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四章
後顧の憂いはない、はず
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「それで、僕達はなるべく急ぎでドラケン領へ向かいますけど、陛下の方は大丈夫なのですか?」
そんな僕の質問に、陛下は少し困った顔をした。まあ、想像は出来るんだけどね。
「あなたの影の大活躍で、ブンドル派を一掃出来たのは良かったのですが、重要ポストの人間もごっそりいなくなりまして」
やっぱり。女王を支える人材もいなくはないだろうが、今まではブンドルの圧力もあってなるべく目立たないようにしてたはずだ。いきなりそういう人達を重用しちゃうと、反ブンドル派の人達の間でも軋轢は起こるだろうね。
要は政治を行う上での人材不足、そして官僚、役人の間でのイニシアティブを取ろうとする争い。これが問題なんだろう。それでもブンドルを排した事で民衆の支持は大きく上がっているはずなので、それは救いか。
「グランツ。君、こういうの得意でしょ?」
そこで僕は、デライラの後ろで立ったまま眠っているみたいなグランツに声を掛けた。すると、彼は片目だけを開いてこっちに視線を向ける。
「ショーン様は儂に王様でもやれと仰るのかのう?」
「ははは。まさか。王様はあくまでもレベッカ陛下だよ。グランツには一番偉い大臣をやってもらいたい」
しかし陛下がそれに待ったを掛ける。
「それは皆が納得しないでしょう?」
いや、するさ。何しろ彼は女神ルーベラの下で知恵の象徴と呼ばれた神獣だ。
「既に陛下はルークスから光の加護を受けているのは知れ渡っているのですよね?」
「ええ、一部の者だけですが」
「ならば、グランツが神獣である事を大々的に公表して、大賢者を国家のブレーンとして迎えた事にすればいいのです。異議を唱える者がいれば、知恵比べでも力比べでもさせたらいいのでは?」
「なるほど……」
僕の意見に一考の価値あり、か。陛下は暫し思考に耽る。
「儂にそんな面倒事を押し付けるか……」
呆れたような顔でジト目を向けてくるグランツだけど、君にとっては大した事じゃないだろう?
「大臣になれば、若い女官を何人か付けてもらえるかもしれないよ?」
「おお! 人の王よ。儂が力を貸してやらんでもないぞい?」
デライラが王城で陛下の警護をするようになってから、グランツは主に情報収集で活躍していた。例の反乱分子の計画を未然に防いだりとかね。でも彼の本来の能力を活かすのは治世の方だろう。
「あんた……ホント現金よね……」
「ふぉっふぉっふぉ。女官ならば尻を撫でても殴られまいて」
「あたしが殴るわよ……」
らしいと言えばらしいグランツなんだけど、デライラのジト目と低いテンションがちょっと怖い。まさか女王陛下のお尻撫でたりしてないよね!?
「うむ、撫でたぞ――ほげえ!?」
僕の思考を読んだグランツが得意気に言うものだから、思わず風魔法をぶつけてしまったよ。ほら、陛下が顔を真っ赤にして俯いちゃったじゃないか。
「程々にして下さいね?」
「わ、分かったからその魔力を収めい!」
さて、グランツへの牽制はこのくらいにして。
「デライラ。王都は頼むよ。オスト公にはシルフも付いたし、ユーイングさんもいるから滅多な事はないと思うけど」
「ええ、任せなさい。それよりあんたはこれから敵の真ん中を突っ切って行くんでしょ? あんたこそ気を付けなさいよね」
デライラが少しだけ心配そうな顔だ。
確かに、影泳ぎにも少しばかり制限があってね。一足飛びにザフト領を突っ切ってドラケン領に出る事は出来ない。
一度でも訪れた場所ならばノワールが地形を全て記憶しているので、座標を特定して影から出る事が出来るんだけど、これから行くのは初めての場所だ。ノワールが少しずつ先行して地形を確認し、小刻みに影泳ぎで渡って行くしかない。それでもかなり短縮できるけどね。
「私に何かお助けする事はありませんか?」
陛下もデライラと同じような表情でそう言って下さるけど、どうだろう?
これから敵地を通過するというのに、王家の威光を示すようなものはかえってない方がいいかも知れない。僕達のスタンスとしては、あくまでもドラケン領にあるダンジョンを目指す冒険者パーティ、という事にしようと思っているし。
ただ……
「ヨシュア君の盾をもう少し良いものにしたいのですけど、何かご存知ありませんか?」
さすがに王城の宝物庫にある盾を下さいとは言えないから言葉を濁してみたんだけど、さて、陛下には伝わっているだろうか?
