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二人の夜 2
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「聡、ちょっといい?」
「ああ、どうぞ」
二階の聡の部屋をノックするとすぐに返事があったので、遠慮なくドアを開けた。
佳暁様以外の私室は各自で掃除することになっているが、聡には家のメンテナンスのことを相談したりすることもあるので、この部屋にも何回かは入ったことがある。
あいかわらずきちんと整頓された部屋は、なんとなく聡らしい感じがする。
聡はネットニュースか何かをチェックしていたらしくてパソコンの前にいたが、こっちを向いてくれていた。
「どうした?」
「うん……ちょっと……相談したいことがあって」
オレの歯切れが悪かったので、話が長くなりそうだと察してくれたらしい。
聡はベッドに座るようにうながしてくれた。
「あのさ、オレ……その、セックスする時、もっと佳暁様に満足してもらいたいって思うんだけど、どうしたらいいかわからなくて……。
だからこう、何かコツみたいなものがあったら教えてもらえないかなと思って」
オレがそう言うと、聡は困ったような顔になった。
「別に焦らなくても、お前はちゃんと少しずつうまくなってると思うぞ。
それに佳暁様はお前がそんなふうに考えていると知ったらお喜びになるだろうから、俺じゃなく佳暁様に直接聞いてみたらどうだ?
おそらく佳暁様は、お前に教えることもプレイの一環として楽しまれると思うが」
「う……そ、それはそうかもしれないけど、やっぱりそういうのは男のコケンに関わるというか……」
実際に下手くそなのは確かなのだから男の沽券も何もあったものじゃないのだが、そこは複雑な男心というやつなのだ。
「まあ、その気持ちはわからないでもないがな。
しかし、コツと言われてもな……。
基本的には佳暁様が感じるところを強弱つけて刺激する感じかな。
たまにポイントを外して焦らしたり、感じるところを中心に全体を大きく擦ったりするのもいいと思う。
佳暁様が感じるところはわかってるか?」
「えーっと、前立腺のところだよね?」
「そうだな。
あとは奥の方にも感じるところがあるんだが、お前だと届くかどうか微妙だから、前立腺を責めた方がいいと思う」
「あー……」
確かにオレは奥の方にも佳暁様が感じるところがあるなんて気付いてなかったから、たぶん聡の言う通り届いていないのだと思う。
自分の持ち物のあまりの貧相さに嫌になるが、長さが足りないものは仕方がないので、前立腺の方を刺激することを考えた方がいいだろう。
「しかしな……。
お前、前立腺の方もうまく責められていない気がするんだよな……」
「えっ? ほんとに?」
「ああ、たぶんな。
お前に抱かれてる時、佳暁様はちょっともどかしそうに見えるんだよ。
おそらく佳暁様は、そのもどかしい感じを楽しんでるところもあるのだと思うが」
「ええー……」
正直言って、聡の話はかなりショックだった。
うまく出来て喜んでもらえるのではなく、未熟なところを楽しまれているなんて、いくらそれで佳暁様が喜んでくれていたとしても、ちょっとつらいものがある。
「そういえばお前、佳暁様の中を指で触る機会が少なかったかもしれないな。
指で触っていると入れた時も場所がわかりやすいから、もっと積極的に指を入れてみた方がいいだろう。
佳暁様がお前のキスやフェラを気に入っておられるから、お前には前側に回ってもらうことが多かったが、今度からはもっと中をほぐす方にも回ってもらうようにしよう」
「うん、お願い」
聡が教えてくれたことで、何となくではあるが可能性が見えてきた気がした。
