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四章

闇属性の可能性

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 王都の第一区画から第三区画までは、それぞれ城壁で仕切られ、入出門をしっかり管理する強固な扉と検問がある。そこには当たり前の光景として入出門の手続きを待つ人々の行列が出来ており、そこに並ぶのもちょっとね。いや、僕はプラチナランカーの肩書を使えば行列に並ぶ事なく別口から出入り出来るし、ヨシュア君に至っては貴族専用の通用口がある。
 でも行列を無視してそっちに行くと、並んでる人達の視線が痛いんだよね。だから、影泳ぎで王都の外まで脱出だ。
 人気の少ない路地に向かい、周囲を確認して影の中に沈み込む。ヨシュア君も流石に慣れてきたみたいで、表情にも少し余裕がある。

 王都の外に出るまでの土地勘はあるので、僕達は影の中を移動しながらノワールに色々と疑問に思っている事を聞いた。
 まずは女王陛下から拝領したガントレット、『ブーメラン』に関する事。
 これは敵の攻撃、魔法でも物理でも、飛んで来たものを影の中に吸い込み、そのまま射出する能力を持っている。この事から、闇属性魔法の影収納の力を応用したらしい事が分かる。
 それで思ったのが、影収納の中では発動済みの魔法をそのまま保管できるのか、って事だ。その事をノワールに聞いてみると……

「それは試した事がありませんでした。そもそも魔法は外の世界で発動させてそのまま使用するものですし……でも、そのガントレットの能力では、魔法はそのままの状態で影収納の中を通過していった事になりますよね」

 今まで考えた事が無かったけど、影収納の中に魔法を出来ないだろうか?
 物質の状態保存が出来る空間だけに、可能性は高いと思っている。そして魔法をストックする事が出来れば、闇属性魔法の可能性はとんでもなく広がるはずだ。

「くっくっく……流石は我が主人だ」
「ショーン君……君、かなりえげつない事を考えているんじゃないか?」

 僕の考えが伝わっているアーテルはさも可笑しそうに笑い、何となく察したヨシュア君はちょっと青褪めている。

「いや、高威力の大魔法とかをストックしておいたら、魔力を練り上げるタイムロスなしでいきなり発動できて便利だし、例えば炎弾や水弾なんかの小威力の魔法を百でも千でもストックしておいて、飽和攻撃も出来るとか――」
「流石ご主人様ですっ! 今まで闇属性魔法をそんな風に使おうとする者はいませんでした!」

 僕の言葉を途中で遮り、ノワールが腕に抱き着いてきた。それはもうキラッキラの笑顔で。
 ノワールを良く知らない人は、あまり表情を変えずにしゃべり方もテンションが低く、可愛らしいけど暗い子だと思っている人が多い。でもそれは彼女が他に人間に興味がないだけで、事僕に関してはこの通りだ。良く笑い、よく話し、表情豊かなんだ。

「旅の途中は色々試しながら行こうと思うんだ」
「それがいいですね!」
「うむ。我にも出来る事があれば協力するぞ?」
「ああ、二人共ありがとう」

 僕はプラチナランカーになったからと言って、強くなる事を止める訳には行かない。これから戦う相手は精霊王。そしてその精霊王すら洗脳してしまう得体の知れない存在だからね。
 旅の途中では出来るだけ魔力を消費し、体内に含有する魔力総量を上げていかなくちゃ。魔力だって体力や筋力と同じように、鍛えれば強く多くなっていくんだから。
 そしてもうひとつ、確認したい事がある。
 影泳ぎの間は外と時間の流れが違うのは薄々分かっている。数日掛かる道程を数時間で移動してしまうのだから。その反面、物質の状態保存。これは時間が止まっているんじゃないのかな?
 生ものが腐らない。氷が溶けない。熱いものが冷めない。こういった事から考えられるのは時間の停止だ。

「影泳ぎについては、時間というよりも空間を操作していると言った方がいいでしょう。マジックバッグに使われている空間拡張の魔法の逆ですね。目的地までの空間を収縮させて早く到着させているのです」

 ノワールの説明によれば、時間はあんまり関係ないのか。それであれば体感時間に個人差があるのは単に習熟度合によるものなのかな?

「僕が思ったのは、影収納の中で時間が止まっているのなら、その時間を修行に当てたらかなり有効だろうって事なんだ」
「なるほど……」

 時間が止まっている中で自分達が動く事が出来れば。影の中での一日での訓練が十年分にも百年分にもなる可能性があるじゃないか。
 その事をノワールに話したら、ちょっと今までに見せた事がないような難しい表情になった。

「可能かと思います。ですが、時間が止まっている世界での修行の成果は、影収納から表の世界に出た途端に急激に現れるでしょう」

 そうか、止まっていた時間の流れが一気に外の世界と同調しようとするから……停止していた時間の中で動いていないものは外に出してもそのままだ。でも意図的に変化させたものは経過した時間の分だけ変化の進行が進む訳だもんねえ。

「かなりの負荷が掛かるって事だよね」
「ええ、恐らく」

 ノワールにしても前例がない事なので確信を持って答えている訳ではなさそうだ。少しずつ試してみるしかないかな。

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