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三章
タッカー、叙爵の報告に来る
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「あんた、一体何してきたのよ……」
その日の宿での夕食時。一つのテーブルを六人で囲み、それぞれ舌鼓を打っていた最中に、デライラがそんな事を言った。
彼女は、僕等のところへかち込みを掛けて来ると思われたブンドルが、夕食の時間になっても現れなかった事を言っている。
「ヤツの寝室に、この昨日の襲撃者達を放り投げてきただけだよ」
「じゃあ何よ、アイツが目覚めたら部屋の中に六十人以上の死体が転がってたって訳?」
「そうだね。どっちかと言えば、積み重ねてきたって感じだけど」
「あんた、エグいわ……」
ブンドルの寝室もかなり広かったけど、さすがにあの数の死体は積み重ねないと入りきらなかったんだ。
「ご主人様の容赦なさ、素敵でした」
「我は久しぶりに暴れてすっきりしたぞ」
「あ、そう……」
誇らし気に語るノワールはなんだかうっとりしているし、アーテルは気のせいか肌艶がいいような気がするぞ。まあ、それを見ていたデライラは呆れ顔だけども。
そんな時、食堂の中へと入ってきた二人の男がいる。どちらも顔なじみだね。
「タッカーさん、ケルナーさん。今日はどうしたんです?」
現れたのはポー伯爵家の跡取り候補、タッカーさんと護衛隊長のケルナーさんだ。もっとも、タッカーさんは先代殺しの汚名を敢えて被っているので、伯爵家を継げるかどうかは分からない微妙な立場だ。
「よう、食事中に済まんな。今王城から戻ったところなんだが、お前さん達には是非報告しておきたくってよ」
日に焼けた顔を崩しながらそう言うタッカーさん、そう言えば貴族の正装をしている。僕達のテーブルに席が二つ追加され、二人分の食事が用意された。
「報告、ですか?」
僕が首を傾げると、タッカーさんは頷く。
「ああ。俺の処遇が決まった。所領はそのまま。俺は子爵位を頂いた」
「子爵、ですか?」
「流石に親を殺して家を乗っ取ったなんて噂があるヤツを、そのまま伯爵家の跡取りとして認める訳にはいかんとさ」
なるほど。それでも貴族としての体面を保ちつつ、領地もそのままという甘い沙汰は……
「つまり先代殺しはタッカーさん――いえ、タッカー子爵の仕業ではないとバレているという事ですか」
「もっと言えば、陛下はお前の仕業だと思っているよ。あとな、俺の事はタッカーのままでいい」
タッカーさんはそう言って笑う。
彼等とは二十日ぶりくらいの再会だろうか。そこからはお互いに募る話に花を咲かせた。特に、僕のやらかした事は貴族の間でも噂になっているらしい。
「各ギルド本部のグラマスを脅した挙句、ブンドルの商会を一晩で消し去ったとかな」
「あははは……」
やっぱりそれ、僕の仕業って事になってるのか。まあ、証拠もないからすっとぼけるけどね。
「しかしな、気を付けろよ? ヤツに付いて甘い汁を吸っていた貴族や役人は山ほどいる」
「でも、ブンドルにはもう何の力もないですよ?」
タッカーさんが警告してくるけど、もうブンドルにはその最大の力である金はない。各支店や本店を潰す際に、財産となりそうなものは全て没収してるしね。
「潰されたのはヤツが直接経営しているところばかりって話だからな。ヤツが貸している金とか、弱みを握られている貴族や商人はまだまだいる」
そうか。ブンドルの自力を舐めていたね。これはもっと徹底的にやる必要があるって事か。
「ちょっとあんた、なんで少し嬉しそうなのよ……」
デライラ、そんなに呆れなくても。向こうが仕掛けて来た戦争だもの。降参したって許すもんか。
「それはそれとして、だ。昇格試験の準備はどうなんだ? ブンドルと遊んでる暇はないだろ?」
「タッカーさん……別に遊んでる訳じゃないですよ。それに、試験内容が分からないので、現状の力をそのまま底上げするくらいしかないですね」
僕がそう返すと、タッカーさんは納得したように笑み――どちらかと言えば苦笑の類だけど――を浮かべ続ける。
「まあ、お前さんの事だ。安全の方は心配しちゃいないが……昇格試験に横槍を入れて来る輩はいるかもしれんな」
ブンドルを敵に回した時からそれは予想出来た事だし、プラチナランカーなんて肩書も、僕にとっては正直それほど重要じゃないんだよなぁ。
推薦してくれたグリペン侯爵には申し訳ないけど、今の実力だって僕一人のものじゃない。プラチナなんて僕には過ぎた肩書だよ。
「今のゴールドランクにも満足してますし、僕は僕の大事なものを守れればそれでいいんですよ」
「そうか、ならいいんだけどよ。でもな、肩書で守れるモノもあるんだぜ? だから俺は親父を追い落とし、領主になろうとした。ショーンもそのうち分かるさ」
タッカーさんがちょっと砕けた口調でそう言った。これは友人としての助言とか、そういう事なのかな。
「それじゃ、俺達は戻るわ。昇格試験とか、その他の諸々、頑張れよ!」
タッカーさんは、デライラ、ノワール、アーテルの三人にチラリと視線を飛ばしてそう言った。
その他の諸々ってなんだろう?