明日の夕方には佳暁様が帰ってくるから、夜にする時はもっと意識して佳暁様が感じるところを探してみよう。
ああ、その前に今夜のうちにネットで前立腺の位置を復習しておいた方がいいかもしれない。
そう思ってオレは、聡にお礼を言って自分の部屋に帰ろうかと思ったのだが、聡はまだ何かを考えている様子だった。
「……お前、一度自分で中を触ってみたらどうだ?」
「ええっ!」
「もちろん人によって前立腺の位置は違うから佳暁様とまったく同じというわけにはいかないが、自分のでも十分練習にはなるだろう。
幸い今夜なら、佳暁様には内緒で俺が教えてやることも出来るし」
「う、うー……」
聡の言うことは納得は出来るのだが、自分の中を触るのは少し怖い気がする。
今までだって何回も佳暁様の中を触ったし、自分のものだって入れているくせに何だとは思うが、やっぱり怖いものは怖い。
「……もしかして、聡も自分の中で練習したの?」
「いや、俺の場合は、最初に寝たのが慣れてる人だったから、その人に教えてもらったし練習もさせてもらったんだよ。
だから本当なら、お前も佳暁様に教えてもらった方がいいと思うんだが」
「う……それはちょっと……。
……わかった、佳暁様のためだし、がんばってみる。
悪いけど、聡、教えてくれる?」
オレがそう言うと、聡は神妙な顔でうなずいた。
「隣からローション取ってくる。
ちょっと待ってろ」
そう言うと聡は隣の佳暁様の寝室――というよりは四人の寝室になっている部屋に行って、ローションやコンドームや後ろを触るときに使う指サックが入ったカゴを持ってきた。
昼間のうちにオレがいつものように中身を補充しておいたので、それぞれ十分な量が入っている。
聡が戻って来たので、オレはズボンと下着を脱いでベッドにあがった。
聡には毎日のように裸を見られているが、四人でセックスをする時以外に脱ぐのは初めてで、ちょっと恥ずかしい。
聡がタオルを貸してくれたので、前はそれで隠して聡にお尻を向ける形で横向きに寝転ぶ。
「とりあえず、一本でいいから指入れて、前立腺を触る前に中を広げてみろ」
「うん、わかった」
聡が渡してくれた指サックをはめてローションで指を濡らし、思い切って自分の後ろに指を伸ばした。
佳暁様にそうしているように、周囲から優しくほぐして、柔らかくなってきたらゆっくりと指を入れる。
自分の中に指が入っているのは、何ともおかしな感じだった。
佳暁様は指を入れただけでもかなり感じているように見えるが、正直感じるという感覚にはほど遠い。
それに自分の指の方に感じる感触も、佳暁様のものとはかなり違う感じがする。
佳暁様の中は触ったりアレを入れたりすると、うねったり締め付けてきたりするのに、オレの中は熱くはあるが中が動いている感じはしない。
それはやっぱり、佳暁様が長年男の人に抱かれ続けてきて、抱かれるのにふさわしい体に変化しているからかもしれないと思う。
「そろそろ大丈夫だろうから、前立腺も触ってみろ」
聡にそう言われたので、前立腺があるあたりを探りながら触ってみる。
「っっ!!」
自分の中の前立腺を探り当てた途端、体中に電流が走ったような強烈な快感がオレを襲った。
「うわー……すごいね……」
初めて感じる快感だからということもあるのかもしれないが、それは本当に人生観が変わりそうなくらいに、強烈な体験だった。
佳暁様はいつもこんなふうに感じているんだと思うと、何だか感動すら覚える。
「確かにオレ、こんなふうには佳暁様のこと感じさせられてなかったかも……」
聡や護に抱かれている時の佳暁様はきっとさっきと同じくらい感じているのだと思うけれど、自分の時はどうかと考えるとちょっと自信がない。
オレがそう言うと、聡は慰めるように僕の頭をちょっと撫でてくれた。
「それが自覚できれば十分だ。
