俺とタロと小さな家

鳴神楓

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番外編

YES/NO枕

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タロが風呂をすませた後、俺も風呂に入り歯を磨いて洗面所から出てくると、タロが犬の姿に戻っていた。

「えっ、タロ、どうしたんだ?
 まさか、神通力切れたのか?」

神使になったタロは、人間に変身するための神通力が強くなったので、神使見習いだった時とは違い、いつでもいつまででも好きなように変身できるようになった。
それでもやはり元は犬なので、特に人間の姿でいる必要のない時は犬の姿でいることも多いのだが、今は夜も更けて風呂もすませたところで、どう考えても人間の姿でいる必要がある場面だ。
だから、タロが犬の姿に戻っているのは、神通力が切れたせいなのかとそう思ったのだが。

「いえ……そういうわけではないんですが……」

神使になってからは、犬の姿でも人間の言葉を話せるようになったタロが、俺の言葉に返事をする。
その顔は俺の顔の方を向いてはいるが、微妙に視線がはずれている。

「じゃあ、なんで犬になってるんだ?」

俺がそう聞くと、タロは俺から微妙に視線をはずしたままで答えた。

「だって、人間の姿でいると、ご主人様は、その、交尾……しますよね?」
「えっ、それはもちろんするけど……。
 ま、まさか、タロ、俺とするの、いやになったのか?」

俺がおそるおそるそう聞くと、タロは首をぶんぶんと横に振った。

「いえ! いやじゃないんです。
 いやじゃないんですけど、その、一晩に何回もするのはちょっと……」
「あー……」

確かに、タロがそう言いたくなるのもわからないではない。
昨日の夜も、タロがあまりにもかわいかったので、ついつい3回もしてしまったばかりだ。
タロがまだ神使見習いだった頃は、タロの体に負担をかけないように、だいたい1回だけで我慢していた。
けれどもタロが神使になってからは、神通力のおかげか、何回やっても気絶したりしないし、その時は多少疲れた様子を見せても一晩寝れば完全に回復するので、安心してついついやり過ぎてしまうのだ。

「それにご主人様、僕がもうやめてって言ってもやめてくれないし……」
「あー、うん、ごめん。
 確かに最近ちょっとやり過ぎだったよな。
 タロがかわいいから、つい、な。
 それにお前、いつもやめてって言いながらも、すぐとろとろになるから、本当は嫌がってないのかなと思って」

俺がそう言うと、タロは急にうろうろと視線をさまよわせ始めた。

うん、これはやっぱり嫌がってはなかったってことだよな。

「と、とにかく!
 そういうわけで、今日はこの姿で寝ますね!」

タロは焦った様子でそう言い捨てると、1人でさっさと2階に上がって行った。

「あ、タロ、待ってくれよ」

俺が慌てて追いかけると、タロは寝室で尻尾を振って待っていてくれたので、少しほっとする。

「えっと、タロ、ごめんな。
 今日は何にもしないから、一緒には寝てくれるか?」

しゃがんでタロと目を合わせて、おそるおそる聞いてみると、タロは尻尾を振って「はい、もちろん」と答えてくれた。

「よかったー。
 じゃあ、布団敷くからな」

俺が布団を敷く間、タロは俺の邪魔にならない程度にちょこちょこと後をついてまわっていた。

「タロ、おいで」
「はい」

先に布団に入った俺が、布団をめくって呼ぶと、タロは素直に布団の中に入ってきた。
俺がいつも通りに左腕を差し出すと、タロはその腕を枕にして背中を俺の脇腹にぺったりくっつけて横になる。
そんなタロを後ろから抱きかかえると、タロは照れつつも嬉しそうな様子でえへへと笑った。

「犬の姿でご主人様と一緒に寝るの、久しぶりです」

嬉しそうにそう言って、俺の腹のあたりで尻尾を振っているタロが、かわいくて愛おしくて、うっかり股間のモノがちょっと反応してしまう。
犬のタロの体は小さいので、最後までするのは物理的に無理だが、素股とかならいけるんじゃないか、と一瞬思ってしまったが、俺は慌ててその考えを打ち消す。
毎晩やり過ぎた結果、タロが犬の姿になることで交尾を拒否したのに、犬の姿でも襲ってしまったら、タロは犬の姿でも俺と一緒に寝てくれなくなってしまうだろう。

「おやすみ、タロ」
「おやすみなさい」

俺は自分の欲望を抑え、無理矢理にでも寝てしまおうと目を閉じる。
いつもより小さいけれど、いつもより暖かいタロの体温を感じながら、明日はタロが人間の姿で一緒に寝てくれるように祈りつつ眠りについた。


――――――――――――――――

結局、その次の日の夜にはタロは機嫌を直して、人間の姿で一緒に寝室に来てくれたので、ほっとしつつ、その日は優しく優しくして1回だけで終わらせた。

けれども、その後もタロは俺が激しくし過ぎた次の夜は、犬の姿で寝室に来るようになってしまった。
ちょっと悲しいが、完全に俺の自業自得なので仕方がない。
それでも犬の姿ででも、タロは必ず俺と一緒に寝てくれるので、そんな日は俺はタロに愛されていることに感謝しつつ、犬のタロと一緒に眠るのだった。
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