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一章
僕もやる時はやる男になります
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ノワールとアーテル。どちらも艶やかな黒髪だけど、ノワールはふんわりとしたボブで垂れたウサ耳のカチューシャのおかげでどちらかと言えば幼く見える。表情はそれほど豊かではないし、普段は口数も少ないので大人しい印象だ。
それでも身体のラインがハッキリ分かってしまうピチピチのボディースーツは男共の視線を集める。
そしてアーテル。長い黒髪を靡かせて歩く長身の美女。こちらも上半身は露出が多い上に胸部装甲も主張が激しい為、視線を集める。
ノワールは闇の大精霊。アーテルは古の神狼にしてダンジョンの主だったミスティウルフ。どちらも本気を出せば僕なんか瞬殺されるほど強い。
そんな強い二人が目立つ格好で歩けば事故も起きるのも仕方ないよね。うん。
「いでででで! 分かった! 分かったって!」
「すまねえ! もう勘弁してくれ!」
こんな具合に、身の程知らずの男達が口説きに来ては塩対応された挙句、実力行使に出て返り討ちに会う事案が頻発するんだよね。
それに、僕がいるのに簡単に声を掛けてくるのって……
「主人はもう少し見た目の迫力を付けた方がいいな! ハハハ!」
「ご主人様は今のままでいいのです。私がお守りしますので」
うん。ノワールの言葉は嬉しいんだけど、やっぱりアーテルの言う通り、僕ももう少し男らしくならなくちゃかなぁ……
そんな事を考えているうちに、冒険者ギルドの扉の前まで来てしまった。正直気が重い。ノワールを連れているだけでも視線が痛いのに、今日はアーテルというニューフェイスもいる。
ゴールドランクに上がっても、世間の評価はまだ『残滓』のままだと言っていい。冒険者連中も僕を舐めているヤツは多いんだよね。
この扉を開けて一歩中に入れば、そういった連中の悪意に晒される訳で。
「主人よ、何をしている? 入るのだろう?」
「あ……」
そんな僕の内心を知ってかしらずか、アーテルが扉を前に躊躇している僕に構わず、豪快に開け放つ。こうなったら仕方がない。覚悟を決めて入るか。
最初に入ったのはアーテル。何というか、好奇心が旺盛なんだよね。そして僕、ノワール。当然、ギルド内には騒めきが起こる。
口々に僕の悪口や、アーテルが何者かを探る声が聞こえてきたんだけど、中でもハッキリと聞こえてきた言葉があった。
――ウサギぶっ殺されて泣いてるヤツが実力でゴールドになれる訳ねえだろ。所詮女のケツを追いかけまわすだけのヘタレ野郎さ。
こっちをニヤニヤしながらそう口にした冒険者のグループが目に入る。
当然、それを耳にしたノワールもアーテルも殺気立つが、僕はそれを制した。だけどそれがアーテルには不満なようで。
「主人、また言われるがままなのか?」
頬を膨らませてそう言ってきた。そうだよね。これじゃあ僕は頼りないだけじゃなくて情けないよね。
「二人は動かないでね」
そう言って、僕はその冒険者グループに向かって歩いて行った。うん、四人いるね、怖い。
その中でも、とびっきり人相の悪いやつに声を掛ける。うん、顔がね、怖い。
「さっき言ったのはあなたですか?」
「あン? なんだよ、文句でもあんのか? ああ!?」
いきなり凄まれてしまいました。
「てめえ、女のおかげでゴールドに上がったからってチョーシこいてんじゃねえぞお!?」
「大体、残滓で腰抜けのてめえが一人で来て何しようってんだぁ?」
「ねーちゃん達に助けてもらわなくても大丈夫かぁ?」
他の三人も畳みかけるようにがなり立ててきました。はぁ……
「ええ、僕一人で問題ありませんが?」
