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一章
推論
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「そりゃあ、あんたと離れてから、思うように動かない自分の身体に違和感はあったわよ。でも、鍛錬すれば克服出来ると思ってた……」
再び進み始めた馬車の中で、デライラがそんな事を言う。
そっか。僕と離れてからずっと、彼女は自分を鍛えていたんだ。だから以前より動きがキレていたのかな。
「それで、あんたがそうなったのは、そこのノワールのおかげって訳?」
「魔法を使えるようになったって意味ならそうだよ」
デライラの問いかけに、僕は正直に答えた。だけど真実を話している訳でもない。どうやら冒険者になるためにこの街に来て、僕はすっかり人間不信に陥ってしまったらしい。幼馴染のデライラですら、心の底から信じる事は出来ないみたいだ。
「それに、ノワールを助ける前から君は僕と一緒のパーティだったじゃないか。その頃だってちゃんと動けただろう? 全部が全部ノワールに起因する事じゃない」
「……それもそうね」
僕のバフの事を言っているのであれば、ノワールは全くの無関係だと思う。ただ、闇属性に覚醒した僕の力が上がって、バフの効果が強くなった事は考えられるけどね。
「ではやはり、主人が自分の仲間と認識すれば、その相手はバフの恩恵にあずかれる訳だな」
「そうですね。ギルド長と副ギルド長もそのようにした方が良いでしょう」
ふむ。アーテルとノワールの言う通りか。
おそらく、あの二人の目は誤魔化せないだろうし、それならいっそ、二人に大活躍してもらった方が、僕が目立たなくていいかも知れない。
何しろ、何者かの意図が働いて、闇属性がなかった事にされているのが今の世界だからね。迂闊にこの力を広める訳にはいかない。
かと言って、すでにゴールドランカーとしてある程度知られているからには、それなりの力も示さなくちゃいけない。匙加減が難しいけど、四大属性の魔法を駆使しながら、身体強化で近接戦闘もこなす魔法戦士的な感じでいく事にしよう。
初日の魔物の襲撃はさっきのクレイズベアだけで、日も暮れかかった頃には無事に野営地に到着した。野営地ともなれば当然水場の近くになるんだけど、ここは森の中を流れる川辺だ。
一日に進める距離なんて誰も彼も似たようなものだし、その上で野営の条件を満たす場所となると限られてくるのは必然だ。すると、毎回同じ場所が野営地として使われるのもまた必然。
「今日はこの竈を使わせてもらうか」
という具合に、過去にこの場所で野営した人達が石を組み上げて作った簡易的な竈なんかもそれなりの数があったりする。歴史を重ねていけば、こういう場所に宿場町が出来ていくのかも知れないね。
僕は土系統の魔法で簡易的な厩を作った。馬車を引いてきた馬を繋いでいる木の周りを囲むように壁を作り、屋根も掛けた。これで馬も多少なりとも風雨を凌げるね。
「ありがとう、ショーン。助かるわ。私は土系統の精霊にはあんまり好かれていないのよ」
サマンサギルド長がそう言いながら僕を見る。そんな事言ったら僕は四大属性の全ての精霊に嫌われているけどね。
寝泊まりする為のテントや、食事を準備する為の食器や調理器具、さらには水や食料なども侯爵から貸し出されたマジックバッグに入っており、それほど苦労する事なく野営の準備を終えた。
竈に火を入れ大きな鍋を置く。今日倒したクレイズベアの肉を一口大に切って鍋の中に放り込む。そして持ち込んだ野菜をぶつ切りにしてこれも鍋の中へ。調味料はさすがにそれほど多くは持ってきていないので、シンプルな味付けだ。アクを掬いながら煮えるの待つ。
程よく煮えたところで全員に鍋の中身を注ぐ。野性味あふれる匂いが食欲を刺激するなぁ。
そして僕達は焚火を囲み、スープ皿から匙で具を掬って食べながらの歓談の時間だ。どうしても話題になるのは昼間のデライラの戦闘の事だよね。というか、ギルドの二人が本質を見極めようとしているみたいだ。
「お前さん、身体強化とか出来たのか?」
スープ皿の中身を飲み干したイヴァン副ギルド長がデライラに訊いた。ストレートな質問に聞こえるけど、その実は僕の情報を聞き出したいんだろうね。ソードファイターであるデライラが身体強化なんて使える訳がないんだから。
