21 / 57
本編
月参りと祈年祭 2
しおりを挟む
ご祈祷が終わって社務所に戻ると、太郎くんがお茶を入れてくれていた。
「ありがとう。
宮司が今日は忙しいって言ってたけど、まだそうでもないね」
「そうですね。
いつもだとまだ宮司さんは戻ってない時間だし、それにご祈祷はお店が暇になる午後からくる人が多いです」
「ああ、なるほどね」
太郎くんとそんな話をしているうちに、宮司が戻ってきた。
今日は僕がお昼ご飯を作る暇はないかもしれないからと、お弁当を買ってきてくれている。
授与所に来る参拝者の応対をしつつ、交代でお弁当を食べる。
ちなみに太郎くんはいつも自分で作ったお弁当を持って来ている。
神社にくる日は朝、同居している画家さんの分と2人分作ってくるらしい。
午後になると、太郎くんが言った通りにご祈祷の申し込みが入り始めた。
やはり商店街の人が多いらしく、顔見知りの人がほとんどだ。
「宮司さん、これ今月から出す予定の新商品。
よかったら食べてみてよ」
「ありがとうございます。
お供えさせていただきますね。
商品名はもう決まっていますか?
決まっているのでしたら、せっかくですから祝詞に入れさせてもらいますよ」
宮司はそんな感じで参拝者の話を聞きながら、祝詞にアレンジを加えていく。
参拝者もそうして自分の店に合わせた祝詞を読んでもらえると嬉しいと喜んでいる。
前の神社だと一度に何人もまとめてご祈祷することが多くて、祝詞も決まったものの中に住所と名前を読み込むだけだったが、うちのように地域に密着した神社だと、こうして参拝者に寄り添った祝詞を読むことも大事なのだと勉強させてもらった。
午後も遅い時間になると、綺麗に化粧をした和服や派手めのスーツの女性が訪れるようになった。
商店街からは少し離れたところに小さなクラブやスナックが何軒も集まっているところがあり、そこのママが普段から時々参拝に来ているのだ。
「あら、イケメンの神主さんが入ったのね。
いつもは賽銭箱に入れてるんだけど、せっかくだから今日はご祈祷してもらおうかしら」
中にはそう言って僕を指名してご祈祷を申し込む人もいて、年上の女性が苦手な僕はちょっとびびってしまったのだが、その人はきちんとした作法でご祈祷を受けた後、少しだけ僕と会話を楽しんであっさり帰っていかれた。
やはり客商売だけあって、とても感じのよい人だったので、僕は年上の女性というだけで偏見を持ってしまったことを反省した。
いつもは5時に窓口を閉めるが、今日は会社帰りに参拝される方もいるからと、宮司と2人で7時過ぎまで授与所を開けていた。
さすがに夜になってからご祈祷を頼まれることはほとんどなかったが、それでもスーツ姿の参拝者は途切れることはなかった。
あの方たちのお願いごとが叶いますようにと、僕もこっそり心の中で祈願しておいた。
窓口を閉めて自宅に戻る途中、宮司は「お疲れ様でした」と僕をねぎらってくれた。
「普段暇な分、今日は大変だったでしょう」
「はい、でも助勤に行っている神社よりは楽でした。
それに今日一日、色々勉強させてもらった気がします」
「それはよかった。
うちの神社は小さい分、参拝者と距離が近いですからね。
大きい神社とはまた違う経験が出来ると思いますよ」
宮司の言葉に、僕は大きくうなずいた。
───────────────
「ありがとう。
宮司が今日は忙しいって言ってたけど、まだそうでもないね」
「そうですね。
いつもだとまだ宮司さんは戻ってない時間だし、それにご祈祷はお店が暇になる午後からくる人が多いです」
「ああ、なるほどね」
太郎くんとそんな話をしているうちに、宮司が戻ってきた。
今日は僕がお昼ご飯を作る暇はないかもしれないからと、お弁当を買ってきてくれている。
授与所に来る参拝者の応対をしつつ、交代でお弁当を食べる。
ちなみに太郎くんはいつも自分で作ったお弁当を持って来ている。
神社にくる日は朝、同居している画家さんの分と2人分作ってくるらしい。
午後になると、太郎くんが言った通りにご祈祷の申し込みが入り始めた。
やはり商店街の人が多いらしく、顔見知りの人がほとんどだ。
「宮司さん、これ今月から出す予定の新商品。
よかったら食べてみてよ」
「ありがとうございます。
お供えさせていただきますね。
商品名はもう決まっていますか?
決まっているのでしたら、せっかくですから祝詞に入れさせてもらいますよ」
