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二章

反撃

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「フフフ! ハハハハ! 肉片も残らず消え去ったか!」

 そんな勝手な事を言いながら高笑いをしているシルフを、影の中から見ている。そしてどこから飛び出して攻撃したら、一番ヤツが驚くだろうかという算段をしているところだ。

(ご主人様。まだ実体化は出来ませんが、ご主人様の中でサポート出来るくらいには回復しました)

 そう話しかけてきたノワールのもやが、僕の中へと入ってくる。不思議だ。彼女は僕の中で回復しようとしているのに、彼女を受け入れた僕の方も力が漲ってくるようだ。一体感というなら、きっとこれがそうなんだろうね。
 
「さて、主人よ。そろそろやるか」

 アーテルが自分はもう動けるぞとアピールしてくる。彼女もやられっぱなしでは面白くないだろうし、ノワールが封印された事で力を失ったという意味では、四大精霊王は敵でもある。

「まずはこちらから先制しようか。僕がさっきやられた全方位からの攻撃を喰らわせてやろう」

 先程からシルフと戦いながら仕込んでいた火属性の魔法は優に百を超えた。都合よく、今は宵闇。世界そのものが『影』だからね。僕の好きな場所へ影収納から出現させられる。
 取り敢えず一発、シルフの直上に出現させて叩き落した。

「なにっ!?」

 ヤツからすれば、これもまた前兆のない魔法攻撃に感じられただろう。
 間一髪躱したヤツは、頭上を探す。もちろん、いもしない僕をだ。そして背後から一発。今度は至近距離から背中に直撃した。

「ぐはっ!? ど、どこだ!」

 ヤツの背後には建物の壁があるだけだ。探したところでいる訳もない。キョロキョロと視線を動かし、僕を探しているのが分かる。逆にこうなると、的確に不意打ちを喰らわすのは難しいね。

「まずは全弾叩きつけて、ヤツを叩き落すよ」
「うむ、承知したぞ」

 僕はシルフの全周を囲むように火球、炎弾を浮かべた。

「な……これほどの魔法を瞬時に!?」

 ヤツがこれだけ慌てるのには訳がある。通常、人間が同時に行使できる魔法はせいぜい二つ。腕利きの魔法使いでも三つか四つ。それ以上使える達人もいるだろうけど、そういう存在を人間扱いしてもいいのかっていう疑問はあるかな。で、僕が出来るのは身体強化も含めてせいぜい四つくらいだ。それ以上となると、脳に負担がかかりすぎて、あまりにもリスクが大きい。つまり、ヤツが驚愕しているのは、百を超える魔法を行使している事実について。
 当初の作戦では、僕が制御できる四つ程の火属性魔法で奴の隙を狙い、アーテルに強烈な一撃をぶつけてもらおうというつもりだったんだ。だけどノワールが僕と同化している今は、通常の人間では到底不可能な事もやってのけられる。

「ノワール、制御は任せた。アーテル、ヤツを存分に泣かしてやって。僕は特大のお見舞いしてやるよ」

 空中のシルフは、まるでオレンジ色の球体に包まれた卵のようにも見える。ただし、あれは全てシルフに害をなす敵意の炎。動きたくても動けないヤツから、イラつきのような感情が伝わって来る。

「喰らえ」

 百を超える炎がシルフに無慈悲に襲い掛かる。逃げる術などありはしない。ヤツに出来る事はせいぜい防御を固める事くらいだ。

「うおォォォォォ!」

 炎弾がぶつかる衝撃音と火球が爆発する轟音が響き渡り、同時にシルフが悲鳴を上げる。風の障壁を展開して威力を相殺しようと試みたのだろう。大したダメージを負っているようには見えない。だけど感じる魔力の大きさは明らかに小さくなっている。

『お楽しみはこれからだぞ?』

 火属性魔法をどうにか凌ぎ切り、一息ついたシルフの頭上に突如としてアーテルが現れた。巨大な神狼はその恐ろし気な口を大きく開き、雄叫びを上げた。

『ワオオオオオオオン!!』

 そして彼女の口から発せられたのはその咆哮だけではなかった。
 禍々しさすら感じる赤黒い魔力のエネルギー体。人間の頭より一回りほど大きいその球体は、まるで城壁を破壊する攻城兵器の鉄球の如く、シルフの顔面を直撃した。

「オゴッ?」

 物理的な威力を伴った魔力による攻撃は、数ばかり多い僕のチンケな火属性魔法を遥かに凌駕する威力でシルフを地面に叩きつけた。

「ありがとう、ノワール、アーテル。ここから僕のターンだ」

 僕の準備も整った。
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