商店街の稲荷神社に奉職しました

鳴神楓

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本編

月参りと祈年祭 1

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稲荷神社での毎日は忙しくはないが充実している。
この神社ではご祈祷やお祭りといった、いかにも神主らしい仕事は少ないが、その分参拝者の方とお話できる余裕がある。
顔見知りになった人とご挨拶したり、神社や神様のことを聞かれてお答えしたり、逆に僕の方がこの地域のことを教えてもらったり。
そうやって参拝者の方と触れ合えることが嬉しいと思う。

総代役員さんたちと決めた休日の日数だと、他の神社に助勤に行く日以外にも休みは取れるのだが、社務所や境内の居心地がいいので、ついつい毎日神社の方に出てしまう。
それでも仕事がなくて社務所で本を読んだりお茶を飲んだりして休憩している時間が長いので、実質の労働時間は少ない。


そうこうしているうちに、宮司が忙しいと言っていた月初め、2月1日がやって来た。
毎月1日は商店街の店4軒と近くの会社1社の神棚でのご祈祷を頼まれているので、朝食をさっと済ませ、8時過ぎに神社を出た。
神社の授与所はバイトの太郎くんがいつもの時間に開けてくれることになっている。

今日の僕は宮司の荷物持ちで、来月からは宮司に代わって僕がご祈祷に来ることになりますというご挨拶と顔見せだったのだが、みなさん僕に代わることをこころよく了承してくれた。
どの方もお店に買い物に来ていたり神社で顔を合わせていたりして、すでに顔見知りになっていたので、受け入れてもらいやすかったということもあるだろう。

「あ、中芝さんがいるなら荷物重くなってもいいわよね。
 お供え物持っていってちょうだい」

そしてどのお店でもそう言ってお供えの野菜やお酒をもたせてくれたので、荷物が増え過ぎて1回神社に荷物を置きに帰ったほどだった。

「さて、あと1軒、太郎くんの家に行くのですが、あそこは私が大家をしている借家でしてね。
 なので、その1軒だけは今後も引き続き私が行くことにします。
 中芝くんは先に神社に戻っていてもらえますか」
「はい」

そういうわけで僕は宮司と別れ、神社へと向かった。
10時を過ぎた商店街は買い物に来ている人が多くて、白衣袴姿で歩くと目立って少し恥ずかしい。
けれども目立つ分、お店の人から「あとでご祈祷に行くからよろしく」などと声をかけられるのは嬉しい。

神社に戻ると、太郎くんが授与所の窓口から「おかえりなさい」と声をかけてくれた。

「ただいま。
 ついでに賽銭箱を開けてくるから、鍵を取ってくれる?」
「はい」

太郎くんから鍵を受け取り、参拝者が途切れるのを見計らって賽銭箱からお賽銭を回収する。
昨日の夕方回収した時も祈祷依頼の封筒がかなり入っていたが、今日もまだ午前中にもかかわらずすでに何枚も入っていた。
お賽銭を持って社務所に行き、祈祷依頼の封筒をまとめる。
今日はまだ昨日回収した分もご祈祷していないので、今から一緒にやらなければいけない。

「太郎くん、僕は賽銭箱の分のご祈祷してくるから、もしご祈祷の方がみえたら、受付用紙書いてもらって拝殿の方に回ってもらってね」
「はい、いってらっしゃい」

狩衣を着た僕は、太郎くんに声をかけて拝殿に入った。
ご祈祷の祝詞を読んでいる間も、後ろで参拝者が鈴を鳴らし柏手を打つ音が聞こえている。
やはり1日の今日は、いつもよりもお参りが多いらしい。

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