その感覚を忘れずに佳暁様を抱く時に活かせれば、きっと佳暁様に喜んでいただけることが出来る」
「うん、ありがとう。
あ、けどせっかくだし、もうちょっと練習してみていい?」
僕がそう言うと、聡はしばらく沈黙した後、「ああ」と言った。
「そうだな、教えてやるって約束したことだしな」
その時のオレが、聡のまるで自分に言い聞かせるかの言葉の意味と、その前の不自然な沈黙の意味に気付いていたら、もしかしたらあんなことにはならなかったかもしれない。
けれどのその時のオレは、もっとセックスがうまくなりたいという気持ちと初めて知った快感とで一杯一杯になっていて、聡の気持ちなど考える余裕もなかった。
「どうやって触ればいいか、教えてやる。
俺の指も一緒に入れるぞ」
「あ、うん。お願い」
オレがうなずくと、聡は指サックとローションで準備をして、オレの手の甲を軽く握ってオレの指に沿わせる形で中に指を入れてきた。
二本目の指が入るとかなり苦しい感じがしたけれど、そうやって中がいっぱいになる感じがちょっと気持ちいい気もする。
「そうだな、この辺りをこういう感じで擦って……」
「あぁっ…!」
聡がオレの指に重ねた指を動かし始めると、途端にさっき以上の快感が襲ってきた。
実際に触っているのはさっきと同じオレの指なのだが、聡の動かし方がうまいのか、頭が真っ白になるくらいに気持ちよくて、聡が説明してくれているのも全く頭に入ってこない。
前を隠しているタオルの中で、自分のものがどんどん大きく固くなっているのがわかる。
それどころか、このままでは前を触ってもいないのにイッてしまいそうだ。
「ご、ごめん、聡、オレやばい。
もう無理だから、指抜いて」
オレが息も絶え絶えにそう頼むと、後ろで聡が息を飲む音が聞こえた。
えっ、と思うまもなく、聡とオレの指が一緒に中から引き抜かれ、聡がオレが横になっているベッドの上に上がってきた。
「……聡?」
ベッドに上がった聡はオレを仰向けにひっくり返しつつ、自分のズボンの前をくつろげた。
えっ、と思った時には、もう遅かった。
聡は下着の中から取りだした自分のものに慣れた手つきでコンドームをかぶせると、オレの体を押さえつけて、ゆっくりとオレの中に押し入ってきた。
「ちょっと、聡……! やだっ…、何で……!」
「……すまない」
押し殺したような声で謝った聡は、しかし行為をやめてはくれなかった。
何とか聡から逃れようとやみくもに暴れてはみたが、聡がオレを押さえつける力は強く、逃げることができない。
「違う……、聡、間違ってる」
困惑よりも恐怖よりも 、違和感が一番強かった。
オレは佳暁様を抱く方で抱かれる方じゃないし、聡が抱くのも佳暁様だけでオレなんかを佳暁様の代わりにしていいはずがない。
「間違ってない」
「え?」
「間違ってない。
俺は、お前のことが好きだから、だからこれで間違っていない」
「……え?」
聡の言ったことが、オレには信じられなかった。
何年もずっと佳暁様のことが好きで、今も佳暁様のことを深く愛している聡が、オレのことが好きだなんてことが本当にあるのだろうか。
けれども聡の表情は真剣そのもので、とても嘘を言っているようには見えない。
「…ああっ…!」
オレが呆然として固まっていると、聡がゆっくりとオレの中の入り口に入ったままだったものを押し込んできた。
さっき指で探り当てた前立腺を太いものがごりっと擦っていき、オレは思わず声を上げる。
さすがというべきだろうか、聡はオレの変化を見逃すことはなかった。
オレに教えてくれた通りに、前立腺の辺りを強弱をつけて細かく刺激したり、たまにそこを中心にして大きく擦ったり、オレが上りつめそうになると微妙にポイントをずらしてきて、もどかしい思いをさせたりする。
初めて知った快楽はあまりにも強烈すぎて、さっきまでの疑問も違和感もあっという間にどこかに行ってしまった。