宮司はそんな感じで参拝者の話を聞きながら、祝詞にアレンジを加えていく。
参拝者もそうして自分の店に合わせた祝詞を読んでもらえると嬉しいと喜んでいる。
前の神社だと一度に何人もまとめてご祈祷することが多くて、祝詞も決まったものの中に住所と名前を読み込むだけだったが、うちのように地域に密着した神社だと、こうして参拝者に寄り添った祝詞を読むことも大事なのだと勉強させてもらった。
午後も遅い時間になると、綺麗に化粧をした和服や派手めのスーツの女性が訪れるようになった。
商店街からは少し離れたところに小さなクラブやスナックが何軒も集まっているところがあり、そこのママが普段から時々参拝に来ているのだ。
「あら、イケメンの神主さんが入ったのね。
いつもは賽銭箱に入れてるんだけど、せっかくだから今日はご祈祷してもらおうかしら」
中にはそう言って僕を指名してご祈祷を申し込む人もいて、年上の女性が苦手な僕はちょっとびびってしまったのだが、その人はきちんとした作法でご祈祷を受けた後、少しだけ僕と会話を楽しんであっさり帰っていかれた。
やはり客商売だけあって、とても感じのよい人だったので、僕は年上の女性というだけで偏見を持ってしまったことを反省した。
いつもは5時に窓口を閉めるが、今日は会社帰りに参拝される方もいるからと、宮司と2人で7時過ぎまで授与所を開けていた。
さすがに夜になってからご祈祷を頼まれることはほとんどなかったが、それでもスーツ姿の参拝者は途切れることはなかった。
あの方たちのお願いごとが叶いますようにと、僕もこっそり心の中で祈願しておいた。
窓口を閉めて自宅に戻る途中、宮司は「お疲れ様でした」と僕をねぎらってくれた。
「普段暇な分、今日は大変だったでしょう」
「はい、でも助勤に行っている神社よりは楽でした。
それに今日一日、色々勉強させてもらった気がします」
「それはよかった。
うちの神社は小さい分、参拝者と距離が近いですからね。
大きい神社とはまた違う経験が出来ると思いますよ」
宮司の言葉に、僕は大きくうなずいた。
───────────────
1
お気に入りに追加
82
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
うちの鬼上司が僕だけに甘い理由(わけ)
みづき(藤吉めぐみ)
BL
匠が勤める建築デザイン事務所には、洗練された見た目と完璧な仕事で社員誰もが憧れる一流デザイナーの克彦がいる。しかしとにかく仕事に厳しい姿に、陰で『鬼上司』と呼ばれていた。
そんな克彦が家に帰ると甘く変わることを知っているのは、同棲している恋人の匠だけだった。
けれどこの関係の始まりはお互いに惹かれ合って始めたものではない。
始めは甘やかされることが嬉しかったが、次第に自分の気持ちも克彦の気持ちも分からなくなり、この関係に不安を感じるようになる匠だが――

うるせぇ!僕はスライム牧場を作るんで邪魔すんな!!
かかし
BL
強い召喚士であることが求められる国、ディスコミニア。
その国のとある侯爵の次男として生まれたミルコは他に類を見ない優れた素質は持っていたものの、どうしようもない事情により落ちこぼれや恥だと思われる存在に。
両親や兄弟の愛情を三歳の頃に失い、やがて十歳になって三ヶ月経ったある日。
自分の誕生日はスルーして兄弟の誕生を幸せそうに祝う姿に、心の中にあった僅かな期待がぽっきりと折れてしまう。
自分の価値を再認識したミルコは、悲しい決意を胸に抱く。
相棒のスライムと共に、名も存在も家族も捨てて生きていこうと…
のんびり新連載。
気まぐれ更新です。
BがLするまでかなり時間が掛かる予定ですので注意!
人外CPにはなりません
ストックなくなるまでは07:10に公開
3/10 コピペミスで1話飛ばしていたことが判明しました!申し訳ございません!!

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

寮生活のイジメ【社会人版】
ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
毎週日曜日の正午に一話ずつ公開
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる