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二章
オスト公爵
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比較的ゆっくりとした速度で進み、王都まであと二日程の距離に迫っていた。
今まで立ち寄ってきたところの貴族達は、タッカーさんが言った通りいかにも小者という感じで、表だって敵対してくるような事はなかったみたいだ。
ちょっと嫌味な高圧的な態度を取ってくる伯爵クラスの領主もいたようだけど、タッカーさんがグリペン侯爵とよしみを通じている事を暗にほのめかした途端に大人しくなったらしい。
実際、こちらに旅立つより前、タッカーさんのところからグリペン侯爵へ使者が出立しており、友好関係を築こうとしているとの事だ。
とりあえずは僕の条件を呑んでもらっているようで何よりだ。
「隊長、前で公爵領の部隊が待ち構えてますが。やっちまいますか?」
よく言えば平和、悪く言えば退屈な数日だったんだけど、そんな平穏を打ち破るような報告が護衛の騎兵からもたらされた。
それにしても血の気が多いね。ケルナーさんによれば、こうなったのはデライラ達と訓練するようになってからみたいだけど。
その報告を聞いたケルナーさんも苦笑いだ。
「バカヤロウ。問答無用で攻撃するんじゃねえぞ。出迎えかも知れねえじゃねえか」
そもそも各領主には、『王都へ行くため領内を通過しますからね』っていう先触れを出してある。なので出迎えの部隊を出してきてもおかしくはない。もっとも、今までそんな部隊を出してきた領主はいなかった。せいぜい案内の兵が二名とかそんな感じ。
やがて出迎えの部隊の指揮官らしき男が接触してきた。
「ポー伯爵家のタッカー卿とお見受け致します。我が主、オスト公爵の命を受け、お迎えに上がりました」
「ご苦労。出来ればこのまま素通りしたいんだがな」
「ははは。それはご勘弁願います。晩餐の準備なども進めております故」
「はぁ……だよな。では、案内を頼む」
「はっ!」
あわよくば、というタッカーさんの申し出も一笑に付されて、タッカーさんは売られていく子牛のような顔になっていた。
考えてみれば、オスト公爵がたかが案内に部隊を繰り出してきた事自体、逃がさないぞという意思表示なのかも知れないね。まったく、上手い事を考える。大人数での出迎えって、なんとなく相手に対して敬意を払ってるようにも思えるから、格下のタッカーさんからすれば無碍に扱う訳には絶対にいかないもんね。
「浮かない表情ですな」
馬車に揺られながら窓の外を眺めるタッカーさんに、笑いをかみ殺した表情でケルナーさんが話しかける。
「お前は知らねえだろうけどな、あの爺さんおっかねえんだよマジで」
「ほう?」
「まだガキの頃にな、貴族が集まるパーティがあったんだがよ……」
遠い目をしながらタッカーさんが話し始めたエピソードはなかなか凄まじかった。そして面白かった。
なんでも、退屈なパーティに飽きたタッカーさんと、同年代の貴族の子供達が庭に出て遊んでいたらしい。そんな中、誰かが戯れに投げた泥団子がパーティが開かれていたホールのガラスを割り、会場は一時騒ぎになったそうだ。
「まあ、襲撃者が来たかと思った大人達は騒然となるよな。すぐさま警備の連中に捕まったよ。その時だ。腰に差していたワンドを抜いた爺さんがツカツカと歩いて来てよ」
――この痴れ者がぁっ!
