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二章

タッカーの依頼

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 僕達が着席したタイミングで、メイドさんがお茶と茶菓子をテーブルに置いていく。貴族のマナーなんて知らずに今まで来たし、それでグリペン侯爵との会食も切り抜けた僕達は妙に度胸が付いていたようだ。
 一応毒かどうかの確認をする為にノワールが先立って一口だけ口に含んだ。彼女がコクリと頷くと、他の全員もティーカップに口を付けた。リンちゃんだけはコップに注がれたジュースだけど、それを両手で持ってちびちびと飲む姿が可愛らしい。
 マシューさんだけは緊張して喉を通らないみたいだけどね。

「それで、話というのはだな」

 タッカーさんが話を切り出した。リンちゃんが焼き菓子を両手で持って、ポリポリと食べている。うん。可愛い。メイドさん達も微笑みながらそれを見ている。

「あー、その少女が愛らしいのは同意するが、まずは俺の話を聞いてくれ」
「タッカー様は少女趣味でいらっしゃる?」
「違うわ! そうじゃなくて話を聞いてくれ!」

 あ、ハイ。

「単刀直入に言おう。今回の親父とブンドル商会との癒着の件を王家に報告するのは待って欲しい」

 なるほど。今回の話が明るみになれば、お家の存続すら危ぶまれるよね。さっきは『今の所跡取りになっている』なんて言ってたけど、確かに今だけなのかも知れない訳か。
 だけどあくまでもそれはそっちの都合だ。というか都合が良すぎる話だよね。僕達は命を狙われたんだ。

「それは随分と勝手な言い分ではないかと」
「ははっ。その通りだな。やはり長い物に巻かれるタイプではないか」

 当たり前だ。それならば最初からブンドルの護衛を引き受けている。

「それに、僕達になんのメリットがあるのでしょう?」
「うむ、直接的には何もないな」

 やけにハッキリと言い切る人だな。まるで交渉になる材料を持ち合わせていないのか、それとも切り札があるのか。

「ところでマシューと言ったか」
「は」

 いきなり話が飛んで来たマシューさんがビックリしている。

「こちらが調べたところでは、お前は王都の店を畳むという事だが」
「はい、その通りです。田舎で畑でも耕して暮らそうかと」
「そこでだ、マシュー。このポーバーグで商売をやってみる気はないか?」
「は?」

 マシューさんの目が点になっている。伯爵家から直々にそんな事を言われれば無理もない気もするけど。それにしても、タッカーさんはどういうつもりなんだろう?

「不敬かも知れんが敢えて言おう。折角親父が死んだんだ。この際、ブンドルの息が掛かった者達を一掃する。手始めに、デカい商会を潰すつもりだ。そうなれば商業ギルドとしても人材は欲しかろう?」

 へえ? この人はポーバーグに限った事とは言え、本気で改革を進めるつもりなのか。僕の中では評価は高くなった。

「しかし私は小さな店を営んでいただけの――」
「小なりと言えどもブンドルに圧力に抗して王都で店を構えていたのだろう? それに強みもあるのではないか?」
「強みです、か」

 つまり王都の商人とのコネクションの事だろうね。ここは王都から遠く離れているので、そういったコネクションは強みになると思う。

「それから、俺は王都に行かねばならん。親父の死やら何やら、陛下に報告せねばならんのでな。ここからが本題だ」
「タッカー様はブンドルとの癒着を王家に報告するなと仰いました」
「うむ。そこがまさに本題なのだ」

 タッカーさんは言う。
 今回の一件は、全て自分が主導で動いた事にしてもらいたい。つまり、父親の悪行の証拠を掴んだ上で粛清を行ったと。
 これは中々に難しい話なんじゃないかな? 不正を働いた領主を殺したのは手柄かもしれないが、同時に親殺しの悪名も被る事になる。また、それを王家に申し立てたとして、どちらに裁定が転ぶかも不透明だ。

「どうだ? お前達にもメリットのある話だろう?」
「なるほど……」

 確かに、直接的、金銭的なメリットは全くないと言っていいかもしれないけど、実際には領主を暗殺したのが僕だっていう噂は流れている。それをタッカーさんが自分の差し金だと公表する事で、僕への疑いの視線はそのうち消えていくだろう。
 あとは物品の売買の件。少なくともこの街ではブンドルの勢力が駆逐されていくだろうから、売買を妨害される恐れもない。

「更に、ポー家から各領地へ間諜を放とう。ブンドルが汚い商売をしているってな」

 イメージダウン作戦だね。それはいい。ブンドルには直接手を下してやりたいが、真綿で締め付けるような嫌がらせは是非お願いしたいところだ。

「マシュー親子の事は商業ギルドに話を通しておく。決して悪いようにはしない。それで、本日現時刻を以て、ショーン一行には俺からの指名依頼を受けてもらいたい」

 ここが正念場とばかり、タッカーさんが頭を下げてくる。また貴族からの指名依頼か……

「内容は?」
「俺が王都に着くまでの護衛。それと今回の事件を漏らさず、『手柄』を俺に譲る事だ」

 うん。悪くないね。
 ポー伯爵家の面々と一緒に行動していれば、王都に着くまでの間、ブンドルの息のかかった連中に襲撃される事は考えにくいしね。
 その代わり、報酬はちょっと吹っ掛けてもいいかな?
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