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一章

第六の属性

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 光の者。ノワールとアーテルは察しているようだ。僕もなんとなく分かる。
 闇があるなら光もって事なんだろう。

「あなたも封印されていたの?」

 ノワールがコテンと首を傾げて光の大精霊とやらに問いかける。可愛い。
 サマンサギルド長とイヴァン副ギルド長は目の前で起こっている光景に理解が追い付かずに固まっているし、デライラはポケーっと乳白色の人型のもやを見つめているね。

「あなた?」
「ええ、私も封印されていたの。でもご主人様が助けてくれた」

 そう言ってノワールが僕の腕をぎゅっと抱きしめる。

「なるほど。その者からは途轍もない闇の魔力を感じる。我等が封印される以前にまで遡っても、それほどの者はいなかったな」
「ええ。ご主人様は凄いの」

 ノワールドヤ顔。てか、そうなの? 僕の魔力って、そんなに凄いの?

「うむ。そしてこの者もな」

 靄が人の形をしているだけで目も口もない。でもそれは明らかにデライラの方を見てそう言っているように思えた。

「闇の大精霊よ。其方と私で、情報のすり合わせが必要なようだな」
「そうね。同意するわ。でも、私の事はノワールと呼びなさい。ご主人様から頂いた素晴らしい名前です」
「名前? 其方はその人間に仕えているのか?」
「ええ、私はご主人様の命が尽きるまで、眷属としてお側に仕えると誓いました」

 そうしたやり取りの後、乳白色の靄はふむ、と顎に手をやる仕草をした。靄のくせに表現力が高いね。

「娘よ。私を解き放ってくれた件に関しては感謝せねばなるまい」
「はぁ……?」
「光の魔力を有している其方ならば、私の力も扱えよう」
「はぁ……」

 今一つ事態が飲み込めないデライラは、気の抜けた返事をする事しかできない。それにしても光の大精霊、ノワールと比べてやや上から目線だよね。
 でも、本来はそういうものなのかな? 大精霊から見たら、人間なんてちっぽけな存在だろうし。

「名前だ」
「はい?」
「私に名前を付けるのだ。さすれば、其方の眷属として力を貸そう」
「……そう言われても、そんな靄みたいな姿じゃイメージが湧かないわ」

 まあ、デライラの言う通りだよね。僕とノワールの場合は黒ウサギの時から絆を築き上げてきた。黒くて美しい毛並み。だから『ノワール』だ。アーテルも同じ闇属性の者としてシンパシーを感じたし、やはり彼女の『黒』は美しい。だから『アーテル』だ。
 でもデライラの目の前の存在は、ただの靄だもんね。僕が名前を付けるとしたら『ミルク』とか、そんなのしか思い浮かばないよ。

「ふむ、人はその見た目からイメージを作りあげるものか」

 デライラに注文を付けられた光の大精霊は、ちらりとノワールを見た……ような気がした。すると、靄の輪郭が徐々にくっきりとしてきた。
 そして現れたのは……

「キャアアア!」

 デライラが慌てて両手で顔を覆い、後ろを向いた。
 輝くようなシルバーブロンドの髪は緩やかなウェーブがかかり、肌は抜けるように白い。彫りの深い顔と均整の取れた身体。それはもう羨ましいくらいのイケメンだ。
 ただし全裸だったけどね。

「見ちゃった……ぶらぶら……見ちゃった……ショーンの小さい頃と全然ちがう……」

 デライラがブツブツ呟いてるけど、幼い頃の僕と比べるのはやめてください。メンタルに効きます。
 仕方ない。僕は影収納から適当に予備の服を見繕ってイケメンに渡した。

「人間の社会では服を着ていないとちょっとまずいんですよ。これを着て下さい」
「ふむ……すまんな。人型になるのは初めてなのでな」

 麻のズボンにサンダル、麻のシャツ。ひたすらシンプルなザ・村人スタイル。イケメン過ぎて全然似合ってないけど、後の事はデライラに任せよう。

「ねえ、ショーン……」

 デライラが困った顔で助けを求めてきた。

「あたし、あんたみたいに博識じゃないもの」

 うーん。確かに彼女は活発で元気があるけど勉強は嫌いな子だったもんなぁ。

「ルークス。古代言語で『光』という意味だよ」
「いいわね! じゃああんたは今からルークスよ!」

 結局僕が考えた名前になっちゃうけどそれでいいのかい? 光の大精霊さん?

「うむ。良い名だ」

 ルークスさん、鷹揚に頷いてるけどいいんだ……?
 さて、光の大精霊がいるという事は、この世界には伏せられた『第六の属性』があるという事なんだろう。ノワールも含めて、封印された事情とか、色々と話を聞かなきゃいけないな。
 あちらで固まってるギルドの二人を復活させてからね。
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