上 下
35 / 206
一章

推論

しおりを挟む
「そりゃあ、あんたと離れてから、思うように動かない自分の身体に違和感はあったわよ。でも、鍛錬すれば克服出来ると思ってた……」

 再び進み始めた馬車の中で、デライラがそんな事を言う。
 そっか。僕と離れてからずっと、彼女は自分を鍛えていたんだ。だから以前より動きがキレていたのかな。

「それで、あんたがそうなったのは、そこのノワールのおかげって訳?」
「魔法を使えるようになったって意味ならそうだよ」

 デライラの問いかけに、僕は正直に答えた。だけど真実を話している訳でもない。どうやら冒険者になるためにこの街に来て、僕はすっかり人間不信に陥ってしまったらしい。幼馴染のデライラですら、心の底から信じる事は出来ないみたいだ。

「それに、ノワールを助ける前から君は僕と一緒のパーティだったじゃないか。その頃だってちゃんと動けただろう? 全部が全部ノワールに起因する事じゃない」
「……それもそうね」

 僕のバフの事を言っているのであれば、ノワールは全くの無関係だと思う。ただ、闇属性に覚醒した僕の力が上がって、バフの効果が強くなった事は考えられるけどね。

「ではやはり、主人が自分の仲間と認識すれば、その相手はバフの恩恵にあずかれる訳だな」
「そうですね。ギルド長と副ギルド長もそのようにした方が良いでしょう」

 ふむ。アーテルとノワールの言う通りか。
 おそらく、あの二人の目は誤魔化せないだろうし、それならいっそ、二人に大活躍してもらった方が、僕が目立たなくていいかも知れない。
 何しろ、何者かの意図が働いて、闇属性がなかった事にされているのが今の世界だからね。迂闊にこの力を広める訳にはいかない。
 かと言って、すでにゴールドランカーとしてある程度知られているからには、それなりの力も示さなくちゃいけない。匙加減が難しいけど、四大属性の魔法を駆使しながら、身体強化で近接戦闘もこなす魔法戦士的な感じでいく事にしよう。

 初日の魔物の襲撃はさっきのクレイズベアだけで、日も暮れかかった頃には無事に野営地に到着した。野営地ともなれば当然水場の近くになるんだけど、ここは森の中を流れる川辺だ。
 一日に進める距離なんて誰も彼も似たようなものだし、その上で野営の条件を満たす場所となると限られてくるのは必然だ。すると、毎回同じ場所が野営地として使われるのもまた必然。

「今日はこの竈を使わせてもらうか」

 という具合に、過去にこの場所で野営した人達が石を組み上げて作った簡易的な竈なんかもそれなりの数があったりする。歴史を重ねていけば、こういう場所に宿場町が出来ていくのかも知れないね。
 僕は土系統の魔法で簡易的な厩を作った。馬車を引いてきた馬を繋いでいる木の周りを囲むように壁を作り、屋根も掛けた。これで馬も多少なりとも風雨を凌げるね。

「ありがとう、ショーン。助かるわ。私は土系統の精霊にはあんまり好かれていないのよ」

 サマンサギルド長がそう言いながら僕を見る。そんな事言ったら僕は四大属性の全ての精霊に嫌われているけどね。
 寝泊まりする為のテントや、食事を準備する為の食器や調理器具、さらには水や食料なども侯爵から貸し出されたマジックバッグに入っており、それほど苦労する事なく野営の準備を終えた。
 竈に火を入れ大きな鍋を置く。今日倒したクレイズベアの肉を一口大に切って鍋の中に放り込む。そして持ち込んだ野菜をぶつ切りにしてこれも鍋の中へ。調味料はさすがにそれほど多くは持ってきていないので、シンプルな味付けだ。アクを掬いながら煮えるの待つ。
 程よく煮えたところで全員に鍋の中身を注ぐ。野性味あふれる匂いが食欲を刺激するなぁ。
 そして僕達は焚火を囲み、スープ皿から匙で具を掬って食べながらの歓談の時間だ。どうしても話題になるのは昼間のデライラの戦闘の事だよね。というか、ギルドの二人が本質を見極めようとしているみたいだ。

「お前さん、身体強化とか出来たのか?」

 スープ皿の中身を飲み干したイヴァン副ギルド長がデライラに訊いた。ストレートな質問に聞こえるけど、その実は僕の情報を聞き出したいんだろうね。ソードファイターであるデライラが身体強化なんて使える訳がないんだから。

「いいえ。あたしの魔力が基準値に達していないのは、ギルドの方でも承知してると思うんですが?」

 という事で、デライラが自前の魔力で身体強化を施している説は本人によって一蹴される。

「……となると」
「ショーン、あなたが原因かしら?」

 イヴァン副ギルド長とサマンサギルド長の視線がぐるんとこちらに向く。

「原因、と言いますと?」
「お前さんが、外から身体強化を掛けてんじゃねえかって事だよ」

 一応惚けてみるものの、イヴァン副ギルド長の視線は鋭い。
 でも、その説に関しては僕も首を傾げざるを得ない。だって、他人に自分の魔力を使って身体強化を施すなんて、聞いた事がないもの。
 それに、僕が常時発動させているスキルのせいだって仮説はあっても、僕自身それを実感できていないから断言も出来ない。

「僕が意識してそんな難しい事をしているなんて事ないです。そんな事出来るんなら、教えて欲しいですね」

 そんな僕の答えに、二人共暫しの間考え込んだ。そして大きく息を吐いてから、イヴァン副ギルド長が口を開いた。

「確かに他人に身体強化を掛ける魔法なんて今まで聞いた事がねえんだよなぁ」
「でもデライラの話から総合するに、あなたと一緒に戦っている時は普段以上の力が出せてたんじゃないかっていう、限りなく確信に近い推論も成り立つのよ」

 そうか。合同クエストの後、デライラはギルドの事情聴取を受けてたんだっけ。そうなると、僕とパーティを組んでいた時の活躍ぶりと、僕がいない状況での戦いぶりの落差について説明をせざるを得なかっただろうな。
 もしデライラが新しいパーティでも評判通りの働きを見せていたなら、僕もノワールもアイツらに襲われる事はなかったかも知れないもんね。
 んー、どうしたもんかなぁ?

「ご主人様?」

 そこで今までずっと静かに聞き役に徹していたノワールが動いた。

「この先ギルドのお二人とも共闘する機会もあるでしょう。その時になって戸惑われるよりは、今お話しておくのが良いと思います。どの道、私達にもよく分かっていない事が多いのですから、話せる事もそう多くは有りません」

 なるほど。それもそうか。

(それに、事がご主人様の不利益になるような事態になれば、私とアーテルが全力で怒ります)
(うむ。大暴れだな!)

 最後のヤバい会話は幸いにも脳内で話しかけてくれた。でも大暴れとかはやめてね?
 国が亡びるから。
しおりを挟む
感想 283

あなたにおすすめの小説

異界の国に召喚されたら、いきなり魔王に攻め滅ぼされた

ふぉ
ファンタジー
突然の異世界召喚、ところが俺を召喚した奴はいつまで経っても姿を見せない。 召喚地点を誤爆でもしたのだろうか? ここは剣と魔法のファンタジー世界。 俺は剣も魔法も使えない、言葉だって分からない。 特技は数学とテレキネシス。 小さくて軽い物限定で、一度触れた物を動かすことが出来るだけの能力だ。 俺は能力を使って日銭を稼ぎ細々と生活するはずが、皇女を救い魔族と戦う英雄に。 そして皇女は死に戻りの能力者だった。 俺は魔神ギスケと呼ばれ、周辺諸国の陰謀に対処しながら魔族と戦うことになる。 気が付くと魔族よりヤバそうな敵が現れて、迎えるとんでもない事態。 元の世界に残してきた俺のソースコードがえらい事態を引き起こしているし、もう滅茶苦茶だ。 そんな最中、元の世界の知人と出会う。 一人は魔王の娘、そしてもう一人は先代魔王の息子だった。 どうなってるんだ、この世界は? --------- 同じ世界の魔王の息子側の話はこちらです。 《魔王の息子に転生したら、いきなり魔王が討伐された》 http://www.alphapolis.co.jp/content/cover/414067046/

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

【完結】国外追放の王女様と辺境開拓。王女様は落ちぶれた国王様から国を買うそうです。異世界転移したらキモデブ!?激ヤセからハーレム生活!

花咲一樹
ファンタジー
【錬聖スキルで美少女達と辺境開拓国造り。地面を掘ったら凄い物が出てきたよ!国外追放された王女様は、落ちぶれた国王様゛から国を買うそうです】 《異世界転移.キモデブ.激ヤセ.モテモテハーレムからの辺境建国物語》  天野川冬馬は、階段から落ちて異世界の若者と魂の交換転移をしてしまった。冬馬が目覚めると、そこは異世界の学院。そしてキモデブの体になっていた。  キモデブことリオン(冬馬)は婚活の神様の天啓で三人の美少女が婚約者になった。  一方、キモデブの婚約者となった王女ルミアーナ。国王である兄から婚約破棄を言い渡されるが、それを断り国外追放となってしまう。  キモデブのリオン、国外追放王女のルミアーナ、義妹のシルフィ、無双少女のクスノハの四人に、神様から降ったクエストは辺境の森の開拓だった。  辺境の森でのんびりとスローライフと思いきや、ルミアーナには大きな野望があった。  辺境の森の小さな家から始まる秘密国家。  国王の悪政により借金まみれで、沈みかけている母国。  リオンとルミアーナは母国を救う事が出来るのか。 ※激しいバトルは有りませんので、ご注意下さい カクヨムにてフォローワー2500人越えの人気作    

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

やくもあやかし物語

武者走走九郎or大橋むつお
ファンタジー
やくもが越してきたのは、お母さんの実家。お父さんは居ないけど、そこの事情は察してください。 お母さんの実家も周囲の家も百坪はあろうかというお屋敷が多い。 家は一丁目で、通う中学校は三丁目。途中の二丁目には百メートルほどの坂道が合って、下っていくと二百メートルほどの遠回りになる。 途中のお屋敷の庭を通してもらえれば近道になるんだけど、人もお屋敷も苦手なやくもは坂道を遠回りしていくしかないんだけどね……。

処理中です...