いつの間にか、オレは聡の背中に手を回して、しっかりとしがみついていた。
真っ白になった頭の中に、ふいにある思考が言葉となって浮かぶ。
それはオレにとってはあまりにも恐ろしい考えで、自分で考えたことであるにもかかわらず、オレはおびえてしまう。
それでも昂ぶった体の方は、恐怖などものともしなかったらしい。
オレは聡に与えられた快楽に流されるままに達し、自分の腹の上に白い物をぶちまけてしまった。
オレが達したのとほとんど同時に、聡の方もオレの中で達したようだった。
達した途端、さっきまでの熱が嘘のように冷めていく。
それは男ならば誰でも同じはずなのに、聡の表情は最中と変わらない熱を帯びていた。
冷静さを取り戻したオレが慌てて聡の背中から手を離すと、聡もオレの中から自分のものを抜いてくれた。
「すまなかった。
けど、こんなことをしておいてこういうのも何だが、俺は本気だから」
オレを見つめる真剣なまなざしから、オレは卑怯にも目をそらした。
「さっきのこと、忘れて。
オレも忘れるから」
聡がオレにしたことはともかくとしても、真剣に告白してくれているのは確かなのに、こんなことは言うのは我ながらひどいと思う。
けれども聡には申し訳ないけれど、オレは自分の中の恐怖に耐えるので精一杯で、聡の告白についてまともに考える余裕など全くなかったのだ。
「部屋、帰る」
言いながら起き上がろうとしたが、その途端にさっき酷使したところに痛みが走って、オレは思わずうめき声を上げる。
「まだ無理だろう。
いいからこのまま、ここで寝ていけ。
お前が嫌なら、俺は出て行くから」
そう言うと聡は、ティッシュを取ってオレの体の後始末をしてくれた。
聡の甲斐甲斐しい世話を拒まなかったことが、そのまま聡がここにいることを許可したことになってしまったのだろうか。
聡は背中を向けて横になったオレの後ろにぴったりと体をくっつけて、そのまま一緒に布団をかぶってしまった。
反射的に小さく体を震わせたオレに構わず、聡は後ろからそっとオレを抱きしめてきた。
「お前が忘れろと言うなら忘れる。
明日になったら必ず忘れるから、だから今夜だけはこのままでいることを許してくれ」
本当ならオレは、聡のことを拒まなければいけないのだということはわかっていた。
けれども背中に感じる聡の体とその腕は温かくて、それはとても心地よくて、オレはそれを拒むことが出来なかった。
そうしているうちに、感じていた恐怖も少しずつ薄れていったのだろうか。
いつの間にかオレは、深い眠りへと落ちていった。
「ああ、どうぞ」
二階の聡の部屋をノックするとすぐに返事があったので、遠慮なくドアを開けた。
佳暁様以外の私室は各自で掃除することになっているが、聡には家のメンテナンスのことを相談したりすることもあるので、この部屋にも何回かは入ったことがある。
あいかわらずきちんと整頓された部屋は、なんとなく聡らしい感じがする。
聡はネットニュースか何かをチェックしていたらしくてパソコンの前にいたが、こっちを向いてくれていた。
「どうした?」
「うん……ちょっと……相談したいことがあって」
オレの歯切れが悪かったので、話が長くなりそうだと察してくれたらしい。
聡はベッドに座るようにうながしてくれた。
「あのさ、オレ……その、セックスする時、もっと佳暁様に満足してもらいたいって思うんだけど、どうしたらいいかわからなくて……。
だからこう、何かコツみたいなものがあったら教えてもらえないかなと思って」
オレがそう言うと、聡は困ったような顔になった。
「別に焦らなくても、お前はちゃんと少しずつうまくなってると思うぞ。
それに佳暁様はお前がそんなふうに考えていると知ったらお喜びになるだろうから、俺じゃなく佳暁様に直接聞いてみたらどうだ?
