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第1章 子犬編
side:タロ(17)
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ご主人様が取ってくれた、僕の毛並みと同じ色の水が入った風船(ヨーヨーというらしい)をぽんぽんとつく。
丸い風船をぽんとつくと、ゴムがびよんと伸びて、また手の中に戻ってくる。
その様子と感触が面白くて、いつまでも遊んでいたくなる。
水風船で遊びながら、僕は今日のことを振り返る。
今日はすごく充実した一日だった。
稲荷神社ではずっとご主人様の隣にいられたし、いろんな人になでてもらったり遊んでもらったりして楽しかった。
ご主人様と一緒に初めて見て回った屋台はどれも見ていて面白かったし、さっき食べた料理もみんな美味しかった。
そしてご主人様が僕のために苦手なヨーヨー釣りをがんばってくれたのも、すごくうれしかった。
本当に今日は、すごくいい一日だったはずだ。
それなのに、僕には一つだけ、なんとなくもやもやしていることがあった。
稲荷神社で、ご主人様の絵を買ってくれた、2人組の若い女の人がいた。
その人たちは絵を受け取った後、ご主人様に「一緒に写真取ってもらってもいいですか?」と聞いて、僕を抱いたご主人様と一緒に、1人ずつ写真を取った。
その人たちが「ありがとうございました」と言って、僕たちのところから去って行った後のことだ。
僕の耳に、その人たちがご主人様のことを話しているのが聞こえてきた。
「さっきの画家さん、かっこよかったねー」
「だよね。
しかもあの顔と体格で飼い犬溺愛とか反則すぎ」
「そうそう、ギャップ萌えだよね。
絵とか買うつもりなかったのに、つい買っちゃった」
2人の会話はご主人様には聞こえなかっただろうし、2人も誰かに聞かれているとは思っていなかっただろうと思う。
けれども人間よりも耳がいい僕には、はっきりと聞こえてしまった。
それを聞いて、なぜだかわからないけれども、僕はなんだかすごくもやもやした気分になってしまったのだ。
ご主人様がかっこいいとほめられるのは、うれしいことのはずだ。
それなのになぜかその時の僕は、ちっともうれしいと思えなかった。
ご主人様には自覚がないようだけれど、ご主人様は犬の僕の目から見てもかっこいい方だと思う。
商店街のお店のおばちゃんたちがご主人様にいつも愛想よく接してくれるのは、絶対ご主人様がかっこいいせいもあると思う。
今日だって、絵がたくさん売れたのは僕のおかげだとご主人様は言ってたけど、本当は僕じゃなくてご主人様のおかげなのだ。
それはご主人様の絵が素敵だということもあるけれど、絵を売っていたご主人様がかっこよかったからつい買ってしまったという人も多かったはずだからだ。
そのことを、僕は人間になった時にご主人様に言おうと思っていたのだ。
けれども、いざ人間になって話せるようになっても、なぜか僕はそのことを言えなかった。
ご主人様がかっこいいとほめられてもうれしくなかったこと。
絵が売れたのはご主人様がかっこいいからだと言えなかったこと。
それがなぜなのか、僕にはわからない。
わからないから、もやもやする。
もやもやした気分なので、自分がすごく難しい顔をしてしまっていることがわかる。
ゴミを片付け終えたご主人様が、僕がヨーヨーで遊んでいるのを見て、スケッチブックを取りに行ったのが見えた。
ご主人様に描いてもらえるなら、こんな眉間にシワが寄った難しい顔じゃなくて、にこにこと笑った顔を描いて欲しい。
それなのになぜか、僕は笑うことができないでいる。
結局僕は笑うこともできず、ご主人様と話すこともできず、そのまま犬の姿に戻るまで、ヨーヨーで遊び続けたのだった。
丸い風船をぽんとつくと、ゴムがびよんと伸びて、また手の中に戻ってくる。
その様子と感触が面白くて、いつまでも遊んでいたくなる。
水風船で遊びながら、僕は今日のことを振り返る。
今日はすごく充実した一日だった。
稲荷神社ではずっとご主人様の隣にいられたし、いろんな人になでてもらったり遊んでもらったりして楽しかった。
ご主人様と一緒に初めて見て回った屋台はどれも見ていて面白かったし、さっき食べた料理もみんな美味しかった。
そしてご主人様が僕のために苦手なヨーヨー釣りをがんばってくれたのも、すごくうれしかった。
本当に今日は、すごくいい一日だったはずだ。
それなのに、僕には一つだけ、なんとなくもやもやしていることがあった。
稲荷神社で、ご主人様の絵を買ってくれた、2人組の若い女の人がいた。
その人たちは絵を受け取った後、ご主人様に「一緒に写真取ってもらってもいいですか?」と聞いて、僕を抱いたご主人様と一緒に、1人ずつ写真を取った。
その人たちが「ありがとうございました」と言って、僕たちのところから去って行った後のことだ。
僕の耳に、その人たちがご主人様のことを話しているのが聞こえてきた。
「さっきの画家さん、かっこよかったねー」
「だよね。
しかもあの顔と体格で飼い犬溺愛とか反則すぎ」
「そうそう、ギャップ萌えだよね。
絵とか買うつもりなかったのに、つい買っちゃった」
2人の会話はご主人様には聞こえなかっただろうし、2人も誰かに聞かれているとは思っていなかっただろうと思う。
けれども人間よりも耳がいい僕には、はっきりと聞こえてしまった。
それを聞いて、なぜだかわからないけれども、僕はなんだかすごくもやもやした気分になってしまったのだ。
ご主人様がかっこいいとほめられるのは、うれしいことのはずだ。
それなのになぜかその時の僕は、ちっともうれしいと思えなかった。
ご主人様には自覚がないようだけれど、ご主人様は犬の僕の目から見てもかっこいい方だと思う。
商店街のお店のおばちゃんたちがご主人様にいつも愛想よく接してくれるのは、絶対ご主人様がかっこいいせいもあると思う。
今日だって、絵がたくさん売れたのは僕のおかげだとご主人様は言ってたけど、本当は僕じゃなくてご主人様のおかげなのだ。
それはご主人様の絵が素敵だということもあるけれど、絵を売っていたご主人様がかっこよかったからつい買ってしまったという人も多かったはずだからだ。
そのことを、僕は人間になった時にご主人様に言おうと思っていたのだ。
けれども、いざ人間になって話せるようになっても、なぜか僕はそのことを言えなかった。
ご主人様がかっこいいとほめられてもうれしくなかったこと。
絵が売れたのはご主人様がかっこいいからだと言えなかったこと。
それがなぜなのか、僕にはわからない。
わからないから、もやもやする。
もやもやした気分なので、自分がすごく難しい顔をしてしまっていることがわかる。
ゴミを片付け終えたご主人様が、僕がヨーヨーで遊んでいるのを見て、スケッチブックを取りに行ったのが見えた。
ご主人様に描いてもらえるなら、こんな眉間にシワが寄った難しい顔じゃなくて、にこにこと笑った顔を描いて欲しい。
それなのになぜか、僕は笑うことができないでいる。
結局僕は笑うこともできず、ご主人様と話すこともできず、そのまま犬の姿に戻るまで、ヨーヨーで遊び続けたのだった。
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