四人の関係

鳴神楓

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今日は佳暁様は一泊で出張に出掛けることになっていた。
いつも通り、護がそれについていくので、オレと聡が留守番だ。

「いってらっしゃいませ」

聡と二人で玄関に見送りに出ると、佳暁様は「いってきます」と答えた後に、聡に向かって「じゃ、後でね」と言った。
その時はオレは、後で電話する約束でもしているのかなと思って、深く考えることはしなかったのだが。


「ああ、健太。
 今日もいつも通り風呂で準備しておけよ」

夕食も終わりに近づいた頃、いきなり聡にそう言われて、思わずオレは「はあ?」と声を上げてしまった。

「佳暁様がテレフォンセックスをしてみたいそうだ。
 インターネット回線のテレビ電話を使うから、テレフォンセックスって言っていいのか分からないが」
「えっ……」

そう言われて、佳暁様が朝出掛けるときに「後で」とおっしゃっていたことを思い出す。
それでは聡は、最初からそのことを知っていたのだ。

「なんでそれ、こんなギリギリになってから言うんだよ……。
 佳暁様も先に言っておいてくれたらいいのに……」
「俺が言わないでくれって頼んだんだ。
 先に聞いておいたらお前は一日中緊張するはめになるだろうから、かわいそうだからって」
「う……」

それは……確かにそうかもしれない。
実際に今、聡にテレフォンセックスのことを聞かされて、すでにちょっと緊張しているのだ。
もし朝から聞かされていたら、今日一日中、聡と顔を合わせるたびに、変に意識してしまって大変だったかもしれない。

「……嫌なら、今からでも佳暁様に断るか?」
「断るのはいやだ。
 だって、佳暁様がやりたいっておっしゃったんでしょ?」

そう言うと聡はうなずいたので、オレは「じゃあ、やる」と重ねて言う。

「分かった。
 じゃあ、準備して9時前に佳暁様の寝室で」

オレがうなずくと、聡は軽くうなずいて、それから「ごちそうさま」と言った。

「もう少し仕事を片付けてくるから、後でな」
「うん」

そうして聡はダイニングを出て行った。
もしかしたら、オレを気づかって一人にしてくれたのかなと思いながら、オレは食器を片付け始めた。



約束の時間に佳暁様の寝室に行くと、聡はベッドの側にテーブルを移動して、ノートパソコンを準備していた。

「丁度よかった。
 カメラの位置合わせるから、ちょっとそこに座ってみてくれ」
「うん」

聡に言われて、オレはバスローブのままベッドに上がってパソコンの前に座る。
聡が位置を調節しているパソコンの画面には左半分にオレの姿が表示されている。

「それ、通話中もこっちの姿って画面に映るの?」
「ん? それは一応設定で消すことも出来るが」
「じゃあ、消しておいてよ」
「それはだめだ。
 お前がちゃんと色っぽく映ってるかどうか、確認しないといけないから」

聡は真顔でそう言ったが、オレにはどうもその言葉が信じられなかった。

「そんなこと言って、自分が見たいだけだろ。
 だいたい、聡はわざわざ画面で確認しなくても、ちゃんとオレのこと色っぽくみせられるじゃん」

オレがそう抗議すると、聡はなぜか嬉しそうに微笑んだ。

「ばれたのならしょうがないな。
 分かったよ。
 けど、うっかり位置がずれるといけないから、一応小さく表示しておいていいか?
 これくらいで」

そう言って聡が設定しなおした画面の大きさは、表情などの細かいところは見えないようなサイズだったので、それなら、とオレはうなずく。

「そろそろ脱いどく?」

パソコンの設定を終えた聡がマウスを持ってベッドに上がって来たので聞いてみると、聡は少し考えてから首を横にふった。

「いや、向こうの様子見てからにしよう。
 もしかしたら始める前に話でもするかもしれないし」
「そうだね、わかった」

そう答えてしまうと、後は特に話すこともなくなってしまった。
二人で黙り込んでしまうと、妙に聡の存在を意識してしまう。

すぐ後ろに座っている聡は、今はまだ、オレに触れてはいない。
けれどももうすぐ、佳暁様がログインしてきたら、聡はオレに触れる。
画面の向こうには佳暁様と護がいるとはいえ、聡と二人だけで抱き合うのは一番最初の時以来なのだ。
それを意識すると、どうしても変に緊張してしまう。

黙っている聡は、今、何を考えているのだろう。
気になって後ろを振り返ろうとしたけど、それを知ってしまうのも怖い気がして、結局オレは振り返ることが出来なかった。

すごく長い沈黙のように思えたが、実際に待っていた時間はそれほど長くなかったと思う。
やがて、パソコンから小さな音がして、佳暁様がログインしてきたことを知らせた。

「おまたせ」

画面の向こうに現れた佳暁様は、すでに一糸まとわぬ姿だった。
佳暁様のすぐ後ろにいる護の方も何も着ていないようだ。
慌ててオレもバスローブを脱ごうとすると、「待って」と佳暁様に止められた。