おそらく佳暁様は、お前に教えることもプレイの一環として楽しまれると思うが」
「う……そ、それはそうかもしれないけど、やっぱりそういうのは男のコケンに関わるというか……」
実際に下手くそなのは確かなのだから男の沽券も何もあったものじゃないのだが、そこは複雑な男心というやつなのだ。
「まあ、その気持ちはわからないでもないがな。
しかし、コツと言われてもな……。
基本的には佳暁様が感じるところを強弱つけて刺激する感じかな。
たまにポイントを外して焦らしたり、感じるところを中心に全体を大きく擦ったりするのもいいと思う。
佳暁様が感じるところはわかってるか?」
「えーっと、前立腺のところだよね?」
「そうだな。
あとは奥の方にも感じるところがあるんだが、お前だと届くかどうか微妙だから、前立腺を責めた方がいいと思う」
「あー……」
確かにオレは奥の方にも佳暁様が感じるところがあるなんて気付いてなかったから、たぶん聡の言う通り届いていないのだと思う。
自分の持ち物のあまりの貧相さに嫌になるが、長さが足りないものは仕方がないので、前立腺の方を刺激することを考えた方がいいだろう。
「しかしな……。
お前、前立腺の方もうまく責められていない気がするんだよな……」
「えっ? ほんとに?」
「ああ、たぶんな。
お前に抱かれてる時、佳暁様はちょっともどかしそうに見えるんだよ。
おそらく佳暁様は、そのもどかしい感じを楽しんでるところもあるのだと思うが」
「ええー……」
正直言って、聡の話はかなりショックだった。
うまく出来て喜んでもらえるのではなく、未熟なところを楽しまれているなんて、いくらそれで佳暁様が喜んでくれていたとしても、ちょっとつらいものがある。
「そういえばお前、佳暁様の中を指で触る機会が少なかったかもしれないな。
指で触っていると入れた時も場所がわかりやすいから、もっと積極的に指を入れてみた方がいいだろう。
佳暁様がお前のキスやフェラを気に入っておられるから、お前には前側に回ってもらうことが多かったが、今度からはもっと中をほぐす方にも回ってもらうようにしよう」
「うん、お願い」
聡が教えてくれたことで、何となくではあるが可能性が見えてきた気がした。
明日の夕方には佳暁様が帰ってくるから、夜にする時はもっと意識して佳暁様が感じるところを探してみよう。
ああ、その前に今夜のうちにネットで前立腺の位置を復習しておいた方がいいかもしれない。
そう思ってオレは、聡にお礼を言って自分の部屋に帰ろうかと思ったのだが、聡はまだ何かを考えている様子だった。
「……お前、一度自分で中を触ってみたらどうだ?」
「ええっ!」
「もちろん人によって前立腺の位置は違うから佳暁様とまったく同じというわけにはいかないが、自分のでも十分練習にはなるだろう。
幸い今夜なら、佳暁様には内緒で俺が教えてやることも出来るし」
「う、うー……」
聡の言うことは納得は出来るのだが、自分の中を触るのは少し怖い気がする。
今までだって何回も佳暁様の中を触ったし、自分のものだって入れているくせに何だとは思うが、やっぱり怖いものは怖い。
「……もしかして、聡も自分の中で練習したの?」
「いや、俺の場合は、最初に寝たのが慣れてる人だったから、その人に教えてもらったし練習もさせてもらったんだよ。
だから本当なら、お前も佳暁様に教えてもらった方がいいと思うんだが」
「う……それはちょっと……。
……わかった、佳暁様のためだし、がんばってみる。
悪いけど、聡、教えてくれる?」
オレがそう言うと、聡は神妙な顔でうなずいた。
「隣からローション取ってくる。
ちょっと待ってろ」
そう言うと聡は隣の佳暁様の寝室――というよりは四人の寝室になっている部屋に行って、ローションやコンドームや後ろを触るときに使う指サックが入ったカゴを持ってきた。
昼間のうちにオレがいつものように中身を補充しておいたので、それぞれ十分な量が入っている。
聡が戻って来たので、オレはズボンと下着を脱いでベッドにあがった。
聡には毎日のように裸を見られているが、四人でセックスをする時以外に脱ぐのは初めてで、ちょっと恥ずかしい。
