四人の関係

鳴神楓

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「……え?」

佳暁様の口から出た言葉の意味が全く分からなくて、頭の中が真っ白になって固まってしまう。

「お前が嫌でなければ、聡にお前の後ろをほぐしてもらいたいんだ。
 もし健太が嫌なら、僕がするけど」

混乱しているオレに佳暁様が再度説明してくれて、ようやくその内容が飲み込めたけど、それでもやっぱり、佳暁様の言うことは理解できなかった。

他の二人に見られてはいても、これはあくまで佳暁様とオレの二人のセックスだと思っていたのに、いきなり聡に手伝ってもらうなんて言われても、どうしていいのかわからない。
それに聡の方だって、昨日オレのことを好きだって言ってくれたばかりで、オレが佳暁様に抱かれるのを見ているだけでも複雑な気持ちだろうに、そのうえ手伝えなんて言われても困るはずだ。

いったいどうして、佳暁様はこんなことを言い出したのだろう。
そう思ってその表情をうかがうと、佳暁様は口元に小悪魔めいた微笑みを浮かべてはいるものの、まるで迷子の子供のような不安げな表情になっていた。

そんな佳暁様を見て、オレはこの方はこういう人だったと思い出す。
普段は穏やかで理知的で大人びた方なのに、ごくたまに驚くほどにわがままだったり残酷だったりする、それが佳暁様という方なのだ。
佳暁様のそんな部分は、どうやら佳暁様が性依存症になったのと同じく、過去のトラウマに原因があるらしい。
そんなときの佳暁様は、ご自分が無茶なことを言っているという自覚があるらしくて、かならず今回のようにオレたちに逃げ道を用意してくれてはいる。
けれどもそれはまるで、子供が親の愛情を試すために わがままを言っているかのようで、しかもそんな時の佳暁様はどことなく不安げな様子で、だからオレたちはいつも、そんな佳暁様のわがままを受け入れずにはいられない。

そのことを思い出した瞬間、オレの答えは決まった。

「大丈夫です。
 聡に、お願いします」
「……ありがとう。
 聡は? やってくれる?」

佳暁様が問いかける前に聡はすでに立ち上がっていて、「はい」と答えながらベッドへとやってきた。
たぶん聡は最初から、オレさえかまわなければ佳暁様がおっしゃる通りにするつもりだったんだろう。

「……聡、お願い」
「ああ」

聡に短く声をかけて、オレの方はさっきやりかけていた、佳暁様へのフェラチオを改めて始めることにする。
オレが佳暁様のものをなめ始めると、四つん這いになっているため無防備な後ろの蕾に濡れた指が触れた。

ゆっくりと押し入ってくる指が、また昨夜のような強烈な官能を呼び起こすのを警戒しつつ、オレはフェラチオの方に集中するよう努力する。
幸い、聡は今日はオレの中にある感じるところには触れないようにしてくれていて、後ろで感じはするけれども、昨夜のように我慢できないほどの快感ではなかった。

これなら何とか大丈夫だ。
そう判断して、オレはさっきまではうっかり歯を立ててしまうのを恐れて口には含めなかった佳暁様のものを、ゆっくりと喉の奥いっぱいまで飲み込んでいく。

佳暁様にフェラチオをするのは、以前から好きだった。
その理由は、抱くのは違ってフェラチオは研究と練習でうまくなることが出来たし、佳暁様がオレのすることに悦んでくれているのがわかりやすいからだと、これまではそう思ってきた。
けれどもこうして抱かれる立場になってみると、今まではおまけのようなものだと思っていた、フェラチオをすることで得られる口の中を擦られる快感の方が、実はメインの理由だったのかもしれないと思ってしまう。

佳暁様を感じさせるために懸命にフェラチオしているけれども、そうしながらも佳暁様のもので口の中を擦られ、それから聡の指で後ろをほぐされ、どちらも達するような直接的な刺激ではないのに、すごく感じてしまう。
佳暁様のものを自分の中に受け入れられるように自分の手と口で準備しながら、自分の体の方は聡に準備されているという異常な状況に、最初は困惑しか感じなかったはずなのに、いつのまにかすっかり興奮してしまっている自分がいる。

