遊び人の恋

猫原

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第二章

2-5

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久賀は暖簾がかかってない太助の扉をガラガラと開けたら、由希と見知らぬ男が親しげに話していた。
いつもなら支度をしている筈だが、客が来ているらしい。でかい男と由希は椅子に腰掛けて話していた。久賀に気づいたらしい男が振り向けば、いかつい身体つきをしているにも関わらず純粋そうな目をしていた。
こちらに気付いた男は席を立ち、久賀の元へやってきた。体がでかい分、二歩だけで久賀の前に立ちはだかった。
近くで見れば体のでかさは否応無しに分かった。久賀の頭3個分、横に二倍だ。ほぼ筋肉ではあるが。
近い距離感に思いっきし嫌そうに顔を歪めた。それを見た筋肉男は気にした素振りは見せず、ニカッと笑った。顔が童顔だからか、笑うと幼く見え、人懐っこい笑顔に絆されそうだが、人嫌いの久賀はそうはならない。ただひたすら、嫌そうにするだけだった。

「引っ越してきたばかりで、ご近所挨拶してます。俺ぇ、春日 恵之助って言います」

と言って久賀の手を勝手に掴むと握手を交わしてきた。手を解こうとしたが、力が強い。久賀の眉間の皺が増えたが、恵之助はその事を特に気にした様子を見せず、そのまま会話を続けた。

「定廻りやらせてもらってるので、何かあれば頼ってくだせぇ」

久賀の手をやっと離した。

「刀を差してますが、同じようなことを?」
「これはただの飾りだ」
「飾りにしては立派な刀をお持ちで」

と恵之助はジロジロと刀を見た。
名のある刀に見え、またどっしりとした雰囲気がある刀だ。抜いてみなければ詳しくは分からないが、人を斬った事のある刀の空気を纏っているのを肌で感じた。
着物を着流した優男風の男なのに、その細腕で刀を振れるのか、と感心したのだった。綺麗な顔をしているせいか、危険を感じない。
しかし、ジロジロ見られては久賀はあまり良い気がしなかった。

「そちらは職業柄刀を差していなければならないのでは?」

恵之助は刀を所持していなかった。

「あはは!相手が刀を抜く前に腹に一発喰らわせられるんですよ」

とその動きをして見せた。拳を大きくぶんっと振り上げる。確かにその図体で向かってこられたら避けられないだろう。
その大きさで早く動けるのかという疑問も湧くが。

「では挨拶はここまでにして、また」
「今度は飲みに来てね」

由希に笑顔でそう言われれば、
「はい、是非!」と恵之助は頷いた。心なしか恵之助の顔が赤く染まっているように見える。その瞳は由希を真っ直ぐに見つめていた。

「夜飲みに伺います!」
「是非」

店を出る前に再度お辞儀をして恵之助は出て行った。

「同じ歳ですって。田舎から出てきたらしいわ」
「へぇ」と興味なく久賀は答えた。
「遊び歩いてる誰かと大違いね」
「俺は最近お前としか遊んでねぇよ」
「えっ?!」

由希は素っ頓狂な声を上げて久賀を見た。

どうしてか聞き出そうとしたが
「あぁいう奴を旦那にしたら良いんじゃないか?」久賀の発言で一気に夢心地から醒めてしまった。
近場に私という便利な穴があるからか。

「あんた以外の男なら誰でも良い旦那になるわ」
「はっはは。言えてる」

と久賀は笑いながら由希の隣に腰掛けた。

「昼間に来るなんて珍しいわね」
「まぁね。いや、ちと聞きたいことがあって」
「なによ?」
「いや、”許してあげて‘’って何?」

あぁ…と由希は思わず呟いた。つい先刻、雪が面倒を見ている慶ちゃんにつけた手紙の事を久賀は言っているのか。
その表情はひどく不機嫌そうだった。

「純粋に友達が欲しいって言ってる子を応援したくなっただけよ。あんたの身の回りの世話ばかりしてたら、流行りに疎くなっちゃうでしょ。それに女の子の友達が欲しいなんて、ゆき君も男の子ね、って思ったのよ」

二日前のあの質問をされた事を由希は言うべきか悩んだが、今は口を閉ざした。酷く不機嫌なのである。

「後押ししたのか?」
「してないわよ。慶ちゃんを使った手紙のやり取りの話を私は昨日聞いただけよ」
「そこで無謀だとは言わなかったのか?」
「そんなね、私は子供の夢を壊すような事はしないわよ」

肩を竦めた由希を見て久賀は益々不機嫌になった。


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