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二章

激突

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「死ねェェェェ!」

 ヴィルベルヴィントが信じられないような踏み込みの速さで殴り掛かってきた。僕はそれを双短激をクロスにガードして受け止めるが――

「ぐうっ!?」

 勢いを殺す事が出来ずに吹き飛ばされてしまった。

「ご主人様!」
「大丈夫か主人!」

 二人が瞬時に僕に駆け寄って来る。ノワールは僕を抱きかかえ、アーテルが僕達を守るように立ちはだかった。
 ヴィルベルヴィントは倒れていた護衛の剣を取り、構えた。ウィザードのヴィルベルヴィントが剣だって?

「忌々しい闇の狼が。人間などにへつらうとは落ちぶれたな」
「ほう? 我を闇の者と知っておるとは、やはり貴様、シルフか」

 何だって!?
 確かにオスト家は風の精霊王の加護を受けた家系だけど、まさか精霊王が憑依しているのか?

「ふん。闇の精霊が封印されていては、流石の貴様も人間を頼るしかないという事か」
「つまり、我が力を出し切れる状態ではないと?」

 僕はノワールに大丈夫と言い聞かせ、立ち上がった。そして精霊王シルフが憑依しているヴィルベルヴィントとアーテルの会話から、出来るだけの情報を得ようとする。
 今までの行動と会話から考えられるのは、どの段階からは分からないけど、ヴィルベルヴィントは精霊王シルフの支配下にある事。そしてアーテルの解放はまだ知らないらしい事。
 そしてヴィルベルヴィントの襲撃は、彼の意志ではない可能性がある事。何しろ憑依されてるみたいだからね。そういう事なら出来れば殺さずに済ませたいけど……

「違うとでも言うか?」

 ヴィルベルヴィントはノーモーション、ノータイムで空気を圧縮して放つ魔法、エアブレットを数発撃ち込んで来た。
 ――ノーモーション、ノータイム?

「ふん」

 全く前触れなく放たれ、しかも不可視の空気の塊を拳で相殺するアーテル。どうやってんだろアレ。いや、魔法を連続して放ったのに、魔法を放つ前兆、つまり魔力を集めるといった様子は全く見られなかった。本当に、『いきなり』魔法が飛んできた。
 なんだろう……人間が繰り出す魔法とは根本的に違う気がする。そしてそれを難なく捌くアーテルも、人間を遥かに超越した存在だという事を、改めて思い知らされた。

「ほう? ただの出涸らしの狼かと思ったが、まだそんなに力を残していたか」

 エアブレットを弾き飛ばして体勢が崩れているアーテルへ、ヴィルベルヴィントが剣で斬り込む。僕はマックスで身体強化を施し、アーテルとヴィルベルヴィントの間へと飛び込み、短双戟を二本並列でフルスイングする。

「うおっ!?」

 恐らくヴィルベルヴィントの目には瞬間的に現れたであろう僕の攻撃を、ヤツは剣を盾にして辛うじて受け止めた。しかし、その衝撃は逃がしきれずに後方へ吹き飛ばされていく。しかし体勢を崩すまでには至らず、ヤツの剣を砕くに留まった。

「ふむ……その男も一筋縄でいかんか。狼めも思ったより力を失ってはおらん――ウゴァッ!?」

 そう話すヴィルベルヴィントに、ノワールが目にも止まらぬ速度で近付きジャンプしながら回し蹴りを放った。ヴィルベルヴィントは錐揉み状に吹き飛び、部屋の壁を突き破って外へ落下した。おいおい、ここって確か三階だよね? 身体は大丈夫かな?

「ご主人様、申し訳ありませんが加減なしで参戦いたします。は私を封印した四大精霊王の一人! ここで息の根を止めます!」

 うわ、すごく怒ってるよノワール。外に落ちていったヴィルベルヴィントを追いかけて、彼女も窓から飛び降りる。

「くっ、アーテル! ノワールを頼む!」
「承知した」

 後を追ったアーテルを見送ると、僕は少し離れた所で見ていたオスト公に声を掛けた。

「館の内部の人達を避難させて下さい!」
「う、うむ!」

 精霊王と大精霊が戦闘になる。ここには安全な場所なんてないだろう。せめて、離れてもらうしかない。
 ヴィルベルヴィントとノワールが飛び降りた先は中庭。僕も身体強化のまま飛び降りた。その先では、ヴィルベルヴィントとノワールが激しく激突していた。
 アレに飛び込むのは勇気がいるなあ……
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