上 下
68 / 206
二章

登場!

しおりを挟む
 屯所に飛び込んで来た聞き覚えのある声の持ち主は、ビシッと僕を指差して、眉を吊り上げていた。

「いったいあんたは何やってんのよ!」
「いや、冤罪を着せられそうになっちゃったんだよ。そういうデライラこそなんでここにいるのさ?」

 僕のその質問には答えず、デライラは僕達を囲んでいる兵士達へと視線を移した。

「あんた達、この人達が何者か分かってて拘束してるんでしょうね!?」

 そんなデライラの剣吞な言葉と視線に、隊長のケルナーが両手を上げて首を横に振った。実際には拘束していたロープはブチッとしているんだけど、見た目は包囲されているからね。

「俺はこの部隊を率いて来たケルナーだ。事情ならさっき聞いたよ。それよりあんたは?」

 ケルナーさんの話を聞いたデライラが、ちらりと視線で問いかけてくる。『大丈夫なの?』と。僕は無言でそれに頷いた。
 すると、彼女も若干雰囲気をやわらげた。

「あたしはデライラ。シルバーランク冒険者よ。他に仲間が二人いる。ノア・グリペン侯爵の依頼を受けて、そこのバカを助けに来たの。どうせ冤罪で捕まってるだろうからって」

 ケルナーさんはデライラの話を聞いて、力なく頷く。僕の話を聞いて、この場は無罪放免にしてくれるだろうし、この役人と直属の部下は買収の疑いでお上に突き出すのだろう。
 だけど、そこから先は当たり障りのない沙汰が下されて終わりだ。なにしろ領主がブンドル側の人間なのだから。
 その事を説明したケルナーさんだけど、デライラは納得した様子はない。

「それだと、あたし達が王都に向かった後ろから、闇討ちされるかもしれないわよね! 領主サマだって黒なんでしょ? あたし達を消しに来るかもね」

 ああ、そうか。それは有り得るかもね。人の部隊が来たところでそれほど脅威とは感じないし、闇討ちならむしろこちらの土俵だからなぁ。全く警戒すらしていなかった。

「あの、ご主人様。一度この領主とやらにお会いになられては?」
「ふむ……」

 ノワールの言葉に一考する。
 つまり、僕はグリペン侯爵の推薦を受けたプラチナランク候補の冒険者であり、僕と争う事はグリペン侯爵と争う事と同義である事。
 さらにこことグリペン領は隣接している為、ここの領主も侯爵と事を構えるのは相当の覚悟がいるはずだ。
そういう事でここの領主に脅しをかけろ、とノワールは言っている。

「説得が聞き届けられなかった場合は一戦も辞さず、だね」

 それでもダメだった時はそうなっちゃうよね。大して感情を込める訳でもなく、僕はそう呟いた。
 でも、その無感情さに戦慄を覚えたらしいケルナーさんが、額に汗を浮かべて話しかけて来た。

「まてまてあんたら! 伯爵様に喧嘩売りに行くつもりか?」
「いや、喧嘩売られたのは僕等の方なんですけど……」

実際その通りなんだよね。でも、今後一切ブンドル商会との関係を断つというなら、それで手討ちにしてもいいかなって考えている。

「そんな訳で、あたし達を伯爵にお目通ししてくれるかしら? この書状があれば伯爵もイヤとは言えないでしょ?」

 何がそんな訳なのかよく分からないけど、デライラが胸を張りながらケルナーさんにそう言い放った。この人も五十人からの部隊を率いる立場の人だし、顔を繋ぐ事くらいは出来るだろう。

「はぁ……やむを得んな」

 そう言いながら、部下に役人とその直属の兵士を縛りあげるよう指示を出すと、ノワールの方へ進んでいった。

「お嬢さん、済まなかったな。叩かれた頬の痛みを忘れてくれとは言わんが、どうか許してもらいたい」

 そう言って頭を下げる。

「数倍にしてお返ししたのでお気遣いなく」

 ノワールは表情を変える事なくそう答えたが、それでもケルナーさんは一安心したようで、部下に屯所を撤収するよう指示を出した。僕達が現れた事で検問を続ける意味も無くなったのだろう。この簡易的な建物は組み立ても解体も比較的容易にできるようで、解体を始める準備に掛かり始めた。

