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二章

聞いてたのと何か違う

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「ん? あっ!」

 ちょっと奇声を上げてしまったタッカーさんを、ヴィルベルヴィント様が目を細めて見る。すると、彼の方も何かに気付いたようだ。

「ほっほっほ。色々と話したい事もあろうが、まあリラックスしてからでもよかろう」

 口をパクパクさせている跡取り候補の二人を遮るように、オスト公が着席するよう促した。
 横長のテーブルの対面に、公爵家の二人。僕達はデライラと僕が両サイド、中央にタッカーさんとケルナーさんだ。
 全員がテーブルに着いたタイミングを見計らったかのように、二人のメイドさんがワゴンを押して入室してくる。テーブルにはいい香りのお茶と、ほのかに甘い香りがする焼き菓子が並べられていった。

「それはオスト領特産のハチミツを使っておる。口に合えば良いが」

 先程から幾分目力が緩んだオスト公が焼き菓子を勧めてくる。せっかくなので、練った小麦粉を少し固めに焼き上げたその菓子を一つまみ。
 ポリポリと心地の良い歯応えとともに口の中でそれが崩れていくと、バターの風味が広がっていく。その後、ほんのりと主張してくるハチミツの甘味。そんなにベタベタに甘い訳じゃないのに、ハチミツ独特の強い風味が味覚を刺激してくる。

「これは美味しいです」

 なんの飾り気もない言葉だけど、心からの賛辞だった。それがオスト公にも伝わったのか、厳めしい顔の彼が破顔した。

「そうか! それは良かった!」

 へえ、タッカーさんから聞いていたのと随分印象が違うな。タッカーさんもケルナーさんも、目の前のオスト公の態度に困惑してるみたいだ。

「ところで、私とどこかでお会いした事はありませんでしたか?」
「ええ、私もそう思っているのですが、はっきりと思い出せないのですよ」

 そんな時、互いにどこか見覚えがある。そんな態度を取っていたタッカーさんとヴィルベルヴィント様が言葉を交わす。どうしても思い出せないようで、奥歯に物が挟まったような表情だ。

「ほっほっほ。なんだお主ら、覚えておらんのか」
「え? お祖父じい様はご存知なのですか?」

 当人達が思い出せない事を、まさかのオスト公が知っているという事で、ヴィルベルヴィント様が目を見開く。

「泥団子だ」
「「あーーー!」」

 短く答えたオスト公の一言に、思わず二人が立ち上がって叫び声を上げる。なるほど。子供の頃にお仕置きされたあの事件だね。

「あの時は済まなんだな。身内ばかりに厳しくするのも、身内ばかりに優しくするのも、何か違うのだ。何者であろうが、等しく罰を与えねばならん。それが我が矜持故な。本来は孫がやった事であろう? だが、その矜持の為に衆目の中でお主にも罰を与えたのだ」
「ああ……」

 オスト公の言葉に、タッカーさんが納得したように息を漏らした。大人になった今なら分かるって事なんだろうか。

「そうか、君があの時の……済まなかった。あの時はパーティが退屈でね。同じ年頃の君を見つけて遊びに誘ったのは私なんだ。泥団子を投げ入れて悪戯しようと言い出したのも僕だ。まさかガラスが割れるとは思わなかったけどね」

 ヴィルベルヴィント様がそう言って苦笑する。なるほど、タッカーさんはどちらかと言えば巻き込まれた側だったのか。

「私はそのあたりの経緯をよく覚えてはいないのですが、公爵閣下のお仕置きはよく覚えておりますよ」

 つい先ほどまで随分と恨んでいましたがね。そう付け加えたタッカーさんに、オスト公が静かな笑みで返したのが印象的だ。

「ところで」

 オスト公の視線が、僕、そしてデライラへと移っていく。

「貴公らは、少人数でグリペン領のダンジョンを制覇したと聞いているが、間違いないかね?」

 おっと、こっちが本題なのかな?
それともポー前伯爵の死亡原因に繋げる布石なのか。

「ええ。ギルドマスターや副ギルドマスターには、随分と助けていただきました」
「そう謙遜せずともよい。あのグリペン候がプラチナランカーに推すほどなのだ。尋常な力の持ち主ではない事くらい分かる」
「……」

 どうやらこの老人、かなりの情報を持っているみたいだ。油断出来ないな。絶対にまだ隠しているカードがありそうだね。大物貴族、侮れない。
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