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飼い猫変身編

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先輩からの呼び出しがぱったりと途絶えてしまった。

SNSでは今まで通りくだらないやりとりはしているし、学内ですれ違った時も普通に挨拶してくれたから、嫌われたり避けられたりしているわけではないと思う。
ただ、再現するからうちに来いという呼び出しの電話やメールがなくなってしまったというだけだ。

やっぱり泣いちゃったの、まずかったよな。

先輩からの呼び出しがなくなったのは、ほぼ間違いなく前回の再現で僕が泣いてしまったことが原因だと思う。
すぐに泣き止んだし、先輩にも気にしないで欲しいとは言ったのだが、やはりあれで引いてしまったのか、もしくは尻込みしてしまっているのだろう。

もし先輩が引いてしまっていて、もう再現などしたくないと思っているのなら絶望的だが、再現はしたいが僕を泣かせたことを気にしてためらっているだけなら、まだ望みはある。

そう考えて、僕はサークルの部室によく先輩が顔を出している時を見計らって行ってみた。
できれば直接話したいとは思ったが、部室に先輩がいなければ電話してみるしかないと思っていたのだが、運よく先輩は部室にいた。
しかも都合のいいことに、集まって話している他のメンバーから離れて、一人でマンガを読んでいる。

「先輩」

僕が先輩に近づいて声をかけると、先輩は心なしかびくっとしたようにみえたものの、マンガから顔を上げて、いつものように「おう」と返事をしてくれた。

「先輩……あの、例のマンガって、もう他にはない んですか?」

事情を知らない人が聞いても何とも思わないような言葉ではあったが、僕がそれを口にするにはものすごく勇気を必要とした。

「え?
 ……うーん、あと一冊、あるにはあるんだが……」

僕の問いに先輩は困惑した様子で答える。

大丈夫だ、先輩、困ってはいるけど、嫌がっている感じじゃない。
ここはがんばって、このまま押すしかない!

「僕、読みたいです。
 読ませてもらえませんか?」
「え、いや、それは……」

先輩はしばらくうろうろと視線をさまよわせていたが、やがて「わかった」と言った。

「まだ見せてない一冊、お前にやるよ。
 一回帰って取ってくるから、お前ここで待ってろ」

え!? それじゃ意味がない!

僕は立ち上がりかけた先輩を慌てて呼び止める。

「あの!
 あの……もし先輩が迷惑じゃなければ、先輩の家で読ませてもらえませんか」
「え、いや、それは俺はいいけど、高橋、お前の方が……」
「僕もいいです。
 それで、出来れば読むだけじゃなくて、再現もしたいです」

心臓が飛び出しそうになりながらも、周りに聞こえないように小さな声で付け加えると、先輩が息を飲んだのがわかった。

「よし、わかった。
 じゃあ、うちに来い」
「はい!」

そうして僕たちは二人で部室を出た。
僕たちが変な意味ではなく仲がいいことはサークルのみんなが知っていて、別に二人で帰っても変に思われないとわかってはいたものの、みんなにあいさつする時は妙に緊張してしまった。

先輩が「早いけど飯食っていこう」と言うので、途中でファストフードに寄った。
正直、緊張で食事どころではなかったのだが、例の再現には体力が必要なのはわかりきっていたので、とにかく少しでも食べておくことにする。

いつもは饒舌な先輩も今日は食事の間ほとんどしゃべらなかったし、カウンター席に座ってしまったので、先輩の表情もろくに見ることができない。
けれどもチラチラと盗み見た限りでは、先輩は何かを考えている様子ではあったが、たぶん不機嫌ではなかったと思う。