「そのままでいいよ。
 せっかくだから今日は、健太が聡に脱がされるところを見せてもらおうかな」
「えっ……あ、はい」

いつもは始める前に自分で脱ぐのでおかしな感じだが、佳暁様がそう言うならと、オレは腰紐を解きかけていた手を止めた。

「それじゃ、始めようか」

佳暁様がそう言うと、聡がオレを後ろから抱え込むようにして抱きしめ、耳に口づけた。

「っ……!」

思わず出そうになった声を反射的に噛み殺すと、聡がオレの耳に口をつけたまま囁く。

「声、殺さない方がいい。
 今日は画像と音でしか、お前が感じているのが佳暁様に伝わらないから」
「あ……、ん、わかった」

耳元で感じる聡の声にちょっと感じつつもオレがうなずくと、そのまま聡はオレの耳の中をなめ始めた。

「んっ……はぁ……」

正直、耳は弱いので、我慢しないでいると自分でも恥ずかしいくらいの声が出てしまう。
聡はオレの耳を責めながら、バスローブから出ている首と太ももをなで始めた。
目の前に佳暁様と護がいるとはいえ、体温も匂いも感じられない画面越しなので、その分、いつもよりもオレに触れる聡の体温と匂いを鮮明に感じてしまう。
そのせいなのかどうなのか、佳暁様が側にいなくて萎えてしまってもおかしくない状況のはずなのに、オレはいつもと同じくらいに感じ始めている。

一方、画面の向こうの佳暁様は後ろにいる護と不自然な体勢で口づけを交わしていて、マイクを通して濡れた音が聞こえてくる。
オレとは違ってむき出しになっている乳首を護につままれ、その刺激に体をびくびくと震わせながらも口づけをやめようとしないその姿は、画面越しでも壮絶に色っぽかった。

オレが画面の向こうの佳暁様に見とれていると、いきなりバスローブの隙間から手を入れられ、乳首をきゅっとつままれた。

「わっ!」

驚いて色気のカケラもない声を上げてしまうと、後ろで聡がくすっと笑った。

「悪い。
 お前があんまりうらやましそうに佳暁様を見ているから、お前も触って欲しいのかと思った」
「ちがっ……!
 っていうか、待って聡、これじゃ佳暁様に見えない……」

オレをからかいつつも聡はバスローブの中の乳首をいじり続けていたので文句を言ったのに、聡はそのまま手を動かし続けていて、聞き入れてくれる様子はなかった。

「佳暁様にはちゃんと見えているよ。
 お前がオレに乳首いじられて感じている顔が。
 そうですよね? 佳暁様」
「うん、よく…見えるよ」

聡の呼びかけに、画面の向こうから返事がある。

「健太が、聡に…乳首っ、いじられて、気持ちよくなってるの…、ちゃん、と、わかるよ……。
 バスローブの中でっ、健太のかわいい、乳首、いつもみたいに…赤くなっ、て、んっ……立ってるの想像すると、すごく……興奮する……」

オレを言葉責めする佳暁様の声は、護に体中を触られているせいで途切れがちだ。
その色っぽい声と、言葉の内容とで、オレは自分の体温が一気に上がったのがわかった。

「…あっ……」

佳暁様の言葉に調子に乗ったのか、聡がバスローブの裾から手を入れて、内股のきわどいところをなでてくる。
焦らすようなその手つきに、オレはたまらず熱い息をもらす。

そんなんじゃ、足りない。
もっと触ってほしい。
こんなふうに服を着たままじゃなくて、裸にして、気持ちいいところを全部触って欲しい。
こんな布越しのもどかしい感じじゃなくて、いつものように直に聡の体温を感じたい。

じらされているせいで、オレの思考は少しおかしくなっているようだ。

「聡……脱がせて。
 オレが感じてるとこ、もっと佳暁様に見てもらいたい」

そうだ、自分のためじゃなくて、佳暁様のために。
いや、自分が感じたいのもあるんだけど、オレが感じてそれを佳暁様に見てもらうのも佳暁様のためだから。

そんな、なんだか言い訳めいた思考が頭の中をぐるぐる回る。
だめだ、オレ、やっぱりおかしくなってる。

オレがわけのわからない思考でいっぱいいっぱいになっているうちに、聡がバスローブを脱がせてくれていた。

「聡も……。
 聡も佳暁様に見せないと」

言いながら聡のバスローブの袖を引くと、聡は「ああ」と答えて自分のバスローブを脱いでくれた。

画面のこちら側の二人も裸になったところで、改めてオレは聡に抱きかかえられ、パソコンのカメラに向かってその姿をさらされる。
全身を紅潮させて前も勃たせている自分の姿が、画面のすみに小さく映っているのが目に入ってしまい、羞恥に一瞬身を固くしてしまう。
それでも、背中に感じる聡の体温を意識すると、不思議とすぐに力は抜けた。

