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本編

倫之くん 2

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「中芝さん?」

倫之くんに声をかけられ、僕ははっと我にかえった。

「ああ、ごめんごめん。
 行きましょう」

改めて僕は倫之くんをつれて装束の小部屋に移動した。
倫之くんに白のインナー上下だけになってもらい、襦袢じゅばんから順番に着付けていく。

「あー、僕の袴でも短いか」

襦袢と白衣は宮司が自分のものを用意したが、袴は宮司のものでは短いだろうということで、僕が学生の時に履いていた見習い用の白袴を貸すことにしたのだが、倫之くんの身長は僕よりもさらに10センチほど高いため、僕の袴でも丈が足りなかった。

「ごめんね。
 ちょっとかっこ悪いけど、短い間だしこれで我慢してね」
「はい、大丈夫です」
「足袋は宮司が買ってくれたけど、雪駄せった……ではわからないよね、草履ぞうりはどうしよう。
 倫之くん、足も大きいからなあ」
「あ、履物は父の浴衣用の草履を借りてきました。
 鼻緒が黒なんですけど、とりあえずそれでいいそうです」
「あ、そうなんだ。
 それならいいけど、草履も慣れてないと足が痛くなるかもしれないから、痛くなったら無理しないで、社務所の下駄箱のサンダルに変えてね」
「はい、わかりました」
「それじゃあ戻ろうか」

授与所に戻ると、倫之くんを見た宮司は「似合いますね」と目を細めた。

「そうですよね。
 まあ、倫之くんはかっこいいから、何を着ても似合いそうですけど」

僕がそう言うと、倫之くんは「えっ」と驚いて、それから照れていた。
イケメンなのに、案外こういうことは言われ慣れてないのかもしれない。

「それじゃあ、まずは授与所の仕事をやってみようか」
「はい」

僕は倫之くんと共に授与所の窓口に座る。

「倫之くんは何かアルバイトやってる?」
「ファミレスでウェイターやってます」

倫之くんの返答に僕は密かにこんなウェイターがいたら女の子が殺到しそうだなと思いつつ、倫之くんにうなずいた。

「うん、だったら大丈夫かな。
 神職の一番大切な仕事は神様にお仕えすることなんだけど、その次に大事なのは参拝者の方に喜んでいただくことなんだ。
 だから、こういう言い方は語弊があるかもしれないけど、基本的な心構えは接客業に通じるところがあると思う。
 ファミレスとおなじように神社でも、一人一人のお客様に敬意を持って笑顔で接することや、お客様がまた来たいと思っていただけるように環境を整えることが大切なんだ」

僕がそう言うと、倫之くんは神妙な顔つきでうなずいた。

「まあ、神社では『お客様』じゃなくて、『参拝者』ということになるんだけどね。
 神社ではそういう独特の言い回しが多いから、少し教えておくね」

そうして僕は倫之くんに神社で使う用語について説明した。
倫之くんはあらかじめ宮司から渡された本である程度は勉強したということだったが、それでも僕の説明を真剣に聞き、時折メモを取っている。

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