「いいえ。あたしの魔力が基準値に達していないのは、ギルドの方でも承知してると思うんですが?」
という事で、デライラが自前の魔力で身体強化を施している説は本人によって一蹴される。
「……となると」
「ショーン、あなたが原因かしら?」
イヴァン副ギルド長とサマンサギルド長の視線がぐるんとこちらに向く。
「原因、と言いますと?」
「お前さんが、外から身体強化を掛けてんじゃねえかって事だよ」
一応惚けてみるものの、イヴァン副ギルド長の視線は鋭い。
でも、その説に関しては僕も首を傾げざるを得ない。だって、他人に自分の魔力を使って身体強化を施すなんて、聞いた事がないもの。
それに、僕が常時発動させているスキルのせいだって仮説はあっても、僕自身それを実感できていないから断言も出来ない。
「僕が意識してそんな難しい事をしているなんて事ないです。そんな事出来るんなら、教えて欲しいですね」
そんな僕の答えに、二人共暫しの間考え込んだ。そして大きく息を吐いてから、イヴァン副ギルド長が口を開いた。
「確かに他人に身体強化を掛ける魔法なんて今まで聞いた事がねえんだよなぁ」
「でもデライラの話から総合するに、あなたと一緒に戦っている時は普段以上の力が出せてたんじゃないかっていう、限りなく確信に近い推論も成り立つのよ」
そうか。合同クエストの後、デライラはギルドの事情聴取を受けてたんだっけ。そうなると、僕とパーティを組んでいた時の活躍ぶりと、僕がいない状況での戦いぶりの落差について説明をせざるを得なかっただろうな。
もしデライラが新しいパーティでも評判通りの働きを見せていたなら、僕もノワールもアイツらに襲われる事はなかったかも知れないもんね。
んー、どうしたもんかなぁ?
「ご主人様?」
そこで今までずっと静かに聞き役に徹していたノワールが動いた。
「この先ギルドのお二人とも共闘する機会もあるでしょう。その時になって戸惑われるよりは、今お話しておくのが良いと思います。どの道、私達にもよく分かっていない事が多いのですから、話せる事もそう多くは有りません」
なるほど。それもそうか。
(それに、事がご主人様の不利益になるような事態になれば、私とアーテルが全力で怒ります)
(うむ。大暴れだな!)
最後のヤバい会話は幸いにも脳内で話しかけてくれた。でも大暴れとかはやめてね?
国が亡びるから。
再び進み始めた馬車の中で、デライラがそんな事を言う。
そっか。僕と離れてからずっと、彼女は自分を鍛えていたんだ。だから以前より動きがキレていたのかな。
「それで、あんたがそうなったのは、そこのノワールのおかげって訳?」
「魔法を使えるようになったって意味ならそうだよ」
デライラの問いかけに、僕は正直に答えた。だけど真実を話している訳でもない。どうやら冒険者になるためにこの街に来て、僕はすっかり人間不信に陥ってしまったらしい。幼馴染のデライラですら、心の底から信じる事は出来ないみたいだ。
「それに、ノワールを助ける前から君は僕と一緒のパーティだったじゃないか。その頃だってちゃんと動けただろう? 全部が全部ノワールに起因する事じゃない」
「……それもそうね」
僕のバフの事を言っているのであれば、ノワールは全くの無関係だと思う。ただ、闇属性に覚醒した僕の力が上がって、バフの効果が強くなった事は考えられるけどね。
「ではやはり、主人が自分の仲間と認識すれば、その相手はバフの恩恵にあずかれる訳だな」
「そうですね。ギルド長と副ギルド長もそのようにした方が良いでしょう」
ふむ。アーテルとノワールの言う通りか。
おそらく、あの二人の目は誤魔化せないだろうし、それならいっそ、二人に大活躍してもらった方が、僕が目立たなくていいかも知れない。
何しろ、何者かの意図が働いて、闇属性がなかった事にされているのが今の世界だからね。迂闊にこの力を広める訳にはいかない。
かと言って、すでにゴールドランカーとしてある程度知られているからには、それなりの力も示さなくちゃいけない。匙加減が難しいけど、四大属性の魔法を駆使しながら、身体強化で近接戦闘もこなす魔法戦士的な感じでいく事にしよう。
初日の魔物の襲撃はさっきのクレイズベアだけで、日も暮れかかった頃には無事に野営地に到着した。野営地ともなれば当然水場の近くになるんだけど、ここは森の中を流れる川辺だ。
