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番外編
日帰り温泉旅行 1
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そろそろ冬も終わりというある晴れた日、俺とタロは約束していた日帰り温泉旅行に出かけることにした。
万が一、タロが電車で寝てしまって犬に戻るといけないので、レンタカーでのドライブだ。
俺は免許はあっても車を持っていないので運転する機会は少ないから、運転を忘れないためにもたまには乗った方がいいから、ちょうどいいだろう。
場所はタロと相談した結果、車で2時間程度のところにある、隣県の道の駅に決めた。
最近は道の駅も一日遊べるような充実した施設があるところが多くて、そこも売店とレストランの他に温泉施設があるのだ。
道の駅の裏の山にはハイキングコースがあって、小さな滝があるというので、せっかくなのでハイキングをしてから温泉で汗を流して帰ってくる予定だ。
「自動車乗るのって初めてです」
「あれ、そうだっけ?
あー、そういや俺は友達の手伝いとかで乗せてもらうこともあるけど、そういう時はタロは連れて行かないもんな。
酔ったりしてないか?」
「はい、大丈夫です。
電車とは違ってご主人様と二人きりだし、たまには自動車もいいですね」
「うん、そうだな」
助手席ではしゃいでいるタロをほほえましく思いながら、俺はナビの案内通りに安全運転を続け、途中コンビニでの休憩を挟んで、無事に目的地の道の駅に着いた。
「先に売店行くんだよな」
「はい!
いい野菜は朝のうちに売り切れちゃうらしいので、先に買っておかないと」
タロのお目当ては売店――というか、直売所の採れたて野菜だ。
下調べをしている時に道の駅のホームページで広い店内に色とりどりの新鮮野菜が並んでいる写真を見て目を輝かせていたタロは、大きな保冷バッグを持って買う気満々だ。
「わー、すごい! 野菜がいっぱい!」
平台にぎっしり野菜が並べられた店内を見て、タロはテンションが上がっている。
「結構人多いな」
観光客だけでなく、近くから来たらしい普段着の人も多く、店内は平日にもかかわらず賑わっている。
「どれも新鮮だし安いですね!」
「うん。なんか見たことない野菜も多いな」
「農家さんが直接持ってくるので、ちょっとしか作ってなくて市場には出さないような野菜とかもあるらしいですよ」
「へー」
「うーん、これとか気になるけど、食べ方わからないしどうしよう……」
「気になるんだったら買って帰って、ネットで料理法調べたらいいんじゃないか?
野菜の名前は書いてあるんだし」
「あ、それもそうですね。
じゃあ買ってみます」
そんなふうに話しながら、次々と野菜を買い物カゴに入れていたら、2つのカゴがほとんどいっぱいになってしまった。
「さすがにちょっと買い過ぎですよね……」
「いや、たまのことだし、欲しいの全部買ったらいいよ。
多かったら料理して佐々木さんにおすそ分けしてもいいし」
「じゃあ、思い切って買っちゃいますね。
ありがとうございます」
そうして最後に昼ごはん用に味ご飯と山菜おこわのおにぎりをカゴに入れてから、俺たちはレジに向かった。
――――――――――――――――
情報コーナーで地図をもらい、買った野菜をレンタカーのトランクにしまってから、ハイキングコースに向かった。
小さな山のハイキングコースは、途中で滝に向かう分かれ道がある他は、頂上まで一本道らしい。
地図を見ながらタロと相談して、先に頂上まで登ってお昼を食べ、帰りに滝に寄ることにする。
ハイキングという季節でもないので人は少なく、すれ違う人もほとんどいなかったので、俺とタロは並んで話しながらのんびりと登っていく。
タロは犬の本能なのか、辺りの匂いが気になるらしく、さすがに犬の時のように地面の匂いこそ嗅がないものの、しきりに鼻をくんくん言わせている。
「なんか変わった匂いがするのか?」
「はい、木の匂いが強いですけど、動物の匂いもします。
嗅いだことのない匂いなので、犬や猫じゃないってことぐらいしかわかりませんけど」
「へー。じゃあタヌキとかイタチかな。
近くにいるのか?」
「いえ、この辺にいたのはだいぶ前みたいです」
「そっか、ちょっと見たかったけど残念だな。
まあ、タヌキなら夜行性だろうしな」
そんなことを話しているうちに、だんだん登り坂がきつくなってきて、次第に会話が減ってくる。
さすがに息が上がり始めた頃、ようやく森が終わり視界が開けた。
「学さん! 頂上です!」
興奮した様子で振り返ったタロに軽くうなずいてやると、タロもうなずき返してから走り出した。
俺は息切れしかけているというのに、タロはまだまだ元気らしい。
展望台の柵につかまって景色を眺めているタロに追いつくと、タロは楽しそうに話しかけてきた。
「いい眺めですね」
「うん。けど見事になにもないなあ」
小さな山の頂上のわりに見晴らしはいいけれど、それは周りに何もないからだ。
遠くには街のビル群が見えているけれど、近くは山と川と畑と何も植わっていない田んぼと少しの家があるだけの、典型的な田園風景が広がっている。
「そうなんですか?