聡がタオルを貸してくれたので、前はそれで隠して聡にお尻を向ける形で横向きに寝転ぶ。
「とりあえず、一本でいいから指入れて、前立腺を触る前に中を広げてみろ」
「うん、わかった」
聡が渡してくれた指サックをはめてローションで指を濡らし、思い切って自分の後ろに指を伸ばした。
佳暁様にそうしているように、周囲から優しくほぐして、柔らかくなってきたらゆっくりと指を入れる。
自分の中に指が入っているのは、何ともおかしな感じだった。
佳暁様は指を入れただけでもかなり感じているように見えるが、正直感じるという感覚にはほど遠い。
それに自分の指の方に感じる感触も、佳暁様のものとはかなり違う感じがする。
佳暁様の中は触ったりアレを入れたりすると、うねったり締め付けてきたりするのに、オレの中は熱くはあるが中が動いている感じはしない。
それはやっぱり、佳暁様が長年男の人に抱かれ続けてきて、抱かれるのにふさわしい体に変化しているからかもしれないと思う。
「そろそろ大丈夫だろうから、前立腺も触ってみろ」
聡にそう言われたので、前立腺があるあたりを探りながら触ってみる。
「っっ!!」
自分の中の前立腺を探り当てた途端、体中に電流が走ったような強烈な快感がオレを襲った。
「うわー……すごいね……」
初めて感じる快感だからということもあるのかもしれないが、それは本当に人生観が変わりそうなくらいに、強烈な体験だった。
佳暁様はいつもこんなふうに感じているんだと思うと、何だか感動すら覚える。
「確かにオレ、こんなふうには佳暁様のこと感じさせられてなかったかも……」
聡や護に抱かれている時の佳暁様はきっとさっきと同じくらい感じているのだと思うけれど、自分の時はどうかと考えるとちょっと自信がない。
オレがそう言うと、聡は慰めるように僕の頭をちょっと撫でてくれた。
「それが自覚できれば十分だ。
その感覚を忘れずに佳暁様を抱く時に活かせれば、きっと佳暁様に喜んでいただけることが出来る」
「うん、ありがとう。
あ、けどせっかくだし、もうちょっと練習してみていい?」
僕がそう言うと、聡はしばらく沈黙した後、「ああ」と言った。
「そうだな、教えてやるって約束したことだしな」
その時のオレが、聡のまるで自分に言い聞かせるかの言葉の意味と、その前の不自然な沈黙の意味に気付いていたら、もしかしたらあんなことにはならなかったかもしれない。
けれどのその時のオレは、もっとセックスがうまくなりたいという気持ちと初めて知った快感とで一杯一杯になっていて、聡の気持ちなど考える余裕もなかった。
「どうやって触ればいいか、教えてやる。
俺の指も一緒に入れるぞ」
「あ、うん。お願い」
オレがうなずくと、聡は指サックとローションで準備をして、オレの手の甲を軽く握ってオレの指に沿わせる形で中に指を入れてきた。
二本目の指が入るとかなり苦しい感じがしたけれど、そうやって中がいっぱいになる感じがちょっと気持ちいい気もする。
「そうだな、この辺りをこういう感じで擦って……」
「あぁっ…!」
聡がオレの指に重ねた指を動かし始めると、途端にさっき以上の快感が襲ってきた。
実際に触っているのはさっきと同じオレの指なのだが、聡の動かし方がうまいのか、頭が真っ白になるくらいに気持ちよくて、聡が説明してくれているのも全く頭に入ってこない。
前を隠しているタオルの中で、自分のものがどんどん大きく固くなっているのがわかる。
それどころか、このままでは前を触ってもいないのにイッてしまいそうだ。
「ご、ごめん、聡、オレやばい。
もう無理だから、指抜いて」
オレが息も絶え絶えにそう頼むと、後ろで聡が息を飲む音が聞こえた。
えっ、と思うまもなく、聡とオレの指が一緒に中から引き抜かれ、聡がオレが横になっているベッドの上に上がってきた。
「……聡?」
ベッドに上がった聡はオレを仰向けにひっくり返しつつ、自分のズボンの前をくつろげた。
えっ、と思った時には、もう遅かった。
聡は下着の中から取りだした自分のものに慣れた手つきでコンドームをかぶせると、オレの体を押さえつけて、ゆっくりとオレの中に押し入ってきた。