「では一行は我々が先導しますし、そこの彼等も我々が連行します。後ろに続いていただけますかな?」
「了解です」

 僕達は解体され始めた屯所を出て、外の馬車へと向かった。
 そこにはリンちゃんと戯れるグランツと、それを見ながら談笑するマシューさんとルークスがいた。
緊迫していた僕達とは裏腹に、なんとも緩んだ雰囲気だね。さすが光の大精霊と神獣と言ったところか。空気がなんとも柔らかで温かい。

「それにしても、あの梟じじいは大人も子供も、女なら関係ないのか」

 眉尻を下げながらだらしない表情でリンちゃんを愛でているグランツを見たアーテルがそう零した。
しおりを挟む
感想 283

あなたにおすすめの小説

異界の国に召喚されたら、いきなり魔王に攻め滅ぼされた

ふぉ
ファンタジー
突然の異世界召喚、ところが俺を召喚した奴はいつまで経っても姿を見せない。 召喚地点を誤爆でもしたのだろうか? ここは剣と魔法のファンタジー世界。 俺は剣も魔法も使えない、言葉だって分からない。 特技は数学とテレキネシス。 小さくて軽い物限定で、一度触れた物を動かすことが出来るだけの能力だ。 俺は能力を使って日銭を稼ぎ細々と生活するはずが、皇女を救い魔族と戦う英雄に。 そして皇女は死に戻りの能力者だった。 俺は魔神ギスケと呼ばれ、周辺諸国の陰謀に対処しながら魔族と戦うことになる。 気が付くと魔族よりヤバそうな敵が現れて、迎えるとんでもない事態。 元の世界に残してきた俺のソースコードがえらい事態を引き起こしているし、もう滅茶苦茶だ。 そんな最中、元の世界の知人と出会う。 一人は魔王の娘、そしてもう一人は先代魔王の息子だった。 どうなってるんだ、この世界は? --------- 同じ世界の魔王の息子側の話はこちらです。 《魔王の息子に転生したら、いきなり魔王が討伐された》 http://www.alphapolis.co.jp/content/cover/414067046/

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

【完結】国外追放の王女様と辺境開拓。王女様は落ちぶれた国王様から国を買うそうです。異世界転移したらキモデブ!?激ヤセからハーレム生活!

花咲一樹
ファンタジー
【錬聖スキルで美少女達と辺境開拓国造り。地面を掘ったら凄い物が出てきたよ!国外追放された王女様は、落ちぶれた国王様゛から国を買うそうです】 《異世界転移.キモデブ.激ヤセ.モテモテハーレムからの辺境建国物語》  天野川冬馬は、階段から落ちて異世界の若者と魂の交換転移をしてしまった。冬馬が目覚めると、そこは異世界の学院。そしてキモデブの体になっていた。  キモデブことリオン(冬馬)は婚活の神様の天啓で三人の美少女が婚約者になった。  一方、キモデブの婚約者となった王女ルミアーナ。国王である兄から婚約破棄を言い渡されるが、それを断り国外追放となってしまう。  キモデブのリオン、国外追放王女のルミアーナ、義妹のシルフィ、無双少女のクスノハの四人に、神様から降ったクエストは辺境の森の開拓だった。  辺境の森でのんびりとスローライフと思いきや、ルミアーナには大きな野望があった。  辺境の森の小さな家から始まる秘密国家。  国王の悪政により借金まみれで、沈みかけている母国。  リオンとルミアーナは母国を救う事が出来るのか。 ※激しいバトルは有りませんので、ご注意下さい カクヨムにてフォローワー2500人越えの人気作    

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

やくもあやかし物語

武者走走九郎or大橋むつお
ファンタジー
やくもが越してきたのは、お母さんの実家。お父さんは居ないけど、そこの事情は察してください。 お母さんの実家も周囲の家も百坪はあろうかというお屋敷が多い。 家は一丁目で、通う中学校は三丁目。途中の二丁目には百メートルほどの坂道が合って、下っていくと二百メートルほどの遠回りになる。 途中のお屋敷の庭を通してもらえれば近道になるんだけど、人もお屋敷も苦手なやくもは坂道を遠回りしていくしかないんだけどね……。

処理中です...