そっと佳暁様を見上げると、佳暁様は愛おしそうなまなざしでフェラチオをするオレを見てくれていて、胸の中にじわりと喜びが広がる。
後ろにいる聡の方は、はたしてどんな目でオレを見ているのだろうかと、ちらりと考える。

「…んぅっ!」

唐突に、後ろから指を抜かれ、思わず口の中の佳暁様のものに歯を立ててしまいそうになったが、どうにかこらえることが出来た。

「健太、もういいよ」

佳暁様に頭を軽く撫でられ、オレは十分な大きさに育った佳暁様のものから口を離す。
聡がコンドームを手渡してくれたので、佳暁様のものにそれをつけてから、オレは再びベッドに仰向けになった。

寝転んだまま佳暁様を見上げたオレは、いったいどんな顔をしていたのだろうか。
佳暁様はまるでオレを安心させるかのように微笑んで軽くキスをして、それからゆっくりとオレの中に入ってきた。

それは聡がオレを抱いた時とも、オレたち三人が佳暁様を抱く時とも違う、穏やかなセックスだった。

昨夜この体の中に受け入れた聡のものと比べると、佳暁様のものはサイズ的に少し小さくて、昨夜に引き続き二回目ということもあってか、聡の時みたいに人生観が変わりそうなほどの激しい快感があるわけではない。
けれどもその代わりに、佳暁様がオレを抱いてくれているというその事実がオレを精神的に満たしてくれていて、幸せのあまりオレは泣きそうになっている。

佳暁様の表情の方も、気持ちよさそうというよりはむしろ、うれしそうとか幸せそうというのがふさわしい顔だ。
それでも佳暁様はオレの体でそれなりに感じてくれたようで、やがてオレの中で達し、まだ達してなかったオレのものも手で何度か擦っていかせてくれた。


疲れた体の上に、佳暁様の重みを感じる。
そのことさえもうれしくて幸せに思えて、オレは思わず佳暁様に感謝の言葉を口にしていた。

「ありがとうございました」

そう言うと佳暁様は少し笑って、「こちらこそ」と返してくれた。

「どうだった?
 僕は健太のことを満足させられた?」
「はい、もちろんです。
 ……あの、佳暁様は……」

オレ自身の感想よりも、佳暁様がどう思われたかの方が重要だ。
オレがおそるおそる聞いてみると、佳暁様は少し黙って、それからオレから体を離して起き上がり、ベッドの上に座った。
オレも慌てて起き上がり、ベッドの上に正座して佳暁様の話を聞く体勢になると、佳暁様は口を開いた。

「僕も満足出来たよ。
 正直、抱かれる時ほどには気持ちよくはなかったけど、それでもちゃんと感じたし、それにオレに抱かれている健太がうれしそうにしているのを見ると僕もうれしくて、そういう意味でも満たされたからね。
 もし健太がこれからもこういうふうに僕に抱かれたいと思うのなら、毎日はちょっとむりだけど、時々なら抱いてあげられると思う」

佳暁様の言葉を聞いて、オレはほっとして、それからじわじわとうれしさがこみ上げてきた。
昨日自分の望みに気付いてしまった時には絶望的だと思ったけれど、意外にもオレの大それた望みは叶えられそうだ。
そう思って一度は喜んだのだが、続く佳暁様の言葉で、オレはまた混乱することになった。

「健太のことを抱くのは好きだと思えたよ。
 けどね……それ以上に僕は、お前が聡に後ろをほぐされて感じているのを見て、その姿に興奮を覚えたんだ。
 聡に感じさせられているお前は、すごくかわいくて、色っぽくてね。
 出来ればもっと、こうしてお前が感じているところを――お前が聡や、それから護の手で感じさせられたり、抱かれているところを見たいと、そういうお前を見ながら僕自身も聡や護に抱かれて気持ち良くなりたいと、そう思ったんだ」