食事を終えると、あとは寄り道せず先輩の部屋へと向かった。
部屋に入ると先輩はまっすぐにクローゼットに向かい、 例の本を出してきた。

「高橋、これ」
「ありがとうございます」

いつもより固い表情の先輩から、僕も神妙な顔でマンガを受け取る。

「俺はシャワー浴びてくるから。
 もし読んでみて無理だと思ったら、別に再現はしなくてもいいからな」

僕の方はこの本がどんな内容であっても、意地でも再現してやるつもりでいたのだが、ここでわざわざ先輩に逆らう必要もないので、いちおう「わかりました」と答えておく。

先輩が風呂場へと消えてから、僕はマンガを開いてみた。
今回のタイトルは『飼い猫変身編』だった。
扉絵には猫耳猫尻尾の『祐人』と共に、可愛らしい黒猫が描かれている。
どうやら今回は先輩の飼い猫が人間に変身してしまうというストーリーらしい。
今回に限っては主人公の名前も『祐人』ではなく『クロ』と呼ばれている。

マンガを通して読んでみると、先輩がこのマンガを僕に再現させることを躊躇した理由がわかった。
まず何といっても衣装がこれまででもトップクラスの恥ずかしさだ。
僕が『クロ』を演じるためにコスプレするとしたら、身に着けられるのは猫尻尾と猫耳、それに鈴の付いた赤いリボンだけなので、最初からほぼ……というより、完全に全裸だ。
それに冒頭から僕が先輩にフェラチオするシーンがあるし、繋がる体位は獣そのものの四つん這いでのバックスタイルだ。

これまでの僕なら、これを再現するのはちょっと嫌だなと思ったかもしれない。
けれども前回ビッチ編をやった後の僕にとっては、これは前回のよりもずっと再現しやすいものに思える。

確かにやることは恥ずかしいけれども、前回とは違い、今回僕が演じる『クロ』は、ご主人様である先輩のことだけを純粋に慕っているキャラクター設定なのだ。
先輩にかわいがってもらうのも、先輩に抱いてもらうのも大好きで、先輩に喜んでもらえることをするがうれしいというキャラは、僕にとっては全く演技の必要がなく、そのままやればいいだけだ。

これならやれる、と僕が確信したとき、先輩が風呂から出てきた。
僕はマンガを置いて立ち上がると、先輩と入れ替わりで風呂場に向かう。

「僕もシャワー借ります。
 衣装、用意しておいてくださいね」

僕が早口でそういうと、先輩はちょっと驚いた顔を見せたもののうなずいてくれた。
脱衣所に入ったついでに洗面台を確認すると、まだちゃんと僕用のピンク色の歯ブラシが立っていた。
そのことにまた勇気をもらいつつ、僕は風呂場に入る。

僕がシャワーを浴びている間に、先輩が脱衣所に入ってきて、すぐ出ていく気配がした。
シャワーを終えて脱衣所に出ると、猫耳カチューシャと猫尻尾、それに鈴の付いた赤いリボンが用意されていた。

体を拭いてから、僕はそれらを順番に身に着ける。
猫耳は特に問題なかったが、尻尾は基本的に服の上から付けるためのものらしく、紐で腰に巻いた後に根元についた洗濯バサミをズボンなどに挟むようになっているので、本来はピンと立つはずの尻尾がだらんと垂れてしまう。
それでもここはやはり僕のやる気を見せるためにもズボンははかない方がいいだろうと思い、しかたなく尻尾は垂らしたままにする。
最後に首にリボンを巻いて、少し迷ってから、タオルで前だけを隠して外に出ることにした。

風呂から出た僕の姿を見た先輩は、神妙な顔つきでうなずいた。

「それじゃ、キッチンのドアが玄関の代わりってことで頼む」
「わかりました」

僕が返事をすると、先輩は僕と入れ替わりにキッチンに出た。
先輩が扉を閉めた後、僕は前を隠していたタオルを置いて、主人を待ち受ける猫のように、手を前についた形で座り込んだ。


