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三章
頑固職人
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結局分かったのは女王陛下が味方を欲している事くらいか。有力貴族以外にも僕やデライラをも味方に引き入れようとしている事が分かった。まあ、それもグリペン侯爵の進言が陛下の背中を押す事になったんだろうと思っている。
ところが陛下の誤算はデライラが大精霊と神獣を眷属にしている事。これはいくら女王陛下と言えども制御できる相手じゃない。今後の選択肢次第じゃデライラも僕も敵に回る可能性はあるし、それを止める事は出来ないだろう。
取り敢えずブンドルを潰すまでは女王陛下と共闘しよう。それが僕達の結論だ。
そしてもう一つ、ユーイングさんの後悔しないようにしろっていう助言。
これはもう全く分からない。だから取り敢えずあれこれ考えないでやりたい事をやる。それが二つ目の結論。
それを受けて、僕等は買い物や訓練、ギルドの依頼を熟すなど、普段とあまり変わらない日々を過ごした。
「おう、あんたらか。ちょっと待っててくれ」
僕達が今日訪れているのは、第二区画にある防具や装備品を加工する職人さんの工房だ。ここは職人ギルドからおすすめされた工房の一つなんだよね。
この王都に来て間もなく各ギルド本部を回った訳なんだけど、その中でも比較的初期に来たのがこの工房だ。僕達も折角王都に来た訳だからみんなの装備を整えるつもりだったし、そうなると日数も掛かるだろう。そんな理由もあって、職人さんのところを優先的に訪ねたんだ。
ここの親方に言われて待っている間、僕は初めてここを訪れた時の事を思い出していた。
▼△▼
「ほう……? あんたらが噂のブンドルに喧嘩を売ったってバカヤローか」
工房の扉を開くなり、鋭い視線が飛んできた。そしてこの言葉だ。
カウンター越しにこちらをじろりと見つめるその声の主は、もう老人と言っていい見た目をしている。あれこれ聞かなくても頑固な職人だという雰囲気が伝わってくる。
「なぜ分かったんです?」
僕はまだ名乗ってないんだよね。
「あん? 黒髪の色気のあるねえちゃんと可愛らしい嬢ちゃんを連れた地味な男っていうお触れが出てっからな」
「ああ……ブンドルが手配書でも出してましたか」
思わず苦笑してしまう。別に犯罪者って訳でもないだろうに手配書とはね。
「まあ、そんなとこだな。その三人が来ても商売すんなだとよ」
「そうですか。それじゃあ僕達はこれで――」
「待ちやがれ」
そういう事ならここの工房に迷惑は掛けられない。そう思い立ち去ろうとした僕を、彼は低い声で呼び止める。
「あんたら、客として来たんだろ? ちゃんと金を払ってくれるんなら客として扱うぜ?」
その言葉を聞いて僕は納得してしまった。この工房は、職人ギルド本部からおすすめされた割には見た目がよろしくない。あまり繁盛しているようには見えないんだよね。
つまり、この頑固な職人はブンドルの圧力に負ける事なく己の信念を曲げずに仕事をしているんだろう。そのためブンドルの工作で多くの客はこの工房から離れてしまったが、それでもこの工房を贔屓にしている客がいるからギルド本部が勧めて来たって事だ。それだけに、腕の方は確かなんだろうね。
「ええ、装備をグレードアップしようかと思いまして、職人ギルド本部からここを紹介されたんです」
「ほう……」
すると老人は、立ち上がってスタスタとこちらに歩いて来て、僕とノワール、アーテルのみならず、デライラ達三人が身に着けているものを吟味するように眺めていった。
なんて言うかな。その動きはテキパキしていて老いを感じさせない。矍鑠とした老人っていうのはこういう人の事を言うんだろうね。これなら仕事の方も安心して任せられる気がしてきた。
「ダメだな」
「ええ?」
そしていきなりダメ出しされた。
「いいか、冒険者に限った事じゃないが、格に見合ったモンは必要だ。後ろのにいさんと爺さんはともかく、ゴールドの三人とそっちのシルバーの嬢ちゃん。あんたらは見た目が詐欺だぜ」
僕達がその言葉に首を傾げていると、この老人は熱弁を振るい始めた。僕達のランクもすでに知れ渡っているのか。
つまり、強くて高ランクの冒険者がみすぼらしい装備を身に着けていると、それだけで舐められていらぬトラブルを呼び込んでしまう。だからちゃんと強さに見合った装備を身に付けろって話らしい。
「ああ、見た目が弱そうだから他の冒険者に絡まれたりしました」
確かに身に覚えはある。
「そうだろう。で、その絡んで来たバカは逆に捻られて痛い思いをしたんだろう?」
「ええ、まあ」
図星すぎて苦笑するしかない。
「そういうのはお互いに不幸ってもんだ。だから、儂に任せやがれ」
「え、えっとじゃあ……お願いします?」
「おう! じゃあ早速採寸すっから奥の方へ来てくれや! ああ、ねえちゃん達のは俺のかみさんがやるから坊主は安心しな!」
「……」
「おお、忘れてた! 儂ぁケビンってんだ! よろしく頼むぜ!」
▼△▼
なんてことがあり、今日が指定された引き渡しの日なんだよね。
「おう、待たせたな! 今回はあんたらが持ち込んだいい素材のおかげで、ここ数年で会心の品が出来たぜ!」
奥から数人のお弟子さんだろうか? それらの人達が手に手に木箱を持ちながら出て来た。そしてその木箱をカウンターに並べていく。
でも全部で六箱?