佳暁様の言葉に呆然とするしかないオレの様子に、佳暁様は少し寂しそうに微笑んだ。

「ごめんね。
 僕、かなりひどいことを言っているよね。
 けれどもこれが、僕がさっき健太を抱いた時に感じた素直な欲望なんだ。
 今までのセックスは僕一人がお前達三人に抱かれる形だったけれど、出来ればこれからは、僕は聡と護の二人に抱かれ、健太も僕と同じように聡と護に抱かれ、そうして時々は僕も健太を抱いて、出来れば健太にも僕を抱いてもらって、そういう形で四人の関係を続けていきたいと、今はそう思っている。
 もちろん無理強いはしないし、健太自身の気持ちも踏まえて一番いい形を探していきたいと思うけど、ただ、僕が望んでいるのがそういう形だということは知っておいて欲しい」

佳暁様が望んでいることは、昨日まで抱く側の立場しか知らなかったオレにはあまりにもハードルが高すぎて、自分自身がどうすればいいのかということだけでなく、どうしたいのかすら判断できなかった。

途方に暮れて視線をさまよわせると、視線の端に聡の姿が目に入った。
思わずそちらを見ると、聡は心配そうな顔でオレを見ていた。

「……聡は、どう思う……?」

思わずそう聞いてみると、聡は「いや、俺は」などと言葉を濁していたが、佳暁様に「僕も聞きたいな」とうながされると、オレの方をちらっと見てから、佳暁様の方を向いて答え始めた。

「私は健太さえそれでいいなら、佳暁様のおっしゃる形でかまいません。
 健太のことが好きで健太を抱きたいという気持ちはありますが、それとは別に佳暁様をお慕いする気持ちも変わらずありますから、私にとってはむしろベストに近い形かもしれません」
「えっ、けどオレ……」

思わずオレが口を出すと、聡は今度はオレの方を向いて口を開いた。

「ああ、もちろん健太に俺のことを好きになれって言っているわけじゃないからな。
 お前の俺に対する気持ちは別にして、お前が佳暁様がおっしゃるように自分の感じている姿を佳暁様に見てもらいたいと思えるなら、俺はお前をより可愛く色っぽく見せるために協力してやれるということだ。
 ま、俺にとっては役得だしな」
「う、ううー……」

佳暁様がおっしゃることは聡にとってもけっこうキツいことだと思うのだが、聡はもう割り切ってしまったらしい。
けれどもオレにはそんなふうに簡単には割り切れなくて、うなり声を上げるしかない。

「ちなみに、護は?」

佳暁様がソファベッドの護にそう聞くと、護は考え込むようにあごに手をあてた。

「そうですね……。
 俺は聡のように健太に恋愛感情があるわけではありませんが、さっきのお二人の様子を見て興奮はしましたし、おそらく健太のことも抱けると思います」

そこまで言うと護はオレの方に顔を向けた。

「まあ、俺も聡と同じで、お前が望むなら協力してやれる、といったところだな。
 聡とは違って、佳暁様のことを愛する者同士、仲間として協力するという意味だが」

こちらもやはり佳暁様の提案を受け入れるつもりになっているらしい護の言葉に、またしてもオレはうなるしかない。

「そうするとやはり、あとは健太の気持ち次第だね」

そう言うと佳暁様はオレの肩に手を置いて、じっとオレを見つめた。

「健太。
 急がなくてもいいから、お前自身はどうしたいのか、ちゃんと考えてみてくれないかな。
 まだお前も混乱しているだろうから落ち着いてから考えた方がいいだろうし、僕や他の二人に聞きたいことがあったら聞いてくれてもいいから、色々考えてみて答えが出せたら教えてくれたらいいから」
「……はい、わかりました」

混乱しつつもなんとかそう答えると、佳暁様は微笑んでうなずいてくれた。

「とりあえず今日は健太は体も辛いだろうし、もう終わりにしよう。
 いつもみたいに四人で寝ても大丈夫?」
「あ、いえ、ちょっと一人になりたいので、部屋に戻らせてもらってもいいですか?」

いつもは大きいベッドで佳暁様を真ん中にして無理矢理四人並んで寝たり、狭いと感じる時は適当に一人ソファーベッドに移ったりして、ともかく四人そろってこの部屋で寝ているのだが、さすがに今日はそういう気分には慣れなくてそう答えると、佳暁様はうなずいてくれた。

そうして怒濤の一夜は、ようやく終わりを迎えたのだった。
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