そのまま少し待っていると、キッチンのドアが開いた。

「ただいまー……あー……」
「お帰りなさい! ご主人様」

先輩にはこれまで何度も全裸を見られているけれど、最初からいきなり裸というのはやはり恥ずかしい。
それでも猫だから恥ずかしくないと自分に言い聞かせつつ、僕は先輩を出迎える。

「クロ、お前また人間に変身しちゃったのか……まいったな」

すでに何回か人間に変身しているという設定なので、驚いているというよりも困惑している先輩のセリフに、人間に変身した猫の僕は悲しそうな顔をしてみせる。

「ご主人様は人間の僕は嫌い?
 ずっと猫でいた方がいい?」
「いや、そんなことないから!
猫のお前も人間のお前もどっちも好きだよ。
ただ、お前が人間になると目のやり場に困るんだよな……」

人間の僕にはその気持ちは非常によくわかるのだが、今は中身は猫の設定なので、ご主人様が何を言っているのかわからないというように首をかしげてみせる。

「あー、まあいいから気にすんな。
それよりも腹減っただろ?
すぐに猫缶出してやるからな」
「あ! 僕、猫缶よりご主人様のミルクが飲みたい!」

エロマンガの定番ゆえに口にするのは憤死モノの恥ずかしいセリフだが、自分は猫なんだからと言い聞かせつつ、無邪気な感じの演技でセリフを言う。

「仕方ないなー。
 飲ませてやるから、後でちゃんと猫缶も食べろよ」
「うん!」

口では仕方ないと言いつつもニヤけた顔で先輩がベッドに移動したので、僕も立ち上がってその後をついて行く。
ベッドに腰掛けた先輩の足の間に座らせてもらい、僕はさっそく先輩のズボンのファスナーを下ろす。

「フリだけでいいからな」

猫を撫でる手つきそのままで僕の頭を撫でながら、先輩は小さな声でマンガのセリフにはないことを言う。
僕は先輩の言葉を無視して、先輩のモノに唇を近づける。

僕の裸見ただけで勃ててくれてるのに、フリだけですませられるはずないよ。

そう思いながら僕は、先輩のモノを口に含む。

「ちょっ……」

いったんは僕を制止しかけたものの、結局先輩は僕がするままにさせてくれた。
それはそうだろう、僕の口の中で先輩のモノはどんどん育っていっているのだから、男ならこんなところで止められるはずがない。

初めてで下手くそな僕のフェラチオに先輩が感じてくれているのがうれしくて、僕はいっそう熱心に先輩のモノをしゃぶる。
僕が先輩を感じさせようと動くたびに、首に付けた鈴がチリチリと音を立てて、そのことさえも僕を興奮させる。

「クロ」

先輩が猫の僕を呼んだ。
あれ、ここでセリフあったっけ、と僕は思わず動きを止めてしまう。

「クロ、口よりお尻で俺のミルク飲みたくないか?」

先輩の口から出たセリフに僕は再び心の中で首をかしげる。

ここは本来、僕のフェラチオで先輩がイッて、先輩が「ミルクおいしかったか?」と聞いて僕がうなずき、その後「お尻でも飲みたくないか?」と本番になだれ込む流れのはずだ。
先輩間違えてる?と一瞬思ったが、すぐに僕は先輩の意図に気付く。

そうか、僕が先輩の飲まなくてもいいように……。

先輩が実際に口に出したセリフの通りの流れに変更すれば、僕は先輩が出したものを飲み込むことなく、このまま本番に行ける。
僕自身は先輩が出したものを飲み込むことに抵抗はないし、むしろ積極的に飲んでみたいくらいではある。
けれども結局はその欲求よりも、飲むのはつらいだろうと流れを変更してくれた先輩の気遣いがうれしいという気持ちの方が上回った。

「うん! お尻で飲みたい!」
「じゃあ、こっちにおいで」

僕が先輩の変更にそのまま乗っかると、先輩は僕をベッドに上げてくれる。
マンガの通りにベッドの上で四つん這いになると、先輩はお尻に垂れた尻尾をぺたんと背中に移動させた。

