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番外編
ワンコくん 3
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「ごしゅ……学さん!」
後ろで自動ドアが開き、聞き慣れた声が聞こえた。
驚いて振り返った俺に、入り口で靴を脱ぎ捨てたタロが、ぶつかりそうな勢いで俺に駆け寄り、腕につかまってきた。
「え? タロ?
どうしたんだ?」
神社で待ち合わせていたのになぜここにいるのもわからないし、普段なら人前でこんなふうに腕を組んだりすることもないのに、と不思議に思ってタロの顔を見ると、タロは歯医者さんに向かって今にも吠え出しそうな敵意むき出しの顔をしていた。
「あー……そういうことですか……」
俺とタロの様子を見た歯医者さんは、気の抜けたような声を出した。
「えーっと、なんかすいません」
「いえ、お気になさらず。
けど治療の方はあと1回来てくださいね。
なんでしたら、そちらのワンコくんも一緒でも構いませんので」
「えっ!」
「あ、はい、また来週お願いします」
「はい、それではお大事に」
そうして俺は、なぜか驚いた様子のタロと一緒に歯医者を出た。
————————————————
「タロ、どうしたんだ?
いきなり来るからびっくりしたよ」
家へと帰る道、俺はなぜかしょんぼりした様子のタロに話しかけた。
「あの、実は宮司さんにあの歯医者さんも男の人が好きな人で、学さんに似た感じの人と一緒に歩いてたのを見たって聞いて、それで僕、心配になってしまって……。
それよりも、どうしましょう。
僕、あの歯医者さんに犬だってバレちゃった……」
「え? バレたって?」
「だって、あの歯医者さん、僕のこと『ワンコくん』って……。
なんで、僕が犬だってわかったんでしょう……?」
「ああ、そう言うことか。
それなら心配ないよ。
あれはタロが俺のことを守る番犬みたいだっていう意味で、本物の犬っていう意味じゃないから」
それにタロはあの時『ご主人様』と言いかけてしまったので、たぶん変な意味の『犬』と誤解されているような気もする。
まあ、そのおかげでしつこく誘われるようなこともなかったので、結果オーライだが。
「あ、そうなんですか。
よかったー」
「うん。
それより早く帰ろう。
俺、腹減ってきたよ」
「あ、はい!
じゃあ、お昼はすぐ出来るから、うどんにしますね」
そうして何事もなく、いつもの日常を取り戻した俺たちは、我が家へと急いだのだった。
後ろで自動ドアが開き、聞き慣れた声が聞こえた。
驚いて振り返った俺に、入り口で靴を脱ぎ捨てたタロが、ぶつかりそうな勢いで俺に駆け寄り、腕につかまってきた。
「え? タロ?
どうしたんだ?」
神社で待ち合わせていたのになぜここにいるのもわからないし、普段なら人前でこんなふうに腕を組んだりすることもないのに、と不思議に思ってタロの顔を見ると、タロは歯医者さんに向かって今にも吠え出しそうな敵意むき出しの顔をしていた。
「あー……そういうことですか……」
俺とタロの様子を見た歯医者さんは、気の抜けたような声を出した。
「えーっと、なんかすいません」
「いえ、お気になさらず。
けど治療の方はあと1回来てくださいね。
なんでしたら、そちらのワンコくんも一緒でも構いませんので」
「えっ!」
「あ、はい、また来週お願いします」
「はい、それではお大事に」
そうして俺は、なぜか驚いた様子のタロと一緒に歯医者を出た。
————————————————
「タロ、どうしたんだ?
いきなり来るからびっくりしたよ」
家へと帰る道、俺はなぜかしょんぼりした様子のタロに話しかけた。
「あの、実は宮司さんにあの歯医者さんも男の人が好きな人で、学さんに似た感じの人と一緒に歩いてたのを見たって聞いて、それで僕、心配になってしまって……。
それよりも、どうしましょう。
僕、あの歯医者さんに犬だってバレちゃった……」
「え? バレたって?」
「だって、あの歯医者さん、僕のこと『ワンコくん』って……。
なんで、僕が犬だってわかったんでしょう……?」
「ああ、そう言うことか。
それなら心配ないよ。
あれはタロが俺のことを守る番犬みたいだっていう意味で、本物の犬っていう意味じゃないから」
それにタロはあの時『ご主人様』と言いかけてしまったので、たぶん変な意味の『犬』と誤解されているような気もする。
まあ、そのおかげでしつこく誘われるようなこともなかったので、結果オーライだが。
「あ、そうなんですか。
よかったー」
「うん。
それより早く帰ろう。
俺、腹減ってきたよ」
「あ、はい!
じゃあ、お昼はすぐ出来るから、うどんにしますね」
そうして何事もなく、いつもの日常を取り戻した俺たちは、我が家へと急いだのだった。
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