて下さい」
「いやしかし――」
僕と若い男の会話に割り込むように、野盗に扮した兵が二人、剣を掲げて切り込んで来た。
「おらおら、呑気におしゃべりしてる暇なんt――」
「会話の邪魔をするなよ」
その割り込んで来た兵を一振りで一刀両断にしたのはヨシュア君だ。
「て、てめえ!」
もう一人が逆上して襲い掛かってくる。僕は無言で至近距離から炎弾を食らわせた。相手が賊の類なら正体が何であろうが、慈悲はない。
「広場には一人も通しません。早くみんなを集めて下さい」
「わ、分かった! あんたら、死ぬなよ!」
事ここに及んでも、僕等を心配するこの人に、ニッコリと笑顔を見せて背中を見送った。
「さてヨシュア君。アーテルとの修行の成果を見せる時が来たね!」
「ははは……些か相手に取って不足は……ありすぎだけどね!」
先行の二人を倒された野盗に扮した――もう野盗でいいか。連中は村の中へとなだれこんで来た。狭い入口に殺到するものだから、魔法のいい的になるね。だけどそれだとヨシュア君の力試しにはならないので、敢えて出鼻を挫く程度にしておく。
水弾を二発、三発。巻き込まれた者も含めて四、五人が吹き飛ぶが、後続は構わず突っ込んで来る。魔法使いは次の魔法を発動するまである程度時間がかかる事を見越しての、いい判断だ。流石は軍人ってとこかな。
「何をしている! 相手は二人だ! 押し潰せええっ!」
中央後方で叫んでいるのは隊長さんだろうか。もはや口調が野盗ではなく軍人さんになっているよ。でも残念、二人じゃないんだなあ。
突入してくる野盗共の両サイドから、暗闇の中に漆黒の影が走る。
「ぐあぁっ!」
「うおぉぉ!?」
肉が打ち付けられ、骨が軋み砕けるような鈍い音を立てながら、男達が盛大に吹き飛んでいく。
「残念ですね」
蹴り足を高く掲げたままノワールが低く言えば、
「いつから二人だけだと思っていた?」
ギラギラとした殺気を振りまきながら、拳を突き出したアーテルが嗤っていた。
さて、役者も揃ったし、大掃除といこうか。
「さて、一人たりとも逃がしませんので、そのつもりで」
僕は短双戟を構えて、頭上に十数発の火球を浮かべる。ヨシュア君は抜いたフレイムブレイドに魔力を流し刃を赤熱化させ、ノワールは両方の手に短剣を持つ。アーテルはクローの爪を前方に可動させ完全に殺傷モードだ。
「くっ! たった二人増えただけだ! やれ!」
残った野盗達が四つに分かれ、それぞれ襲い掛かってくる。
「三分だ。三分で終わらせるぞ!」
僕はみんなに声を掛ける。
「余裕です」
「長すぎるな」
「さ、さんぷん~~!?」
ノワールもアーテルも三分という時間は難易度が低すぎるらしい。でもヨシュア君は焦っているね。まあ、彼もこの戦闘で自分の実力を再認識出来ると思うよ。
広場を使わせてもらう事を了承してもらった為、あまり突拍子もない魔法を使って住み心地よよくする訳にもいかないし、今夜はこれで我慢だね。どうせ眠れない夜になるだろうし。
カイザードの街の屋台で買い込んで来た串焼き肉やパンに炒め物を挟んだものなどで軽く腹ごしらえを済ませ、リラックスしながらその時を待つ。
今は夜。この世界は僕のテリトリーだ。広範囲にわたって意識を広げたノワールと、感覚をリンクさせる。村に近付く如何なる気配も見逃さない。
野ウサギ、ネズミ、畑を狙うイノシシ……そんな気配に混じって、二人の人間の気配が近付いて来る。
「来たね」
「はい、斥候といったところでしょう」
同じモノを見ている僕とノワールが静かにそう言葉を交わすと、ヨシュア君がそこに割って入って訊ねてきた。
「どうする? 先にやってしまうかい?」
「いや、連中が野盗の真似事をしてからの方がいいだろう。言い逃れも出来ない状況で全員ぶっ飛ばす」
ヨシュア君に答えたのはアーテルだ。確かに奴らが村に侵入してからじゃないとね。
「村に侵入して来たら迎え撃つ。くれぐれも村に被害が出ないようにね」
僕のその言葉に、三人が頷いた。
△▼△