「ちょっと、聡……! やだっ…、何で……!」
「……すまない」
押し殺したような声で謝った聡は、しかし行為をやめてはくれなかった。
何とか聡から逃れようとやみくもに暴れてはみたが、聡がオレを押さえつける力は強く、逃げることができない。
「違う……、聡、間違ってる」
困惑よりも恐怖よりも 、違和感が一番強かった。
オレは佳暁様を抱く方で抱かれる方じゃないし、聡が抱くのも佳暁様だけでオレなんかを佳暁様の代わりにしていいはずがない。
「間違ってない」
「え?」
「間違ってない。
俺は、お前のことが好きだから、だからこれで間違っていない」
「……え?」
聡の言ったことが、オレには信じられなかった。
何年もずっと佳暁様のことが好きで、今も佳暁様のことを深く愛している聡が、オレのことが好きだなんてことが本当にあるのだろうか。
けれども聡の表情は真剣そのもので、とても嘘を言っているようには見えない。
「…ああっ…!」
オレが呆然として固まっていると、聡がゆっくりとオレの中の入り口に入ったままだったものを押し込んできた。
さっき指で探り当てた前立腺を太いものがごりっと擦っていき、オレは思わず声を上げる。
さすがというべきだろうか、聡はオレの変化を見逃すことはなかった。
オレに教えてくれた通りに、前立腺の辺りを強弱をつけて細かく刺激したり、たまにそこを中心にして大きく擦ったり、オレが上りつめそうになると微妙にポイントをずらしてきて、もどかしい思いをさせたりする。
初めて知った快楽はあまりにも強烈すぎて、さっきまでの疑問も違和感もあっという間にどこかに行ってしまった。
いつの間にか、オレは聡の背中に手を回して、しっかりとしがみついていた。
真っ白になった頭の中に、ふいにある思考が言葉となって浮かぶ。
それはオレにとってはあまりにも恐ろしい考えで、自分で考えたことであるにもかかわらず、オレはおびえてしまう。
それでも昂ぶった体の方は、恐怖などものともしなかったらしい。
オレは聡に与えられた快楽に流されるままに達し、自分の腹の上に白い物をぶちまけてしまった。
オレが達したのとほとんど同時に、聡の方もオレの中で達したようだった。
達した途端、さっきまでの熱が嘘のように冷めていく。
それは男ならば誰でも同じはずなのに、聡の表情は最中と変わらない熱を帯びていた。
冷静さを取り戻したオレが慌てて聡の背中から手を離すと、聡もオレの中から自分のものを抜いてくれた。
「すまなかった。
けど、こんなことをしておいてこういうのも何だが、俺は本気だから」
オレを見つめる真剣なまなざしから、オレは卑怯にも目をそらした。
「さっきのこと、忘れて。
オレも忘れるから」
聡がオレにしたことはともかくとしても、真剣に告白してくれているのは確かなのに、こんなことは言うのは我ながらひどいと思う。
けれども聡には申し訳ないけれど、オレは自分の中の恐怖に耐えるので精一杯で、聡の告白についてまともに考える余裕など全くなかったのだ。
「部屋、帰る」
言いながら起き上がろうとしたが、その途端にさっき酷使したところに痛みが走って、オレは思わずうめき声を上げる。
「まだ無理だろう。
いいからこのまま、ここで寝ていけ。
お前が嫌なら、俺は出て行くから」
そう言うと聡は、ティッシュを取ってオレの体の後始末をしてくれた。
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「お前が忘れろと言うなら忘れる。
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本当ならオレは、聡のことを拒まなければいけないのだということはわかっていた。
けれども背中に感じる聡の体とその腕は温かくて、それはとても心地よくて、オレはそれを拒むことが出来なかった。
そうしているうちに、感じていた恐怖も少しずつ薄れていったのだろうか。
いつの間にかオレは、深い眠りへと落ちていった。
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