俺とタロと小さな家

鳴神楓

文字の大きさ
上 下
55 / 65
番外編

稲荷神社御由緒 2

しおりを挟む
そうして狐とお侍は村で幸せな時を何十年か過ごしたが、そのうちにお侍は寿命が来て死んでしまった。
狐は三日三晩嘆き悲しみ、4日目の朝、お侍の墓の側で狐の姿に戻って冷たくなっていた。

村人たちは狐をかわいそうに思い、またそれまで村を守ってくれた狐への感謝の思いもあり、その狐を村の守り神としてまつることにした。
ただ、その村は狐のおかげで災害に会わず、近隣の村から妬まれていたこともあり、元化け狐を大っぴらに神様として祀れば、お上に言いつけられて咎めを受けるかもしれないということになり、表面上は同じ狐がお使いのお稲荷さんを祀るということにして、神社を作ったんだ。

そういうわけで今でもこの神社は稲荷神社だし、表向きには稲荷大神いなりのおおかみが御祭神ということになっているが、本当はその化け狐がこの神社の御祭神で、この辺りに住んでいる人はみな小さい頃に親や近所の年寄りからその話を聞かされてそれを知っていて、その上でこの神社を大切に思っているんだ。

————————————————

「どうだい、なかなか面白い話だろう。
 あ、そうだ、この話、人に話すのは構わないけど、紙に書き残したり、今流行りのSNSで書いたりしないでくれよ。
 昔からの決まりで『口伝に限る』ということになっているからね。
 その決まりさえなければ、面白い話だから本にでもしたいんだけどなあ」

地域の歴史研究家でもある役員さんは、少し悔しそうだ。

「その狐、すごいですね!
 化けるだけじゃなくて、洪水から村を守ったりもできるなんて」

尊敬する神様の昔の話を聞いたタロは、目をキラキラさせて興奮した様子だ。

「まあ、ただの言い伝えだけどね。
 それでも、この辺りの年寄りには本当に狐の神様を信じている人も多いよ。
 なんか、大正時代の震災でもこの辺りは被害が少なかったとか、戦時中の空襲でも焼夷弾の大半が不発だったとかいうことがあって、今でも狐の神様がこの地域一帯を守ってくれているんだってね。
 最近だと、バブルの頃に商店街の土地を狙っていた地上げ屋のヤクザが、いつの間にか来なくなってたなんて話もあったな。
 まあ、実際には神様のおかげなんてことはなくて、全部たまたまなんだろうけどね」

そう言って役員さんははははと笑ったけど、実際に神様がいることを知っている俺には、とてもじゃないけど笑えなかった。
それだけ強い力がある神様なら、タロに人間に変身する力を与えたり、畑の野菜を急速成長させるくらいのことは、きっと簡単なことだっただろう。

「それじゃあ」と言って役員さんが行ってしまうと、いつの間にか佐々木さんが側に立っていた。

「宮司さん!
 さっき総代役員さんから神様のことを聞いてたんです。
 神様って、やっぱりすごいですね!」
「ああ、私もだいたいのところは聞いていましたよ」 
「佐々木さん、さっきの話、本当なんですか?
 洪水を防いだとか、焼夷弾を不発にしたとか……」

俺が恐る恐る聞いてみると、佐々木さんはなんでもないことのように笑顔で答えた。

「ええ、本当ですよ。 
 母は元々狐としては最上級の妖力を持っていましたから、神格化してもそれなりに強い神通力を得ることができたんですよ。
 まあ、焼夷弾は私も手伝わされたんですけどね。
 次々落とされる焼夷弾の中身を一つずつ湿らせて無力化するのはかなり大変でしたから、もう二度とやりたくありませんけどね」
「そ、そうですか……」

「わー、ノリさんもすごいですね!」と無邪気に喜んでいるタロの横で、俺は密かに佐々木さんには絶対に逆らわないでおこうと(逆らう機会もないだろうけど)心に誓っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

すずらん通り商店街の日常 〜悠介と柊一郎〜

ドラマチカ
BL
恋愛に疲れ果てた自称社畜でイケメンの犬飼柊一郎が、ある時ふと見つけた「すずらん通り商店街」の一角にある犬山古書店。そこに住む綺麗で賢い黒猫と、その家族である一見すると儚げ美形店主、犬山悠介。 恋に臆病な犬山悠介と、初めて恋をした犬飼柊一郎の物語。 ※猫と話せる店主等、特殊設定あり

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

少年神官系勇者―異世界から帰還する―

mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる? 別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨ この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行) この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。 この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。 この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。 この作品は「pixiv」にも掲載しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する

あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。 領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。 *** 王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。 ・ハピエン ・CP左右固定(リバありません) ・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません) です。 べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。 *** 2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。

処理中です...