愛する妻が置き手紙一つ置いて家出をしました。~旦那様は幼な妻を溺愛したい~

猫原

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(まさか、この子はネロペイン帝国の皇女か?)

 皇帝との謁見の間に居たのは、皇帝と第四側室までの妻とその娘達。あの中に第四側室が産んだ六歳の末娘が居たが、それはこの子じゃなかった。

(では……皇帝の親族か?)

 確か、現皇帝には腹違いの弟がいて、追い出されるように辺境伯の一人娘に婿入りさせられた。四人の息子と娘が一人居るらしいが、その末娘なのだろうか。辺境伯の娘なら領地の騎士に誓いを捧げられてもおかしくない。むしろ、代々騎士の家系だった筈。
 誓い、と言っても王命があれば、皇帝が優先でありその誓いは破られねばならないが……。

 アンが寝ている間にこっそりと抜け出し、子供の足でここまで来れるだろうか──辺境の距離ならまず無理だ。

「家はどこだ?」
「アンがおしえちゃダメって」

 アンが目を離している隙に少女を夜中に出歩かせてしまったが、少女にしっかり躾をしているようだ。そのお陰でこの子の身の上は何一つ分からない。騎士の名前が『アン』という事だけ辛うじて分かった。
 歩いて来れるのだから、そう遠くはないだろう。しかし、この城の周りは帝国の私有地の森が広がっていて、首都まで距離がある。

 門兵は部外者を簡単に入れるのか?

「歳はいくつだ?」
「ろくさい!」

(年齢は大丈夫みたいだ)
 六歳にしては幼い気もするが……。

 イアンは自分が六歳の頃を思い浮かべたが、彼は背伸びした六歳児だった。そんな自分と比べるのは間違いである。

「好きな花は?」
「ジャスミンがすき。しろいおはながすきよ」
「好きな食べ物は?」
「ビーフシチュー」
「嫌いな食べ物は?」
「まめ」

(お見合いか?)

 そう思いつつも、答えてくれるのでイアンは質問を捻り出して訊ねた。少女の事をもっと知りたいと思った。

「好きな色は?」
「くろ」

 黒が好きとは意外だ。白色のジャスミンが好きだから、白と答えると思った。

「わんちゃんのかみのいろ、すき」

 唐突にそんな事を少女から言われてイアンは戸惑った。自分ではなく髪色が好きだと言われたのに、自分を好きだと言われたようで妙な気分だ。
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