「ンだとゴルァ――あ?」
一番顔が怖いやつが殴り掛かってきた。お約束の右ストレート。僕はそれを左手で受け止めた。手癖が悪いひとだなぁ。
「いででででで!」
「あー、僕、林檎くらいなら余裕で握り潰せますよ? 毎朝搾りたての生ジュース飲んでるんですよ、林檎の」
今にも握り潰されそうな拳はメキメキと音を立てている。僕はニッコリだ。
「あー、ノワール。アーテルの冒険者登録をしてくれないか?」
「はい、ご主人様!」
僕が向けられた悪意に対して正面から制圧しに行ったのが嬉しかったのか、ノワールは上機嫌でアーテルをカウンターに連れて行った。
「てめえ!」
その様子を見ていた他の三人が逆上して剣を抜く。うん、怖い。
うーん、出来れば大事にしたくないんだけどなぁ……
「あのですね、皆さん何か勘違いしてませんか?」
「「「ああ!?」」」
僕に拳を握られているままの男以外の三人が、青筋を立てて目を吊り上げる。
「ゴールドランカーがブロンズやシルバーより弱い訳ないでしょう?」
そう言いながら僕は握っていた拳に力を込めた。
「うぎゃああああ!」
ベキベキと嫌な音と感触が手に伝わる。涙と鼻水で汚くなった顔を歪ませながら蹲る男。
「クソ! 所詮はウィザードだ! 魔法を使わなきゃただの――」
剣を振りかぶった男の懐に素早く入り込み鳩尾に強烈なボディブロー。こいつは泡を吹いて悶絶している。
僕は毎日、ノワールやアーテルと模擬戦をこなしているんだ。ブロンズやシルバーランクの冒険者の動きなんて止まって見える。
「まだやりますか? 多分そっちの人は拳が砕けてるし、この人も内蔵がヤバいかも知れないので、お早目の処置をおススメしますが?」
僕の足下で蹲っている二人を見て、残る二人がガクガク震えながら涙目で両手を上げていた。
「あー、ついでなんでここにいる皆さんにも言っておきますね? 僕はもう言われっぱなしでいるのはやめました。僕に悪意をぶつけてくる人や僕の仲間に手を出そうとする者は宣戦布告と見なして遠慮なく潰しますんで」
僕は極上の笑顔でそう宣言した。
それでも身体のラインがハッキリ分かってしまうピチピチのボディースーツは男共の視線を集める。
そしてアーテル。長い黒髪を靡かせて歩く長身の美女。こちらも上半身は露出が多い上に胸部装甲も主張が激しい為、視線を集める。
ノワールは闇の大精霊。アーテルは古の神狼にしてダンジョンの主だったミスティウルフ。どちらも本気を出せば僕なんか瞬殺されるほど強い。
そんな強い二人が目立つ格好で歩けば事故も起きるのも仕方ないよね。うん。
「いでででで! 分かった! 分かったって!」
「すまねえ! もう勘弁してくれ!」
こんな具合に、身の程知らずの男達が口説きに来ては塩対応された挙句、実力行使に出て返り討ちに会う事案が頻発するんだよね。
それに、僕がいるのに簡単に声を掛けてくるのって……
「主人はもう少し見た目の迫力を付けた方がいいな! ハハハ!」
「ご主人様は今のままでいいのです。私がお守りしますので」
うん。ノワールの言葉は嬉しいんだけど、やっぱりアーテルの言う通り、僕ももう少し男らしくならなくちゃかなぁ……
そんな事を考えているうちに、冒険者ギルドの扉の前まで来てしまった。正直気が重い。ノワールを連れているだけでも視線が痛いのに、今日はアーテルというニューフェイスもいる。
ゴールドランクに上がっても、世間の評価はまだ『残滓』のままだと言っていい。冒険者連中も僕を舐めているヤツは多いんだよね。
この扉を開けて一歩中に入れば、そういった連中の悪意に晒される訳で。
「主人よ、何をしている? 入るのだろう?」
「あ……」
そんな僕の内心を知ってかしらずか、アーテルが扉を前に躊躇している僕に構わず、豪快に開け放つ。こうなったら仕方がない。覚悟を決めて入るか。
最初に入ったのはアーテル。何というか、好奇心が旺盛なんだよね。そして僕、ノワール。当然、ギルド内には騒めきが起こる。
口々に僕の悪口や、アーテルが何者かを探る声が聞こえてきたんだけど、中でもハッキリと聞こえてきた言葉があった。
――ウサギぶっ殺されて泣いてるヤツが実力でゴールドになれる訳ねえだろ。所詮女のケツを追いかけまわすだけのヘタレ野郎さ。
こっちをニヤニヤしながらそう口にした冒険者のグループが目に入る。
当然、それを耳にしたノワールもアーテルも殺気立つが、僕はそれを制した。だけどそれがアーテルには不満なようで。
「主人、また言われるがままなのか?」
頬を膨らませてそう言ってきた。そうだよね。これじゃあ僕は頼りないだけじゃなくて情けないよね。
「二人は動かないでね」
そう言って、僕はその冒険者グループに向かって歩いて行った。うん、四人いるね、怖い。
その中でも、とびっきり人相の悪いやつに声を掛ける。うん、顔がね、怖い。
「さっき言ったのはあなたですか?」
「あン? なんだよ、文句でもあんのか? ああ!?」
いきなり凄まれてしまいました。
「てめえ、女のおかげでゴールドに上がったからってチョーシこいてんじゃねえぞお!?」
「大体、残滓で腰抜けのてめえが一人で来て何しようってんだぁ?」
「ねーちゃん達に助けてもらわなくても大丈夫かぁ?」
他の三人も畳みかけるようにがなり立ててきました。はぁ……
「ええ、僕一人で問題ありませんが?」
「ンだとゴルァ――あ?」
一番顔が怖いやつが殴り掛かってきた。お約束の右ストレート。僕はそれを左手で受け止めた。手癖が悪いひとだなぁ。
「いででででで!」
「あー、僕、林檎くらいなら余裕で握り潰せますよ? 毎朝搾りたての生ジュース飲んでるんですよ、林檎の」
今にも握り潰されそうな拳はメキメキと音を立てている。僕はニッコリだ。
「あー、ノワール。アーテルの冒険者登録をしてくれないか?」
「はい、ご主人様!」
僕が向けられた悪意に対して正面から制圧しに行ったのが嬉しかったのか、ノワールは上機嫌でアーテルをカウンターに連れて行った。
「てめえ!」
その様子を見ていた他の三人が逆上して剣を抜く。うん、怖い。
うーん、出来れば大事にしたくないんだけどなぁ……
「あのですね、皆さん何か勘違いしてませんか?」
「「「ああ!?」」」
僕に拳を握られているままの男以外の三人が、青筋を立てて目を吊り上げる。
「ゴールドランカーがブロンズやシルバーより弱い訳ないでしょう?」
そう言いながら僕は握っていた拳に力を込めた。
「うぎゃああああ!」
ベキベキと嫌な音と感触が手に伝わる。涙と鼻水で汚くなった顔を歪ませながら蹲る男。
「クソ! 所詮はウィザードだ! 魔法を使わなきゃただの――」
剣を振りかぶった男の懐に素早く入り込み鳩尾に強烈なボディブロー。こいつは泡を吹いて悶絶している。
僕は毎日、ノワールやアーテルと模擬戦をこなしているんだ。ブロンズやシルバーランクの冒険者の動きなんて止まって見える。
「まだやりますか? 多分そっちの人は拳が砕けてるし、この人も内蔵がヤバいかも知れないので、お早目の処置をおススメしますが?」
僕の足下で蹲っている二人を見て、残る二人がガクガク震えながら涙目で両手を上げていた。
「あー、ついでなんでここにいる皆さんにも言っておきますね? 僕はもう言われっぱなしでいるのはやめました。僕に悪意をぶつけてくる人や僕の仲間に手を出そうとする者は宣戦布告と見なして遠慮なく潰しますんで」
僕は極上の笑顔でそう宣言した。
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