「綺麗だよ、健太……」

画面の向こうで、囁くように佳暁様が言う。
けれどもオレよりも、そう言う佳暁様の方が、ずっとずっと綺麗だ。

「実際にさわれないのが惜しいくらいだ」
「オレもです……」

オレがそう答えたのとほとんど同時に、聡がいきなりオレの乳首に爪を立てた。

「いたっ!」

オレの抗議の声は、しかしすぐに喘ぎ声に変わる。
痛めつけられた乳首をやさしくくすぐられてムズムズするようなもどかしい快感を与えられ、しかも今まで放っておかれた前も触れるか触れないかぐらいの微妙な刺激を与えられ、オレはたまらずに身悶える。

画面の向こうで佳暁様が護の愛撫に声を上げているのを聞きながら、聡の手が後ろへと向かったのを感じて、オレはほとんど何も考えることなく、触ってもらいやすいように腰を浮かせていた。
ゆっくりと入ってくるローションで濡れた指は、たぶんいつもの指サックをしていない。
どうして、と思った次の瞬間、前側の感じるところを押され、頭の中が真っ白になった。

聡が知り尽くしている、オレが感じるところをひたすら責められ、オレの口からはひっきりなしに喘ぎ声がもれる。
中を広げるためにしては明らかにやりすぎだ、と思うけれども、気持ちがよすぎて、聡を制止することが出来ない。

「早く佳暁様の中に入りたい」

今まで一言もしゃべっていなかった護が、抑えた声でそう言ったのが耳に入った。

「僕も……もう、欲しい。
 ……健太は?」
「オレも……オレも欲しいで……ああっ…!」

画面の向こうの佳暁様の問いに答え終えるその前に、オレは聡の太く長いモノでつらぬかれていた。
その感触で今度はきちんとゴムがつけられているのがわかって、なぜだかオレはそのことを惜しいと思ってしまう。

「ふっ……んぁっ…あ、ぁ……」

聡の動きはいつも以上に激しくて、オレはもう、なにも考えられないくらいに感じてしまっている。
画面の向こうから聞こえる、護に抱かれている佳暁様の声もどこか遠い。

「や、……も、イクっ……あっ、ああぁぁーーー……」

オレがイッたのとほとんど同時に、聡もオレの中で達したようだ。
小さくなったモノをオレの中から抜いた聡が、快感の名残でぐったりしているオレの体を支えてくれる。

オレたちより少し遅れて、画面の向こうの二人もそれぞれに達したようだ。
乱れた息を整えながら、佳暁様がこちらを見て微笑んだ。

「ありがとう。
 すごくよかったよ。
 またやろうね」

佳暁様の言葉にオレはうなずくのがやっとだったが、後ろの聡は堂々と「はい」と答えている。

「明日は、夕飯までには帰るからね。
 それじゃあ、おやすみ」
「おやすみなさい」
「おやすみなさいませ」

こちら側の二人が挨拶した後、向こう側の護がぼそっと「おやすみ」と言って、すぐに画面が消えた。
そうすると何だか急に落ち着かなくなって、オレは聡から離れて後始末を始めた。

出張先の佳暁様と護は、たぶんあのまま二回戦に突入しているのだろうけど、オレと聡は佳暁様が見ていない以上、再び体を重ねる必要はない。
だからいつも佳暁様が出張している時のように、自分の部屋に戻って寝ようと思って立ち上がろうとしたのだが、その前に聡にベッドに押さえ込まれてしまった。

「ちょっと、聡?」

オレと同じくまだ裸のままの聡は、オレを後ろから抱きかかえて横になると布団をかぶった。
それは丁度、いつも四人で並んで寝るときと同じ体勢だった。

「わざわざ下まで戻らなくても、ここで寝たらいいだろ。
 ほら、いつもと同じだ」
「でも……」

確かに寝る位置はいつもと同じだけれど、今日は佳暁様と護がいない。
いつもと同じ体勢だけれど、こうして聡と二人だけで横になっている状態はいつもとは違う。

「何もしないよ。
 いつもみたいに、こうして眠るだけだ。
 それとも、それも嫌か?」

聡の声は強引にオレのことを言いくるめているようでいて、そのくせどこか不安げだ。

「嫌じゃないけど、でも……」

毎日こうして眠っているから、聡に抱きかかえられて眠るのが心地いいのは知っている。
だから決して嫌ではないのだが、それでもこうして二人だけの今日、一緒に眠ってもいいのだろうか?
こうして二人寄り添って眠るのはまるで恋人同士のようで、けれどもオレはまだ、聡の告白に返事をしていなくて、だからこうして二人で眠ってはいけないような気がする。

「迷ってるなら、このまま寝ておけよ。
 俺はこのままここで眠りたくて、お前はどちらとも決められない。
 だったら多数決で、ここで眠ることに決定だ」
「多数決って……強引だなぁ」

それでもそこまで言われるともう、自分の部屋に帰ると言う気にはなれなかった。
オレの体から力が抜けたのがわかったのか、聡が枕元のリモコンに手を伸ばして電気を消す。

いつもと同じ、それでもなぜかいつもとは少し違うぬくもりに包まれて、オレはすぐに眠りに落ちていった。
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