うちの周りの景色とは全然違うので、珍しいなって思って見てました」
「あー、確かに東京ではこういう景色は見ないよな」
タロは東京生まれなので、日本の田舎ならどこででも見られるこういう景色も初めて見るはずだ。
もっともっと、タロと一緒にいろんなところに行って、いろんな景色を見せてやろう。
楽しそうに景色を眺めているタロを見て、俺は改めてそう思ったのだった。
万が一、タロが電車で寝てしまって犬に戻るといけないので、レンタカーでのドライブだ。
俺は免許はあっても車を持っていないので運転する機会は少ないから、運転を忘れないためにもたまには乗った方がいいから、ちょうどいいだろう。
場所はタロと相談した結果、車で2時間程度のところにある、隣県の道の駅に決めた。
最近は道の駅も一日遊べるような充実した施設があるところが多くて、そこも売店とレストランの他に温泉施設があるのだ。
道の駅の裏の山にはハイキングコースがあって、小さな滝があるというので、せっかくなのでハイキングをしてから温泉で汗を流して帰ってくる予定だ。
「自動車乗るのって初めてです」
「あれ、そうだっけ?
あー、そういや俺は友達の手伝いとかで乗せてもらうこともあるけど、そういう時はタロは連れて行かないもんな。
酔ったりしてないか?」
「はい、大丈夫です。
電車とは違ってご主人様と二人きりだし、たまには自動車もいいですね」
「うん、そうだな」
助手席ではしゃいでいるタロをほほえましく思いながら、俺はナビの案内通りに安全運転を続け、途中コンビニでの休憩を挟んで、無事に目的地の道の駅に着いた。
「先に売店行くんだよな」
「はい!
いい野菜は朝のうちに売り切れちゃうらしいので、先に買っておかないと」
タロのお目当ては売店――というか、直売所の採れたて野菜だ。
下調べをしている時に道の駅のホームページで広い店内に色とりどりの新鮮野菜が並んでいる写真を見て目を輝かせていたタロは、大きな保冷バッグを持って買う気満々だ。
「わー、すごい! 野菜がいっぱい!」
平台にぎっしり野菜が並べられた店内を見て、タロはテンションが上がっている。
「結構人多いな」
観光客だけでなく、近くから来たらしい普段着の人も多く、店内は平日にもかかわらず賑わっている。
「どれも新鮮だし安いですね!」
「うん。なんか見たことない野菜も多いな」
「農家さんが直接持ってくるので、ちょっとしか作ってなくて市場には出さないような野菜とかもあるらしいですよ」
「へー」
「うーん、これとか気になるけど、食べ方わからないしどうしよう……」
「気になるんだったら買って帰って、ネットで料理法調べたらいいんじゃないか?
野菜の名前は書いてあるんだし」
「あ、それもそうですね。
じゃあ買ってみます」
そんなふうに話しながら、次々と野菜を買い物カゴに入れていたら、2つのカゴがほとんどいっぱいになってしまった。
「さすがにちょっと買い過ぎですよね……」
「いや、たまのことだし、欲しいの全部買ったらいいよ。
多かったら料理して佐々木さんにおすそ分けしてもいいし」
「じゃあ、思い切って買っちゃいますね。
ありがとうございます」
そうして最後に昼ごはん用に味ご飯と山菜おこわのおにぎりをカゴに入れてから、俺たちはレジに向かった。
――――――――――――――――
情報コーナーで地図をもらい、買った野菜をレンタカーのトランクにしまってから、ハイキングコースに向かった。
小さな山のハイキングコースは、途中で滝に向かう分かれ道がある他は、頂上まで一本道らしい。
地図を見ながらタロと相談して、先に頂上まで登ってお昼を食べ、帰りに滝に寄ることにする。
ハイキングという季節でもないので人は少なく、すれ違う人もほとんどいなかったので、俺とタロは並んで話しながらのんびりと登っていく。
タロは犬の本能なのか、辺りの匂いが気になるらしく、さすがに犬の時のように地面の匂いこそ嗅がないものの、しきりに鼻をくんくん言わせている。
「なんか変わった匂いがするのか?」
「はい、木の匂いが強いですけど、動物の匂いもします。
嗅いだことのない匂いなので、犬や猫じゃないってことぐらいしかわかりませんけど」
「へー。じゃあタヌキとかイタチかな。
近くにいるのか?」
「いえ、この辺にいたのはだいぶ前みたいです」
「そっか、ちょっと見たかったけど残念だな。
まあ、タヌキなら夜行性だろうしな」
そんなことを話しているうちに、だんだん登り坂がきつくなってきて、次第に会話が減ってくる。
さすがに息が上がり始めた頃、ようやく森が終わり視界が開けた。
「学さん! 頂上です!」
興奮した様子で振り返ったタロに軽くうなずいてやると、タロもうなずき返してから走り出した。
俺は息切れしかけているというのに、タロはまだまだ元気らしい。
展望台の柵につかまって景色を眺めているタロに追いつくと、タロは楽しそうに話しかけてきた。
「いい眺めですね」
「うん。けど見事になにもないなあ」
小さな山の頂上のわりに見晴らしはいいけれど、それは周りに何もないからだ。
遠くには街のビル群が見えているけれど、近くは山と川と畑と何も植わっていない田んぼと少しの家があるだけの、典型的な田園風景が広がっている。
「そうなんですか?
うちの周りの景色とは全然違うので、珍しいなって思って見てました」
「あー、確かに東京ではこういう景色は見ないよな」
タロは東京生まれなので、日本の田舎ならどこででも見られるこういう景色も初めて見るはずだ。
もっともっと、タロと一緒にいろんなところに行って、いろんな景色を見せてやろう。
楽しそうに景色を眺めているタロを見て、俺は改めてそう思ったのだった。
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