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二章

光の介入

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 デライラはどうやら公爵低の人々の避難の誘導に当たっていたらしい。そして一か所に集めたところでグランツが結界を張ってみんなを守っていたみたいだ。
 そう言えば、今まで夢中で気付かなかったけど、公爵の館は殆ど外傷がないな。庭はクレーターだらけになってるけど。

「グランツは屋敷にいた人達を、ルークスは建物に障壁を張ってたのよ。じゃなきゃ、今頃ここは瓦礫の山だわね」

 呆れたようにデライラが言う。そっか。もし壊してたら、弁償しなきゃいけなかったのかな。まあ、余計な破壊行為をしなくて済んだのなら良かった。

「ありがとう。で、それはそれとして、これはどういうつもり?」

 僕が振り下ろした短双戟を受け止めた、ルークスによってチューンナップされた白銀の魔剣を持つ彼女に礼を告げると共に問い詰める。

「ソイツにはまだ聞かなきゃいけない事があるもの」
「うん、それは分かる。でも、口を割らないんだ」
「そうね、取り敢えずあんたはその武器を納めなさい。どうせあんたの魔法でコイツは逃げられないでしょう?」

 ふむ。それもそうか。それにデライラには何か考えがあるようだし。

「そうそう。あんたの力を抑えるのでやっとなんだから、落ち着いて話も出来なかったわよ」

 僕が短双戟をしまい込むの見て、デライラもほっと一息ついて剣を鞘に納めて話し始めた。
 彼女が言うには、異変に気付いたのはグランツだったという。風の精霊王シルフともあろう者が、余りにも短絡的でお粗末すぎる行動。そもそも本来の精霊王であるならば、人間に憑依して寝込みを襲うなどという姑息な手段を取らなくても、公明正大に僕達を倒せばいいだけでそれだけの力もある。僕達がすんなり倒されるかどうかは別としてもだ。

「ヴィルベルヴィントの一連の行動は不信感だらけでしょ。考えられるのはそこのシルフが本物じゃないか、それとも洗脳されているか」

 流石に知恵の象徴であるグランツと言ったところだろうか。彼にはほとんど観察する機会はなかったように思うのだけれど、どこからか梟の目で監視していたのかも知れない。

「そこで、彼の出番なのよ」

 彼女の後ろに立っていたルークスが一歩前に出る。こんな夜更けでもそのイケメンっぷりは後光が差しているようだ。

「ノワール、あなたの力も必要です。少しばかり暴れるかも知れないのでね」

 そんなルークスの言葉を聞いたノワールが、僕の中から靄となって出てきた。

「なるほど、報復するのだな?」

 靄のまま人の形となったノワールに、ルークスが苦笑して答える。

「それも悪くありませんが、話を聞いてからでもいいでしょう」

 そして彼も光の靄となり、ノワールと同じような人型となった。

「そんな、まさか貴様等は……光と闇の大精霊? 復活していただと?」
「まあ、そんなところです。彼等のお陰でね」

 ルークスが僕とデライラを見た気がした。

「では、ノワール。これが暴れないように押さえつけて下さい。ちょっとしたを、必要であればを。最悪の場合は封印します」
「わかった。任せろ」

 ノワールは僕以外には本当にぶっきらぼうな対応で笑える。ノワールが再びに不定形の靄になると、シルフ全体を包み込み、赤黒い繭玉のようになる。そこへ更に、ルークスの光の靄が入り込んでいった。
 赤黒い繭玉がビクンビクンと震える。中で何が起こっているのかは知りようもないけど、シルフが相当に抵抗しているみたいだね。

「あれはな、光の精霊が得意な『浄化』の一つだ」

 何故かアーテルの表情が忌々しそうだ。

「そもそもマテリアルな存在ではない精霊に記憶や精神というものがあるとかどうかはこの際置いておこう。それでも連中にはメンタルというものが間違いなくある」

 それはまあ理解できる。僕達とこうして意思疎通出来ているからね。ノワールだって、怒りや恐怖という感情を持っているし。

「ルークスはシルフの中に入り込み、光と闇を封印した理由や、今日の一連の出来事について何があったのか探るつもりなのさ」
「それはつまり、強制的に頭の中を覗かれるって事?」

 思わずそう聞き返すと、アーテルは肩を竦めながら答える。

「そうなるな。尋常な苦しみじゃない筈だ。イメージとは裏腹に、中々にエグいだろう?」

 僕は無言で頷きながら、まるで胎動しているかのように動く赤黒い繭玉を見つめていた。
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