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第1章 子犬編
17 夏祭り
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今日の商店街は、夏祭りということで多くの人が歩いている。
普段の散歩と同じようにタロを連れて歩いていると迷惑になりそうなので、タロにはからのカバンの中に入ってもらって顔だけを出すようにした。
「お前、結構重くなったなー。
もらってきた時は、あんなに小さかったのに」
この調子だと、もうすぐこうやってカバンに入れて運べなくなるくらい大きくなるだろう。
タロの成長を感じ、俺はなんとなく子供の成長を喜ぶ親のような気持ちになる。
「さーて、何買うかな。
お前も欲しいものがあったら言えよ」
屋台独特のソースや甘い匂いにワクワクしながらカバンの中のタロに話しかけると、タロはこくこくとうなずいた。
おそらくタロは今日あたり人間に変身できるはずなので、ここでは食べずに持って帰って、後でタロと一緒に食べることにしよう。
夏祭りの屋台は祭りの時によく見かけるテントの付いたものだけでなく、商店街のお店が店の前に机を出して、普段店で売っているものや祭り向けに工夫したものを売っているところもあるようだ。
いつもの肉屋さんにいくと、今日は肉屋のおじさんが店の外にコンロを出して、国産牛の牛串を焼いていた。
中ではおばさんがいつものコロッケを揚げているようだ。
「牛串1本下さい」
「はいよ、五百円ね」
いい匂いに引き寄せられて買いに来たはいいが、結構いい値段だったので、1本だけ買って2人で分けることにする。
「あー、これはやっぱり焼きたてを食った方がいいよな」
いい匂いとしたたる肉汁に我慢出来ず、俺は道の端に立ち止まって牛串を食べることにした。
タロには肉の真ん中の味が付いてないところを冷まして分けてやる。
「ん〜、これはうまいな!」
さすが肉のプロだけあって、絶妙の焼き加減と味付けだ。
おそらく肉自体もかなりいいものだろう。
「タロ、これ今全部食ってもいい?」
犬の時はいつも丸呑みなのに、この肉はものすごく大事そうにゆっくり食べていたタロに聞いてみると、同意を得られたので、残りの牛串もタロと半分こしてその場で食べてしまった。
その後も、屋台の定番の焼きそば、たこ焼き、フランクフルト、焼きとうもろこしや、寿司屋の前で売っていた押し寿司などを次々買って、エコバッグに入れていく。
「あ、綿菓子も買うか」
綿菓子は要するにただの砂糖なので、別に好きでも嫌いでもないが、タロは珍しがるかもしれないと思って、キャラクターのビニール袋に入ったそれを1つ買う。
ついでに隣の屋台で、大家さんのお土産にちょうどいいと、ベビーカステラの小さい袋も2つ買った。
「タロは欲しいものないのか?
遠慮するなよ」
小さな声でタロに話しかけると、タロは小さく鳴いて、通りの反対側に視線をやった。
「あ、りんご飴か?
ん、違う? 隣?」
りんご飴の屋台の隣では、時計屋の前にビニールプールを出して、水風船のヨーヨー釣りをやっていた。
「ヨーヨー釣りかー。
俺、あれ苦手なんだよな。
もし釣れなくても許してくれよ」
ヨーヨー釣りは子供の頃に何回かやったことがあるが、一度も自分で釣れたことがないので、あらかじめ謝っておくと、タロは不思議そうに首をかしげた。
もしかしたらヨーヨー釣りがどういうものか、わかっていないのかもしれない。
ビニールプールの前に座ってタロを入れたカバンを置き、お金を渡して金具のついたこよりを受け取る。
「どれがいいかな……」
せっかくならタロと同じ色がいいなとビニールプールの中を見渡すと、黒い水風船が幾つか浮いていた。
ゴムの輪になっている部分が水面に浮いているものが一つだけあったので、それに狙いを定める。
チラッとタロの方を見ると、何をするんだろうというような興味津々の眼差しでプールを見ていた。
これはぜひともタロにいいところを見せなければいけないと、俺は張り切る。
金具を水の中に入れ、何度か失敗しつつもどうにかゴムの輪の部分を引っかける。
そのまま、そーっとこよりを引っ張り上げ、あと少しで釣り上げられるというところで、残念なことにこよりがぷっつりと切れて、ヨーヨーが水の中に落ちてしまった。
「あーっ!」
俺があまりにも情けない声を上げたからだろう、時計屋のおじさんがはははと笑いながら俺が落とした黒い水風船を渡してくれた。
「惜しかったからオマケな」
「あっ、ありがとうございます」
水風船を受け取っておじさんに礼を言い、タロの入ったカバンも忘れずに持って立ち上がる。
「犬のままだと割れるといけないから、うちに帰ってからな」
「ワン」
タロとそんなことを話していると、急に近くでドンドンと大きな音がして、タロがキャンと声を上げた。
どうやらイベントステージで、和太鼓の演奏が始まったらしい。
タロは突然の大きな音に相当驚いたらしく、カバンの中で完全に固まっている。
「びっくりしたか?
