69 / 72
第一章
幕間1-②
しおりを挟む♦
「──様ですよね?」
銀髪の男の背中に声を掛けると、その人物がゆっくりと振り向いた。穏やかな琥珀色の瞳が見開いていく様を私──サラに扮したジェシカはじっと見つめてから勢いつけてガバッと頭を下げる。
「二年前、森の中で私を助けて下さってありがとうございました! あの時お礼を言えなくて……言うのが遅くなってしまいました……」
間があった。
男は何も言葉を発さず、ただ戸惑っている様子が肌で感じる。
(女がこうやって頭下げているんだから、それをそのままにするわけ?)
見た目通りに柔な男だった。やっぱりサラには似合わない。私の半身に似合う男は、何もかも強い男でなきゃ。
俯いたままチラッと顔を横に向けると、王太子妃に間違われて様々な人達に声を掛けられているサラが視界の端に映った。
(そろそろ戻らないと……)
頭を上げたと同時に、やっと声を掛けられる。それも謝罪だった。
「王太子妃……申し訳ございません、わたくしは貴女を助けた記憶がないのですが……別の人間と間違えておりませんか?」
「間違えておりませんわ」
内心ドキドキているのを表情に出さないように澄まして答えると、男は困ったように首を傾けた。
「それに、わたくしは王太子妃ではありません」
「……それは、無理があるかと……」
ますます困った、というように眉が下がっていく。それを見て、カマをかけられているわけではないと悟った。
「……どうして、別人だと分かったの?」
「王太子妃が仰ったお話の方は……王太子妃よりも瞳の色は薄く、栗色の癖毛は自然のように見えましたから」
「盗み聞きしてたの?」
「盗み聞き?」
目をパチクリと瞬きした男を見て、私は力が抜けた──初めてだ。サラと私を間違わず判別できた男は。
「人を良く観察されているのね」
「お褒め頂き光栄です」
クスッと笑った男を私はマジマジと見た。サラが恋する男は、どう見ても優男だ。どうしてこの男に惹かれたかと言えば、悪漢から助けてくれたからだ。まるでヒーローのように登場した男に助けられ、憧れを抱いたに違いない。それが恋心と言えるのか些か疑問が沸く。
「あーーーーー、いやだわ」
(かわいいサラが、もしかしたらこの男のモノになるかもしれない)
外見はそっくりでも、私たちの性格は違う。私は見た目はおっとりしていても、騒ぐのが好きで好奇心旺盛。でも妹は外見だけではなく性格もおっとりとしていて、私以上に淑女らしいのだ。それに、世間知らずで箱入り娘。貴族の娘として生まれ、その義務も分かっていながら、恋愛に憧れる女の子──……。
「王太子妃……?」
恨めしく思って銀髪の男をジロッと睨むと彼はタジタジと怯んだ。こんな男に妹を任せてもいいものか……。
「王太子妃……妹さんが」
視線を巡らせると、さっきよりもサラの周囲に人だかりが出来ていて、てんやわんやになっているサラが居た。
「まずいわ」
そろそろ元の立場に戻ってサラを助けなければ。銀色の男の元を去ろうとした──けれど。
「忘れてたわ」
フゥ、と溜息を吐いて銀髪男を振り返った。キョトンとした顔の男を指差した。
(他人を指差すとか、淑女らしくないって……王太子妃らしくしなさいと怒られるだろうけど)
「ここに居なさい。これは王太子妃命令です」
と釘をさした。
(悔しいけどサラと約束したから、お膳立てはしてあげなきゃ)
まずは、私とサラの区別がついたことは及第点をあげなければ。そのあと、二人が上手く行くかなんて分からない。あのお父様だから、彼と交際に発展した事をしれば反対するだろう……としても、この男がサラを泣かせるようなことをすれば、私が王太子妃の立場を使ってこの男を懲らしめればいいわ。
フン、と鼻で笑って銀髪に背を向けて、私は今にも泣き出しそうなサラを救出すべく彼女の場所へ向かった。
0
お気に入りに追加
136
あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です

軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら
夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。
それは極度の面食いということ。
そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。
「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ!
だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」
朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい?
「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」
あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?
それをわたしにつける??
じょ、冗談ですよね──!?!?

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる