上 下
1 / 57
本編

退職勧告 1

しおりを挟む
いつもの通り職員全員で朝拝をして、今日の勤務に入ってしばらくしたところで、巫女に声をかけられた。

「中芝さん、宮司ぐうじさんが宮司室まで来てくださいって」
「あ、はい。わかりました」

返事をして宮司室に向かいながら、宮司は僕に何の用があるんだろうと首を傾げる。
宮司というのは一般の会社でいう社長にあたる、この神社で一番偉い人だ。
その偉い人が、この神社に勤め出してまだ2年目の僕をわざわざ宮司室に呼びつけるような用事なんて思いつかない。

別に怒られるようなことも褒められるようなこともしてないしなあ。

不思議に思いつつも宮司室に着いたので、声をかけて中に入ると、そこには難しい顔をした宮司と困惑した表情の禰宜ねぎ(会社でいう部課長クラスで僕の直属の上司)がいた。

「中芝くん、君、うちの娘にセクハラしたそうだね」
「……え?」

宮司の言葉がまったく理解出来なくて、僕はぽかんと口を開ける。

「夕べ、飲み会から帰ってきた娘の様子がおかしかったから問いただしたら、君にセクハラされたって言うんだよ。
 かわいそうに、涙まで流してね」

そこまで言われて、ようやく僕は宮司がこんなことを言い出した理由がわかった。
夕べ僕は、若手職員同士の飲み会の帰りに、神主の同僚である宮司の娘と少しトラブルになっていて、それがどういうわけか宮司にはセクハラと誤解されているらしい。

「ち、違います。
 確かに昨日、その、少し言い合いみたいなことになりましたが、僕はセクハラとか、そういうことはしていません」

僕は慌てて弁明しようとしたが、宮司は聞く耳を持たなかった。

「言い訳は見苦しいぞ。
 とにかくだ。
 大事おおごとにはしたくないという娘の希望もあるし、君もまだ若いから、訴えたりはしないが、神社の方は退職してください」

宮司の言葉に、隣にいた禰宜が焦った様子で口を挟む。

「待ってください。
 退職の件は、中芝くんの話を聞いてからということだったのでは……」
「何だね、君はうちの娘が嘘をついているとでも言いたいのかね」
「い、いえ、そういうわけでは……」

宮司に言い返されて、禰宜は言葉を濁してしまった。
禰宜だってワンマン社長も同然の宮司に睨まれたくはないだろうから、それも仕方がないと思う。

「そういうわけだから、すぐに辞表を出しなさい」

そう言うと宮司は、手まわしのいいことに引き出しから「一身上の都合により退職致します」という内容が印字された書類を出してきた。
書類には僕の名前と今日の日付も入っていて、あとは僕がサインさえすればいいだけになっている。

その書類を見た僕は、何だか一気に宮司の誤解を解こうという気がなくなってしまった。
この神社で2年弱、未熟なりにも精一杯御奉仕してきたつもりだったけれど、僕の言い分も聞いてもらえないということは、宮司にはその働きを少しも評価してもらえていなかったのだとわかってしまい、ひどくむなしい気持ちになる。

「……わかりました」

そうして僕は宮司から辞表を受け取ると、そこに自分の名前をサインしたのだった。

————————————————

宮司室から出て、自分の席に戻って荷物をまとめていると、戻って来た禰宜に「中芝くん、ちょっと」と社務室内の応接スペースに呼ばれた。

「宮司はああ言っていたが、君みたいな真面目な子がセクハラだなんて、どう考えてもおかしいと思うんだ。
 昨日、本当は何があったのか、話してくれないか」

禰宜にそう促され、僕は昨日の夜の出来事を説明し始めた。

————————————————
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~

喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。 庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。 そして18年。 おっさんの実力が白日の下に。 FランクダンジョンはSSSランクだった。 最初のザコ敵はアイアンスライム。 特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。 追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。 そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。 世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

生意気な少年は男の遊び道具にされる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...