商店街の稲荷神社に奉職しました

鳴神楓

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本編

月参りと祈年祭 2

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ご祈祷が終わって社務所に戻ると、太郎くんがお茶を入れてくれていた。

「ありがとう。
 宮司が今日は忙しいって言ってたけど、まだそうでもないね」
「そうですね。
 いつもだとまだ宮司さんは戻ってない時間だし、それにご祈祷はお店が暇になる午後からくる人が多いです」
「ああ、なるほどね」

太郎くんとそんな話をしているうちに、宮司が戻ってきた。
今日は僕がお昼ご飯を作る暇はないかもしれないからと、お弁当を買ってきてくれている。

授与所に来る参拝者の応対をしつつ、交代でお弁当を食べる。
ちなみに太郎くんはいつも自分で作ったお弁当を持って来ている。
神社にくる日は朝、同居している画家さんの分と2人分作ってくるらしい。

午後になると、太郎くんが言った通りにご祈祷の申し込みが入り始めた。
やはり商店街の人が多いらしく、顔見知りの人がほとんどだ。

「宮司さん、これ今月から出す予定の新商品。
 よかったら食べてみてよ」
「ありがとうございます。
 お供えさせていただきますね。
 商品名はもう決まっていますか?
 決まっているのでしたら、せっかくですから祝詞に入れさせてもらいますよ」

宮司はそんな感じで参拝者の話を聞きながら、祝詞にアレンジを加えていく。
参拝者もそうして自分の店に合わせた祝詞を読んでもらえると嬉しいと喜んでいる。
前の神社だと一度に何人もまとめてご祈祷することが多くて、祝詞も決まったものの中に住所と名前を読み込むだけだったが、うちのように地域に密着した神社だと、こうして参拝者に寄り添った祝詞を読むことも大事なのだと勉強させてもらった。

午後も遅い時間になると、綺麗に化粧をした和服や派手めのスーツの女性が訪れるようになった。
商店街からは少し離れたところに小さなクラブやスナックが何軒も集まっているところがあり、そこのママが普段から時々参拝に来ているのだ。

「あら、イケメンの神主さんが入ったのね。
 いつもは賽銭箱に入れてるんだけど、せっかくだから今日はご祈祷してもらおうかしら」

中にはそう言って僕を指名してご祈祷を申し込む人もいて、年上の女性が苦手な僕はちょっとびびってしまったのだが、その人はきちんとした作法でご祈祷を受けた後、少しだけ僕と会話を楽しんであっさり帰っていかれた。
やはり客商売だけあって、とても感じのよい人だったので、僕は年上の女性というだけで偏見を持ってしまったことを反省した。

いつもは5時に窓口を閉めるが、今日は会社帰りに参拝される方もいるからと、宮司と2人で7時過ぎまで授与所を開けていた。
さすがに夜になってからご祈祷を頼まれることはほとんどなかったが、それでもスーツ姿の参拝者は途切れることはなかった。
あの方たちのお願いごとが叶いますようにと、僕もこっそり心の中で祈願しておいた。
 
窓口を閉めて自宅に戻る途中、宮司は「お疲れ様でした」と僕をねぎらってくれた。

「普段暇な分、今日は大変だったでしょう」
「はい、でも助勤に行っている神社よりは楽でした。
 それに今日一日、色々勉強させてもらった気がします」
「それはよかった。
 うちの神社は小さい分、参拝者と距離が近いですからね。
 大きい神社とはまた違う経験が出来ると思いますよ」

宮司の言葉に、僕は大きくうなずいた。

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