その日の宿での夕食時。一つのテーブルを六人で囲み、それぞれ舌鼓を打っていた最中に、デライラがそんな事を言った。
彼女は、僕等のところへかち込みを掛けて来ると思われたブンドルが、夕食の時間になっても現れなかった事を言っている。
「ヤツの寝室に、この昨日の襲撃者達を放り投げてきただけだよ」
「じゃあ何よ、アイツが目覚めたら部屋の中に六十人以上の死体が転がってたって訳?」
「そうだね。どっちかと言えば、積み重ねてきたって感じだけど」
「あんた、エグいわ……」
ブンドルの寝室もかなり広かったけど、さすがにあの数の死体は積み重ねないと入りきらなかったんだ。
「ご主人様の容赦なさ、素敵でした」
「我は久しぶりに暴れてすっきりしたぞ」
「あ、そう……」
誇らし気に語るノワールはなんだかうっとりしているし、アーテルは気のせいか肌艶がいいような気がするぞ。まあ、それを見ていたデライラは呆れ顔だけども。
そんな時、食堂の中へと入ってきた二人の男がいる。どちらも顔なじみだね。
「タッカーさん、ケルナーさん。今日はどうしたんです?」
現れたのはポー伯爵家の跡取り候補、タッカーさんと護衛隊長のケルナーさんだ。もっとも、タッカーさんは先代殺しの汚名を敢えて被っているので、伯爵家を継げるかどうかは分からない微妙な立場だ。
「よう、食事中に済まんな。今王城から戻ったところなんだが、お前さん達には是非報告しておきたくってよ」
日に焼けた顔を崩しながらそう言うタッカーさん、そう言えば貴族の正装をしている。僕達のテーブルに席が二つ追加され、二人分の食事が用意された。
「報告、ですか?」
僕が首を傾げると、タッカーさんは頷く。
「ああ。俺の処遇が決まった。所領はそのまま。俺は子爵位を頂いた」
「子爵、ですか?」
「流石に親を殺して家を乗っ取ったなんて噂があるヤツを、そのまま伯爵家の跡取りとして認める訳にはいかんとさ」
なるほど。それでも貴族としての体面を保ちつつ、領地もそのままという甘い沙汰は……
「つまり先代殺しはタッカーさん――いえ、タッカー子爵の仕業ではないとバレているという事ですか」
「もっと言えば、陛下はお前の仕業だと思っているよ。あとな、俺の事はタッカーのままでいい」
タッカーさんはそう言って笑う。
彼等とは二十日ぶりくらいの再会だろうか。そこからはお互いに募る話に花を咲かせた。特に、僕のやらかした事は貴族の間でも噂になっているらしい。
「各ギルド本部のグラマスを脅した挙句、ブンドルの商会を一晩で消し去ったとかな」
「あははは……」
やっぱりそれ、僕の仕業って事になってるのか。まあ、証拠もないからすっとぼけるけどね。
「しかしな、気を付けろよ? ヤツに付いて甘い汁を吸っていた貴族や役人は山ほどいる」
「でも、ブンドルにはもう何の力もないですよ?」
タッカーさんが警告してくるけど、もうブンドルにはその最大の力である金はない。各支店や本店を潰す際に、財産となりそうなものは全て没収してるしね。
「潰されたのはヤツが直接経営しているところばかりって話だからな。ヤツが貸している金とか、弱みを握られている貴族や商人はまだまだいる」
そうか。ブンドルの自力を舐めていたね。これはもっと徹底的にやる必要があるって事か。
「ちょっとあんた、なんで少し嬉しそうなのよ……」
デライラ、そんなに呆れなくても。向こうが仕掛けて来た戦争だもの。降参したって許すもんか。
「それはそれとして、だ。昇格試験の準備はどうなんだ? ブンドルと遊んでる暇はないだろ?」
「タッカーさん……別に遊んでる訳じゃないですよ。それに、試験内容が分からないので、現状の力をそのまま底上げするくらいしかないですね」
僕がそう返すと、タッカーさんは納得したように笑み――どちらかと言えば苦笑の類だけど――を浮かべ続ける。
「まあ、お前さんの事だ。安全の方は心配しちゃいないが……昇格試験に横槍を入れて来る輩はいるかもしれんな」
ブンドルを敵に回した時からそれは予想出来た事だし、プラチナランカーなんて肩書も、僕にとっては正直それほど重要じゃないんだよなぁ。
推薦してくれたグリペン侯爵には申し訳ないけど、今の実力だって僕一人のものじゃない。プラチナなんて僕には過ぎた肩書だよ。
「今のゴールドランクにも満足してますし、僕は僕の大事なものを守れればそれでいいんですよ」
「そうか、ならいいんだけどよ。でもな、肩書で守れるモノもあるんだぜ? だから俺は親父を追い落とし、領主になろうとした。ショーンもそのうち分かるさ」
タッカーさんがちょっと砕けた口調でそう言った。これは友人としての助言とか、そういう事なのかな。
「それじゃ、俺達は戻るわ。昇格試験とか、その他の諸々、頑張れよ!」
タッカーさんは、デライラ、ノワール、アーテルの三人にチラリと視線を飛ばしてそう言った。
その他の諸々ってなんだろう?
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