あれ、太鼓だから別に怖くないから大丈夫だからな」
爆音の中、タロの三角の耳に口を寄せてそう説明し、頭をなでてやると、タロはクゥンと鳴いて体から力を抜いた。
「ま、もう十分買ったし、そろそろ帰るか」
そうして俺たちは神社に戻り、大家さんにお土産のベビーカステラを渡してスーツケースを引き取り、人通りの少ない裏道を選んで家に帰ることにした。
――――――――――――――――
家に帰ってさっそく、テーブルの上に買って来たものを広げた。
いつの間にか人間の姿に変身していたタロも、目を輝かせながら手伝ってくれる。
「うん、これはさすがにビールだな。
タロは麦茶? 牛乳?」
「じゃあ麦茶をお願いします」
タロに酒を飲ませられないので、タロと一緒に晩ご飯を食べる時は俺も飲まないようにしているのだが、こう屋台メニューばかりだとどうしても飲みたくて、俺は自分用の缶ビールとタロ用の麦茶を冷蔵庫から出した。
「じゃあ、今日は一日お疲れ様でした。
乾杯!」
俺が缶ビールを上げると、タロもよくわかってないながらも俺の真似をしてコップを上げたので、カチンと缶とコップを合わせてからビールをグイッと飲んだ。
「あー、うまっ。
さあ、食べようぜ」
「はい!」
タロも焼きそばくらいは知っているが、他の屋台メニューは知らないものが多かったようで、俺に色々と聞きながら喜んで食べている。
綿菓子はやはり作っているところを見て気になっていたようで、食べてみてその食感に驚き、ザラメ砂糖から作ることを説明してやるとまた驚いていた。
「あー、食った食った。うまかったな」
「はい、どれも美味しかったです」
「ゴミは片付けておくから、タロはヨーヨーで遊んでみたらどうだ?
お前、欲しかったんだろ?」
「はい、それじゃ遠慮なく。
あ、あとご主人様、ヨーヨー取ってくれてありがとうございました」
「おー、まあオマケしてもらったんだけどな」
タロの指に水風船のゴムをはめてやって、手を重ねてやり方を教えてやると、タロはすぐに一人で出来るようになった。
俺がゴミを片付け終えても、まだタロは真剣な顔をして水風船をぺしぺしついていたので、俺はスケッチブックを持ってきて、その姿をスケッチする。
少しだけ酔っているので線はゆがみがちだが、それでも真剣な顔になって遊んでいるタロのかわいさは十分描き表すことができたと思う。
そうしてタロが犬の姿に戻ってしまうまで、俺はタロの微笑ましい姿を描き続けたのだった。
普段の散歩と同じようにタロを連れて歩いていると迷惑になりそうなので、タロにはからのカバンの中に入ってもらって顔だけを出すようにした。
「お前、結構重くなったなー。
もらってきた時は、あんなに小さかったのに」
この調子だと、もうすぐこうやってカバンに入れて運べなくなるくらい大きくなるだろう。
タロの成長を感じ、俺はなんとなく子供の成長を喜ぶ親のような気持ちになる。
「さーて、何買うかな。
お前も欲しいものがあったら言えよ」
屋台独特のソースや甘い匂いにワクワクしながらカバンの中のタロに話しかけると、タロはこくこくとうなずいた。
おそらくタロは今日あたり人間に変身できるはずなので、ここでは食べずに持って帰って、後でタロと一緒に食べることにしよう。
夏祭りの屋台は祭りの時によく見かけるテントの付いたものだけでなく、商店街のお店が店の前に机を出して、普段店で売っているものや祭り向けに工夫したものを売っているところもあるようだ。
いつもの肉屋さんにいくと、今日は肉屋のおじさんが店の外にコンロを出して、国産牛の牛串を焼いていた。
中ではおばさんがいつものコロッケを揚げているようだ。
「牛串1本下さい」
「はいよ、五百円ね」
いい匂いに引き寄せられて買いに来たはいいが、結構いい値段だったので、1本だけ買って2人で分けることにする。
「あー、これはやっぱり焼きたてを食った方がいいよな」
いい匂いとしたたる肉汁に我慢出来ず、俺は道の端に立ち止まって牛串を食べることにした。
タロには肉の真ん中の味が付いてないところを冷まして分けてやる。
「ん〜、これはうまいな!」
さすが肉のプロだけあって、絶妙の焼き加減と味付けだ。
おそらく肉自体もかなりいいものだろう。
「タロ、これ今全部食ってもいい?」
犬の時はいつも丸呑みなのに、この肉はものすごく大事そうにゆっくり食べていたタロに聞いてみると、同意を得られたので、残りの牛串もタロと半分こしてその場で食べてしまった。
その後も、屋台の定番の焼きそば、たこ焼き、フランクフルト、焼きとうもろこしや、寿司屋の前で売っていた押し寿司などを次々買って、エコバッグに入れていく。
「あ、綿菓子も買うか」
綿菓子は要するにただの砂糖なので、別に好きでも嫌いでもないが、タロは珍しがるかもしれないと思って、キャラクターのビニール袋に入ったそれを1つ買う。
ついでに隣の屋台で、大家さんのお土産にちょうどいいと、ベビーカステラの小さい袋も2つ買った。
「タロは欲しいものないのか?