いつものようにローションと指で僕の中の準備をしてくれた後、先輩が僕の中に入って来た。

「……んっ…ぁん……あ、にゃ、にゃー………」

たまに思い出したように猫の鳴き声を混ぜてみるけれど、先輩に抱かれるのは気持ちよすぎて、僕は猫になり切るのを忘れがちだ。
動くたびに僕の首で鳴る鈴の音はうるさいくらいなのに、それももう全く気にならない。

散々中を突かれ、前も触ってもらって、僕はもうイク寸前だ。
先輩の動きも速くなってきて、そろそろ終わりが近いのを感じる。

「出すぞ、高橋!」
「……えっ?」

先輩、今、クロじゃなくて、高橋って言った?

「あっ……」

先輩も間違ったことに気付いたのか、後ろで慌てたような声がする。

けれども体の方は止まらなかったのか、先輩は僕の中でイッた。
同時に僕も果てたが、肝心なところで気がそれてしまったせいか、どことなくイキ切れていないようで中途半端な感じがする。

体の方は物足りなかったものの、僕の心は満たされていた。
今までは完璧な再現をしていた先輩が、わざわざ僕のためにマンガの流れを変えてくれただけでなく、うっかりキャラではなく僕の名前を呼んでしまうなんて、幸せ以外の何物でもない。


「あー……しまったー……」

先輩の方はどうやら自分の間違いがかなりショックだったらしい。
最後のセリフをキャンセルして、僕から体を離して背中を向け、さっさと自分の後始末を始めている。
そして僕の気のせいでなかったら、その耳は心なしか赤くなっている。

僕も自分の後始末をしつつ、先輩になんて声をかけるべきか迷っていた。

ここは慰めるべきか、それとも間違いには触れずに流してあげるべきか。
それともいっそ、先輩の方にも脈有りとみて、この機会に思い切って告白してしまう……いや、それはちょっと危険な賭かも……。

僕が迷っていると、先輩がいきなりくるっとこちらに振り返った。

「もう寝る!
 高橋、お前も寝とけ」
「え、寝るってまだ8時前ですよ?」
「いいから寝ろ!」

なぜかキレ気味にそう言うと、先輩は僕をベッドに押し倒して、あろうことか一緒に布団をかぶってしまった。

え、うそ、寝るってまさか一緒に?

先輩とは何度もセックスしたし、その後泊まらせてももらったけれど、先輩のうちには友達が泊まることが多くて客用布団があるので、僕はいつも布団を借りて先輩とは別々に寝るのが常だった。
それなのに今日に限って一緒になんて、それも裸のままでなんて、そんなの眠れるはずがない。

慌てる僕の心の内を知ってか知らずか、先輩は僕が付けていた猫耳カチューシャをはずしている。

「尻尾もはずしとけよ」

そう言いながら先輩は首に付けたリボンをほどいている。
僕も慌てて腰に巻いていた尻尾をはずす。

「あの、先輩……」

尻尾を手渡しながら呼びかけてみたが、先輩は僕の呼びかけを黙殺した。
僕から尻尾を受け取ってベッドの下に置くと、先輩は僕の頭を抱え込んで、布団の中に押し込んでしまった。

うそ! 腕枕!
ど、どうしよう……。

幸せなのは幸せなのだが、これはむしろ幸せすぎて死ねる。

「先輩、苦しいです」
「いいから早く寝ろって」

じたばたと暴れてみたが、そうすると先輩はいっそう僕をぎゅっと抱きしめてくる。
しかたなく僕は、抵抗を止めて大人しく寝ることにする。

「おやすみなさい」
「おう、おやすみ」

おやすみとは言ったものの、眠れるんだろうかと思いながら、僕はドキドキと鳴り止まない胸を抱えつつ、先輩の素肌のぬくもりを味わっていた。
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