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二章
丁度いい暇潰し
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タッカーさんの話を纏めるとこうだ。
マシューさん親子のバックアップは全面的に商業ギルドが請け負うよう取り計らう。その代わり、ブンドルの息が掛かった商会は徹底的に駆逐する為、その後のポーバーグ産業を支えるよう粉骨砕身する事。
ここでマシューさん、リンちゃんとはお別れって事になるね。
そして次、マルセルの死はタッカーさんが誅殺した事にする事。また、今回の事件の真実を口外しない事。
うん。これは確かに僕達にも都合がいい。中途半端に真実を含んでいる噂が飛び交うよりは、目立たなくていいじゃないかって話。僕達は富や名誉を求めている訳じゃないしね。
更に、タッカーさんが国王陛下に謁見する為に王都へ行く際、護衛として同行する事。これはタッカーさんというか、ポー伯爵家からの指名依頼扱いになる。これも旅路の足や衣食住、さらには刺客など、心配する事がほとんどない為、僕達には小さいメリットだらけだ。
「分かりました。指名依頼は冒険者ギルドを通して下さればお受けします。それと、こちらからも条件が一つ」
「ん、何だ?」
僕から条件が出されるとは思ってもいなかったんだろう。タッカーさんが怪訝な顔をした。
「このポー伯爵領の立て直しは勿論ですが、グリペン侯爵領の有事の際は協力して欲しいという事です」
グリペン侯爵は、最近のこの国の動向にきな臭いものを感じ、軍備を増強しようとしている。ダンジョンを潰して鉱山を再開発させているのがいい例だ。魔物の脅威が少なくなったのにも関わらず、軍備の増強。それはつまり、人間同士の戦いが起こると踏んでいるって事だよね。
「グリペン侯爵は僕達の故郷なので」
追加した僕の短い一言は、タッカーさんに刺さったらしい。彼も自分の領地を良くしたいと考え、父親と衝突してきたある意味骨のある人間だ。そんな彼に、僕の地元愛というか、そういった感情は心地よく聞こえたんだろうね。
「うむ! もし無事にこの領地を引き継ぐ事が出来たなら、必ずグリペン領の助けとなる事を約束しよう!」
△▼△
タッカーさんが王都に向かう準備にさらに数日必要という事で、僕達は引き続き同じ宿屋を定宿にして過ごしている。マシューさんもこのポーバーグで開店の準備という事で、正式に自分の店舗や家が決まるまでは、同じ宿で寝泊まりだ。
ただ、マシューさんは連日商業ギルドの方へ出向いていっており、かなり忙しく過ごしている。それに比べて僕等はかなり暇だ。
「ねえ、お城の戦士団の訓練でも見に行く?」
デライラは強さに貪欲だね。強くなる事で僕への借りを返そうとしているのかな。でもその提案は面白そうではある。街をぶらぶら見物するのも飽きてきたしね。
「またおしろ? いくいくー」
とリンちゃんもテンションマックスだ。ああ、マシューさんが忙しいので、僕等がリンちゃんの子守りをしているんだ。彼女はしっかりしてるから一人でも留守番が出来るだろうけど、だからと言って一人で置いておくのもしのびないからね。おかげで今ではみんなの妹的な存在になっている。一人だけおじいちゃんと孫の関係がいるけど。
「やあ、どうしたんだ? ケルナーさんなら訓練場で戦士団の訓練中だぞ?」
僕達の事は城の中でも有名なようで、城門の衛兵さんが気軽に声を掛けてきてくれる。訓練中とは都合がいいな。
「実はその訓練を見せていただけないかな、と」
「おお、ちょっと待っててくれ。今ケルナーさんに話してこよう」
僕の話を聞くやいなや、衛兵さんは走り去ってしまう。少し待つと、一人増えて戻って来た。
「何だって!? 訓練に参加してくれるってか!? 願ったり叶ったりだ! ウチの連中に是非稽古を付けてやってくれ!」
破顔っていうのはこういうのを言うのかな? キラッキラに笑顔を輝かせたケルナーさんがその増えたもう一人だ。
「いや、あの、見学で、参加じゃなくて、アーーーッ!?」
僕は笑顔のケルナーさんに引きずられて行った。そして引き摺られて行った先では。
「おいみんな喜べ! かのゴールドランク冒険者様が稽古を付けてくれるそうだ!」
『おおおおおおお!』
そんなケルナーさんの声に、訓練をしていた兵達が歓声を上げる。うわぁ、すごく男くさい。だけどそんな雰囲気に待ったを掛けたのがノワールとアーテルだった。
「お待ちなさい。ご主人様を倒すというなら、まずは私を倒してからにしていただきましょう」
ずいっと前にでたノワールがブンブンと数回回し蹴りを放ってファイティングポーズを取れば、
「その通り! 主人を倒す前にせめて従者の我等を倒してもらわねばなあ!」
ドッゴーンと音を立てて地面にそこそこの大きさのクレーターを作ったアーテルがニヤリと笑う。
「ちょっと待って! ゴールドランクに挑む前に、シルバーランクのあたしを相手にしてもらうわよ!」
今度はデライラ。ちょっと聞くと筋が通っているようにも聞こえるけど、どうなのかな?
それで、結局は三人で五十人以上いる戦士団員を叩きのめして死屍累々。それからタッカーさんの準備が整うまでの数日、毎日戦士団のシゴキに精を出す三人だった。
マシューさん親子のバックアップは全面的に商業ギルドが請け負うよう取り計らう。その代わり、ブンドルの息が掛かった商会は徹底的に駆逐する為、その後のポーバーグ産業を支えるよう粉骨砕身する事。
ここでマシューさん、リンちゃんとはお別れって事になるね。
そして次、マルセルの死はタッカーさんが誅殺した事にする事。また、今回の事件の真実を口外しない事。
うん。これは確かに僕達にも都合がいい。中途半端に真実を含んでいる噂が飛び交うよりは、目立たなくていいじゃないかって話。僕達は富や名誉を求めている訳じゃないしね。
更に、タッカーさんが国王陛下に謁見する為に王都へ行く際、護衛として同行する事。これはタッカーさんというか、ポー伯爵家からの指名依頼扱いになる。これも旅路の足や衣食住、さらには刺客など、心配する事がほとんどない為、僕達には小さいメリットだらけだ。
「分かりました。指名依頼は冒険者ギルドを通して下さればお受けします。それと、こちらからも条件が一つ」
「ん、何だ?」
僕から条件が出されるとは思ってもいなかったんだろう。タッカーさんが怪訝な顔をした。
「このポー伯爵領の立て直しは勿論ですが、グリペン侯爵領の有事の際は協力して欲しいという事です」
グリペン侯爵は、最近のこの国の動向にきな臭いものを感じ、軍備を増強しようとしている。ダンジョンを潰して鉱山を再開発させているのがいい例だ。魔物の脅威が少なくなったのにも関わらず、軍備の増強。それはつまり、人間同士の戦いが起こると踏んでいるって事だよね。
「グリペン侯爵は僕達の故郷なので」
追加した僕の短い一言は、タッカーさんに刺さったらしい。彼も自分の領地を良くしたいと考え、父親と衝突してきたある意味骨のある人間だ。そんな彼に、僕の地元愛というか、そういった感情は心地よく聞こえたんだろうね。
「うむ! もし無事にこの領地を引き継ぐ事が出来たなら、必ずグリペン領の助けとなる事を約束しよう!」
△▼△
タッカーさんが王都に向かう準備にさらに数日必要という事で、僕達は引き続き同じ宿屋を定宿にして過ごしている。マシューさんもこのポーバーグで開店の準備という事で、正式に自分の店舗や家が決まるまでは、同じ宿で寝泊まりだ。
ただ、マシューさんは連日商業ギルドの方へ出向いていっており、かなり忙しく過ごしている。それに比べて僕等はかなり暇だ。
「ねえ、お城の戦士団の訓練でも見に行く?」
デライラは強さに貪欲だね。強くなる事で僕への借りを返そうとしているのかな。でもその提案は面白そうではある。街をぶらぶら見物するのも飽きてきたしね。
「またおしろ? いくいくー」
とリンちゃんもテンションマックスだ。ああ、マシューさんが忙しいので、僕等がリンちゃんの子守りをしているんだ。彼女はしっかりしてるから一人でも留守番が出来るだろうけど、だからと言って一人で置いておくのもしのびないからね。おかげで今ではみんなの妹的な存在になっている。一人だけおじいちゃんと孫の関係がいるけど。
「やあ、どうしたんだ? ケルナーさんなら訓練場で戦士団の訓練中だぞ?」
僕達の事は城の中でも有名なようで、城門の衛兵さんが気軽に声を掛けてきてくれる。訓練中とは都合がいいな。
「実はその訓練を見せていただけないかな、と」
「おお、ちょっと待っててくれ。今ケルナーさんに話してこよう」
僕の話を聞くやいなや、衛兵さんは走り去ってしまう。少し待つと、一人増えて戻って来た。
「何だって!? 訓練に参加してくれるってか!? 願ったり叶ったりだ! ウチの連中に是非稽古を付けてやってくれ!」
破顔っていうのはこういうのを言うのかな? キラッキラに笑顔を輝かせたケルナーさんがその増えたもう一人だ。
「いや、あの、見学で、参加じゃなくて、アーーーッ!?」
僕は笑顔のケルナーさんに引きずられて行った。そして引き摺られて行った先では。
「おいみんな喜べ! かのゴールドランク冒険者様が稽古を付けてくれるそうだ!」
『おおおおおおお!』
そんなケルナーさんの声に、訓練をしていた兵達が歓声を上げる。うわぁ、すごく男くさい。だけどそんな雰囲気に待ったを掛けたのがノワールとアーテルだった。
「お待ちなさい。ご主人様を倒すというなら、まずは私を倒してからにしていただきましょう」
ずいっと前にでたノワールがブンブンと数回回し蹴りを放ってファイティングポーズを取れば、
「その通り! 主人を倒す前にせめて従者の我等を倒してもらわねばなあ!」
ドッゴーンと音を立てて地面にそこそこの大きさのクレーターを作ったアーテルがニヤリと笑う。
「ちょっと待って! ゴールドランクに挑む前に、シルバーランクのあたしを相手にしてもらうわよ!」
今度はデライラ。ちょっと聞くと筋が通っているようにも聞こえるけど、どうなのかな?
それで、結局は三人で五十人以上いる戦士団員を叩きのめして死屍累々。それからタッカーさんの準備が整うまでの数日、毎日戦士団のシゴキに精を出す三人だった。
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