遠慮するなよ」
小さな声でタロに話しかけると、タロは小さく鳴いて、通りの反対側に視線をやった。
「あ、りんご飴か?
ん、違う? 隣?」
りんご飴の屋台の隣では、時計屋の前にビニールプールを出して、水風船のヨーヨー釣りをやっていた。
「ヨーヨー釣りかー。
俺、あれ苦手なんだよな。
もし釣れなくても許してくれよ」
ヨーヨー釣りは子供の頃に何回かやったことがあるが、一度も自分で釣れたことがないので、あらかじめ謝っておくと、タロは不思議そうに首をかしげた。
もしかしたらヨーヨー釣りがどういうものか、わかっていないのかもしれない。
ビニールプールの前に座ってタロを入れたカバンを置き、お金を渡して金具のついたこよりを受け取る。
「どれがいいかな……」
せっかくならタロと同じ色がいいなとビニールプールの中を見渡すと、黒い水風船が幾つか浮いていた。
ゴムの輪になっている部分が水面に浮いているものが一つだけあったので、それに狙いを定める。
チラッとタロの方を見ると、何をするんだろうというような興味津々の眼差しでプールを見ていた。
これはぜひともタロにいいところを見せなければいけないと、俺は張り切る。
金具を水の中に入れ、何度か失敗しつつもどうにかゴムの輪の部分を引っかける。
そのまま、そーっとこよりを引っ張り上げ、あと少しで釣り上げられるというところで、残念なことにこよりがぷっつりと切れて、ヨーヨーが水の中に落ちてしまった。
「あーっ!」
俺があまりにも情けない声を上げたからだろう、時計屋のおじさんがはははと笑いながら俺が落とした黒い水風船を渡してくれた。
「惜しかったからオマケな」
「あっ、ありがとうございます」
水風船を受け取っておじさんに礼を言い、タロの入ったカバンも忘れずに持って立ち上がる。
「犬のままだと割れるといけないから、うちに帰ってからな」
「ワン」
タロとそんなことを話していると、急に近くでドンドンと大きな音がして、タロがキャンと声を上げた。
どうやらイベントステージで、和太鼓の演奏が始まったらしい。
タロは突然の大きな音に相当驚いたらしく、カバンの中で完全に固まっている。
「びっくりしたか?
あれ、太鼓だから別に怖くないから大丈夫だからな」
爆音の中、タロの三角の耳に口を寄せてそう説明し、頭をなでてやると、タロはクゥンと鳴いて体から力を抜いた。
「ま、もう十分買ったし、そろそろ帰るか」
そうして俺たちは神社に戻り、大家さんにお土産のベビーカステラを渡してスーツケースを引き取り、人通りの少ない裏道を選んで家に帰ることにした。
――――――――――――――――
家に帰ってさっそく、テーブルの上に買って来たものを広げた。
いつの間にか人間の姿に変身していたタロも、目を輝かせながら手伝ってくれる。
「うん、これはさすがにビールだな。
タロは麦茶? 牛乳?」
「じゃあ麦茶をお願いします」
タロに酒を飲ませられないので、タロと一緒に晩ご飯を食べる時は俺も飲まないようにしているのだが、こう屋台メニューばかりだとどうしても飲みたくて、俺は自分用の缶ビールとタロ用の麦茶を冷蔵庫から出した。
「じゃあ、今日は一日お疲れ様でした。
乾杯!」
俺が缶ビールを上げると、タロもよくわかってないながらも俺の真似をしてコップを上げたので、カチンと缶とコップを合わせてからビールをグイッと飲んだ。
「あー、うまっ。
さあ、食べようぜ」
「はい!」
タロも焼きそばくらいは知っているが、他の屋台メニューは知らないものが多かったようで、俺に色々と聞きながら喜んで食べている。
綿菓子はやはり作っているところを見て気になっていたようで、食べてみてその食感に驚き、ザラメ砂糖から作ることを説明してやるとまた驚いていた。
「あー、食った食った。うまかったな」
「はい、どれも美味しかったです」
「ゴミは片付けておくから、タロはヨーヨーで遊んでみたらどうだ?
お前、欲しかったんだろ?」
「はい、それじゃ遠慮なく。
あ、あとご主人様、ヨーヨー取ってくれてありがとうございました」
「おー、まあオマケしてもらったんだけどな」
タロの指に水風船のゴムをはめてやって、手を重ねてやり方を教えてやると、タロはすぐに一人で出来るようになった。
俺がゴミを片付け終えても、まだタロは真剣な顔をして水風船をぺしぺしついていたので、俺はスケッチブックを持ってきて、その姿をスケッチする。
少しだけ酔っているので線はゆがみがちだが、それでも真剣な顔になって遊んでいるタロのかわいさは十分描き表すことができたと思う。
そうしてタロが犬の姿に戻ってしまうまで、俺はタロの微笑ましい姿を描き続けたのだった。
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