一日に進める距離なんて誰も彼も似たようなものだし、その上で野営の条件を満たす場所となると限られてくるのは必然だ。すると、毎回同じ場所が野営地として使われるのもまた必然。
「今日はこの竈を使わせてもらうか」
という具合に、過去にこの場所で野営した人達が石を組み上げて作った簡易的な竈なんかもそれなりの数があったりする。歴史を重ねていけば、こういう場所に宿場町が出来ていくのかも知れないね。
僕は土系統の魔法で簡易的な厩を作った。馬車を引いてきた馬を繋いでいる木の周りを囲むように壁を作り、屋根も掛けた。これで馬も多少なりとも風雨を凌げるね。
「ありがとう、ショーン。助かるわ。私は土系統の精霊にはあんまり好かれていないのよ」
サマンサギルド長がそう言いながら僕を見る。そんな事言ったら僕は四大属性の全ての精霊に嫌われているけどね。
寝泊まりする為のテントや、食事を準備する為の食器や調理器具、さらには水や食料なども侯爵から貸し出されたマジックバッグに入っており、それほど苦労する事なく野営の準備を終えた。
竈に火を入れ大きな鍋を置く。今日倒したクレイズベアの肉を一口大に切って鍋の中に放り込む。そして持ち込んだ野菜をぶつ切りにしてこれも鍋の中へ。調味料はさすがにそれほど多くは持ってきていないので、シンプルな味付けだ。アクを掬いながら煮えるの待つ。
程よく煮えたところで全員に鍋の中身を注ぐ。野性味あふれる匂いが食欲を刺激するなぁ。
そして僕達は焚火を囲み、スープ皿から匙で具を掬って食べながらの歓談の時間だ。どうしても話題になるのは昼間のデライラの戦闘の事だよね。というか、ギルドの二人が本質を見極めようとしているみたいだ。
「お前さん、身体強化とか出来たのか?」
スープ皿の中身を飲み干したイヴァン副ギルド長がデライラに訊いた。ストレートな質問に聞こえるけど、その実は僕の情報を聞き出したいんだろうね。ソードファイターであるデライラが身体強化なんて使える訳がないんだから。
「いいえ。あたしの魔力が基準値に達していないのは、ギルドの方でも承知してると思うんですが?」
という事で、デライラが自前の魔力で身体強化を施している説は本人によって一蹴される。
「……となると」
「ショーン、あなたが原因かしら?」
イヴァン副ギルド長とサマンサギルド長の視線がぐるんとこちらに向く。
「原因、と言いますと?」
「お前さんが、外から身体強化を掛けてんじゃねえかって事だよ」
一応惚けてみるものの、イヴァン副ギルド長の視線は鋭い。
でも、その説に関しては僕も首を傾げざるを得ない。だって、他人に自分の魔力を使って身体強化を施すなんて、聞いた事がないもの。
それに、僕が常時発動させているスキルのせいだって仮説はあっても、僕自身それを実感できていないから断言も出来ない。
「僕が意識してそんな難しい事をしているなんて事ないです。そんな事出来るんなら、教えて欲しいですね」
そんな僕の答えに、二人共暫しの間考え込んだ。そして大きく息を吐いてから、イヴァン副ギルド長が口を開いた。
「確かに他人に身体強化を掛ける魔法なんて今まで聞いた事がねえんだよなぁ」
「でもデライラの話から総合するに、あなたと一緒に戦っている時は普段以上の力が出せてたんじゃないかっていう、限りなく確信に近い推論も成り立つのよ」
そうか。合同クエストの後、デライラはギルドの事情聴取を受けてたんだっけ。そうなると、僕とパーティを組んでいた時の活躍ぶりと、僕がいない状況での戦いぶりの落差について説明をせざるを得なかっただろうな。
もしデライラが新しいパーティでも評判通りの働きを見せていたなら、僕もノワールもアイツらに襲われる事はなかったかも知れないもんね。
んー、どうしたもんかなぁ?
「ご主人様?」
そこで今までずっと静かに聞き役に徹していたノワールが動いた。
「この先ギルドのお二人とも共闘する機会もあるでしょう。その時になって戸惑われるよりは、今お話しておくのが良いと思います。どの道、私達にもよく分かっていない事が多いのですから、話せる事もそう多くは有りません」
なるほど。それもそうか。
(それに、事がご主人様の不利益になるような事態になれば、私とアーテルが全力で怒ります)
(うむ。大暴れだな!)
最後のヤバい会話は幸いにも脳内で話しかけてくれた。でも大暴れとかはやめてね?
国が亡びるから。
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