上 下
136 / 206
三章

レベッカ、デライラ、それぞれの決心

しおりを挟む
 取り敢えずの情報交換は終わったけど、僕達にとって新しい情報は無かった。ユーイングさんには真新しい話だったけどね。

「そして、四大精霊王が唆された件ですが、風以外の三属性は、未だ洗脳されたままだと考えます」
「何という……」

 これは女王陛下も初めて聞く事だったらしい。

「僕とノワール、そしてアーテル、更にデライラ達の力を借りて、どうにかシルフを無力化した後、シルフの洗脳状態が解けました」

 精霊王すら操ってしまう強大な存在の影に、女王陛下もユーイングさんも、黙って考え込んでしまった。これは僕とデライラ以外の人には、あまり重要な事ではないと思われてしまうかも知れないね。
 何しろ、精霊王が洗脳されていようがいまいが、日常は不自由なく回っている。目に見える不都合もない。僕が冒険者になる以前だってそうだった。

「お前さんは、他の精霊王とも戦うつもりか?」

 ユーイングさん、難しい顔で聞いてくる。これも難しい話だなぁ。接点が無ければ僕からどうのこうのするつもりはないんだけど……

「いずれそうなるであろうな」

 僕の頭の上に浮いている、シルフがそう切り出した。

「この私は、洗脳されている間の記憶がある。そこの闇と光の属性の者達には、並々ならぬ敵意を持ってしまうのだ。幸い、洗脳を解かれた今はそんな事はないがな」
「つまり、解放されたオスト公爵家以外の三公は、ショーンを敵視するようにされていると?」
「そういう事だ」

 シルフが凄く嫌な事を言い、陛下がわざわざ分かりやすいように確認を取り、さらにシルフが止めを刺すかのように認めてしまった。
 それでも、ノワール達を封印するように仕向けた元凶は、僕の敵には間違いない。それには強大な力を持つ精霊王達を解放し、正気に戻すのが一番なのかも知れないね。

「僕を味方に引き込むと、どうやら他の公爵家を敵に回す事になるみたいですね。それが世の為になるとお考えですか?」

 僕は陛下に問いかける。陛下が僕を取り込もうという意思を見せなければ、あくまでも僕個人と公爵家、そして精霊王との戦いだ。でもそこで陛下が僕の味方になるなんて事態になれば、国を二分する内乱になる可能性もある。

「……そもそも、光と闇の二属性が無くなると、何が不都合なんだ?」

 そう、それだ。ない事が当たり前になっている今の世の中を生きる人は、今のユーイングさんのような考えに至ってしまうんだろうね。

「闇とは人の悪の心を司る者。光とは人の善なる心を司る者」

 ユーイングさんの問いには陛下が答えた。

「闇は人に眠りを与え、心に平穏をもたらす。光は人に活力を与え、希望をもたらす。そのように伝わっています」
「つまりですね、二つの属性がないと、人の心が荒んでしまうんです。だから人は奪い、争い、殺し合う。魔物とは、そんな荒んだ人の心が生み出したんです」

 陛下の言葉を僕が補足する。四大属性の魔法を攻撃に使うようになったのだって、そんな人の心が原因なんだ。光と闇の大精霊と、かつて創造神ルーベラ様の傍らにいた神獣が目の前におり、それらが従う僕の言葉は説得力があるらしい。

「なんてこった。こりゃあ迂闊な事は出来ませんね、陛下」
「ええ……」

 僕を引き込む事が思った以上に大問題である事を悟ったのか、陛下もユーイングさんも困り顔だね。まあ、僕自身は陛下に味方になって欲しい訳じゃないし、プラチナランクにも昇格出来たから、ここで王都へさよならするのも全然構わない。
 あ、そう言えば。

「グリペン侯爵が武力を増強しているのはご存知ですか?」
「え、ええ。ダンジョンを攻略して、元の鉱山として生かすのは、良質な武具を生産する為だと」
「そうですね。僕は侯爵が何と戦うつもりでそうしているのかは知りません。ですが、グリペン侯爵、そしてオスト公爵と連携を密にするのはいかがでしょうか?」

 僕はそう提案をする。明らかに僕の味方の大貴族が二人いる。彼等と陛下が連携すれば、少なくとも陛下が僕の敵になる事はないだろう。

「そうですね。二人を呼んで、話してみましょう」

 取り敢えずの悪の根源であるブンドルは潰した。そして彼に与する要人たちも、陛下の本気は分かったはずだ。何より今の陛下にはルークスの加護がある。もうただの小娘じゃない。僕の役目はこれで終わりなはずだ。
 あとは冒険者ギルドだけど……
 僕はユーイングさんにチラリと視線を送る。

「冒険者ギルドとしちゃあ、依頼を出してもらってあとは冒険者に任せるってスタンスだなぁ」

 まあ、冒険者ってのは自由な職業だからね。何かしら志がある人もいるだろうけど、軍隊に入らないあたりが、何事も自分達で判断して決めるっていうポリシーみたいなものを持っている。

「まあ、俺個人は陛下が悪に染まらない限りは陛下に付きますがね」
「僕は僕の敵にならないのならそれでいいです」
「まあ、そうなった時は仕方ねえ。冒険者稼業のさだめってヤツだ。はっはっは!」

 僕とユーイングさんのやり取りを聞いていた陛下が、真面目な顔で言う。

「これは、お二人に愛想を尽かされぬよう、心して動かねばなりませんね」
「ねえショーン」

 ん?
 デライラ、どうしたんだろう? 陛下より更に神妙な顔つきだ。

「あたし、このまま王都に残るわ。今の陛下には力が足りない。あたしが支えようと思うの」
「デライラ様がそう仰るのであれば、私も勿論」
「ふぉっふぉっふぉ。儂もこの娘っ子にもふもふしてもらおうかの」

 へえ、意外。デライラ達光属性のチームは王都に残って陛下の為に働くそうだ。でも、それがいいかも知れないね。陛下にはまだまだ敵は多いだろうし、ルークスとグランツが付いていれば安心だ。

「ありがとうございます!」

 陛下が深々と頭を下げる。

「あ、えーと、陛下? 彼女の一応冒険者なんで、ギルドに適当な指名依頼を出しといてもらえますかね?」
「あ、そうですね! そうします!」

 陛下の屈託のない笑顔。日々こういう笑顔で過ごせる事が、彼女の望みなんだろうか。
しおりを挟む
感想 283

あなたにおすすめの小説

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

龍帝皇女の護衛役

右島 芒
ファンタジー
最年少で『特技武官』になった少年「兵頭勇吾」は学園に通いながらある任務に就いていた。 それは一人の少女を護る事。しかしただの護衛任務ではなかった。

転生悪役令嬢は、どうやら世界を救うために立ち上がるようです

戸影絵麻
ファンタジー
高校1年生の私、相良葵は、ある日、異世界に転生した。待っていたのは、婚約破棄という厳しい現実。ところが、王宮を追放されかけた私に、世界を救えという極秘任務が与えられ…。

完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-

ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。 断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。 彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。 通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。 お惣菜お安いですよ?いかがです? 物語はまったり、のんびりと進みます。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

処理中です...