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二章

光と闇

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「デライラ、君は魔法はどうなの?」

 僕はデライラに訊ねた。光属性の魔力持ちなのが分かったんだから、ルークスあたりからレクチャーを受けて、多少は使えるようになったかも知れない。

「まだ無理ね。発動媒体――例えばグリペン侯爵のご先祖様が使ってたっていう聖剣でもあれば別でしょうけど」

 そっか。まだ数日しか経ってないし、その間は剣術修行に明け暮れていたらしいもんね。

「ルークスにグランツはどう?」
「使えますよ? ですが一応は属性の事は明るみにさせないという前提がありますのでね」
「うむ。光の事をバレんように、極々一般的に魔法しか使わん。もっとも、その枷を外せば大概の事は出来るがの」

 へえ、二人は使えるのか。

「例えば蘇生とか回復魔法みたいなものって使える?」

 僕の質問にはルークスが答えた。

「死者を生き返らせるという意味ならそういった魔法はありません。それはもはや神の御業の領域ですから。ですが、怪我や病気を回復させる魔法なら可能です」

 なるほど、治癒は可能か。それなら多少はキツめに痛めつけても大丈夫かな?
 目的はあくまでも襲撃の生き証人として宿の外に並べておく事。死人に口無しっていうのは向こうにとってはむしろ都合がいい。

「あの……ご主人様?」
「ん? なんだい?」

 ここでノワールが申し訳なさそうに話しかけてきた。

「闇魔法でも、怪我の状態から元に戻す事は出来ます」
「は?」

 何それ、闇魔法に治癒系の効果がある魔法なんて、そんなの初耳だぞ?

「正確には治癒とは全く異なる魔法ですし、影響を及ぼす範囲が広すぎて、その……ご主人様の保有する魔力の大部分がごっそりと持って行かれますので……」

 僕はノワールにその原理のようなものを詳しく聞いた。
そもそも治癒というのは、怪我や病気といった異常な状態が正常な状態に戻る事を言う。デライラ達の光属性魔法は、それを光の魔力の働きかけによって強制的に正常な状態に戻す。それを治癒魔法とか回復魔法とか言うんだけど、光と闇の属性が隠蔽された現在の世界ではロストテクノロジーだったりする。また、麻痺や毒、恐慌状態のような状態異常も光属性魔法で無効化出来るらしい。便利だよね。
 また、闇属性魔法における同様の効果をもたらす魔法とはどんなものなのか。敢えて『治癒魔法』とは言わないノワールに詳しい説明を求めると、それは驚くべき内容だった。

 どうもそれは範囲魔法に属するものであるらしく、任意の範囲(術者の魔力量に依存するが、極小の範囲に限定するのは難しい)の時空を一定時間元に戻す魔法だという。なるほど、時空を操ると言えば影泳ぎや影収納なんかもそうだよね。闇属性魔法の一つと言われれば納得もいく。
 ノワールが治癒と言わなかったのは、それは治す魔法ではなく元に戻す魔法だから。つまり、うまく使えば怪我をする前の状態に戻してやる事も出来るけど、別の人が折角治った怪我が元の状態に戻ってしまう恐れもある訳で。使いどころが難しい。

「あんたの力ってホント便利よね」

 ちょっと不貞腐れたようにデライラが言う。だけどそれにグランツが小言を挟んだ。

「お嬢よ、そう一言に言い切るものではないぞい。闇属性は確かにいろんな事が出来るが、その本質は敵を滅ぼす事じゃ。それに人間は闇というものに本能的な怖れを抱く。その使い手である事が明るみになれば、その者もまた忌み嫌われるであろうな」
「あ……」
「逆に、我等光属性は、大切なものを守る事に長けておる。闇に比べて出来る事は少ないが、インパクトがあり、人々が崇め奉る。それが光の特性じゃ」

 そうだよね。人は光を求め、闇を遠ざける。本能がそうするんだ。

「主人よ。人は光を善、闇を悪とすら決めつける輩もいた。だが、どちらも等しく女神ルーベラがつくりし属性。そこに善も悪もない。それを努々忘れないようにな」
「分かってるよ、アーテル。ありがとう」

 アーテルが大きな胸に抱え込むように僕の頭を抱きしめた。ブレストアーマーを付けていないアーテルの胸が柔らかすぎる。

「あっ! アーテル、代わりなさい! ご主人様を癒すのは私の役目です!」

 ノワールが垂れたウサ耳をピコンと立てて抗議する。かわいい。
 向こうでは、グランツがアーテルと同じようにデライラをハグしようとして、顔面にパンチを喰らっていた。すごいな。拳が顔にめり込んでる。あ、ポコンって元に戻った! 光魔法なのかな?
 僕もそろそろ息苦しくなってきたので、アーテルの腕をタップして解放してもらう。いい加減、外で囲んでる連中も動き出すだろうからね。

「さて、僕達は外の連中を片付けてくるよ。デライラ達は、もしもの時にマシューさん達と宿の人達を」
「分かったわ。夜の戦闘じゃあんた達に敵わないし。宿の方は任せてちょうだい」

 僕はそれにひとつ頷くと、ノワール、アーテルと共に影の中に潜り込んでいった。
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