遊び人の恋

猫原

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第二章

2-2

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「————え?何?」
「お、と、も、だ、ち、が、ほ、し、い、で、す」

ごめん、雪。聞こえてたよ。

ゆっくり喋ってくれた雪に心の中で謝罪すると、久賀はまず頭の中を整理した。

お友達とは?金で買えたっけ?

「雪。お金で買えるものじゃないと俺は買ってあげられないよ」

はははと笑いながら首を振る。

着物なら買ってあげられるけど…。

「お金で買うとかじゃないんです、同じ年のお友達が欲しいんです。なので許可が欲しいなって…」
「何故?近所に子供がいるじゃないか」

雄、の子供が。
その子と友達になると言われたら、腸煮えくりかえるほど…腹はたつ…。

「男の子じゃなくて女の子のお友達が欲しいんです…」
「この近所にはいないけど、少し離れたところになら居た筈だよ。雪、自分で話しかけられるの?初対面の人には話しかけられてからじゃないと喋れないよね?話しかけれないから、同じ年の子の友達居ないんでしょ?」

痛い所を突かれたのか、雪は目を泳がせた。

「相談したいなぁって思って…」
「由希が居るだろ。わざわざ友達を作らなくて良いじゃないか。相談事があるなら由希にすれば良い」
「駄目です!」

咄嗟に否定され驚きはしたが、その倍雪が狼狽しているせいで驚きは飛んで行ってしまった。

「えっと、同年代の人間のお友達を作った方が人生豊かになるって言われたんです」
「誰に?」
「北さんです」

近所の老医師だ。
雪を診て貰ってから気にかけているようで、喋りかけてくるらしい。雪の性別が女だと気付いているだろうが、何も言ってきてはいなかった。


ん?

「————人間の?って言った?」
「はい」

まるで、人間じゃない友達が居るような言い回しだ。
雪は急に真剣な面持ちになると「会ってもらえますか?」と言った。思わず久賀はつばを飲み込んでしまう。

人間ではない友達とはなんだ??

雪は形の良い唇を尖らせると、口笛を響かせた。
一回、二回————。
バサリと音を立てながら、二人の頭上に黒い影がぐるぐると現れ、飛び回った。
三回目————口笛が鳴り終わると同時に、頭上から何かがこちら目掛けて飛んできたのである。
バッさと大きく音を立て、雪の肩に乗ったのは、一羽の鷹が降り立った。

「お友達の慶ちゃんです!!」

ぱぁああああっと輝かしい顔をされた。
鷹はといえば、そんな雪の左肩に乗り満足そうに雪の顔にすり寄っていた。
毛並みのととった鷹は身体は小さく、まだ子供のようだった。

「————————返してきなさい」
「怪我しているところを助けたんです!折角元気になったんですよ…」

しゅんと落ち込まれると、鷹は芸達者のようで雪と同じように首を竦め落ち込むような仕草をした。

「ここ数日、遠出をしないのって…」
「慶ちゃんの手当てしてたんです」
「あぁ…なるほど…」
「この子、すごく頭が良いんですよ。久賀さまの匂いをたどってお手紙だって運べます」

と雪がパンパンと手を叩くと、慶ちゃんは飛び去って行った。
暫くすると雪の肩に戻ってきて、慶ちゃんは久賀に前足を出してきた。その態度が非常にふてぶてしく見えてしまう。
その前足に文が括り付けられていた。それを外して中を開けば、この文字は由希だ。
由希からは一言「許してあげて」とあった。
許すとは何か?友達作りか?

「このように、お手紙をつけて同じ年の女の子の前で文を落としてもらって、その女の子が慶ちゃんの足にお手紙を付けるんです。手紙のやり取りをしてまずは交流するんです。駄目ですか?」
「自分で届けたほうが確実じゃない?」
「それはそうですけけど」

雪は同年代から話しかけられない。自分よりも綺麗な男の子に話しかけ辛いのか、幼いながらも女の勘が働いて話しかけないのかは分からないが。
自分からは話しかけにくいし、でもお喋りしたい…。手紙でなら話せるし、何度かやりとりすれば、実際に会って喋れるのではないかと考えた。自分で届けては、相手が私だとばれてしまう。

「それが本当に相手が女の子か定かじゃないし、今のを見てもまだ信じられないかな。相手が男の子、それか大人の男性だったら雪はどうするの?まして雪は手紙の中で女の子として書くの?じゃあいざ会う時は男装を解いて女の子として会いに行くって事?それって危険な事じゃないかな?追手がいる事忘れてないよね?」
「うっ」
「何を相談したいの?」
「えっ?」
「同じ年の子の友達作ってお喋りというか…それよりも女の子としての悩みを聞いて欲しいんでしょ。何を相談したいの?」
「それは…その…」
「俺に言えないの?」

じっと見つめたら、視線を外された。
気まずそうに、俯かれた。久賀の表情から笑みが消えた。ひたすら作り笑いを浮かべる。
指で胡坐を掻いている膝をトントンと叩いた。精神を落ち着かせるためだ。

気のせいではない。
避けられている。

何かした記憶もなければ、相談したい程の悩みを持たせた事もないはずだ。
しかし、ふとした瞬間、目を合わせば視線を外される事が多くなった。気付かれていないとでも思っただろうか。

しかしだ。

手を握れば、繋いでくれるし、お風呂上りに髪を拭いてあげる事は嫌がらないし、髪を拭いてあげる時なんて、無意識なのだろう布を巻いた手に頬を摺り寄せてくるのだ。可愛いのだ。思いっきしその顔を両手で掴んで嘗め回したいと思うほどに。それとさらしを巻いてあげる事も嫌がらなかった。
雪は久賀の言いつけはきちんと守っていた。久賀が帰るまで、帰りついている事。自分から大人に話しかけない事。
可愛い笑顔は相変わらず見せてくれる。

何かした覚えが全くないが。
しかし邪な想いは抱いていた。

最近では雪に対してむくむくと欲望が沸いている事に久賀は戸惑うのを止めた。
ひたすら可愛いと思うから、沸くだけ、という結論に辿り着く。
行動に移す事はない。
何故なら俺は、そういう大人が大嫌いだからだ。
それに大人の女にも反応するし、女は抱いている。
といっても最近では由希のみなのだが…。
雪に食事を作り、久賀自身が雪の世話を焼くようになったら、女に時間を割いている時間が惜しくなったのである。でも性欲は沸く。だから手近の由希の穴を使っているだけで。

「おいで、雪」

と久賀が自分の膝の叩けば、雪は久賀の胡坐の上に腰かけた。
すっぽりと入ったその体を背後から抱き締めると、雪の首筋に顔を埋めた。
吸いつきたくなるような首だな、と漠然に思った。

「その手紙が本当に女の子に届くかは分からないから絶対に駄目。近所の子にしなさい」
「———————はい」

雪が逆らわない事を久賀は知っていた。

「最近寒くなってきたから————今晩から一緒に寝ようか?」

約束してたよね、と雪の右耳で囁いた。
雪の細い腰に腕を回し、ギュッと抱き締めたのだった。

久賀はここまでして自分の気持ちを自覚していなかった。
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