そう激怒したオスト公爵がワンドを振るうと、局地的な竜巻が出現したらしい。それは動く事がなく、その場に留まったまま。明らかに魔法を行使した事によって発生したものだ。
「それからかれこれ二時間も、俺達はその竜巻の中でグルグルグルグル……もう気持ちが悪いとかそういうのも通り越してよ……」
二時間も魔法を? それは凄いな。どれだけの魔力量なんだろう。それにしてもお仕置きがえげつない。
「結局、涙と鼻水とゲロにまみれた俺が失神寸前に見たのは、土下座で公爵に謝罪してる親父だったんだけどな」
その姿は、タッカーさんにとって申し訳なさと共に情けなさを感じさせたらしい。彼はそこから親子の関係が徐々に狂っていったと話す。
「それから俺は武に強さを求め、親父は金に強さを求めた」
なるほど。マルセルが汚職に手を染めるようになったのは、ある意味タッカーさんが原因でもある訳で、そのせいで苦しんで来た領民もたくさんいる。その後始末と罪滅ぼしの為に、そして領民の為を思い、敢えて親殺しの汚名を被るつもりになったのか。
「気を付けろよ。アレは凄腕のウィザードだ。腕はゴールドランクにも匹敵すると言われている」
風のオスト家の当主か。戦士職は加齢と共に衰えるのが常だけど、魔法使い系は必ずしもそうじゃない。むしろ加齢によって熟練していく傾向もあるからね。確かに油断できないかも。
今まで立ち寄ってきたところの貴族達は、タッカーさんが言った通りいかにも小者という感じで、表だって敵対してくるような事はなかったみたいだ。
ちょっと嫌味な高圧的な態度を取ってくる伯爵クラスの領主もいたようだけど、タッカーさんがグリペン侯爵とよしみを通じている事を暗にほのめかした途端に大人しくなったらしい。
実際、こちらに旅立つより前、タッカーさんのところからグリペン侯爵へ使者が出立しており、友好関係を築こうとしているとの事だ。
とりあえずは僕の条件を呑んでもらっているようで何よりだ。
「隊長、前で公爵領の部隊が待ち構えてますが。やっちまいますか?」
よく言えば平和、悪く言えば退屈な数日だったんだけど、そんな平穏を打ち破るような報告が護衛の騎兵からもたらされた。
それにしても血の気が多いね。ケルナーさんによれば、こうなったのはデライラ達と訓練するようになってからみたいだけど。
その報告を聞いたケルナーさんも苦笑いだ。
「バカヤロウ。問答無用で攻撃するんじゃねえぞ。出迎えかも知れねえじゃねえか」
そもそも各領主には、『王都へ行くため領内を通過しますからね』っていう先触れを出してある。なので出迎えの部隊を出してきてもおかしくはない。もっとも、今までそんな部隊を出してきた領主はいなかった。せいぜい案内の兵が二名とかそんな感じ。
やがて出迎えの部隊の指揮官らしき男が接触してきた。
「ポー伯爵家のタッカー卿とお見受け致します。我が主、オスト公爵の命を受け、お迎えに上がりました」
「ご苦労。出来ればこのまま素通りしたいんだがな」
「ははは。それはご勘弁願います。晩餐の準備なども進めております故」
「はぁ……だよな。では、案内を頼む」
「はっ!」
あわよくば、というタッカーさんの申し出も一笑に付されて、タッカーさんは売られていく子牛のような顔になっていた。
考えてみれば、オスト公爵がたかが案内に部隊を繰り出してきた事自体、逃がさないぞという意思表示なのかも知れないね。まったく、上手い事を考える。大人数での出迎えって、なんとなく相手に対して敬意を払ってるようにも思えるから、格下のタッカーさんからすれば無碍に扱う訳には絶対にいかないもんね。
「浮かない表情ですな」
馬車に揺られながら窓の外を眺めるタッカーさんに、笑いをかみ殺した表情でケルナーさんが話しかける。
「お前は知らねえだろうけどな、あの爺さんおっかねえんだよマジで」
「ほう?」
「まだガキの頃にな、貴族が集まるパーティがあったんだがよ……」
遠い目をしながらタッカーさんが話し始めたエピソードはなかなか凄まじかった。そして面白かった。
なんでも、退屈なパーティに飽きたタッカーさんと、同年代の貴族の子供達が庭に出て遊んでいたらしい。そんな中、誰かが戯れに投げた泥団子がパーティが開かれていたホールのガラスを割り、会場は一時騒ぎになったそうだ。
「まあ、襲撃者が来たかと思った大人達は騒然となるよな。すぐさま警備の連中に捕まったよ。その時だ。腰に差していたワンドを抜いた爺さんがツカツカと歩いて来てよ」
――この痴れ者がぁっ!
そう激怒したオスト公爵がワンドを振るうと、局地的な竜巻が出現したらしい。それは動く事がなく、その場に留まったまま。明らかに魔法を行使した事によって発生したものだ。
「それからかれこれ二時間も、俺達はその竜巻の中でグルグルグルグル……もう気持ちが悪いとかそういうのも通り越してよ……」
二時間も魔法を? それは凄いな。どれだけの魔力量なんだろう。それにしてもお仕置きがえげつない。
「結局、涙と鼻水とゲロにまみれた俺が失神寸前に見たのは、土下座で公爵に謝罪してる親父だったんだけどな」
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「気を付けろよ。アレは凄腕のウィザードだ。腕はゴールドランクにも匹敵すると言われている」
風のオスト家の当主か。戦士職は加齢と共に衰えるのが常だけど、魔法使い系は必ずしもそうじゃない。むしろ加齢によって熟練していく傾向もあるからね。確かに油断できないかも。
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