村の入り口には野盗に扮したカイザードの兵が突入の構えを見せていた。村の方でも男が二人、交替で寝ずの番をしているらしく、かがり火を焚いて村の外を警戒していた。
「ん? なんかいっぱいいるぞ?」
「おい、長老に伝えろ!」
「おう!」
二人のうち一人が、村の中へと駆け込んで行く。残った一人が外にいる集団に向けて大声で誰何した。
「おいあんたら! こんな夜更けにハンセン村に何の用だ? この村には宿屋なんかねえぞ!」
それに外にいる集団のリーダーと思しき男が答えた。
「これから死ぬ貴様等には関係ない事だ。野郎ども! やっちまえ!」
「くっ、野盗かこいつら! それにこの数! みんな逃げろぉぉぉ!」
寝ずの番をしていた残る男も、野盗の襲来を叫びながら村へと駆けて行く。
「そろそろ出番かな?」
「ああ、連中もやっちまえとか言ってたしね」
一部始終を見ていた僕とヨシュア君が頷き合って、駆け込んで来た若い男の前に立つ。
「あ、あんたらか! 逃げろ、野盗だ! 数が多い! 速く逃げろ!」
僕達を広場に案内したあの若い男だ。
「落ち着いて。村のみんなを広場に集めてじっとしていて下さい」
「いやしかし――」
僕と若い男の会話に割り込むように、野盗に扮した兵が二人、剣を掲げて切り込んで来た。
「おらおら、呑気におしゃべりしてる暇なんt――」
「会話の邪魔をするなよ」
その割り込んで来た兵を一振りで一刀両断にしたのはヨシュア君だ。
「て、てめえ!」
もう一人が逆上して襲い掛かってくる。僕は無言で至近距離から炎弾を食らわせた。相手が賊の類なら正体が何であろうが、慈悲はない。
「広場には一人も通しません。早くみんなを集めて下さい」
「わ、分かった! あんたら、死ぬなよ!」
事ここに及んでも、僕等を心配するこの人に、ニッコリと笑顔を見せて背中を見送った。
「さてヨシュア君。アーテルとの修行の成果を見せる時が来たね!」
「ははは……些か相手に取って不足は……ありすぎだけどね!」
先行の二人を倒された野盗に扮した――もう野盗でいいか。連中は村の中へとなだれこんで来た。狭い入口に殺到するものだから、魔法のいい的になるね。だけどそれだとヨシュア君の力試しにはならないので、敢えて出鼻を挫く程度にしておく。
水弾を二発、三発。巻き込まれた者も含めて四、五人が吹き飛ぶが、後続は構わず突っ込んで来る。魔法使いは次の魔法を発動するまである程度時間がかかる事を見越しての、いい判断だ。流石は軍人ってとこかな。
「何をしている! 相手は二人だ! 押し潰せええっ!」
中央後方で叫んでいるのは隊長さんだろうか。もはや口調が野盗ではなく軍人さんになっているよ。でも残念、二人じゃないんだなあ。
突入してくる野盗共の両サイドから、暗闇の中に漆黒の影が走る。
「ぐあぁっ!」
「うおぉぉ!?」
肉が打ち付けられ、骨が軋み砕けるような鈍い音を立てながら、男達が盛大に吹き飛んでいく。
「残念ですね」
蹴り足を高く掲げたままノワールが低く言えば、
「いつから二人だけだと思っていた?」
ギラギラとした殺気を振りまきながら、拳を突き出したアーテルが嗤っていた。
さて、役者も揃ったし、大掃除といこうか。
「さて、一人たりとも逃がしませんので、そのつもりで」
僕は短双戟を構えて、頭上に十数発の火球を浮かべる。ヨシュア君は抜いたフレイムブレイドに魔力を流し刃を赤熱化させ、ノワールは両方の手に短剣を持つ。アーテルはクローの爪を前方に可動させ完全に殺傷モードだ。
「くっ! たった二人増えただけだ! やれ!」
残った野盗達が四つに分かれ、それぞれ襲い掛かってくる。
「三分だ。三分で終わらせるぞ!」
僕はみんなに声を掛ける。
「余裕です」
「長すぎるな」
「さ、さんぷん~~!?」
ノワールもアーテルも三分という時間は難易度が低すぎるらしい。でもヨシュア君は焦っているね。まあ、彼もこの戦闘で自分の実力を再認識出来ると思うよ。
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