図々しいと思われるかも知れないけど、前回王都を離れる時の仕事の報酬、貰ってないんだよね。
「まあ! うふふふ。分かりました。今から宝物庫に参りましょう。さすがに何でもという訳にはいきませんし、ヨシュア公子はまだ何も成していないので下賜する理由もありません。ですがショーンにならば前回の功績に報いる必要がありますものね」
良かった、伝わっていた。なに、ヨシュア君には貸し一つという事にしておこう。
そんな僕の質問に、陛下は少し困った顔をした。まあ、想像は出来るんだけどね。
「あなたの影の大活躍で、ブンドル派を一掃出来たのは良かったのですが、重要ポストの人間もごっそりいなくなりまして」
やっぱり。女王を支える人材もいなくはないだろうが、今まではブンドルの圧力もあってなるべく目立たないようにしてたはずだ。いきなりそういう人達を重用しちゃうと、反ブンドル派の人達の間でも軋轢は起こるだろうね。
要は政治を行う上での人材不足、そして官僚、役人の間でのイニシアティブを取ろうとする争い。これが問題なんだろう。それでもブンドルを排した事で民衆の支持は大きく上がっているはずなので、それは救いか。
「グランツ。君、こういうの得意でしょ?」
そこで僕は、デライラの後ろで立ったまま眠っているみたいなグランツに声を掛けた。すると、彼は片目だけを開いてこっちに視線を向ける。
「ショーン様は儂に王様でもやれと仰るのかのう?」
「ははは。まさか。王様はあくまでもレベッカ陛下だよ。グランツには一番偉い大臣をやってもらいたい」
しかし陛下がそれに待ったを掛ける。
「それは皆が納得しないでしょう?」
いや、するさ。何しろ彼は女神ルーベラの下で知恵の象徴と呼ばれた神獣だ。
「既に陛下はルークスから光の加護を受けているのは知れ渡っているのですよね?」
「ええ、一部の者だけですが」
「ならば、グランツが神獣である事を大々的に公表して、大賢者を国家のブレーンとして迎えた事にすればいいのです。異議を唱える者がいれば、知恵比べでも力比べでもさせたらいいのでは?」
「なるほど……」
僕の意見に一考の価値あり、か。陛下は暫し思考に耽る。
「儂にそんな面倒事を押し付けるか……」
呆れたような顔でジト目を向けてくるグランツだけど、君にとっては大した事じゃないだろう?
「大臣になれば、若い女官を何人か付けてもらえるかもしれないよ?」
「おお! 人の王よ。儂が力を貸してやらんでもないぞい?」
デライラが王城で陛下の警護をするようになってから、グランツは主に情報収集で活躍していた。例の反乱分子の計画を未然に防いだりとかね。でも彼の本来の能力を活かすのは治世の方だろう。
「あんた……ホント現金よね……」
「ふぉっふぉっふぉ。女官ならば尻を撫でても殴られまいて」
「あたしが殴るわよ……」
らしいと言えばらしいグランツなんだけど、デライラのジト目と低いテンションがちょっと怖い。まさか女王陛下のお尻撫でたりしてないよね!?
「うむ、撫でたぞ――ほげえ!?」
僕の思考を読んだグランツが得意気に言うものだから、思わず風魔法をぶつけてしまったよ。ほら、陛下が顔を真っ赤にして俯いちゃったじゃないか。
「程々にして下さいね?」
「わ、分かったからその魔力を収めい!」
さて、グランツへの牽制はこのくらいにして。
「デライラ。王都は頼むよ。オスト公にはシルフも付いたし、ユーイングさんもいるから滅多な事はないと思うけど」
「ええ、任せなさい。それよりあんたはこれから敵の真ん中を突っ切って行くんでしょ? あんたこそ気を付けなさいよね」
デライラが少しだけ心配そうな顔だ。
確かに、影泳ぎにも少しばかり制限があってね。一足飛びにザフト領を突っ切ってドラケン領に出る事は出来ない。
一度でも訪れた場所ならばノワールが地形を全て記憶しているので、座標を特定して影から出る事が出来るんだけど、これから行くのは初めての場所だ。ノワールが少しずつ先行して地形を確認し、小刻みに影泳ぎで渡って行くしかない。それでもかなり短縮できるけどね。
「私に何かお助けする事はありませんか?」
陛下もデライラと同じような表情でそう言って下さるけど、どうだろう?
これから敵地を通過するというのに、王家の威光を示すようなものはかえってない方がいいかも知れない。僕達のスタンスとしては、あくまでもドラケン領にあるダンジョンを目指す冒険者パーティ、という事にしようと思っているし。
ただ……
「ヨシュア君の盾をもう少し良いものにしたいのですけど、何かご存知ありませんか?」
さすがに王城の宝物庫にある盾を下さいとは言えないから言葉を濁してみたんだけど、さて、陛下には伝わっているだろうか?
図々しいと思われるかも知れないけど、前回王都を離れる時の仕事の報酬、貰ってないんだよね。
「まあ! うふふふ。分かりました。今から宝物庫に参りましょう。さすがに何でもという訳にはいきませんし、ヨシュア公子はまだ何も成していないので下賜する理由もありません。ですがショーンにならば前回の功績に報いる必要がありますものね」
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