「聞いたところじゃ、あんたら六人同じパーティなんだってな。じゃあ六人分相応しいモンを使ってもらわねえとな!」
第一印象からついさっきまで、愛想のない頑固な爺さんだと思ってたけど、機嫌がいいとこんなにもいい笑顔をする人なんだな。これは出来栄えが期待できそうだ。
ところが陛下の誤算はデライラが大精霊と神獣を眷属にしている事。これはいくら女王陛下と言えども制御できる相手じゃない。今後の選択肢次第じゃデライラも僕も敵に回る可能性はあるし、それを止める事は出来ないだろう。
取り敢えずブンドルを潰すまでは女王陛下と共闘しよう。それが僕達の結論だ。
そしてもう一つ、ユーイングさんの後悔しないようにしろっていう助言。
これはもう全く分からない。だから取り敢えずあれこれ考えないでやりたい事をやる。それが二つ目の結論。
それを受けて、僕等は買い物や訓練、ギルドの依頼を熟すなど、普段とあまり変わらない日々を過ごした。
「おう、あんたらか。ちょっと待っててくれ」
僕達が今日訪れているのは、第二区画にある防具や装備品を加工する職人さんの工房だ。ここは職人ギルドからおすすめされた工房の一つなんだよね。
この王都に来て間もなく各ギルド本部を回った訳なんだけど、その中でも比較的初期に来たのがこの工房だ。僕達も折角王都に来た訳だからみんなの装備を整えるつもりだったし、そうなると日数も掛かるだろう。そんな理由もあって、職人さんのところを優先的に訪ねたんだ。
ここの親方に言われて待っている間、僕は初めてここを訪れた時の事を思い出していた。
▼△▼
「ほう……? あんたらが噂のブンドルに喧嘩を売ったってバカヤローか」
工房の扉を開くなり、鋭い視線が飛んできた。そしてこの言葉だ。
カウンター越しにこちらをじろりと見つめるその声の主は、もう老人と言っていい見た目をしている。あれこれ聞かなくても頑固な職人だという雰囲気が伝わってくる。
「なぜ分かったんです?」
僕はまだ名乗ってないんだよね。
「あん? 黒髪の色気のあるねえちゃんと可愛らしい嬢ちゃんを連れた地味な男っていうお触れが出てっからな」
「ああ……ブンドルが手配書でも出してましたか」
思わず苦笑してしまう。別に犯罪者って訳でもないだろうに手配書とはね。
「まあ、そんなとこだな。その三人が来ても商売すんなだとよ」
「そうですか。それじゃあ僕達はこれで――」
「待ちやがれ」
そういう事ならここの工房に迷惑は掛けられない。そう思い立ち去ろうとした僕を、彼は低い声で呼び止める。
「あんたら、客として来たんだろ? ちゃんと金を払ってくれるんなら客として扱うぜ?」
その言葉を聞いて僕は納得してしまった。この工房は、職人ギルド本部からおすすめされた割には見た目がよろしくない。あまり繁盛しているようには見えないんだよね。
つまり、この頑固な職人はブンドルの圧力に負ける事なく己の信念を曲げずに仕事をしているんだろう。そのためブンドルの工作で多くの客はこの工房から離れてしまったが、それでもこの工房を贔屓にしている客がいるからギルド本部が勧めて来たって事だ。それだけに、腕の方は確かなんだろうね。
「ええ、装備をグレードアップしようかと思いまして、職人ギルド本部からここを紹介されたんです」
「ほう……」
すると老人は、立ち上がってスタスタとこちらに歩いて来て、僕とノワール、アーテルのみならず、デライラ達三人が身に着けているものを吟味するように眺めていった。
なんて言うかな。その動きはテキパキしていて老いを感じさせない。矍鑠とした老人っていうのはこういう人の事を言うんだろうね。これなら仕事の方も安心して任せられる気がしてきた。
「ダメだな」
「ええ?」
そしていきなりダメ出しされた。
「いいか、冒険者に限った事じゃないが、格に見合ったモンは必要だ。後ろのにいさんと爺さんはともかく、ゴールドの三人とそっちのシルバーの嬢ちゃん。あんたらは見た目が詐欺だぜ」
僕達がその言葉に首を傾げていると、この老人は熱弁を振るい始めた。僕達のランクもすでに知れ渡っているのか。
つまり、強くて高ランクの冒険者がみすぼらしい装備を身に着けていると、それだけで舐められていらぬトラブルを呼び込んでしまう。だからちゃんと強さに見合った装備を身に付けろって話らしい。
「ああ、見た目が弱そうだから他の冒険者に絡まれたりしました」
確かに身に覚えはある。
「そうだろう。で、その絡んで来たバカは逆に捻られて痛い思いをしたんだろう?」
「ええ、まあ」
図星すぎて苦笑するしかない。
「そういうのはお互いに不幸ってもんだ。だから、儂に任せやがれ」
「え、えっとじゃあ……お願いします?」
「おう! じゃあ早速採寸すっから奥の方へ来てくれや! ああ、ねえちゃん達のは俺のかみさんがやるから坊主は安心しな!」
「……」
「おお、忘れてた! 儂ぁケビンってんだ! よろしく頼むぜ!」
▼△▼
なんてことがあり、今日が指定された引き渡しの日なんだよね。
「おう、待たせたな! 今回はあんたらが持ち込んだいい素材のおかげで、ここ数年で会心の品が出来たぜ!」
奥から数人のお弟子さんだろうか? それらの人達が手に手に木箱を持ちながら出て来た。そしてその木箱をカウンターに並べていく。
でも全部で六箱?
「聞いたところじゃ、あんたら六人同じパーティなんだってな。じゃあ六人分相応しいモンを使ってもらわねえとな!」
第一印象からついさっきまで、愛想のない頑固な爺さんだと思ってたけど、機嫌がいいとこんなにもいい笑顔をする人なんだな。これは出来栄えが期待できそうだ。
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